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新興国企業の台頭と為替パススルー

:双方寡占モデルによる考察と時系列データによる検証

2011年9月26日
塩路悦朗*1
内野泰助*2

要旨

本研究の目的は新興国企業の国内市場におけるプレゼンスの大きさとパススルーの関係を明らかにすることである.日本の多くの市場では近年,中国に代表される新興国企業のシェアや競争力の高まりが注目されている.このことはパススルー,すなわち為替レートや外国企業の生産費用の変動が財の輸入価格・国内価格に転嫁される率にどのような影響を及ぼすだろうか.本研究はこの問題を理論・実証の両面から検討する.

理論面では,日本では中間財貿易が重要な地位を占めていることを考慮に入れる.例えばある外国から日本に中間財を供給する企業群の市場シェアが高まった場合,これらの企業は同じ財を供給する日本企業に比べて競争上優位に立つことになる.また日本にいる取引相手企業に対する価格支配力も高まる.こういった側面を考慮に入れるために本分析では売り手・買い手双方に寡占構造が存在するモデルを構築する.このモデルの基礎はHendricks and McAfee (2010)の双方寡占モデルである.これを対称的な2国からなる動学モデルに拡張したうえで名目価格粘着性を導入する.このモデルを用いて,外国企業のシェア拡大がパススルーを高めることが示される.

一方,実証面では,産業レベルデータを用いた分析を行う.ローリング推定の手法を用いて,為替レートや外国のコスト要因が日本の輸入価格・国内価格にパススルーされる率を,期間を少しずつずらしながら推定する.ここからパススルー率の時間的推移が求まる.これを当該産業における輸入品シェアの推移と比較することを通じて,両者の間に何らかの相関が見られるかを検討する.分析対象とする産業は繊維品,鉄鋼,プラスチック製品である.その結果,特に繊維品において,中国からの輸入品シェアが上昇するにつれて為替レートや中国での価格変動が日本への輸入価格に与える影響が強まる傾向があることが確認できた.鉄鋼とプラスチック製品についても一部でモデルと整合的な結論が得られた.

JELコード
F41,F42,E31

キーワード
グローバル化,パススルー,中間財貿易,双方寡占,ローリング推定

本研究について日本銀行調査統計局の門間一夫前局長・前田栄治局長・関根敏隆氏・粕谷宗久氏・肥後雅博氏・亀田制作氏・西崎健司氏・経済分析グループ諸氏,一上響氏,石瀬寛和氏より貴重なコメントを頂いた.本稿は筆者達個人の見解を表すものであり,日本銀行,調査統計局,あるいは筆者らが所属する組織の公式見解ではない.

  1. *1 一橋大学経済学研究科
  2. *2 経済産業研究所

日本銀行から

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