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インタビュー「『ペイオフの解禁』について」

2002年 4月10日
日本銀行情報サービス局


(日本銀行から)

 このインタビューは 2月19日に行われ、広報誌『にちぎんクオータリー2002年春季号( 3月25日発刊) 』に掲載されました。


秋元 和夫(金融広報中央委員会事務局次長<日本銀行情報サービス局金融情報課長>)


「ペイオフの解禁」が実施されると・・・

──  このところ、「『ペイオフの解禁』が実施されると・・・」といった記事やコラム、ニュース解説をよく見聞きします。そこで本日は、金融に関する消費者教育の観点から広く一般の方々を対象にした金融経済の広報活動に取り組んでおられる、金融広報中央委員会(事務局日本銀行情報サービス局内)の秋元さんに、主に預金者の立場からいろいろとお話を伺っていきたいと思います。

 初歩的な質問にはなりますが、まず「ペイオフ」という言葉の意味を教えて頂けますか。

 「ペイオフ」とは、もともと英語の「pay off」(「清算する、完済する」の意)からきた言葉ですが、わが国では、現在 2つの意味で使われています。 1つ目は、銀行等(預金を受け入れている金融機関)が破綻した場合、預金者に保険金を直接支払う、という意味で使われており、預金者保護の 1つの方法を示しています。 2つ目は、金融機関が破綻した時に預金等の一定額を保護する、というやや広い意味で使われています。例えば「ペイオフの解禁」とか「ペイオフの凍結解除」と言えば、金融機関が破綻した場合に、これまで全額保護されてきた預金等が、今後は必ずしも全額は保護されなくなる(定額保護)、ということを意味しています。

──  そうした「ペイオフ」の内容について、預金者には十分理解されているのでしょうか。

 私ども金融広報中央委員会が昨年 8〜 9月に行った調査では、「ペイオフ」という言葉を「聞いたことがない」との回答が全体の29.7%、「聞いたことはあるが、内容は知らない」との回答が37.1%もありました(図表1)。この結果から見る限り、ペイオフについて十分理解されているとは言い難いように思います。

 ただ、こうした中で、私どもも様々なチャンネルを通じて、「ペイオフの解禁」をテーマとした積極的な広報活動に取り組んでいます。最近では、私どものパンフレットの入手希望やホームページへのアクセス件数が急増したり、講演会等には定員を大きく超える参加希望が寄せられたりと、このテーマへの関心が急速に高まってきている様子が窺われ、広報活動の成果も徐々に現れてきているように思います。また、一般の方々から寄せられる質問にも、このところ具体的、実践的なものが増えており、一頃に比べて理解が着実に深まってきているように感じます。

(図表1)ペイオフに関するアンケート結果

問 以下の(1)〜(10)に挙げた言葉について、あなたにとってもっともあてはまると思われる番号に○をつけて下さい(○はそれぞれ 1つ)。

(図表1)ペイオフに関するアンケート結果

(注)本調査は、金融広報中央委員会(事務局 日本銀行情報サービス局内)が、全国の20歳以上の男女個人4,000人を対象に、平成13年8月31日〜9月10日の時期に実施しました(回収率は66.0%<2,638人>)。

(資料)金融広報中央委員会(事務局 日本銀行情報サービス局内)「金融に関する消費者アンケート調査」(平成13年)


預金保険制度について

──  私たちの預金は、そもそもどのような制度によって守られているのですか。

 私たちの預金は、「預金保険制度」によって守られています。これは金融機関が破綻した時に、預金者を保護し、金融システム全体が不安定にならないようにするための制度です。この制度は、「預金保険機構」によって運営されています。預金保険機構は、昭和46年に制定された預金保険法に基づいて、政府、日本銀行、民間金融機関の出資により設立されました。

