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資金循環統計の見直しについて(本文)

1.見直しの背景

(1)資金循環統計の意義

 資金循環統計は、国民経済における部門間の資金の流れと債権債務関係を鳥瞰できるようにした統計であり、様々な金融データを経済部門別、金融取引項目別にマトリックス形式で表示している。本統計を利用することにより、マネーサプライの変動分析等の金融情勢分析や、金融構造変化の解明のみならず、家計、法人企業、政府といった非金融各部門の資金過不足や、金融資産・負債残高の分析を通じて、金融面の動きと実体経済活動の動向が、相互にどのような影響を与えているかを把握することが可能となる。すなわち、資金循環統計で示されている各経済部門の資金過不足は、実体経済活動の結果という側面もあるが、同時に、各経済部門の金融資産・負債の状況が、投資・消費活動に影響を与えている。その意味で、資金循環統計は実体経済動向を分析する際の有用な材料である。日本銀行では、こうした観点から、法人・個人部門のネット金融ポジション等の分析を行っている(BOX1参照)

 資金循環統計をこうした用途に利用できるのは、同統計が国民経済計算同様、国民経済全体を捕捉することを目的として、一次統計を加工したものであるためと言うことができる。すなわち、わが国に存在する様々な金融統計は、それ自体が各々の目的に照らし有用な情報を与えるものであるが、資金循環統計の作成に際しては、そうした統計を経済部門のバランスシート(資産と負債がバランスする勘定)の中で表せるように集計・加工し、経済全体をみるのに適したフロー・ストック計数に変換する。この結果、個々の金融統計を見るだけでは判然としない情報が浮き彫りになることが多く、従って、資金循環統計は、金融統計に付加価値を付け得る一種の「器」と言うこともできよう。

 また、資金循環統計は、金融全体を包括的にカバーする加工統計であることから、その作成や見直し作業の副次的効果として、公共財とも言うべき個々の金融統計データの整備の方向性といった点も明らかになると思われる。そうした作業により、金融の全体像について信頼できる統計が整備されることは、今後の制度を考えたり、経済・金融動向の分析の質を高めるための一つの前提条件であると言えよう。

  1. 現行の資金循環統計は、一定期間内の金融フローの計数を表した金融取引表と、一定時点での金融ストックを一覧化した金融資産・負債残高表から構成される。
  2. 資金循環統計の作成・利用に関する先駆者とも言うべき米国連邦準備制度理事会(FRB)でも、家計部門の債務残高や正味資産の動向分析を行っており、連邦公開市場委員会(FOMC)において議論の対象となることが少なくない。例えば、1995年11月に開催されたFOMCでは、FRBスタッフとFOMCの一部メンバーとの間で、家計の債務の総額と正味資産の水準の評価およびその個人消費に与える影響について見方が分かれ、議論が行われている。

(2)現行統計の問題点

 現行資金循環統計は、1958年に作成を開始した後、1978年に68SNAを反映させる形で見直しが行われたが、その後は部門分類、取引項目の拡充・組み替えがほとんど行われず、統計の作成・公表方法についても、これまで改善の努力は払われてはきたものの、統計の枠組み、作成・公表方法各々について、以下のような問題が生じている。なお、統計の枠組みに関する問題点については、程度の差こそあれ各国に共通するものである。各国が、そうした問題点を解消し、国際比較可能性を向上させるという課題に直面していることが、IMFマニュアル作成の一つの背景となっている。

(統計の枠組み)

  • a)近年の金融制度、金融構造の変化が十分に織り込まれていない。特に、最近注目を集めている年金基金、ノンバンクといった預金を取り扱わない金融機関の動向や、金融派生商品取引、債権流動化といった新たな金融取引の捕捉が不十分である。
  • b)基礎データの制約から、非金融部門の分類が国民経済計算(非金融法人、一般政府、家計、海外および対家計民間非営利団体)と異なっている。このため、実体経済活動と金融面の動きを相互連関を踏まえて観察するという、資金循環統計本来の用途に必ずしもそぐわない。
  • c)わが国独特の金融制度(公的・民間金融機関の分類等)を前提とした部門分類を行っており、他国の資金循環統計と容易に比較できる形になっていない。
  • d)部門・取引項目の細分化が十分でないため、分析目的・用途に応じた組み替えが困難である。

(統計の作成・公表方法)

