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卸売物価指数の見直しに関する日本銀行の今後の取り組み方針

見直し案に対し頂戴したご意見と、それへの回答

1999年11月 9日
日本銀行調査統計局

はじめに

 日本銀行では、本年3月26日に、卸売物価指数の見直し案を公表するとともに、7月30日を期限として、同案についてユーザー各位から広くご意見・ご提案(パブリックコメント)を募集しました。その結果、民間エコノミスト、シンクタンク、大学教授等、合計22先の皆様から、多くの有益なコメントを頂戴しました。

 以下では、寄せられたご意見・ご提案の概要を紹介するとともに、それらを踏まえあらためて検討した結果得られた、日本銀行の考え方について説明します。日本銀行としては、こうした方針に沿って、今後の基準改定等の作業を進めていきたいと考えています。なお、ご多用中にもかかわらずご意見をお寄せ頂いた皆様には、厚くお礼申し上げます1

  1. ご意見を頂戴した方々のご芳名は、文末に一括して掲載させて頂きました。

1.見直し全体に対するコメント

 3月に公表した「卸売物価指数の現状と見直し案について——ご意見・ご提案のお願い」2(以下では、簡単に「見直しペーパー」と呼びます)では、卸売物価指数の価格調査段階の一部見直し、旬間指数の公表方法変更、呼称変更、製造業部門別投入・産出物価指数の全面加工統計化、という4つの見直し案を提示しました。お寄せ頂いたコメントは、統計精度、透明性、判り易さ、報告者負担や統計作成コストの問題等、様々な論点にわたっていますが、全体として日本銀行の取り組みを評価する意見が大多数を占めました。大幅な見直しに際して、予め「案」を提示し広くユーザーから意見を募る「パブリックコメント」方式についても、「今後も継続して欲しい」との声が数多く寄せられました。

 また、「見直しペーパー」では、卸売物価指数の価格調査方法や利用上の留意点等を具体的に紹介しましたが、こうした取り組みについても、「指数の性格を理解するうえで有益であった」、「実務の限界まで踏み込んだ内容で非常に思い切った試みである」等、好意的な評価を多数頂きました。

 日本銀行としては、今後も、正確・的確な統計の提供に向けて、不断の見直しに努めるとともに、今回のような試みを通じて、透明性の向上やユーザーニーズへの対応に十分配慮していきたいと考えています3

  1. 2日本銀行調査月報1999年4月号(本ホームページにも掲載)をご参照下さい。
  2. 3日本銀行調査統計局全体としての取り組み等については、日本銀行調査月報1999年8月号「調査統計局における統計整備に対する基本的な考え方とこれまでの取り組み」(本ホームページにも掲載)をご参照下さい。

2.見直しに関する具体的論点

(1)価格調査段階に関する原則の一部変更(デフレータ機能の強化)

<頂戴したコメントのポイント>

 見直し案では、(a)「需給動向を最も反映する取引段階を価格調査段階とする」との、卸売物価指数の基本原則を維持しつつ、その機能を損わない範囲で、(b)「製造業の出荷額を実質化するためのデフレータとして使いたい」といった利用者のニーズにより一層応えるべく、「1次卸段階と生産者段階のどちらでも需給を反映する価格が調査可能と思われる場合には、今後、生産者段階の価格を調査(従来は1次卸段階を調査)する」こととしました。

 同案については、大多数の方から賛同を頂きました。もっとも、ごく一部には「ユーザーニーズを過度に意識し二兎(需給動向の把握とデフレータニーズへの対応)を追うと、需給動向の把握という指数本来の目的が曖昧化してしまうのではないか」とのコメントもありました。また、「見直しペーパー中の『部分的ながらも卸売段階より生産者段階の価格を優先するという考え方への転換を含むものである』とは、現行の卸売物価指数を米国のような生産者物価指数(Producer Price Index)へ近づけるとの理解でよいか」との質問も寄せられました。