 預金保険制度には、日本国内に本店を置くすべての預金取り扱い金融機関が加入しています(図表2)。金融機関は、それぞれ保有する預金残高に応じて、毎年保険料を支払います。預金保険制度では、この保険料を基金とし、万一の場合に預金等を払い戻す時の資金にするのです。預金者からは保険料を徴収していませんので、預金者には自分が預金保険に加入しているという自覚はないと思います。しかし、預金等をした時点で、預金者は自動的に保険へ加入する仕組みとなっています。

 なお、日本国内に本店のある金融機関であっても、海外支店で受け入れた預金は保険の対象になりません。また、日本に本店のない外国の銀行の在日支店は、この制度に加入していません。


(図表2)預金保険制度に加入している金融機関


──  農協や漁協等も、預金保険制度に加入しているのですか。

 農協(農業協同組合)や漁協(漁業協同組合)は、預金保険制度には加入していませんが、「農水産業協同組合貯金保険制度」という、預金保険制度とほぼ同様の制度に加入しています。

 また、証券会社、生命保険会社や損害保険会社には、それぞれ投資者保護基金、保険契約者保護機構という仕組みがあります。

 日本版金融ビッグバン以降、様々な金融商品が登場してきていますので、それぞれの商品内容に合わせ、保護制度を理解しておかれるとよいでしょう。


ペイオフ解禁後、預金等はどこまで保護される?

──  ペイオフが解禁されると、私たちの預金はどうなりますか。

 ペイオフ解禁後に金融機関が破綻した場合、そこに預け入れていたお金のうち、 1金融機関ごとに、預金者 1人当たり 1千万円までの元本とその利息の合計額が保護されます。これが、最初に述べた「定額保護」というわけです。

 保護される預金等の種類は、図表3にあるものになります。このうち、普通預金や当座預金などの決済性の預金については、金額の多寡にかかわらず、ペイオフ解禁後の最初の 1年間、すなわち、平成15年 3月末までは別枠で全額保護されることになっています。

(図表3)預金保険制度の対象となる預金


──  預金等のうち、 1千万円を超える元本とその利息は、まったく保護されないのですか。

 それはまったくの誤解です。元本の 1千万円を超える部分とその利息については、破綻した金融機関の財産がどの程度残っているかに応じて、払い戻しが行われます。したがって、定額保護といっても、その金額を超える部分が一切戻らないということではありません。より正確には、「預金等の一部がカットされることもあり得る」と考えればよいでしょう。

 さて、破綻した金融機関の預金者は、倒産した事業会社の債権者と同様に、本来でしたら倒産手続きに参加することとなりますが、預金保険制度のもとでは、こうした手続きすべてを預金保険機構が預金者に代わって行います。したがって、個々の預金者はわずらわしい手続きを自ら行う必要はありません。また、破産手続きは大変時間のかかるものですが、その終了を待つことなく預金等の払い戻しを進めることができるように配慮されていて、保護の上限を超える部分について概算払いを行う制度も用意されています。

 なお、最近身近になった外貨預金は預金保険の保護の対象ではありません。しかし、その払い戻しに関しては、概算払いが行われるといった例外的な扱いもありますので、併せて覚えておかれるとよいでしょう。

──  預金保険機構が、私たち預金者に代わって手続きをしてくれるのは、心強いですね。その具体的な流れについてお聞かせ下さい。

 預金保険機構は、破綻した金融機関がどのくらい財産を残しているかをチェックすることになります。そして、その財産に応じて払い戻せる預金の大体の割合を決めて、預金者 1人 1人に払い戻すわけです(このように概算で払い戻すので、「概算払い」と言います)。

 そして、破綻した金融機関の資産の回収がいよいよ終了し、債権者への返済が行われ、預金保険機構にも一部が戻ってきたとしましょう。預金保険機構は、回収した額から回収に要した費用を差し引いた額が、概算払いした額をなお上回っている場合には、個々の預金者に精算払いとして再配分します。


保護された預金はすぐに引き出せるのか?