  • e)基礎データの集計・加工過程で、大胆な推計に依存せざるを得ない部分が多く、また資産の評価方法の相違等から、勘定全体として資産と負債が不一致であったり、フロー計数とストック計数の不整合の発生する部分がある。
  • f)統計公表までのタイムラグが、対象期末から5〜6ヶ月後と極めて長い。なお、作成と公表の早期化は、統計全般について要請されているものでもある(1995年3月に公表された統計審議会答申「統計行政の新中長期構想」)。
  1. 21978年の見直しでは以下の点が変更された。

(部門分類)

  • 資金運用部、共済連、証券会社、住宅金融専門会社、預金保険機構の金融部門への組み入れ(資金運用部は政府部門から、その他は法人企業部門から)
  • 郵便貯金・保険を金融部門の内訳部門として創設
  • 外国為替資金特別会計を政府部門に組み入れ

(取引項目)

  • 日本銀行預金、資金運用部預託金の取引項目を創設
  • 補助貨幣を政府部門の負債ではなく日本銀行部門の負債に計上
  • 要求払預金の範囲を納税準備預金にまで広範化

(作成方法)

  • 金融部門の資金過不足を計上(従来は法人部門の資金過不足と合算)
  1. 4 1978年以降は、以下の点が変更された。
  • CDの取引項目創設(1979年)
  • 個人・法人企業部門保有の株式を時価評価(1986年)
  • ストック表の中に海外部門を設定(1986年)

(3)基礎データの制約

 上に挙げた問題点の多くは、基礎データ面での制約に起因している。すなわち、基礎統計となる金融統計の中には、a)公表までのラグが長い、b)四半期データが存在しない、c)情報内容が不十分である、といった制約から、基礎データとして十分利用できないものが少なくない。また、d)統計自体が未整備であったり、徴求後の集計データが非公表扱いとされているため、基礎データとして利用できないケースもあり、部門・取引項目の拡充や公表の早期化を図る上での制約となっている。

2.見直しの具体的内容

 基礎データ面の問題(この点については下記4.参照)を別として、現行資金循環統計における上記1.(2)のような問題を解決していくためには、以下のような考え方に基づいて、枠組みを改訂することが適当と考えられる。

  • a)部門分類については、現時点でのわが国固有の制度や枠組みではなく、各主体の経済機能や、その提供・利用する金融商品の経済的な意味、取引実態に着目して行い、かつ、統計ユーザーのニーズに応じた組み替えを可能とするよう、細分化して表示する(=ビルディングブロックの提供)。具体的には、イ)金融仲介サービスや、これに密接に関連した非仲介型の金融サービスを提供している主体を詳細に特定し、それらを全て金融部門に取り入れる、ロ)各金融機関の金融仲介機能の形態・性格に基づき、IMFマニュアルに提示された内訳(中央銀行、預金取扱機関、保険・年金基金、その他金融仲介機関、非仲介型金融機関)に振り分ける、ハ)非金融部門についても、わが国の国民経済計算とできる限り整合的な分類とする(一般政府の創設等)といった変更を行う。
  • b)金融取引分類についても、部門分類同様、経済的実態に基づいた分類を行う。具体的な変更点としては、イ)新金融商品や新設した部門に特有の金融商品について、取引項目を新設する(金融派生商品、債権流動化関連商品、抵当証券)、ロ)特に実体経済の動向と関連性の強い貸出等の金融取引項目について、その拡充や細分化を行う(消費者信用、住宅貸付、その他貸出<主に事業者向け貸出>、現先・債券貸借取引、ファイナンシャルリース)。
  • c)統計作成のための会計基準としては、基礎データの入手可能性にも依存するが、時価評価を極力取り入れ、その前提として発生主義で金融取引を記録する。なお、時価評価を行うことにより、ストック計数には価格変化分が含まれることとなるため、金融取引により生じたフロー計数を表すためには、価格変化のみを抽出した調整勘定を設けることが必要となる。

 こうした考え方に基づき、経済部門および取引項目について具体的に整理した見直し案が別表1<部門>および別表2<取引項目>であり、その背景となる考え方について、以下に説明する(詳細は付論)

