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近年におけるわが国のIIP変動の背景について:産業連関を考慮した構造的ファクター分析に基づく考察

2013年7月25日
熊野雄介*1
中野章洋*2
武藤一郎*3

要旨

わが国の鉱工業生産指数(IIP)は、2000年代半ば以降、その変動を拡大させている。本稿では、この背景を考察するため、Foerster, Sarte, and Watson(2011)により開発された「構造的ファクター分析」の手法を用い、わが国製造業の産業連関構造を明示的に考慮したうえで、IIP変動の原因を、(1)各業種に共通して影響を与える「共通ショック」と、(2)個別業種のみに直接的な影響を及ぼす「個別業種ショック」に分解した。その結果、1970年代末以降を平均してみると、わが国のIIP変動に最も重要な影響を与えてきたのは「共通ショック」であり、特に2000年代初頭以降の期間においては、海外経済成長率の変動が、共通ショックの背景として最も重要な影響を与えてきたことが確認された。しかし、より最近におけるIIP変動の拡大に注目すると、個別業種ショックの相対的な重要性が、過去と比べて大きく高まっている。その背景には、東日本大震災期におけるサプライ・チェーンの寸断によって、負の個別業種ショックの他業種への波及がみられたことや、近年、一部業種において、国際競争力の低下や海外生産シフトなど、生産能力を含めて国内生産を下押しする動きが生じたことなどがあると示唆される。

キーワード
鉱工業生産指数、構造的ファクター分析、リーマン・ショック、東日本大震災、サプライ・チェーン、産業連関表
JEL分類番号
E23、E32、C32

本稿の作成に際しては、青木浩介准教授(東京大学)、上田晃三准教授(早稲田大学)、西山慎一准教授(東北大学)、楡井誠准教授(一橋大学)、塩路悦朗教授(一橋大学)、Michel Juillard氏(CEPREMAP)、Marco Lombardi氏(BIS)、第5回内閣府・CEPREMAP共同ワークショップ、日本経済学会2013年春季大会の参加者、および前田栄治氏、鎌田康一郎氏、篠潤之介氏、一上響氏、須合智広氏、桜健一氏、片桐満氏をはじめとする日本銀行スタッフから貴重なコメントを頂戴した。記して感謝の意を表したい。ただし、あり得べき誤りは筆者らに属する。また、本稿に示される内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行、および調査統計局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局(現金融市場局) E-mail : yuusuke.kumano@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局 E-mail : akihiro.nakano@boj.or.jp
  3. *3日本銀行調査統計局 E-mail : ichirou.mutou@boj.or.jp

日本銀行から

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