──  金融機関の破綻後、保護対象の預金等はすぐに引き出しができるのですか。

 金融機関が破綻した場合、保護対象の預金等の払い戻しに応じるには、個々の預金者が破綻した金融機関に複数の預金口座を持っている場合もありますので、それらを名寄せし集計して、預金者 1人 1人の預金等の金額を確定することが必要です。そのうち、保護の対象になる預金はどのくらいあるか、借入金の担保となっているものはどれか、などについても固めていかなければなりません。預金者が、破綻した金融機関からすぐに預金等の引き出しができるかどうかは、まさにこうした作業が迅速に行われるかどうかにかかっています。各金融機関では、日頃から、そのために必要な預金者に関するデータベースやシステムの整備を進めています。

 しかし、預金者への預金等の払い戻しに時間がかかると見込まれる場合には、普通預金残高に応じて 1口座につき60万円までを支払うことができる、仮払い制度も用意されています。仮払いが行われるかどうかは、金融機関が破綻してから 1週間以内に決定され、実施の詳細は新聞などに掲載されることとなっていますので、万一の場合には、こうした点にも注意を払っておかれるとよいでしょう。

──  「名寄せ」に関連して、預金者として留意しておかなければならない点がありましたら、教えて下さい。

 金融機関が破綻した場合、預金保険機構はそこからデータの提供を受け、預金者の名寄せ等の作業を行います。そのため、各金融機関は、預金者データを日頃から整備することが義務づけられています。

 皆さんの中に、最近、取引のある金融機関から預金等について質問をされたことがある、という方がおられましたら、それはこうしたデータの整備のためだったのかもしれません。金融機関の窓口では、預金口座を開設する際に本人確認をするのが一般的ですが、本人確認が義務づけられる以前に開設した預金口座に関しては、正確な情報を改めて確認する必要が出てきたということでしょう。

 預金口座を開設してから、引越しされたり、改姓されたりした方は、金融機関に対してきちんと届け出ておくことが大切です。預金保険機構からの通知は届け出のある住所に送付されますし、届け出がなかったために本人確認に手間取ることになれば、払い戻しが円滑に受けられないおそれがあるからです。

 なお、当然のことですが、架空名義や無記名の預金等は保護されません。

──  先ほど、預金等が借入金の担保に入っているかどうかもチェックするとのお話でしたが、どうしてですか。

 それは、破綻した金融機関に 1千万円を超える預金等を持つ預金者に関しては、借入金の担保になっていない預金等を優先的に積み上げて、保護対象の元本 1千万円を確定することになるためです。

 因みに、それ以下の優先順位としては、満期までの期間が短いもの、満期が同一の場合は利率の低いものなどとなっています。ただし、普通預金や当座預金などの決済性の預金については、平成15年 3月末まで全額保護されることになっておりますので、この 1年は、ここでいう優先順位とは別扱いにされています。

──  ところで、預金者には、個人だけでなく、法人も含まれますか。

 そのとおりです。法人も 1預金者として元本 1千万円までとその利息について、預金保険の保護を受けられます。法人の場合、預金者の名義が社長だったり、取締役だったり、支店名だったりすることがありますが、すべて 1法人の預金として名寄せされます。

これまで利用していたサービスは継続されるのか?

──  金融機関が破綻した場合、公共料金の自動引き落しなど預金口座に設定されたサービスは、利用できなくなってしまうのですか。

 それは、破綻した金融機関がどう処理されるかによって異なってきます。

 金融機関が破綻すると、(1)預金保険機構が、破綻した金融機関の預金者に保険金を直接支払う(ペイオフ方式)、あるいは(2)破綻した金融機関の営業を預金等と一緒に健全な金融機関に譲り渡す(資金援助方式=営業を引き継ぐ金融機関に預金保険機構が資金を援助する)、のいずれかの方法により処理します。

