test
 

海外レポート「中国における金融制度改革の現状と今後の課題」

2002年 3月13日
日本銀行情報サービス局


(日本銀行から)

 広報誌『にちぎんクオータリー2001年夏季号( 6月25日発刊)』に掲載されました。


小林一夫(日本銀行香港事務所次長)


はじめに

 中国は今、社会主義市場経済建設のため、国有企業改革、金融制度改革、行政機構改革などの経済改革を進めています。このうち、金融制度改革については、とくに1994年以降、国有商業銀行の自主経営権・自己責任原則の強化、中央銀行の機能強化など、かなりの進展が見られました(図表1)。しかし、経済のグローバル化や世界貿易機関(WTO)への加盟を展望すると、国有商業銀行の不良債権処理、金融・資本市場の整備・育成など、さらに取り組むべき課題も残されています。

 本稿では、中国の金融制度改革の現状を主要テーマごとに紹介したのち、今後の課題について述べることとします。



(図表1)中国における金融制度改革の歩み



金融制度改革の現状

(1)国有商業銀行の改革

 四大国有商業銀行(中国、中国工商、中国農業、中国建設)は、かつて国家専業銀行と呼ばれ、政策金融(地域・産業振興など国策上の必要性に基づいて行う融資)と商業金融を兼営し、国営企業(現在の国有企業)向け資金供給を一手に引き受けていましたが、貸手・借手ともに事実上国家の一部門と考えられていたこともあって、十分な審査・管理は行われていませんでした。このため、民営企業や外資企業との競争激化により国営企業の業績が悪化する中で、国営企業に損益自己負担原則が適用されるようになると、国家専業銀行は大量の国営企業向け不良債権を抱えることになったのです。失業者増を恐れる地方政府などが業績不振企業に対する融資を銀行に強要したことも、事態を悪化させる一因となりました。

 これに対し、まず1994年、国家専業銀行から政策金融を分離し、国有商業銀行化する措置が採られました(政策金融は、新たに設立された政策銀行が担当)。これは、銀行の自主経営権を強化して地方政府などとのしがらみを断つとともに、自己責任原則の徹底により融資規律を高めることを狙ったものです。

 また、既存の不良債権対策としては、公的資金の注入(2,700億元<=約 4兆円>、1998年)および不良債権の一部移管( 1兆4,000億元<=約21兆円>、1999年)が行われました。このうち、後者は、商業銀行法施行(1995年 7月)以前に実行された貸出で不良化したものを、各国有商業銀行ごとに設立された資産管理会社(AMC)に簿価で売却するものです。AMCの資本金は財政が負担し、債権買取資金は中央銀行と国有商業銀行から調達していることを考えると、国有部門間での不良債権付替えに過ぎないとの見方もできますが、不良債権を銀行から切り離しAMCに移管することで、長年にわたる銀行と国有企業のぬるま湯的な関係を清算し、債権回収や企業再建を強力に推進しやすくなる効果があると期待されています。なお、この売却により、国有商業銀行の不良債権比率は約10%ポイント低下しました。

(2)中央銀行制度の確立

 社会主義市場経済体制の下では、計画経済体制の場合と異なり、財政・金融政策によってマクロ経済コントロールを行うことが必要となります。しかし、ケ小平南巡講話(1992年)以降の景気拡大局面では、中央銀行である中国人民銀行(人民銀行)が引き締め政策を採ろうとしても、地方政府がこれに従わず人民銀行支店に資金供給を強要した結果、政策効果が上がらないという問題が生じました。このため、1995年に、人民銀行の地方政府などからの独立および財政ファイナンスの禁止などを定めた人民銀行法が制定されました。また、地方政府の干渉排除をより実効あるものとするため、従来各省に設けていた人民銀行の省級支店を廃止し、代わりに数省に跨る広域支店を設ける、といった機構改革(1999年)も行われました。

