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資金循環統計見直し案に対するご意見・ご提案について

1997年 8月22日
日本銀行調査統計局

見直し案の詳細な内容等については、本ホームページの「資金循環統計の見直しについて」をご覧下さい。
なお、本稿は日本銀行月報8月号にも掲載しております。

はじめに

 日本銀行では、本年3月18日に、資金循環統計の見直しに関する基本的な考え方や具体的な内容(部門分類、取引項目の拡充・変更等)を公表した。その際、新統計をできるだけユーザーのニーズに応えるものとするために、同見直し案についてのご意見・ご提案を広く求めたところである。これに対して、統計ユーザーや統計の対象となる業界団体等から様々なコメントをお寄せ頂いた。こうした方々に深く感謝申し上げる次第である。

 寄せられたコメントの殆どは、日本銀行が資金循環統計の見直しを行うことを評価し、支持するものであった。もっとも、部門分類や取引項目の枠組み、公表の形式・方法等について、日本銀行の見直し案に対して代替案を提示するものもみられた。日本銀行としては、今後これらコメントを十分に参考にしつつ、最終案を固めていく方針であるが、その作業は、a)政府の行うわが国の国民経済計算の93SNAベースへの改訂やb)金融統計の国際的標準化の動き(IMF金融統計マニュアルの作成等)との整合性、さらには、c)新統計作成に必要な基礎データの入手可能性等を勘案する必要があるため、いま暫くの時間を要する状況にある。このため、取り敢えず、以下にこれまで頂いたコメントの主要なポイントを整理して公表することとしたい。なお、新ベースでの資金循環統計は、1999年中に公表を開始する予定である。

1.見直し全体に対するコメント

 資金循環統計は、国民経済全体を対象に、経済部門間の金融取引を項目別に示した統計である。今回の見直しでは、a)部門分類、取引項目について、現時点でのわが国固有の制度や枠組みにとらわれずに、経済機能や経済実態を重視して編成し直すこと、b)その際国民経済計算との整合性を高めること、c)発生主義で取引を把握し、できる限り時価評価を取り入れること、等を基本方針としている。また、d)こうした基本方針に沿って基礎データを充実化させ、統計の信頼度を高めることも併せて狙っている。

 これについては、今後、金融制度改革(いわゆる日本版ビッグバン)や金融の一層の国際化を迎える中で、「わが国における金融取引を体系的に把握した資金循環統計の必要性が高まっており、同統計の見直しは時宜にかなったものである」との指摘が少なからずみられた。具体的なコメントを見直しの基本方針等に則して示せば、以下のとおりである。

(1)経済機能や経済実態を重視した分類について

 経済機能や経済実態を重視して部門や取引を分類することについては、「金融機関や金融商品の枠組みには今後大きな変化が予想されるため、適当である」とのコメントがあった。なお、「公的金融と民間金融の区別は重要であるが、新たな分類でもデータの組み替えにより、詳細なアプローチが十分に可能である」とする意見も寄せられた。

(2)国民経済計算との整合性について

 資金循環統計と国民経済計算の整合性が向上する点については、多くのユーザーから評価された。また、「個々の部門分類、取引項目についても、両統計を極力統一すべき」とか、「資金循環統計の資金過不足と国民経済計算の貯蓄投資差額の不一致を極力解消すべき」といった要望がみられた。

(3)発生主義、時価評価の導入について

 発生主義や時価評価への転換についても、支持が得られた。その理由として、「国民経済計算では発生主義で取引を把握している」ことや、「今後、わが国の企業会計でも金融商品の時価評価が主流になるとみられる」といった点が指摘された。

(4)基礎データの充実化について

 こうした中で、「部門分類、取引項目の詳細化のためには、基礎データの収集能力向上が一段と必要であり、それが実現しない限り、計数を埋めるための推計作業が膨らむに過ぎない」との意見が寄せられた。日本銀行としては、先般公表した論文でも述べたように、今後、基礎データの提供に関し、関係官庁や業界団体の協力を仰いでいきたい。

2.部門分類の見直しに対するコメント

 部門分類の見直し案に対しては、代替案を含め、様々なコメントが寄せられた。このうち、非金融部門の分類については、概ね国民経済計算との整合性が向上するとして、同案を支持する内容であったが、金融部門の分類に関しては、日本銀行の見直し案に賛同する声と、異なった観点からの提案の両論がみられた。これらを、年金基金、ノンバンク、ディーラー・ブローカー、公的金融機関の取り扱い別に整理すると、以下のとおりである。

(1)年金基金

 今回の見直し案では、厚生年金基金や適格退職年金等から成る年金基金を金融部門内に創設し、その資産の内訳を明らかにすることとしている。この点については、「これまでデータ不足から客観的な議論が妨げられていた分野に新しい分析ツールが与えられる」との評価の声が寄せられた。ただし、a)厚生年金基金の代行部分およびb)適格退職年金については、これらを年金基金に含めることに疑問も呈された。すなわち、a)については、「金融部門の年金基金ではなく、一般政府部門の社会保障基金に分類すべき」、b)については、「厚生年金基金と適格退職年金を同等に扱うという考え方は十分に理解できるが、一方で適格退職年金を独立した経済主体とみなすのは違和感がある」といった趣旨のコメントであった。

