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賃金版ニューケインジアン・フィリップス曲線に関する実証分析:日米比較

2014年2月24日
新谷幸平*1
武藤一郎*2

要旨

本稿では、賃金と労働市場の需給バランスについて考察を深めるため、賃金上昇率と失業率の関係についての実証分析を、日米のデータを用いて行う。具体的には、Gali (2011)の研究に基づき、ニューケインジアン理論の枠組みの中で、ミクロ的基礎付けを持つ動学的な構造方程式として導出される「賃金版ニューケインジアン・フィリップス曲線(NKWPC)」を推計する。分析を通じて、日本におけるNKWPCの実証的パフォーマンスは、米国の結果よりも総じて良好であることが確認された。さらに、日本では、NKWPCの傾きが米国よりも急であることも判明した。この背景には、日本における賃金の粘着性が、米国よりも小さいことが影響している可能性がある。賃金の物価スライド(インデクゼーション)の影響も考慮した推計を行うと、米国ではインフレ率が賃金に与える影響が重要である一方、日本ではその役割がさほど明確でない。時間を通じたパラメータの変化をみると、日本では、NKWPCの傾きが近年フラット化している。また、近年のデータを用いると、インデクゼーションの果たす役割は、日米ともに以前に比べ大きくないと判断されるが、この結果には、近年、両国におけるインフレ率の水準が低位安定してきたことが影響している可能性がある。

キーワード
賃金、失業率、ニューケインジアン理論、フィリップス曲線
JEL分類番号
E24、E31、E32

本稿の作成に際しては、青木浩介准教授(東京大学)、片山宗親氏(京都大学)、および前田栄治氏、亀田制作氏、鎌田康一郎氏、中村康治氏、西崎健司氏、加藤涼氏、福永一郎氏、黒住卓司氏、北村冨行氏、池田大輔氏、小田剛正氏、片桐満氏、大井博之氏をはじめとする日本銀行スタッフから貴重なコメントを頂戴した。記して感謝したい。ただし、あり得べき誤りは筆者らに属する。また、本稿に示される内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行、および調査統計局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行調査統計局 E-mail : kouhei.shintani@boj.or.jp
  2. *2日本銀行調査統計局(現・金融機構局) E-mail : ichirou.mutou@boj.or.jp

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