 なお、統計公表までのタイムラグについては、基礎データの入手時期にも依存するが、可能な限り公表の早期化を図ることとしたい。

(1)部門分類の変更

イ.経済機能に基づいた分類方法

 IMFマニュアルでは、金融部門を金融仲介機関(Financial intermediaries)と非仲介型金融機関(Financial auxiliaries)に分けた上で、金融仲介機関の内訳として、「中央銀行」、「預金取扱機関」、「保険・年金基金」、「その他金融仲介機関」を示している(下図参照)。

 IMFマニュアルでは、金融部門を金融仲介機関(Financial intermediaries)と非仲介型金融機関(Financial auxiliaries)に分けた上で、金融仲介機関の内訳として、「中央銀行」、「預金取扱機関」、「保険・年金基金」、「その他金融仲介機関」を示している(下図参照)。

<金融機関の分類>
        −−中央銀行
 金融仲介機関 | 預金取扱機関
        | 保険・年金基金   −−
        −−その他金融仲介機関   |非預金取扱金融機関
          非仲介型金融機関  −−

 金融仲介機能は、資金供給主体から資金需要主体に資金を仲介し、a)その際仲介者が金融資産・負債を保有することで、様々なリスクを負担するとともに、b)貸借に係る金融フローの性格を変換するといった金融サービスを意味する。金融仲介機関とは、そうした機能を主要活動として営んでいる金融機関を指すが、わが国でも、資金の流れや債権債務関係が複雑化する中で、金融仲介機能を担う金融機関を実態に則して分類する必要があろう。特に、「保険・年金基金」、「その他金融仲介機関」という分類項目を設ければ、預金の吸収・貸出の実行という預金取扱機関による伝統的な金融仲介活動のみならず、非預金取扱金融機関による金融仲介活動にも焦点を当てることが可能となる。また、金融仲介機能を持たないが、金融仲介業務に密接に絡んだ金融業務(例えばブローカー業務)を行う非仲介型金融機関をも金融部門に含めれば、そうした業務に付随する資金の流れや、債権債務関係も明示されることとなる。

 こうした点に鑑みると、IMFマニュアルが示している内訳分類を、わが国の資金循環統計の枠組みとして採用するのが適当と考えられるが、その際には、次の点を勘案する必要があろう。

(非金融部門から金融部門への組み入れ)

 貸金業者等のいわゆるノンバンクは、現行統計ではその大部分が非金融部門に分類されている。しかしながら、当機関は、預金・預金類似商品以外の手段で資金を調達し、貸出等の資金運用を行う機関であり、その機能からして金融部門に組み入れることが適当であろう。また、年金福祉事業団、簡易保険福祉事業団は、財政投融資資金の運用を行っているが、近年、投資主体としての重要性が増していることから、財政投融資資金を原資として金融仲介活動を行う政府金融機関と同様、金融機関のいずれかの区分に分類していくことが考えられる。さらに、非仲介型金融機関として、金融仲介に密接に絡んだサービスを提供している証券取引所等の取引所、預貸金保証機関、証券投資顧問会社といった機関も金融部門に組み入れることが考えられる

(公的・民間の区別について)

 IMFマニュアルの内訳分類は、各金融機関の経済機能に着目したものであるが、同時に、わが国の金融制度に則して金融構造等を分析しようとする場合、公的・民間というような制度分類も重要である。すなわち、現行統計の「公的金融機関」は、新たに、「預金取扱機関」、「保険・年金基金」、「その他金融仲介機関」に再編成されるが、各内訳分類の中で公的機関を細分類項目としておけば、ビルディングブロックとしての細分類項目の再構成により、公的・民間を区別すべき分析ニーズにも応えることができる。

(分類の基本単位について)

 国民経済計算体系を貫く分類の基本単位は「制度単位」(Institutional unit)であり、本見直しにあたっても、その考え方を基盤としている。もっとも、単一の制度単位としての金融機関の中で、異なった経済機能を営む勘定が併存している場合には、上記の内訳分類を行うにあたって、経済機能の観点から細分割を行うことが適当である。こうした取り扱いを金融部門内の分類に適用することは、IMFマニュアルも奨めるところであるが、それが必要なものとして、例えば国内銀行の信託勘定が挙げられる。見直し案の詳細は付論に示してあるが、基本的には、金銭信託等、信託勘定を持つ銀行自身が運用主体となっている信託勘定は、「預金類似信託」として「預金取扱機関」の中に含める一方、銀行自体が運用主体ではない信託勘定(年金信託や証券投資信託)は、原則として本来の運用主体(年金基金、証券投資信託委託会社)と統合することが適当との考えに立っている。また、こうした考え方を信託勘定以外の分野に適用すれば、例えば、郵便貯金特別会計の金融自由化対策資金特別勘定を郵便貯金から分離(資金運用のみに特化する同勘定をその他金融仲介機関に分類)し、政府関係金融機関の細分類項目である「資金運用事業主体」に含めるといった取り扱いも考えられる。