(3)金融・資本市場の整備

 改革・開放(1978年〜)以前の中国には、金融市場は存在しませんでしたが、1980年代に入ると一部の都市でコール取引や国債の流通が始まり、1990年には上海に、91年は深<シンセン>に証券取引所が開設されました。1994年には、外国為替二重レートの市場レートへの統一化、管理フロート制採用(ただし変動幅は極めて小さく、事実上米ドル・ペッグ)、および全国統一的な銀行間外為市場の創設が実施されたほか、1996年には全国統一コール市場が誕生しています。今後、これら全国統一市場は、資金偏在の解消、指標となるレートの形成、中央の政策が全国に波及する経路の確保といった機能を発揮することが期待されています。

(4)金融機関の多様化

 改革・開放の初期には、中央銀行と国家専業銀行以外には銀行は存在しませんでしたが、1987年に初の株式制銀行として交通銀行が創設されたのを皮切りに、株式制銀行が相次いで設立されたほか、外資系銀行の営業拠点も増加しています。政策金融については、前記の通り、国家専業銀行から分離する形で、政策銀行 3行(国家開発銀行、中国輸出入銀行、中国農業発展銀行)が設立されました(1994年)。

 また、信託投資会社、ファイナンス・カンパニー、リース会社などのノンバンクも急増するなど、商業金融の担い手は多様化しています。もっとも、ノンバンクについては、やや乱立気味となり一部で投機や違法行為などの問題を招いたことがあったほか、近年は地方政府が出資した国際投資信託公司(ITIC)が清算や債務不履行に陥り、国外の債権者が損害を被るケースも発生しています。このような状況を踏まえ、人民銀行では、現在ITICを中心とするノンバンクの整理・統合を推進しています。



今後の課題

 こうした現状を踏まえた上で、今後の主な課題を探ると、第一に、国有商業銀行改革をさらに推進し、株式制銀行や外資系金融機関と対等に競争できる健全で効率的な銀行とすること、第二に、透明性、流動性が高くストレスにも強い金融・資本市場を整備・育成すること、を挙げることができるでしょう。

 国有商業銀行の改革が重要なのは、現在でもなお国内銀行資産の 6割超を占め、金融仲介の中心となっているからです(図表2)。改革のポイントとしては、不良債権の処理と、銀行自身の競争力向上の 2点に要約できるでしょう。とくに前者に関しては、今後AMCによる債権回収が実際に進むか、債権を株式に転換する場合に株主となるAMCは国有企業のコーポレートガバナンスを適切に改善し再建に結び付けることができるか、回収・再建が難しいと判断した場合速やかに見切りをつけ損失額および最終負担者を確定することができるか、などが問題となるでしょう。また、不良債権売却にもかかわらず、国有商業銀行の不良債権比率はなお25%程度と高い水準にあることから、その処理をいかに進めるかも重要な課題です。なお、不良債権問題は、借手である国有企業改革の行方に影響される面が大きいことにも留意する必要があるでしょう。

 金融・資本市場の整備に関しては、法制度、会計制度、決済システムといったインフラ整備を進めるとともに、指標金利が形成される中核市場として、安全資産である国債の発行・流通市場を育成することが重要です。また、現状すでに時価総額で香港と並ぶ規模にまで成長した株式市場についても、間接金融偏重を改めリスク・マネーを供給するルートを拡大するという観点から、より透明で厚みのある市場に育てていくことが必要でしょう。



(図表2)業態別の資産シェア(1999年末)
(注) その他ノンバンクには、農村信用合作社、都市信用合作社、信託投資会社、財務会社を含み、保険会社、証券会社を除く。



おわりに

 多くのアジア諸国が、アジア通貨危機に巻き込まれて金融システムのほころびを露呈したのに対し、中国はこれまでのところ、厳格な為替管理制度により外からのショックを遮断しつつ、着実に国内の金融制度改革を進めているように見受けられます。もっとも、WTO加盟後には国内金融業務の自由化が控え、さらに資本自由化を求める圧力も高まってくることを展望すると、手を緩めることなく、金融制度改革を速やかに進める必要があると思われます。


このページの先頭へ

test