 なお、年金の問題に関連して、退職給与引当金等、法人企業の年金債務、労働債務を計上すべきとの指摘もあった。

(2)ノンバンク

 ノンバンクについては、今回の見直し案で、非金融部門から金融部門への組み替えを提示し、その細分類であるファイナンス会社の対象範囲を貸金業者とした。これに対して、「現行資金循環統計では、貸金業者の貸付が欠落しているため、新統計ではノンバンクからの資金調達ルートが明らかになることに期待する」との声が寄せられた。ただし、ファイナンス会社の対象範囲については、貸金業を営んでいないリース会社を除くべきだとのコメントもあった。

(3)ディーラー・ブローカー

 今回の見直し案では、証券会社は、そのディーリング・アンダーライティング業務に着目して、「その他金融仲介機関」に分類し、短資会社は、その主要業務をブローキングとみて、「非仲介型金融機関」に分類している。この点に関し、「証券会社のディーリング・アンダーライティング業務を金融仲介活動と捉えられるかどうか、もう少し整理する必要がある」、「短資会社はディーリング業務を行っているので、その他金融仲介機関に分類すべき」との意見があった。

(4)公的金融機関

 財政投融資に係る資金の流れについては、「財政投融資について今後一層進んだ議論を行う前提となる」との観点から、「日本銀行が、利便性の高いデータを提供することが望まれる」との指摘がみられた。

3.取引項目の見直しに関するコメント

 取引項目の詳細化については、「金融派生商品、債権流動化関連商品のデータが明示されれば、今後一層進んだ分析・研究につながる」との意見等、今回の見直し案に対する支持が多くみられた。その中で一部に、統計の利便性向上という観点からは、見直し案よりも詳細な区分が望ましいとのコメントや、取引の実態からみて見直し案とは異なる区分が適当とのコメントもあった。それらを、現金・預金、貸出、対外取引項目の取り扱い別に整理すると、以下のとおりである。

(1)現金・預金

 まず、現金については、今回の見直し案では、その保有部門別データが存在しないことから、預金と合算表示することとしている。これに対して、「法人企業等の保有分や海外流出分が不明ならば、全額を家計に配分してでも独立項目とすべき」とのコメントがあった。次に、預金の細分類については、「譲渡性預金につき、株式以外の証券でなく預金の一項目とするのは、IMFマニュアルと相違しているが、わが国における経済実態からみて妥当である」との指摘が得られた。このほか、a)政府当座預金の独立項目化(現行通りの扱い)や、b)信託受益権の合同運用金銭・貸付信託と特金・ファントラ等への分離も提案された。

(2)貸出

 今回の見直し案では、現先・債券貸借取引やファイナンシャルリースを貸出として擬制することとしている。この点に関し、まず、現先・債券貸借取引については、「証券市場の取引として扱う方が分かり易いが、新たな金融システムにおける貸出の多様化現象とみることもできる」との意見が示された。一方、ファイナンシャルリースについては、「金融的性格を有するにせよ、本質はあくまでも金融取引ではなく物品賃貸借取引であり、銀行貸出と同様に位置付ける性格のものではない」と、分類方法の再検討を促す意見があった。

(3)対外取引項目

 対外取引項目に関しては、概して一層の詳細化が要望された。具体的には、a)企業間信用と貿易信用の分離、b)その他債権債務における国内取引分と対外取引分の区分、c)その他対外債権債務の内訳(預金債券、株式等)の明示を提案するものである。

 また、今回の見直し案では、対外証券投資の部門別内訳を明示することを目指しているが、対内証券投資や外貨準備についても、より詳細なデータを提供してほしい旨のコメントがあった。

4.その他のコメント

 今回寄せられたコメントの中には、上記1〜3で整理した統計の枠組みに関する意見・提案のほか、以下にみるように、資金循環統計と他の金融統計との関係に関するものや、資金循環統計の公表形式・方法等に関するものもあった。

(1)他の金融統計との関係

 コメントの中では、資金循環統計とマネーサプライ関連統計、貯蓄統計、国際収支統計、BIS統計等他の金融統計との関係について、整合性の向上、相互関連の明示が求められた。すなわち、「資金循環統計と、M2+CD、広義流動性、信用面の対応、マネタリーサーベイといったマネーサプライ関連統計との関係を計数的に明らかにすることが望まれる」とか、「各種貯蓄統計との相違点を明らかにしてほしい」といったコメントが寄せられた。また、主に銀行の対外資産を対象とするBIS統計についても、資金循環統計との関連性強化を求める指摘があった。一方、前述のとおり、資金循環統計と国民経済計算の整合性向上を評価する声が多いが、同様の趣旨から、資金循環統計と国際収支統計の整合性向上も要望された。

(2)統計の公表形式・方法等

 統計の公表形式については、金融取引表・残高表を補完する付表(例えば、公的金融・民間金融を区分したもの)の作成・公表や、時系列表の充実化を期待する意見があった。また、公表方法については、「資金循環統計の有用性が一層高まり、ひいては基礎データ充実化の必要性が認識されていく」との観点から、経済統計月報への掲載に止まらず、インターネット・ホームページへの掲載、プレスリリース用資料の配付等が要望された。さらに、同様の観点から、「資金循環統計のマニュアル・解説書の充実、推計範囲の明示が望まれる」とのコメントもあった。

以上

コメントをお寄せ頂いた方々

  • 全国貸金業協会連合会
  • 短資協会
  • リース事業協会
  • 東京三菱銀行調査部
  • 日債銀総合研究所
  • 石田定夫 元明治大学教授
  • 黒田晁生 明治大学教授・日本経済研究センター研究委員
  • 作間逸雄 専修大学教授
  • 白石小百合 日本経済研究センター研究員
  • 松浦宏 東京家政学院大学教授
  • 吉岡完治 慶応義塾大学教授