  1. 5資金循環統計の部門分類(特に金融部門の内訳・細分類)を見直すに当たっては、1993年に改訂された日本標準産業分類第10版(以下JSIC10)との整合性をどのように図るかが問題となる。この点、JSIC10における金融機関分類は、わが国固有の金融制度を重視する形で策定され(例えば、公的・民間の区別に基づく「政府関係金融機関」が金融・保険業<大分類>における中分類となっている)、また、近年の金融革新の影響も織り込まれていない。このため、改訂資金循環統計の枠組みとしては、JSIC10を参考にしつつも、IMFマニュアルの考え方を優先することが適当と考えられる。
  2. 6預貸金保証機関としては、預・貯金保険機構、信用保証協会等が挙げられるが、このうち、預・貯金保険機構は、現行統計でも金融部門に分類されている。

ロ.金融仲介機関の内訳

 上記のような経済機能分類に則してみると、金融仲介機関の内訳分類である「預金取扱機関」(広義の通貨集計量に含まれる預金を負債として持つ金融機関)、「保険・年金基金」、「その他金融仲介機関」(種々の方法で資金調達を行い貸出等を実行する金融機関)は、各々以下のように特定されることとなろう。

(預金取扱機関)

 現行統計で「銀行等」部門に分類される国内銀行(銀行勘定)、中小企業金融機関、農林水産金融機関、在日外銀に加え、現行統計では公的金融機関の「郵便貯金・簡保」、「信託勘定」として分類されている郵便貯金および金銭信託を合算して、「預金取扱機関(預・貯金取扱機関)」とする方法が考えられる。

(保険・年金基金部門)

 現行統計には、年金基金部門が設けられていないが、信託勘定の統合等により、厚生年金基金、適格退職年金といった企業年金や、国民年金基金等の年金基金をカバーする年金基金部門を創設することが可能となる。また、保険部門には、民間保険会社に加え、公的保険も含める方法が考えられる。

(その他金融仲介機関の特定)

 今回の見直しでは、「その他金融仲介機関」という分類概念が新たに導入される。これは、上記の保険・年金基金部門と共に、「非預金取扱金融機関」の重要な構成要素となる。その他金融仲介機関としては、まず、a)ノンバンク(今回金融部門に組み入れられる貸金業者等)、b)信託勘定を統合する証券投資信託委託会社のほか、c)資金供給を行う公的金融機関(政府関係金融機関と呼称)も、その他金融仲介機関に該当する。なお、政府関係金融機関には、現行既にカバーされている資金運用部、政府金融機関(日本開発銀行、日本輸出入銀行等)に新たに資金運用部以外の融資特別会計を加え、さらに今回設けられる「資金運用事業主体」(年金福祉事業団、郵便貯金特別会計・金融自由化対策資金特別勘定等)を含めることが適当であろう(ただし、こうした資金については、各々の機関・勘定の運用原資の性格によっては、預金取扱機関や保険・年金基金に分類する方法<統合表示等>も考えられる)。さらに、d)証券会社については、株式・債券の取り次ぎ業務を重視すれば、ブローカーと同様の非仲介型金融機関と見做し得るが、このところ、ディーリング、アンダーライティング業務のウェイトが増大しつつある点に鑑み、金融仲介活動を行うその他金融仲介機関として分類することが妥当であろう。

  1. 7IMFマニュアルでは、中央銀行も預金取扱機関(Depository corporations)と見做されており、中央銀行を除く預金取扱機関をその他預金取扱機関(Other depository corporations)として分類している。もっとも、中央銀行を含む「預金取扱機関」という分類は概念上のものであり、資金循環マトリックス上に実際に表される分類項目ではないため、今回の資金循環統計の見直し案では、「預金取扱機関」を中央銀行を除くベースで用いている。なお、わが国の制度に鑑みると、「預・貯金取扱機関」との呼称も考えられる。

