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1990年代におけるFedのコミュニケーション戦略の変更に関する実証分析

2011年3月
廣瀬康生*1
住卓司*2

全文掲載は、英語のみとなっております。

要旨

Fed(米国連邦準備制度)は、1990年代に、政策金利の誘導目標を公表するなど、コミュニケーション戦略を大幅に変更した。本稿では、この戦略変更の含意について、テイラー・ルールおよび金利の期間構造を含む動学的確率的一般均衡モデルを推計し、実証分析を行っている。

本稿の特徴は、ターム物金利データをモデル推計に用いることにより、テイラー・ルールの誤差項(disturbance)を、事前に予期された(anticipated)部分と予期されない(unanticipated)部分に分解した点である。テイラー・ルールの誤差項は、米国の物価・実体経済情勢から示唆される金利水準と実際のフェデラル・ファンド金利の乖離であり、これらの情勢以外の要因(例えば、金融環境の動向など)を踏まえたFedの裁量的な政策対応を表す。そのため、Fedのコミュニケーション戦略の変更は、テイラー・ルールの誤差項の変化、とりわけ、予期された部分の変化に表れると考えられる。金利の期間構造論によれば、ターム物金利データには将来の政策金利に関する予想が含まれていることから、事前に予期された部分の識別が可能となる。

本稿の推計結果から、コミュニケーション戦略変更後、Fedの裁量的な政策対応のうち予期された部分の割合が上昇したことが分かった。この結果は、Fedが、戦略変更以前では、米国の将来の物価・実体経済見通しに基づいて示唆される金利水準から乖離して裁量的な政策対応を行うことを、マーケットに悟られないようにしていたが、戦略変更後では、事前にマーケットに織り込ませるようになったと解釈することができる。また、テイラー・ルールの誤差項において、予期された部分の、誤差項全体への相対的な寄与が、1990年代後半以降、大きくなった。Fedの戦略変更と同時期に、学界では「central banking as management of expectations」という考え方が台頭しており、以上の分析結果は、この考え方と一致している。さらに、本稿の推計結果はターム物金利データを用いて推計しなければ得られないほか、同データを用いた場合、景気変動に対してテイラー・ルールの誤差項は相応の影響を及ぼすが、同データを用いない場合、その影響は無視できるほど小さいことが分かった。

  1. *1慶應義塾大学経済学部 E-mail : yhirose@econ.keio.ac.jp
  2. *2日本銀行企画局 E-mail : takushi.kurozumi@boj.or.jp

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