 この 2つの方式のいずれが採られても、最終的に預金者に払い戻される預金等の金額は変わりありません。しかし、お尋ねのような個人の公共料金の口座引き落しや給与振込などのサービスは、いずれの方式を採るかによって取り扱いが異なってきます。(1)の方式の場合には、破綻した金融機関が機能を停止し、清算されるため、そうしたサービスは行われなくなりますが、(2)の方式の場合には、預金とともに、そうしたサービスも別の金融機関に引き継がれるため、引き続き利用できることになっています。

 このように、(1)と(2)の方式を比べてみると、(2)の資金援助方式の方が、預金者にとっても、金融システム全体にとってもメリットが大きいと見られるため、金融機関の破綻処理の方法としては、おそらくそれが主流になるであろうと言われています。

 ところで、資金援助方式を採ろうとしても、営業を引き継ぐ金融機関がすぐに見つかるとは限りません。その場合には、預金保険機構がブリッジバンク(承継銀行)を設立して、そこに預金等を引き継ぎ、業務を続けながら、最終的な引き継ぎ先を探すことになります。

 さらに、危機的な事態と判断される場合には、預金保険機構による金融機関の株式の引き受けや特別な資金援助、あるいは国有化などの方法により、対応することも想定されています。


ペイオフ解禁はなぜ必要か

──  預金者の中には、「ペイオフ解禁は取り止めて、今後も預金を全額保護して欲しい」といった意見も聞かれるようですが、秋元さんはどのようにお考えですか。

 金融広報中央委員会に寄せられるご意見の中にも、確かに、ペイオフ解禁について否定的な声が少なくありません。わが国では、昭和初期の金融恐慌以来、長きにわたり銀行不倒神話が語られてきたように、金融機関が破綻するということ自体がまずは想定されにくかったわけですし、預金等も、元本が保証された金融商品と考えられてきたわけです。こうした状況から、私たち預金者は、金融機関、預金等の持つリスクというものにあまり馴染みはありませんでした。

 しかし、金融の世界にも市場原理、競争原理が漸く働くようになり、金融機関の不倒神話が崩壊し、またこの結果、リスクが現実のものになって、預金者のリスクに対する意識は一頃に比べるとかなり高まってきた感があります。こうした中で、破綻した金融機関の預金等を全額保護することは、その金融機関の損失を国がカバーするということですし、私たちが納めた税金がそこに投入されるということにもなります。したがって、預金者としても、そうした対応にいつまでも頼ってばかりいることは決して望ましいことではなく、そろそろ見直す時期にきたというわけです。

 ペイオフ解禁の基本的な考え方は、「破綻した金融機関の預金者を納税者全体で保護していくのはもう止めて、これからは、預金保険制度のもとで積み立てられた基金を使って預金者を保護することにしましょう」ということです。預金者の中には、ペイオフ解禁に伴って、これまで未経験の対応が新たに求められることを負担に感じる方もおられるでしょう。しかし、このような時代の大きな転換や制度の大幅な変更等に際しては、それを真正面から受け止めて、これからの暮らしにしっかり活かしていくことこそが、むしろ大切なのではないかと思います。


よくある疑問・質問(1)
 ――「名寄せ」について

──  先ほど預金者としての法人の取り扱いについて伺いましたが、預金者ごとに名寄せをして預金の金額を確定する際に、 1預金者と見なされるのはどのような場合か、詳しく教えて下さい。

 その点については、皆さんの関心がかなり高いようですね。実際に預金者が同一人と見なされるかどうかについては個別に判断されることになりますが、以下、具体例をいくつか挙げてご説明しましょう。

 (1) 1つの金融機関の複数の支店に預金している場合には、同一の預金者による預金として取り扱われます。また、普通預金・定期預金など複数の種類の預金をしていれば、これも同一預金者の預金として扱われます。

 (2) 夫婦・親子など家族の預金については、名義が別であれば、別々の預金者として取り扱われます。とはいえ、家族の名義を借りたに過ぎない他人名義と認定された場合には、同一の預金者として取り扱われてしまうことになりますし、収入のない子供などが何の理由もなく多額の預金を保有していると見なされれば、贈与と判断されることもあるでしょう(預金保険の話ではなく、税の問題になってきます)。