ハ.非金融部門の分類

 現行統計では、中央政府部門と公団・地方公共団体部門を合わせて「公共部門」と称しているが、国民経済計算と接合するためには、a)中央政府、地方公共団体(現行統計では地方公共団体は公団と同一部門)、社会保障基金(現行統計では資金運用部預託金のみを計上、共済年金等は個人部門に含まれる)を内訳部門とする一般政府部門を創設する一方、b)政府に属さない事業団等(現行統計では法人企業部門に含まれる)を公団と合わせ、「公的非金融法人」という非金融法人企業の内訳部門を設けることが必要となる。また、対家計民間非営利団体に関する基礎データが整備されれば、現行の個人部門を93SNAと整合性をとる形で、家計と対家計民間非営利団体とに分類することも考えられる。

(2)新金融商品の取込み

 以下では、新金融商品の中でも最近特に急成長している金融派生商品および債権流動化関連商品についての基本的な考え方を説明する。

(金融派生商品)

 金融派生商品は、近年取引が活発化している金融商品であるが、同商品の取引では、契約以降の価格変動に伴う含み損益(時価評価ベースの会計方法により捕捉される市場価値であり、想定元本ではない)が取引主体間で発生し、当該債権・債務が各経済セクターの資産・負債価値に少なからず影響を与えている。包括統計である資金循環統計においても、そうした影響を反映させることが重要であろう。具体的には、金融派生商品をフォワード系(スワップ、FRA等)、オプション系の商品別に区分した上で、フォワード系商品は含み損益を、オプション系商品についてはオプションプレミアムの時価を、金融ストックとして計上する方法が考えられる。

(債権流動化関連商品)

 銀行やリース・クレジット会社等の金融機関は、保有資産の圧縮や資金調達を企図して、貸出債権の流動化を活発化させつつあるが、資金循環統計においても、こうした取引を捕捉し、計上することが重要な課題となっている。資金循環統計上で、仮に、流動化によりプールされた資産やそれに対応して発行される証券をカバーしないとすると、債権流動化が進捗するにつれ金融部門の資産・負債が—─借り手である非金融部門の資産・負債には何ら影響がない中で——縮小し、一見金融仲介機能が低下しているかのような事態が発生する。また、経済全体の資産・負債もアンバランスとなる。このため、資産をプールする「債権流動化に係る特別目的会社・信託」をノンバンクの一種として金融部門に組み入れ、資産にはオリジネーターにより譲渡された貸出債権を、負債には債権に対応した資金調達手段を計上することが必要となる10。この際、取引項目では、このようなプールされた債権の価値を裏付けとした証券の発行を、事業債等企業価値全体を基にした証券と区別して表すために、「債権流動化関連商品」という項目を設けることが適当と考えられる。

  1. 8取得原価主義の会計方法を採り、損益を実現時点で認識する場合には市場価値は把握されない。例えば、金利スワップの場合、スワップ契約が締結された時点では市場価値はゼロであり、その後の市場金利の変動に伴い一定の市場価値(再構築価格)を有することとなるが、こうした市場価値は、後述するように、時価変動に伴う損益を発生時点で認識することによって把握されるものである(なお、資金の移動のみに着目すると利子のネット受払尻しか捕捉されない)。
  2. 9オプション取引では、契約時に、プレミアムの受払という実際の資金の移動が行われるが、そうした資金移動は、もちろん資金循環統計の計上対象となる。
  3. 10わが国で活発化しつつあるローンパーティシペーションのように、譲渡金融機関の貸出債権が特別目的会社・信託にプールされず、譲受金融機関に移される場合には、本取り扱いを適用する必要はない。

(3)時価評価への対応

 金融商品の時価評価との関連では、資金循環統計作成上、a)取引フロー計数からの価格変化分の除去、b)ストック計数の時価ベースでの計上、c)価格変化分の調整勘定への計上、という3つの課題がある。このうち、a)の課題については、先般の国債・株式の評価方法の変更(1996年12月公表の同年4〜6月のデータから適用、以下、短期見直しと呼称)により一歩前進した形となった。すなわち、短期見直しでは、国債は、額面計上に統一(従来は金融部門の資産サイドのみ簿価、その他は額面で計上)し、また株式については、全て時価に統一(従来は、金融部門では資産サイドが簿価、負債サイドが払込資本、他部門は資産サイドが時価、負債サイドが払込資本)した。これにより、国債、株式の評価方法は、資産・負債サイドで統一された形となり、また、価格変化分を除いた正確な取引フローを計上できることとなった。従って、今後は、b)およびc)の課題に取り組む必要がある11

