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世界同時不況下での日本企業パフォーマンス:取引関係の役割を中心に

2012年3月16日
福田慎一*1
粕谷宗久*2

要旨

急速な少子高齢化が進展する日本経済では、大企業だけでなく、中堅・中小企業も、中国など海外との取引関係を構築することが重要になりつつある。ただ、対外的な取引関係の構築はビジネスチャンスであると同時に、新たなリスク要因でもある。とりわけ、世界的に経済危機のリスクが高まるなかで、対外的な取引関係の有無が企業にとってプラスに働くのかどうかは必ずしも明白ではない。本稿では、このような問題意識にたって、通常用いられてきた説明変数に加えて、中国との取引関係や継続的な取引関係が、経済危機下で、中堅・中小企業の売上高増加率や利益率へいかなる影響を及ぼしたかを考察した。

分析の結果、まず、中国との対外的な取引関係の構築は、世界経済が順調に拡大しているときには輸出を通じて直接的・間接的にプラスの効果をもたらしたものの、グローバルな危機が顕在化するとその効果は反転し、売上高や利益率にマイナスの影響をもたらす傾向が確認された。すなわち、対外取引関係の拡大はチャンスであるとともに、リスクでもあった。特に、景気の悪化時に売上や利益率が落ち込む傾向は、(1)グローバルな危機に一定の歯止めがかかった時期まで続くという意味で慣性があること、(2)古くから対外関係があった企業よりも新規に対外関係を構築した企業で顕著であったこと、も判明した。また、継続的な取引関係の構築は、平時にはプラスの効果は見られないが、深刻な経済危機下では、企業の売上高や利益率の下落を緩和する効果が期待できることが確認された。この効果は、国内の主要販売先との取引関係でも顕著に見られたが、海外との取引関係でもある程度観察された。以上の結果は、グローバル化が進展するなかでも、継続的な取引関係の構築が、特に深刻な危機下では、依然として重要であることを示唆しているといえる。

本稿の作成にあたっては、日本銀行調査統計局のスタッフの方々から有益なコメントをいただいた。特に、門間一夫、前田栄治、関根敏隆の各氏のコメントは、本稿を改善するうえで大変役立った。なお、本稿で述べられた意見、見解は、筆者個人のものであり、日本銀行あるいは調査統計局のものではない。

  1. *1東京大学経済学研究科 E-mail : sfukuda@e.u-tokyo.ac.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : munehisa.kasuya@boj.or.jp

日本銀行から

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