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資金循環統計からみた80年代以降のわが国の金融構造

2005年 3月15日
日本銀行調査統計局

日本銀行から

 以下には、(要旨)を掲載しています。全文は、こちら(ron0503b.pdf 335KB)から入手できます。

要旨

 日本銀行調査統計局では、今般、資金循環統計に関し、従来、90年代以降しか公表していなかった93SNAベースによる年度データを、新たに80年代まで遡及し、公表した。これに伴い、80年代から最近まで同一ベースでの時系列データをみることができるようになった。このデータをみると、80年代後半の金融資産・負債残高等の膨張と90年代以降の伸び悩み・減少の動きが鮮明となるなど、金融面でダイナミックな動きを捉えることができる。こうした資金循環統計からみた80年代以降のわが国の金融構造の変化と特徴は以下のように整理できるであろう。

 国内非金融部門における金融構造をみると、大まかにみて、80年代は、家計が最大の資金の出し手となる一方、民間非金融法人企業が最大の資金の取り手であったと同時に、大きな資金の出し手にもなっており、全体の資金運用・調達取引もかなり拡大した。しかし、90年代以降は、最大の出し手であった家計の資金供給が低下傾向を辿る中で、一般政府が最大の資金の取り手として調達を拡大した一方、民間非金融法人企業は80年代に膨張した資産・負債の圧縮を進めていることから、全体の資金運用・調達取引は縮小している。このように、80年代と90年代以降とでは、国内非金融部門の資金運用・調達の動きは大きく変化している。

 すなわち、80年代は、資金過不足でみると、家計で高水準の資金余剰が続き、主な資金運用主体であった一方、民間非金融法人企業で設備投資の活発化等を背景に資金不足が拡大傾向にあった。特に80年代後半には、最大の資金調達主体であった民間非金融法人企業も金融収益の拡大等を企図した両建て取引を膨らませて大きな資金運用主体となったことから、国内非金融部門全体の資金運用・調達の取引(フロー)が大きく拡大した。さらに、国内非金融部門の金融資産・負債残高(ストック)も、こうしたフローの動きに、株価等金融資産価格の上昇も加わって、大幅な伸びとなった。なお、一般政府が堅調な税収等を背景に資金不足から資金余剰に転化したという特徴がみられる。

 一方、90年代に入ると、家計ではなお高水準の資金余剰にあったが、民間非金融法人企業は大幅な設備投資の圧縮等を背景に資金不足を大幅に縮小させた一方、一般政府では税収の減少や公共投資の増加を背景に資金不足に転化した。こうした中で、国内非金融部門全体の資金運用・調達(フロー)は、民間非金融法人企業の両建て取引の解消などから大きく低下した。さらに90年代半ば以降になると、家計が貯蓄率の低下を背景に資金余剰幅を縮小させ、一般政府が税収減や社会保障関連費の増大などから資金不足幅を一段と拡大させる一方、民間非金融法人企業が家計に代わって資金余剰傾向を強めてきている。こうした中、国内非金融部門の資金運用・調達(フロー)は、民間非金融法人企業が負債圧縮(借入返済)を進め、資金運用を抑制していることなどから、一段と縮小傾向にある。また、国内非金融部門の金融資産・負債残高は、このようなフローの動きに加えて、株価等金融資産価格の低迷を背景に、伸び率も鈍化している。なお、民間非金融法人企業では、高水準の資金余剰を背景に、2003年度の金融資産・負債残高の差額(負債は株式・出資金を除く)が、89年度以来のプラスに転じており、金融面でのバランスシート調整が進捗しているという特徴がみられる。

 以上のような国内非金融部門の資金運用・調達の動きの中で、わが国においてどのような形で資金が流れているかを確認すると、80年代以降、最近に至るまで、一貫して金融仲介機関を通じるものが中心となっており、国内非金融部門による直接運用・調達の占める割合は小さい。ただし、そうした中にあって、金融仲介構造の内容には明らかに変化がみられる。

 すなわち、80年代は、金融資産残高のシェアが最大の預金取扱機関では、ノンバンク(ファイナンス会社)向け貸出を通じた資金供給を含めると、活発な金融仲介の動きを示していた。また、金融仲介機関を民間部門と公的部門に分けると、民間部門を中心に活発な仲介活動が行われていた。

 一方、90年代に入ると、預金取扱機関において、郵便貯金への資金流入が相対的に拡大する一方で、民間の預金取扱機関の資金運用(フロー)は貸出中心に低下している。また、保険・年金基金(簡易保険等)やその他金融仲介機関(公的金融機関)でも、公的な金融機関が金融資産残高のシェアを高めていた。すなわち、金融仲介機関を通じた資金の流れにおいて、80年代の民間部門から90年代には公的部門へのシフトがみられていた。

 その後、2000年度頃から2003年度にかけては、郵便貯金への流入が減少していることや、財政融資資金が縮小していることを背景に、公的な金融部門のウェイトはやや低下している。こうした中で、国内非金融部門の資金調達は、前述のとおり引き続き公的部門が中心となっているが、その仲介ルートについては、公的な金融機関を通じた資金の流れが減少する一方で、民間金融機関による運用先において、民間非金融法人企業向け貸出等から国債等による政府部門向け信用供与へのシフトが強まっている。