(時価評価による価格変化分の特定)

 上記の見直しにより、株式については、ストック全体が時価評価されることとなったため、当期中のフローと当期ストックの対前期差との間に生じる差額が価格変化分として把握される。一方、国債等債券については、前述のようにストック全体を額面で捉えることにより、価格変化分を除いた正確な取引フローを計上できるが、価格変化分を把握することができない。従って、残された課題は、債券の時価ストックを推計12することにより、価格変化分を特定し、株式の価格変化分や前述した金融派生商品に係る含み損益の変化分等とともに、「フローとストックの調整勘定」に計上することである。

(発生主義ベースへの転換)

 現行の資金循環統計は、実際の資金移動が行われる金融取引をカバーしており、この意味で「現金主義ベース」で作成されている(例外は企業間信用等)。しかしながら、フォワード系金融派生商品取引等においては、含み損益という経済価値が生じているので、それを把握する必要がある。また、国民経済計算との整合性という観点からも、未収・未払金といった、資金移動の伴わない債権債務を極力カバーする必要があるため、「発生主義」に転換することが適当と考えられる。

  1. 11有価証券に係るフロー計数を作成するに当たっては、株式については、取引フローの部門別データが存在することから、当期中のフローを直接集計する一方、債券については、フローの基礎データが存在しないことから、ストックの対前期差を取引フローとして計上している。この際、資金循環統計作成上の金融商品の評価方法といった場合、前者ではフローの基礎データの評価方法、後者ではフローを作成するためのストックの基礎データの評価方法を意味する。
  2. 12IMFマニュアルでは、金融統計を作成する際には、金融取引の目的如何にかかわらず、全ての金融商品を時価評価するよう提言している(全面時価主義)。わが国の企業・政府会計における金融商品の評価方法は、現状では全面時価主義に対応できるものではないため、資金循環統計作成に当たっては、計数の時価ベースへの転換方法についても検討していく方針である。

3.新ベース統計作成により明らかになる点

 以上のような見直し作業の結果、新ベースの資金循環統計は、現行の統計に比し利便性が大きく高まるものと思われる。言うまでもなく、そのメリットの一つは、国民経済計算の枠組みと合致し、実体経済面との整合性が向上することであるが、純粋に金融面での統計として考えた場合にも、a)既存の個別統計では必ずしも浮き彫りとならない金融事象で、資金循環統計のみで捉えることが可能となるものが多い。さらに、b)現状では利用できない金融一次データが入手可能となった場合には、従来実態を明らかとする手がかりのなかった金融事象の定量化が可能となることのメリットも大きい。ただし、b)については、社会的コスト、すなわち、報告者負担の増加ができる限り小さくなるよう配意することも重要である。

 こうしたメリットの具体的な事例は、ユーザー各自のニーズにより、種々考えられるが、以下ではそのいくつかを例示する。

(1)既存統計の利用範囲拡大、組み替え等による新たな切り口の提示

(非預金取扱金融機関の資産増加−日米比較)

 新ベース統計の特徴の一つは、既に述べたように、非預金取扱金融機関(保険・年金基金、その他金融仲介機関)を新たに部門として明示する点である。すなわち、資金循環統計で示されるデータは、各種の統計を利用してある程度は作成可能であるが、新ベース統計では、一覧して捉えることができるようになる(以下の諸項目に共通)。そこで、新ベース統計の分類に沿う形で、預金取扱機関と非預金取扱金融機関の総資産の伸びを比較してみると13、1986年度以降、非預金取扱金融機関の伸びが相対的に高く、両者の間で資産拡大のスピードに顕著な差が生じている姿がみてとれる(図表1)。また、残高ベースでみると、非預金取扱金融機関の総資産残高が1,100兆円程度と、預金取扱機関と拮抗する規模になっている点が注目される(図表2)。ちなみに、米国では、非預金取扱金融機関(保険・年金、ファイナンス会社等民間非預金取扱金融機関および政府援助信用機関)の総資産の伸びは、預金取扱機関(銀行および貯蓄金融機関)の伸びを大きく上回っており(図表3)、この結果、非預金取扱金融機関の総資産残高は、1985年度には約5兆ドルで、預金取扱機関との差は僅少であったものが、1994年度には13兆ドルを超え、預金取扱機関(約5.5兆ドル)の2倍以上の規模に達している(図表4)。