 (3) 町内会や商工会議所のように、団体に法人格がある場合には、 1預金者として認定されます。これは、企業の場合でも同じで、株式会社や有限会社のように法人となっている場合には、 1預金者となります。

 (4) マンションの管理組合のように、複数の人が集まってつくった団体のうち、規約等の運営方法が定められていて法人等と見なし得る要件を備えているものは、 1預金者として認定されます。

 (5) 一方、法人等と見なし得る要件を備えていない団体、例えば趣味の会など、あるいは修学旅行の積立金やこども銀行の預金等は、たとえ代表者名義となっていても、構成員それぞれのものと見なされて、その金融機関に各個人が持つ他の預金等と名寄せされます。

 (6) 1人の預金者が、自分名義の預金のほかに、会社の社長として、町内会の会計として、あるいはマンション管理組合の組合長として、それぞれの預金の名義人になっている場合もあります。これらは、それぞれの組織・団体の預金等として、個人名義の預金とは別に計算されます。

 一方、個人事業主については、事業に関して法人となっていないことが多いですが、その場合、個人用と事業用とで名義を別にしていても 1預金者と見なされますので、注意が必要です。

 (7) 地方公共団体は、法律により法人格が与えられていますし、平成12年 5月の法改正によって保護の対象になりました。ただし、警察署、消防署、学校のほか、水道、ガスといった地方公共団体に属する機関の預金等に関しては、その地方公共団体の預金等として名寄せされます。他方、土地開発公社などの別法人は、名寄せされません。

──  最近、銀行同士の合併などが相次いでいますが、こうした場合も預金は名寄せされるのですか。

 金融機関の合併や統合の動きには、複数の金融機関が合併して完全に 1つになる場合と、持株会社を設立して、別々の金融機関としてその持株会社の傘下に入る場合があります。

 このうち、複数の金融機関が合併して 1つになった場合には、合併前にそれぞれ別々に預け入れていた預金等であったとしても、名寄せにより合算されます。これに対し、持株会社を設立する場合には、傘下の複数の金融子会社が別法人の形態を採用していれば、それぞれの金融機関に預け入れられた預金等が、名寄せされ合算されることはありません。


よくある疑問・質問(2)
 ―― 借入金の扱いについて

──  破綻した金融機関に住宅ローンがある場合、それは一体どうなるのでしょうか。

 住宅ローンに限らず、金融機関からの借り入れは、金融機関が破綻してもそのまま残りますので、返済の義務に変わりはありません。むしろ、破綻した金融機関の資産をできるだけ回収する必要があることを考えれば、優良債権と見なされる限り、完済が求められることになるでしょう。また、場合によっては、預金とともに健全な金融機関に引き継がれることもあるでしょう。

 ここでの気掛かりは、金融機関が破綻した時点で、そこからの借入金は直ちに全額返済するよう求められるのではないか、という点にあろうかと思いますが、その心配はまずありません。むしろ、そうした借り入れに関しては、預金等と相殺できる場合もあることを、知っておかれた方がよいでしょう。

──  それでは、破綻した金融機関から借入金があって、なおかつ、同じ金融機関に預金もしていた場合、どうなるのでしょうか。預金は、強制的に借入金の返済に充てられてしまうのではないかと思っていましたが・・・。

 1つの金融機関に預金もしているが借入金もあるという場合、預金者とその金融機関は、債権債務関係にあると言います。そのケースにおいて、その金融機関が破綻した場合、双方が互いの債権(貸し)と債務(借り)を差し引きする(相殺する)ことができる場合があります。

 この預金と借入金の相殺を行うには、これを希望する預金者が、破綻した金融機関に自ら申し込むことが必要です。破綻した金融機関が自動的に手続きを行ったり、また、預金者が希望していないのに相殺したりすることはありません。申し込む場合には、預金通帳などを添えて書類で行うことになりますが、その際、どの預金をいくら相殺するかについて選択することができます。

