このページの本文へ移動

わが国銀行は貸出金利をどのように設定しているのか?:個別行データを用いた追随率の検証

2015年7月10日
北村冨行*1
竹井郁夫*2
武藤一郎*3

要旨

本稿では、わが国における個別銀行のデータを用いて、市場金利の変動に対する貸出金利の反応度 —— 貸出金利の「追随率(pass-through)」 —— を計測する。欧州のデータを用いた先行研究では、リレーションシップ貸出の比重が高い銀行において、追随率が低めとなることなどが指摘されてきたが、わが国における2000年代前半以降のデータを用いて分析しても、概ね同様の結果が得られた。本稿ではさらに、各銀行の直面する貸出先企業のバランスシート特性も考慮して追随率を推計したところ、これらの特性も、銀行間での追随率のばらつきを決定する要因として重要である可能性が示された。もっとも、2008年の金融危機発生後に限ってみると、リレーションシップ貸出の比重が高いとみられる銀行でも、追随率を高めて貸出金利の大幅な引き下げを行ったことや、追随率が必ずしも貸出先企業のバランスシート特性に応じた形で決定されなくなったことも判明した。こうした結果は、金融危機後も追随率が大きく変化していないという、欧州のデータを用いた最近の研究とは異なる。この背景には、わが国では、金融危機後も銀行部門が全体として健全性を維持する中で、大幅な金融緩和と貸出競争の激化により貸出金利の低下圧力が強まったこと、危機直後にCP・社債市場などの機能が低下し、代替的に銀行貸出に対する需要が増加したこと、公的部門による銀行貸出の支援策が広く導入されたことなどの影響があると考えられる。

キーワード
貸出金利、追随率、リレーションシップ貸出、金融危機
JEL分類番号
E43、E44、G21

本稿の作成過程では、一色修志氏(横浜銀行)、伊藤誠治氏(三井住友銀行)、植杉威一郎氏(一橋大学)、小野有人氏(中央大学)、川原英二氏(三井住友銀行)、山口曜一郎氏(三井住友銀行)、渡部和孝氏(慶應義塾大学)、Christoffer Kok Sorensen氏(欧州中央銀行)、および日本銀行スタッフの多くから有益なコメントを頂戴した。記して感謝したい。もちろん、あり得べき誤りは筆者らに属する。また、本稿に示される内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行および金融機構局の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行金融機構局(現・イングランド銀行) E-mail : Tomiyuki.Kitamura@bankofengland.co.uk
  2. *2日本銀行金融機構局 E-mail : ikuo.takei@boj.or.jp
  3. *3日本銀行金融機構局(現・企画局) E-mail : ichirou.mutou@boj.or.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
なお、ワーキングペーパーシリーズに対するご意見・ご質問や、掲載ファイルに関するお問い合わせは、執筆者までお寄せ下さい。
商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行情報サービス局(post.prd8@boj.or.jp)までご相談下さい。転載・複製を行う場合は、出所を明記して下さい。