(家計の保険・年金資産)

 わが国の家計部門の金融資産としては、預金の比率が極めて高い(新ベース統計ではその比率を54%<1994年度>と直ちに計算できる)のが特徴であるが、今回の見直しで、家計の年金資産を含めた契約型貯蓄(取引項目における「保険・年金準備金」の創設)を明示することにより、家計の金融資産選好の変化をより明確に示すことが可能となる。すなわち、家計の保有する保険・年金資産は、預金を大きく上回る伸びを示しており(図表5)、家計が契約型貯蓄のウェイトを着実に高めている姿が窺える。家計の金融資産に占める保険・年金のウェイトを米国、英国、ドイツと比較してみると、わが国では同ウェイトは約2.5割(うち年金は0.5割)と、5割前後で推移する英国には及ばないものの、米国に徐々に近づいている(図表6)。保険・年金資産の保有比率は各国とも上昇傾向にあるが、1986年〜1994年の同ウェイトの上昇幅についてみると、日本(8.3%ポイント<年度末値>)は、米国(5.7%ポイント)、英国(4.8%ポイント)、ドイツ(0.6%ポイント)を遥かにしのいでいる。

(ファイナンス会社の貸出動向)

 ファイナンス会社は、新ベース統計においては、その他金融仲介機関として金融部門に組み入れられ、また、取引項目において、貸出が消費者信用、住宅貸付、その他(主に事業者向け貸出)に分離されるため、当機関の貸出動向を明示することが可能となる。新ベース統計の試算計数によりファイナンス会社の貸出動向をみると、事業者向け貸出残高は、1991年度以降国内銀行の伸びをさらに下回って低調に推移している(図表7)一方、消費者信用面では、近年預金取扱機関を上回る伸びを示し、着実にシェアを増加させている(図表8)。これは、米国において、事業者向け貸出ではファイナンス会社が商業銀行を上回る伸びを示し、消費者信用の分野では逆のパターンである(図表9、10)のとは対照的な姿である。

(財政投融資に関する資金の流れ)

 財政投融資資金の流れ(図表11)を経済全体の資金循環の中で位置付けるためには、数多くの一次統計を参照する必要がある(図表11の資料に列挙)が、今回の見直しで公的機関のカバレッジが拡大するとともに、公的金融に関する情報を整理することを通じ14、この面での分析の利便性が向上する。今回の見直しの結果、資金循環統計上で明示することが可能となる資金の流れとしては、a)「社会保障基金」→「資金運用部」(資金運用部預託金の預託機関の内訳)、b)「資金運用部以外の融資特別会計」→資金運用事業主体以外の財投対象機関、c)資金運用部、公団・公庫債等財投原資→「地方公共団体」、「公的非金融法人企業」、d)「資金運用事業主体」の資金調達・運用、が挙げられる。

 また、財政投融資を巡る資金の流れを家計貯蓄に遡って考えると、その連鎖の最も長い場合で、「郵便貯金」→「資金運用部」→「資金運用事業主体」→「預金取扱機関」、「その他金融仲介機関」、「保険」という4つの部門(金融部門内の部門項目)を経て、資金需要主体に仲介されることが分かる。このように、財政投融資という広範囲に渡る資金の流れをみる際に、ユーザーは、資金循環統計を利用することにより、一次統計を自ら集計・加工するコストを大きく削減することができる。

(金融派生商品)

 金融派生商品の統計的把握の試みは、最近ようやく始められたばかりであるが、そのうちで最も包括的な統計としては、1995年に実施された金融派生商品サーベイ(BISサーベイ)がある。BISサーベイの結果をみると、日本市場における金融派生商品の市場価値ベースの資産残高は55兆円であり、うちフォワード系が54兆円、オプション系が1兆円となっている。同サーベイにおける取引主体分類を組み替え、資金循環統計の部門別の保有残高をみる(図表12)と、預金取扱機関の金融派生商品の資産残高はグロスで約32兆円と全部門中最大であり、総資産に占めるウェイトも2.5%と、保険・年金基金(0.3%)を遥かにしのいでいる15