 なお、品目毎の価格調査段階の開示については、多くの方から「価格の性質を知るうえで是非実現して欲しい」との要望がありました。

<日本銀行の考え方>

 見直し案のとおり、2002(平成14)年中に予定している次回基準改定(2000<平成12>年基準への移行)からは、価格調査段階に関する原則を一部変更し、以下の(a)~(c)の基準((a)(b)は従来どおり)により価格調査先を選定する方向で準備を進めることとします。ただし、見直しペーパーでも再三述べておりますとおり、日本銀行では、指数作成の主たる目的はあくまで「需給動向の把握」にあると考えており、今回の見直しが、いわゆる米国型の生産者物価指数への転換、ないしはデフレータ機能優先への転換を企図したものでない4点については、再度強調しておきたいと思います。また、今回頂戴したご意見の中にも、こうした従来からの考え方を踏襲することに対して違和感を唱える声はなく、大多数の方にご賛同頂いたものと考えています。

  1. (a)1次卸が自らの在庫を持ち、積極的に需給調整機能を果たしている場合は1次卸段階の価格を調査する。
  2. (b)生産者から小売店ないしユーザーへの直売形態が一般的である(ないし卸売段階の企業の価格決定への影響力が低い)場合には、生産者段階の価格を調査する。
  3. (c)1次卸と生産者のどちらの段階でも需給を反映する価格が調査可能と思われる場合には、生産者段階の価格を調査する5

 なお、国内卸売物価指数の品目毎の価格調査段階については、次回基準改定を待つことなく、本ホームページに現行基準指数における一覧表を掲載しておりますので、ご覧下さい6

  1. 4米国の生産者物価指数は、デフレータ機能を優先する立場から、価格調査段階を予め生産者に限定している一方、私どもの作成している卸売物価指数では、「需給動向を最も反映する」取引段階の価格を捉えることを前提としており、価格調査段階選定の基本的スタンスが異なっています。
  2. 5「二兎を追うと・・・」との懸念に応える形で言い換えると、今回の見直しは、「産業・流通構造の変化の結果として、生産者段階の価格でも十分に需給動向を把握可能となったものについては、生産者段階の価格を調査することとし、需給動向の把握という第1の目的を損わない範囲で、デフレータ機能の向上という副次的効果をえる」との考え方に基づいています。
  3. 6FAQ(よくある質問と回答<Frequently Asked Questions>)のコーナーにある「卸売物価指数の解説」の付録編・付表をご参照下さい。

(2)呼称変更

<頂戴したコメントのポイント>

 見直し案では、(a)生産者価格の割合がウエイトベースで既に全体の7割に達していること、(b)上記見直しにより、今後、生産者価格の割合がさらに上昇すると予想されること等から、「卸売段階の物価指数である」との誤解を避けるため、「指数の呼称を『卸売物価指数』から『企業物価指数』に変更する」こととしました。

 本件については、皆様から最も多くのコメントを頂戴しましたが、「歴史や伝統に囚われることなく、現状に即した名称に変更すべき」等、呼称変更に賛成するご意見が多数を占め、そのうち半数以上の方々からは、「企業物価指数」に賛同するコメントを頂きました。もっとも、一方で、(a)「既に7割の価格が生産者段階となっているのであれば、国際的にみて一般的な『生産者物価指数』とした方が良い」との意見も少なからず寄せられました。また、(b)「『物価』とすると、『モノ』だけでなく『サービス』も含むとの誤解を与えかねない」、(c)「企業物価指数という呼称は概念として不明確である7」、との意見も一部にありました8

 なお、「総合卸売物価指数」の位置付けを、現行の基本分類指数から参考指数に変更し、「国内・輸出・輸入の平均指数」と呼称する点については、とくに異論は寄せられませんでした。

