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企業パフォーマンスとGDP予測

2018年4月17日
田中万理*1
ニコラス・ブルーム*2
古賀麻衣子*3
加藤晴子*4

全文掲載は、英語のみとなっております。

要旨

企業の期待形成と経済活動に関しては、ケインズのアニマルスピリットに関する言及以来、高い関心が寄せられてきた。しかし、これに関する実証的な裏づけは、企業レベルの個票データが乏しいこともあって、極めて限定されている。本論文では、日本の上場企業のGDP予測に関するサーベイデータと財務データの長期パネルデータをもとに、以下のような分析結果を得た。

第一に、企業のGDP予測は企業の設備投資、雇用、売上高と統計的に有意な正の相関をもつ。この関係は、景気と自社株価の連動性が高い企業において、一層顕著に観察される。これは、マクロの景気と各企業の直面する需要との関連が強い企業ほど、経営層のGDP予測が設備投資や雇用に関する意思決定に影響を与えやすいことを示唆している。第二に、企業の楽観的もしくは悲観的なGDP予測は、企業の収益性を低下させる。企業が楽観的もしくは悲観的なGDP予測にもとづいて生産要素を投入すると、それらが最適な水準よりも過大ないしは過小となり、収益が押し下げられるためと考えられる。第三に、企業の楽観的なGDP予測は企業の生産性を低下させる一方、悲観的なGDP予測が生産性に影響する傾向はみられない。第四に、正確な予測を立てている企業の特徴として、規模が大きい、景気との連動性が高い、社齢が高い、銀行による持ち株比率が高い、過去の平均的な生産性が高いことが確認された。このことは、企業の経営力、経験、ガバナンスなどが予測精度に影響を与えていることを示唆している。これらの結果は、経済の先行きに関する企業の予測力が企業行動にとって重要であることを示すものである。

JEL分類番号
D22, D25, D84

キーワード
予測、企業、設備投資、雇用、生産性

  1. *1一橋大学経済学研究科 E-mail : mari.tanaka@r.hit-u.ac.jp
  2. *2スタンフォード大学経済学部 E-mail : nbloom@stanford.edu
  3. *3日本銀行調査統計局 E-mail : maiko.koga@boj.or.jp
  4. *4日本銀行調査統計局 E-mail : haruko.katou@boj.or.jp

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