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量的緩和政策と労働市場

2016年2月24日
宮本弘曉*

要旨

本稿の目的は量的緩和政策が経済に与える影響を労働市場に着目しながら理論、実証の両面から分析することである。まず、構造型VARモデルを用いて量的緩和政策が日本経済に与える影響を実証的に分析した。分析の結果、量的緩和政策は生産を増加、雇用を拡大、失業を低下させることが明らかとなった。また、量的緩和政策は物価を上昇させる効果がある一方、賃金を押し上げる効果は限定的であることがわかった。具体的には、量的緩和政策は、(1)総賃金の指標である総雇用者所得を増加させるものの、その効果は大きくないこと、(2)一ヶ月あたりの現金給与総額を増加させるが、賃金の基調を表す所定内給与へは有意な影響を与えないこと、(3) 労働時間を増加させるが、時給換算した現金給与総額への影響は限定的であることがわかった。この結果は日本では賃金よりも雇用の確保が優先されることを意味している。次に、労働市場摩擦と名目賃金の硬直性が存在する動学確率的一般均衡(DSGE)モデルを構築、推計し、日本経済を特徴づける構造パラメータの値を明らかにすると共に、マネタリーベースに対するショックがどのように経済変数に影響するかを分析した。推定の結果、(1)名目賃金は硬直的であること、(2)名目賃金の物価スライドの程度は低いこと、(3)労働者の賃金交渉力は低いことが明らかとなった。また、量的緩和政策は需要の増加を通じて、生産を増加、雇用を拡大させると同時に物価および名目賃金を増加させることがわかった。実質賃金の量的緩和政策に対する反応については、所定内給与は減少するのに対し、現金給与総額は増加するという結果が得られた。

本稿は東京大学金融教育研究センター・日本銀行調査統計局による第6回共催コンファレンス(2015年11月26日開催)での報告論文を改訂したものである。討論者の工藤教孝氏(名古屋大学)をはじめ、コンファレンス参加者からの貴重なコメントを頂いた。また、本稿の作成にあたり、日本銀行の宇野洋輔氏、西岡慎一氏、原尚子氏から多くの助言を頂いた。ここに記して感謝申し上げたい。なお、本稿は量的緩和政策が労働市場に与える影響を分析したChun-Hung Kuo 氏(国際大学)との論文“Quantitative Easing and the Labor Market in Japan”および“Quantitative Easing and the Sluggish Real Wage in Japan”をベースにしている。本研究は科研費(26380248)および公益財団法人清明会からの研究助成を受けている。

* 東京大学 E-mail : miyamoto@pp.u-tokyo.ac.jp

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