  1. 7これに関連して、「『企業物価』とすると、企業間の取引価格全体を捉えているとの印象を与えるが、実際には工業製品の一部の取引段階(個別の商品については原則として1段階のみ)の価格しか調査していないうえに、ウエイトも企業間取引額を反映したものではない(国内卸売物価のウエイトは、同一企業内の事業所間取引を含む「工業統計表」を基に算定)ことから誤解を招き易い。仮に『企業物価』とするなら、同一企業内の事業所間取引の多寡によって影響を受けない付加価値ベースのウエイトを採用すべきではないか」とのご意見もありました。
  2. 8なお、本件については、5月21日の統計審議会においても内容を説明し、種々のご意見を頂きましたが、そこでの結論は「日銀の作成する指数等に関して当審議会がどこまでかかわることができるかという問題があるが、名称等については重要な議題であり、経済指標部会でも慎重に審議して欲しい」というものでした。また、これを受けて6月25日に開催された経済指標部会における部会長の取りまとめは、「全体としては企業物価指数を積極的に支持する方は少ないようで、卸売物価指数の伝統と歴史的な名称であること、海外への知名度も配慮して、変更に対しては慎重に検討して欲しいという意見が主流だったと思われる。また、名称を変更するなら生産者価格で何が悪いのかというのも、私を含めて過半数の方のご意見だったように思われる」というものでした。

<日本銀行の考え方>

 お寄せ頂いた様々な角度からのご意見を踏まえつつ、再度慎重に検討した結果、以下の理由((a)~(c)は上記指摘の番号に対応)から、当初見直し案どおり、次回基準改定から「企業物価指数(Corporate Goods Price Index、略称CGPI)」との呼称に変更する方向で準備を進めることとしました。

  1. (a)生産者物価指数とすると、「あくまで需給動向の把握を最優先する」との原則は変らないという日本銀行の統計作成意図に反して、「デフレータ機能を優先し、価格調査段階を予め生産者に統一した物価指数への転換を図った」との誤解を与えかねないこと。
  2. (b)「モノ」を表現する用語としては、商品、財(財貨)等も考えられるが、前者は1次産品の、また後者は財産ないし資産のイメージが強く、「モノ」の取引全般を指すとのニュアンスが伝わりにくいこと9
  3. (c)確かに「企業物価指数」という呼称から、具体的な価格調査対象や統計的性質の詳細を知ることはできないが、「需給動向を最も反映する取引段階の価格を調査する(予め生産者あるいは卸売業者に調査段階を特定しない)」との原則を、厳密かつ平易な形で呼称に反映することはもとより困難と言わざるを得ない。呼称については、厳密性に余りこだわるよりも、専門家でない一般の人々も含めた多くの方々に判り易いよう、当該統計の特徴を端的に捉えた簡潔なものとすることが望ましいこと。

 なお、「企業物価指数」の具体的な指数体系をあらためて示すと、以下のとおりです(太字が変更部分)。

企業物価指数 ( Corporate Goods Price Index: CGPI )

<基本分類指数>

  • 国内物価指数 ( Domestic Price Index: DPI )
  • 輸出物価指数 ( Export Price Index: EPI )
  • 輸入物価指数 ( Import Price Index: IPI )

<参考指数>

  • 需要段階別・用途別指数
    ( Index for Stage of Demand and Uses: ISDU )
  • 国内・輸出・輸入の平均指数
    ( Average Index for Domestics, Exports and Imports: AIDEI )
  • 戦前基準指数 Prewar Base Index: PBI )
  • 製造業部門別投入・産出物価指数 ( Input-Output Price Index of Manufacturing Industry by Sector: IOPI )10
  1. 9日本銀行が、企業間で取引されるサービスを対象として別途作成している「企業向けサービス価格指数 ( Corporate Service Price Index: CSPI)」との対応関係からすれば、「企業向け商品価格指数」との呼称も考えられますが、その場合、基本分類指数は、国内企業向け商品価格指数、輸出商品価格指数、輸入商品価格指数となり、「表記が長く一般に馴染みにくい」との指摘もありました。日本銀行としては、こうした馴染み易さ、読み易さ(本文中の(c)の視点)も、忘れてはならないポイントと考えています。
  2. 10後記(4)のとおり、今後、卸売物価指数に依拠した全面加工統計に移行する予定です。

