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現物国債市場におけるボラティリティと取引高の関係

2019年8月2日
小林悟*1
小林俊*2
稲村保成*3

要旨

近年、本邦現物国債の取引高と金利ボラティリティの関係性に対する市場参加者の関心が高まっている。実際、ボラティリティと金融商品の取引高の間に、正の関係を想定する理論モデルは少なくない。また、直観的にも、金利ボラティリティの上昇は、ディーラーの価格ヘッジ取引や短期売買を喚起することで、ディーラー間取引高を増加させ得ると考えられる。こうした金利ボラティリティと取引高の関係を探るため、本稿では、ディーラー間取引に関する高粒度データを用いて、残存年限別・新発債/既発債別に金利ボラティリティ(実現ボラティリティ)を算出し、それぞれの取引高との関係性について回帰分析を行った。その結果として、現物国債市場において金利ボラティリティと取引高の間には、正の相関関係が一般的に成立するが、(1)金利ボラティリティの上昇が取引高を押し上げる作用は、緩やかに鈍化するという非線形的な関係が示唆されること、(2)既発債は、新発債に比べ、金利ボラティリティ上昇が取引高を押し上げる作用がはっきりと弱まること、が確認された。(1)の結果の一因として、ボラティリティ上昇がディーラー間取引を誘発する一方、ボラティリティ上昇が、投資家目線でみたリスク調整後の収益率(Sharpe ratio)を意識させ、取引高の増加テンポを幾分弱めるメカニズムの存在が考えられる。また、(2)の結果は、既発債は、投資家のポートフォリオに組み込まれることで、市中流通量が減少し、新発債に比べて価格ヘッジやショート・ポジションの造成に利用し難くなるため、その分、ボラティリティの変化が取引高に与える影響が弱まる可能性を示している。

JEL分類番号
C32、C36、C55、G12、G14

キーワード
現物国債市場、市場流動性、実現ボラティリティ、取引高、高粒度データ

本稿は、日本銀行金融市場局による国債市場の流動性・機能度に関する学識経験者や実務家との意見交換(2019年6月11日開催)の場において報告された論文を改訂したものである。本稿の作成にあたり、渡部敏明氏、上記の意見交換会参加者、日本銀行のスタッフから有益なコメントを頂戴した。特に、渡部敏明氏からは本稿の草稿段階から多くの助言を頂いた。記して謝意を表したい。本稿のあり得べき誤りは筆者ら個人に帰する。なお、本稿の内容や意見は、筆者ら個人に属するものであり、日本銀行の公式見解を示すものではない。

  1. *1日本銀行金融市場局(現・国際局) E-mail : satoshi.kobayashi@boj.or.jp
  2. *2日本銀行金融市場局(現・金融機構局) E-mail : shun.kobayashi@boj.or.jp
  3. *3日本銀行金融市場局 E-mail : yasunari.inamura@boj.or.jp

日本銀行から

日本銀行ワーキングペーパーシリーズは、日本銀行員および外部研究者の研究成果をとりまとめたもので、内外の研究機関、研究者等の有識者から幅広くコメントを頂戴することを意図しています。ただし、論文の中で示された内容や意見は、日本銀行の公式見解を示すものではありません。
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