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中国経済の台頭がもたらした日本経済へのインパクト

2010年3月
福田慎一 *1
粕谷宗久 *2

全文掲載は、英語のみとなっております。

要旨

日本経済は、「失われた10年」を経た後、2000年代前半から2007年夏まで長期にわたる景気回復を経験した。本稿の目的は、2000年代のわが国の景気回復の要因の一つとして、中国との貿易が与えた影響を、マクロおよびミクロの観点から実証的に検証することである。

本稿の前半では、中国向け輸出と生産指数などマクロ変数を使った多変量自己回帰(VAR)による分析を行った。分析の結果、この時期の中国向け輸出増加は、日本の製造業全体の生産に対して強いプラスの影響を与えたことが示された。ただし、中小企業や非製造業に対しては、有意な影響が検出されなかった。また、中国からの輸入増加については、日本のマクロの生産に対する有意な影響が検出されなかった。

一方、本稿の後半では、製造業および卸小売業について、個社企業データ(約10万社)を用いた分析を行った。中国企業と補完関係にある日本企業と競争関係にある日本企業では、対中国貿易が与える影響は大きく異なり得る。この点に着目し、分析では、個社の売上高利益率や売上高変化率が、中国向け販売の有無や中国からの仕入れの有無によっていかなる影響を受けるかを、回帰分析で検討した。企業属性をコントロールした回帰分析の結果、マクロデータでは検出できなかった中小企業や卸小売業においても、中国との貿易が色々なルートで企業パフォーマンス改善に役立っていたことが明らかになった。具体的に言えば、中国からの輸入では、製造業の売上高増加に役立ったほか、卸小売業では、売上高および売上高利益率双方でプラスの影響が観察された。中国向け輸出については、2000年代初頭では有意な影響がみられなかったが、2000年代央の日本企業に対し、売上高と売上高利益率の双方でプラスの影響がみられた。しかし、それと同時に、中小企業に対しては必ずしも全ての面で経営パフォーマンス改善に役立っているわけでは無いことも示された。ミクロデータ分析の結果は、2000年代の中国貿易の増加は、日本の企業に多様(heterogenous)な影響を与えたことを示唆している。

  1. *1東京大学 E-mail: sfukuda@e.u-tokyo.ac.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail: munehisa.kasuya@boj.or.jp

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