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企業のインフレ予想と賃金設定行動

2016年6月21日
開発壮平※1
白木紀行※2

要旨

本稿の目的は、企業のインフレ予想形成、および、その賃金設定行動との関係を分析することである。具体的には、企業のインフレ予想に関するサーベイ調査と財務データを接続したデータセットを用いて、実証分析を行った。分析結果によると、物価安定の目標や量的・質的金融緩和が導入された2013年以降、企業のインフレ予想は、短期・中長期ともに明確に上昇している。この間、分布のばらつきは一旦拡大したのち、縮小している。こうしたインフレ予想分布の形状変化は、企業規模などの属性ごとに異なる。これは、企業属性により、政策変更等に対するインフレ予想の反応が異なることを示唆している。また、2004年以降のデータを用いた実証分析から、(1)中長期インフレ予想が上昇すると賃金や短期インフレ予想が上昇する一方、(2)中長期インフレ予想の上昇を伴わない短期インフレ予想の上昇は、賃金や営業利益率を低下させる傾向にあることが確認された。この結果は、物価と賃金のバランスがとれた経済成長を実現するためには、中長期のインフレ予想が幅広い企業で上昇することが重要であることを示唆している。

JEL分類番号
D21、D84、E31、E52

キーワード
企業のインフレ予想、賃金設定行動、量的・質的金融緩和、PVAR

本稿の作成に当たり、日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂いた。また、内閣府経済社会総合研究所からは、「企業行動に関するアンケート調査」の個票の提供を受けた。記して感謝の意を表したい。ただし、あり得べき誤りは筆者ら個人に属する。本稿の内容と意見は筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. ※1日本銀行企画局(現・調査統計局) E-mail:souhei.kaihatsu@boj.or.jp
  2. ※2日本銀行企画局(現・国際局) E-mail:noriyuki.shiraki@boj.or.jp

日本銀行から

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