(3)旬間指数の公表方法変更

<頂戴したコメントのポイント>

 現行の旬間指数で価格調査11を行っているのは、月中変動が大きい一部の市況商品等(調査価格全体の1割弱)に限られていることから、見直し案では、ユーザーの誤解を避けるため、「特段の異論がなければ可及的速やかに」、総平均指数(他の価格を前月比横這いと仮定して計算)等の公表を取り止め、「価格調査を行っている類別の指数のみを公表する」こととしました。

 本件については、大多数の方々から賛同を頂きました。なお、一部には「市況商品の動きであれば、他機関作成の商品指数でも十分代用可能であり、費用対効果の観点から作成自体を取り止めても良いのではないか」との意見も寄せられました。

  1. 11卸売物価指数の価格調査は、基本的に書面調査に基づいています(毎月初に前月の価格を記入した価格調査表を回収)が、旬間指数については、毎旬、電話ヒアリングにより調査を実施しております。

<日本銀行の考え方>

 旬間指数については、上記の方針に沿って、月中の価格変動(輸出入物価においては契約通貨建て価格の変動)が大きく、旬毎に価格調査を行う品目を含む類別の指数のみ公表することとし、総平均および価格調査を実施しない類別の指数については公表を取り止めます12。また、価格調査を行う品目の一覧も公表することとします。

 なお、本件は、本年度中の実施を目途とし、具体的なタイミングは準備が整った段階であらためてお知らせします。

  1. 12詳細は、11月9日公表の「卸売物価・旬間指数の公表方法変更のお知らせ」(本ホームページにも掲載)をご覧下さい。

(4)製造業部門別投入・産出物価指数の全面加工統計化

<頂戴したコメントのポイント>

 見直し案では、(a)既に卸売物価指数の7割が生産者価格となっており、独自の価格調査を交えて産出物価指数を作成する意義が薄れていること、(b)同指数はウエイト等他の側面で統計精度上の問題を抱えており13、独自調査や内訳分類の細分化等にかけたコストが、それに見合うだけの効果を生んでいるとは言い難いこと等から、次回基準改定(1995<平成7>年基準への移行<来年中に予定>)より、「独自の価格調査を廃止し、卸売物価指数からの転用による全面加工統計に移行するとともに、指数体系自体の簡略化を図る」こととしました。

 本件については、「報告者負担を含めた統計の作成コストと、それによる効果を考えると、反対すべき理由はない」との意見が大半を占めました。もっとも、一部からは「現在、製造業部門別投入・産出物価指数をデフレータとして使用しているので、これらが加工統計化によりどうなるか(存続するのか)教えて欲しい」との照会もありました14。なお、ネットウエイトベース指数の廃止については、とくに異論は寄せられませんでした。

 また、加工統計化・指数体系の簡素化にあたっては、「ユーザーによる再加工が可能となるよう加工方法を全面開示する」こととしましたが、これについては、多数の方から「独自の分析を行なううえで非常にありがたい」とのコメントを頂きました。

  1. 13例えば、ウエイト算定の基礎資料として利用している産業連関表では、投入サイドの分類が品目別まで細分化されていないため、投入物価指数の品目ウエイトには、産出物価指数の品目ウエイトをそのまま流用しています。
  2. 14統計審議会・経済指標部会での部会長の取りまとめは、「指数の精度を確保するためには、追加調査は廃止していいのかという意見はある。時間の関係から部会で十分な意見の集約ができなかったが、比較的慎重論が強かったという整理にさせて頂く」というものでした。

