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分布展開法の市場リスク計測への応用

2008年6月
丸茂幸平*

要旨

 ポートフォリオの損益分布の導出は、市場リスク計測の大きな鍵である。損益分布を導出するために現在採用されている主な手法には、リスク・ファクターの分布を多変量正規分布を使って表わすものと、リスク・ファクターの経験分布を使うもの(ヒストリカル・シミュレーション法) の2つがある。しかし、これらの手法は、いずれも、3つの問題、すなわち、(1) リスク・ファクターの分布の特徴をどのように表現するか、(2) リスク評価期間が長期の場合のリスク・ファクターの分布をどのように求めるか、(3) リスク・ファクターの分布の表現からポートフォリオの損益分布をどのように求めるか、のうちの少なくとも1つへの対処に困難が伴う。

 本稿では、分布展開法の利用によって、これらの3つの問題全てに対して対処法を提示し得ることを示す。分布展開法とは、ある未知の分布を、別の既知の分布と多項式の積で近似する手法である。分布展開法の最大の利点は、この近似が、目標とする未知の分布の積率のみから構成されることである。

 また、本稿では、従来多用されてきた1変量の分布展開法を拡張して、多変量の同時密度関数の近似を得る手法も導入する。

 分布展開法による近似は頑健性に欠け、多くの場合実用的でないという短所もしばしば指摘される。本稿では、この分布展開法の脆弱性を補うための工夫も提示する。

 また、これらの解説とともに、市場で観測された標本を用いた数値計算例も示す。

キーワード:
エルミート多項式; 期待ショートフォール; コピュラ; 多変量分布; 直交多項式系; ラゲール多項式; リスク指標.

本稿は、筆者が豪州クイーンズランド工科大学(Queensland University of Technology, Australia) 在籍中に行った研究内容の概説である。研究の指導を行ったRodney Wolff 教授(Queensland University of Technology) と、研究上有益な提言を頂戴したSteven Li 准教授(南オーストラリア大学, University of South Australia)、Dominique Guegan 教授(パリ第1・ソルボンヌ大学, Universite Paris I la Sorbonne) に感謝したい。研究内容の詳細はMarumo (2007) 及びMarumo and Wolff (2007) にまとめられているので、本文中で適宜これらの文献を参照する。なお、本稿およびMarumo (2007), Marumo and Wolff (2007) の内容や意見は筆者個人に属し、日本銀行あるいはクイーンズランド工科大学の公式見解を示すものではない。

  • 金融機構局。連絡先は、金融機構局リスクアセスメント担当兼金融高度化センター企画担当
    (E-mail:kouhei.marumo@boj.or.jp)。

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