  1. 13非預金取扱金融機関には非仲介型金融機関も含まれるが、ここでは、金融仲介機能に焦点を当てるため、非仲介型金融機関を非預金取扱金融機関に含めないベースで総資産を集計。
  2. 14例えば、別表1・2に示した項目を組み替えることにより、財政投融資に関する資金循環統計・付表を作成・公表する方法も考えられる。
  3. 15BISサーベイでは、預金取扱機関のほか証券会社も報告対象機関となっているため、預金取扱機関の金融派生商品の資産残高には、証券会社分も含まれる。総資産に占めるウェイトを算出する際の分母には、預金取扱機関のみの総資産を用いている(証券会社の総資産を含めない)ため、分母・分子のカバレッジが若干異なっているが、実際には、証券会社の金融派生商品の資産残高は僅少であり、分子から証券会社分を除いたとしても、同ウェイトに大きな違いはないと思われる。BISサーベイの詳細については、「金融派生商品売買高等調査結果について」、『日本銀行月報』1996年3月号を参照。

(2)新たな金融データの入手によって明らかになる点

(家計の年金資産および年金基金のポートフォリオ)

 上記(1)でみたように、今回の見直しにより家計の保険・年金資産の総額を把握することができるが、基礎データの一層の充実化により、新しい資金循環表マトリックスの各セルを埋めることができれば、年金基金部門と保険部門の個人年金等を併せて年金のみの総額を算出したり、年金基金部門単体のポートフォリオや、公的年金に係る資金の流れ16(図表13)等を把握することができる(BOX2参照)

(ファイナンス会社の資金調達)

 ファイナンス会社については、上記(1)において、新ベース統計により、その貸出動向を把握できることを示したが、ファイナンス会社の資金調達等に関するデータが整備されれば、その金融仲介経路を資金循環統計において表わせるようになる。ちなみに、米国の資金循環統計をみると、ファイナンス会社を通じた金融仲介経路(例えば、家計の投信購入→投信によるファイナンス会社発行の社債・CP購入<図表14参照>→ファイナンス会社の貸出という経路や、ファイナンス会社の債権流動化による資金調達<図表15参照>)の動向が明らかとなっている。

  1. 16わが国では、公的年金資金が、資金運用部を経由して、債券・株式等に運用されている。ちなみに、米国では、公的年金資金の運用対象は、非市場性の財務省証券に限られている。

4.基礎データ入手に係る課題(むすびに代えて)

 金融統計は、複雑な金融事象につき、一定の切り口に沿った断面図を示すものであり、資金循環統計は、数多くの断面図を集大成するための「器」であると言える。資金循環統計が、どれだけ金融の全体像を明らかにするかは、a)部門分類、取引項目の的確な設定、統計の作成・公表方法の改善、およびb)基礎データの正確さや充実度に依存している。

 本稿は、主として、a)の点に重点を置いて述べてきたが、今回の見直しにより、資金循環統計を真に有意義な公共財とするためには、b)の基礎データの充実化が避けて通れない問題である。この点に関し、資金循環統計の基礎統計を所管されている各種機関の方々のご協力を賜れれば幸いである。なお、データ徴求の問題に関しては、1995年3月に公表された統計審議会答申「統計行政の新中長期構想」の中にも示されているように、報告者負担の増大に繋がることのないよう配慮する必要がある。従って、本行としては、新しいベースでの資金循環統計の作成に当たっては、同時に既存の本行統計調査を可能な限り統合、整理することにより、報告者負担の軽減に向けた対応を図る方針である。もっとも、一部の新金融商品等については、統計の充実のためには、報告者に追加的なご協力を仰ぐことも必要となろう。こうした点につき、多くの報告者のご理解を賜りたいと考えている。

 なお、資金循環統計の用途として、a)実体経済動向との連関を踏まえて金融の動向をみる、b)金融構造のトレースのみならず政策波及効果を把握する、といった点も重要であることを勘案すると、引き続き四半期ベースで同統計を作成することが必要であろう。本稿では、新ベースの計数について、年度ベースで試算してみたが、四半期ベースでの新ベース統計の作成に当たっては、より大きな基礎統計の制約に直面するものと予想される。今後は、四半期統計と年度統計との関係についても、データの入手可能性という観点からさらに検討を重ねる予定であるが、こうした点も含め、関係各位からの積極的なコメントをお待ちする次第である。

以上