<日本銀行の考え方>

 見直し案のとおり、来年中に予定している次回基準改定より、独自の価格調査を取り止め、卸売物価指数からの転用による全面加工統計に移行するとともに、指数体系についても簡素化を図る方向で準備を進めたいと考えています。具体的には以下のとおりです。

  1. (a)本指数の最も細かい分類を「内訳小分類」とし、「内訳小分類」未満の細かい分類については、全て卸売物価指数の品目指数およびそのウエイトを転用する。
  2. (b)卸売物価指数からの転用関係(品目の紐付けとウエイト)を全面開示する。
  3. (c)従来作成していた「グロスウエイトベース(自部門内取引を含む)」指数と「ネットウエイトベース(これを控除)」のうち、後者については、ユーザーニーズが低いことから見直しを機に作成を廃止する。ただし、必要に応じてユーザー自らが作成できるよう作成方法を開示する。

 独自調査の廃止により、一部商品の価格動向が把握できなくなる点は確かですが、日本銀行としては、独自調査を行なっている品目の多くは、卸売物価指数の採用基準に満たない取引額の小さい商品であり、報告者負担を含めた社会全体の費用と効果を考えると、廃止することが適当と判断した次第です15。日本銀行としては、本指数の作成に用いていた資源を、よりユーザーニーズの高い卸売物価指数(企業物価指数)や企業向けサービス価格指数の精度向上に振り向けることで、物価指数全体としてのスクラップ&ビルドを進めていきたいと考えています。

  1. 15具体的には、投入物価指数で約30、産出物価指数で約20の内訳小分類が廃止となります(現在の内訳小分類の数は各々358、333)が、これによるカバレッジの低下は各々6~7%程度に止まる見通しです。

3.その他のご意見

 見直し案に直接関連するコメントは上記のとおりですが、それ以外にも幾つかのご意見を頂戴しましたので、以下では主要なポイントをご紹介するとともに、日本銀行としての考え方を説明します。

(1)公表計数への電子ベースでのアクセス

 日本銀行の統計公表姿勢については、「毎月の公表資料がインターネットで即刻閲覧できる体制となっており、海外でも評判がよい」とのコメントを頂く一方、長期時系列データについては、「現状、ホームページ上でアクセスできるのは、物価指数については総平均指数のみに止まっており、より一層の拡充を望む」との要望がありました。

 この点については、日本銀行としても重要な課題と認識しており、本年度中には、ホームページ(ダウンロードコーナー)への掲載系列の大幅拡充を実現したいと考えています16

  1. 16 ホームページの拡充後は、品目段階までの殆どの公表系列について長期時系列の利用が可能となる予定です。

(2)卸売物価指数と企業向けサービス価格指数の統合について

 一部の方々からは、「卸売物価指数あるいは製造業部門別投入・産出物価指数について、同じく日本銀行が作成している企業向けサービス価格指数と統合できないか」、あるいは「将来的にそういうことを検討しているのか」、といったご意見・ご質問を頂きました。

 確かに、諸外国においては、わが国の卸売物価指数に近い概念である生産者物価指数等へサービス価格を取り込んでいる例があります。しかしながら、卸売物価指数と企業向けサービス価格指数では、ウエイトを算定するための基礎となる統計が異なっており(前者が工業統計表<通産省>および日本貿易月表<大蔵省>、後者が産業連関表<総務庁>)、両者の整合性をどう取っていくかという大きな問題があります。また、企業向けサービス価格指数には、サービス取引のなかで大きなウエイトを占める卸売業の商業マージンや金融機関の利鞘(金融帰属利子)が、信頼性のある適当な価格データの入手が困難であるため含まれていないなど、カバレッジ等の面でも十分とは言えません。日本銀行としては、指数の一貫性や精度を犠牲にして両者を統合するよりも、個々の物価指数の精度そのものを高めていくことの方が重要と考えています。なお、製造業部門別投入・産出物価指数については、企業向けサービス価格指数と同じ産業連関表をウエイトデータとしているため、ウエイトの整合性の問題はありませんが、カバレッジ等の問題は卸売物価指数の場合と同様であり、現在のところサービスの取り込みは考えていません。

(3)消費者物価指数との比較に関するコメント

 見直しペーパーでは、卸売物価指数の性格をできるだけ判り易く紹介するため、幾つかの個所において消費者物価指数との比較を行いましたが、消費者物価指数を作成している総務庁統計局統計調査部より、3.の「価格調査面の特色と工夫」の中の「品質調整への取り組み」の項における記述が不適切であるとして、以下のような意見を頂きました。

(a)調査価格の変更頻度について

 卸売物価指数における「銘柄」は、個々の商品のことであるのに対し、消費者物価指数における「銘柄」とは、品質、規格、容量等を指定した「仕様」のことであり、通常、複数の商品が該当している。消費者物価指数の元データである「小売物価統計調査」では、基本銘柄(生鮮食品およびサービスを除く)全体のうち年間約6%について、変更を実施している。この他にも調査店舗の変更や、地域の特徴に応じて別途設定している市町村銘柄の変更、同一銘柄内における価格調査する商品の変更がある。従って「消費者物価指数では、調査価格の変更自体の実施頻度が低く… 」との表現は不適切である。

(b)品質調整について

 消費者物価指数では、調査価格を旧銘柄から新銘柄に変更する場合、新旧銘柄の品質の違いを勘案して、価格リンク、数量リンクまたは直接比較のいずれかの処理を行っている。価格リンクとは、新旧両銘柄の価格を重複して調査し、同一店舗において同一条件で販売されている新旧商品の価格差が、市場で評価された両商品の品質差を表すとみなして、新旧価格を接続する方法である。これは、国際的にみてもよく使われている品質調整の方法である。

 従って、「(調査価格の変更を)実施する際に価格を横這いとして処理されていることが多い」との表現は、このような品質調整が全く行われていない、あるいは、不十分であるとの誤解を与えるので不適切である。

 なお、日本銀行の卸売物価指数では、コスト評価法17やヘドニック法18等を利用して品質調整を行っているが、消費者物価指数は消費者の立場から物価動向を計測するものであり、品質調整法についても自ずから違いが生じる面もある。

 例えば、コスト評価法については、消費者にとって品質差とは言えない製造コストの差がある場合、これを含めて品質調整を行うことは消費者物価指数では適当でない。また、ヘドニック法については、同一店舗において同一条件で販売されている新旧商品の価格差は、原則的に市場価格で評価された両商品の品質差とみなしている点では、価格リンクと同じである。ヘドニック法では、本来、多くの商品の実売価格や販売シェアのデータが必要である等々推計に用いるデータの収集面での制約や、推計精度が必ずしも高いとは言えないこと等から、価格リンク法より優れているとの明確な根拠はなく、少なくとも、物価指数の品質調整法として適用可能な品目がかなり限定されるという問題がある。

(c)両指数を比較する際の留意点について

 卸売物価指数(最終消費財)と消費者物価指数(生鮮食品を除く商品)との動きを比較する場合には、ペーパーで指摘されている「採用品目」や「品質調整」の違いのほか、「前者は生産者の出荷額等を、後者は消費者世帯の購入金額をウエイトとして利用している」、「前者のうち輸入品については、契約通貨×当月の為替相場により円換算しているため、指数が為替変動の影響を受け易い」等の面にも留意する必要がある。

 こうした点に関する日本銀行の考え方を、あらためて説明すると以下のとおりです。まず、(a)については、総務庁の指摘のとおり、卸売物価指数における調査価格の変更と消費者物価指数における銘柄変更ではベースが違っているため、厳密な比較はできませんが、卸売物価指数の中で、消費者物価指数と概念的に最も近い最終消費財(国内品+輸入品)ベースでみた、年間の調査価格変更件数(調査先のみの変更を含む)の全調査価格に占める割合は、約15%(国内卸売物価指数では約7%)となっています19

 次に、上記(b)の品質調整方法についてです20。消費者物価指数において採用されている価格リンク法は、「新旧両商品の市場価格の差が品質の差に等しい」との考え方に依拠しており、この仮定が正しい限りにおいては適切な品質調整が行なわれていると考えて差し支えありません。しかし、こうした仮定が妥当性をもつのは、「新旧商品がともに主力商品として並行して販売されており、かつ両者の価格差(品質差に対する市場の評価)が安定している」場合に限られると考えるべきであり、上記以外のケースに同法を適用することは、新旧商品の入れ替えにあたり、品質調整を行わず、単に実質的な価格変動が無かった(横這い)として処理しているに他なりません。実際、自動車や電気製品等の耐久消費財では、新商品の登場と同時に(あるいはそれに先んじて)旧商品の市場が急速に消滅する(あるいは旧商品の価格が急落する)ケースが少なからずみられ、こうした場合における品質調整には、コスト評価法やヘドニック法等の他の手法を用いる必要があると考えられます。

 卸売物価指数においても、消費者物価指数で採用されている「価格リンク法」と同様の手法(私どもでは「オーバーラップ法」と呼んでいます)を用いる場合がありますが、その際には、各種手法の中で同手法を用いることが最適か否かを十分検討したうえで適用することとしています。確かに総務庁の指摘にもあるように、各種の品質調整法はそれぞれ幾つかの仮定や限界を抱えており、何らかの誤差を伴う可能性が否定できません。しかしながら、品質に対するユーザーの評価を直接測定することが不可能である以上、日本銀行としては、ケースに応じて、コスト評価法やヘドニック法等、最も有効と思われる手法を用いて、可能な限り品質調整を試みることが重要と考えています。

  1. 17メーカーから聴取した新旧商品の製造コストの差(品質向上に要したコスト)を、両商品の品質差に対応する価格差とみなし、価格差の残り部分を「品質変化以外の実質的な価格変動」として処理する方法です。
  2. 18回帰方程式を用いて、商品間に共通する諸特性(例えば汎用コンピュータであれば、処理速度、記憶容量等)と価格の関係を求め、品質差に基づく価格差を推計する方法です。
  3. 19年間の調査価格変更件数の全調査価格に占める割合における「最終消費財指数ベース(約15%)」と「国内卸売物価指数ベース(約7%)」の差は、最終製品の方が川上(素材系)商品より商品サイクルが短いことに起因すると考えられます。
  4. 20品質調整に関する日本銀行の考え方や具体例について、より詳しくお知りになりたい方は、本ホームページにある「卸売物価指数の解説」の付録編・付8「品質調整の具体例」をご覧下さい。

以上

[ご意見・ご提案を頂戴した方々、敬称略]

  • 植草 一秀(野村総合研究所)
  • 大来 洋一(政策研究大学院大学)
  • 奥村 洋彦(学習院大学)
  • 貝塚 啓明(中央大学)
  • 霧島 和孝、山崎昇一(住友生命総合研究所)
  • 倉澤 資成(横浜国立大学)
  • 嶋中 雄二(三和総合研究所)
  • 高木 信二(大阪大学)
  • 宅森 昭吉(さくら証券)
  • 竹内 啓(明治学院大学)
  • 田路 健一
  • 土志田 征一(日本経済研究センター)
  • 林 文夫(東京大学)
  • R.フェルドマン(モルガン・スタンレー証券会社)
  • 深尾 光洋(慶応義塾大学)
  • 舟岡 史雄(信州大学)
  • 丸山 恭一、大藤 ミナミ(セゾン総合研究所)
  • 吉本 澄司(さくら銀行)
  • 若月三喜雄(日本総合研究所)
  • 総務庁 統計局 統計調査部 消費統計課
  • 経済企画庁 物価局 物価調査課
  •  同  経済研究所 国民経済計算部 価格分析課