 もしも預金が、普通預金など満期のないものであれば、その金融機関に対し、借入金との相殺を申し込むことができます。これに対して、預金が定期預金など満期があるものであった場合には、相殺できるかどうかは、金融機関によって異なります。定期預金により相殺するには、その金融機関の預金規定に相殺できる旨の条項が定められていることが前提となるからです。相殺が可能な預金規定の一例としては、「預金者は、金融機関が破綻した時、満期未到来でもその預金を借り入れ等の債務と相殺できる」が挙げられます。

 仮に、いま預金が 2千万円、借入金が 1千万円あったとしましょう。もしもこれを相殺しないとすれば、保護される預金は 1千万円となり、残りの 1千万円は破綻した金融機関の残余財産に応じて払い戻されるという扱いになります。一方で、その場合には 1千万円の借入金はそのまま残ります。しかし、相殺すれば、 1千万円の借入金の返済を行ったうえ、残った 1千万円の預金すべてについて、払い戻しが受けられます。このように、預金のうち少なくとも元本 1千万円を超える部分について借入金と相殺すれば、当初の預金はカットされずに、全額を使えるようになるわけです。


自己責任が求められる時代へ

──  預金保険制度についてわかってくると、預金等の金額が 1千万円に満たず、すべて保護対象に入っている場合には、あまり心配ないようにも思えてきますが・・・。

 確かに、預金等の残高が預金保護の範囲内である人や、借入金と相殺すればその範囲内に収まる人などは、そう思われるかもしれませんし、それも間違いとは言えないでしょう。

 しかし、私たちは人生の節目において、退職金や保険金、不動産の売却代金など、多額のお金を手にすることもあり得ます。ひょっとしたら、宝くじの高額賞金が当たるかもしれません。そうでなくとも、持ち回りなどにより、マンション等の管理組合の役員や町内会などの会計担当に就任することもあり得ると思います。その場合には、マンションの修繕積立金や町内会の運営資金として、数千万から億単位の預金等を管理しなければならなくなることもあるでしょう。そんな時に備えて、預金者保護の仕組みなどに関しては、日頃から理解を深めておくことはとても大切に思います。

 また、これまでご説明してきたように、預金の多寡にかかわらず、自分の資産(預金等)、負債(借り入れ等)について、それぞれの構成等を日頃からしっかりと覚えておくことも重要です。これまで見過ごしがちであった金融機関の預金規定や借り入れ約定等に関しても、面倒臭がらずによく読み込んで、内容を把握しておくことをお薦めします。もちろん、改姓や住所変更等の手続きも忘れてはいけません。このように、資産、負債をしっかり管理しておけば、万一取り引きしている金融機関が破綻するといった事態に見舞われても、きっと慌てふためくことなく、冷静に対応できると思います。

──  金融商品や金融機関の選択に当たり、預金者の心構えとして大切なことは何ですか。

 ペイオフ解禁を控え、制度等についてと同じくらい多く寄せられる質問に、「どの金融商品、どこの金融機関が一番安全か」とか、「〇×銀行は大丈夫か」といったものがあります。

 もちろん私どもの立場から、個別の金融商品や金融機関について、そのような質問にお答えすることはできません。しかし、ペイオフ解禁が 1つの大きな契機となって、預金者にも自己責任がこれまで以上に強く求められると見込まれますので、私からはそうした質問への答えに代えて、自己責任を適切に果たしていくための 3つの心構えをお話しすることにしています。第 1は、日頃から、金融機関の経営の健全性に関心を振り向けて、リスクの所在などに対するしっかりとした認識を持つこと、第 2は、情報は自分の脚で集め、わからないこと、納得できないことは、臆せずとことん質していくこと、第 3は、他人を頼らず、必ず自分で判断することであり、これらは是非とも今日から実践して頂きたいと思っています。

 一方で、金融機関におかれては、経営の健全化に一層努めていくとともに、正確でさらにわかりやすい情報をより積極的に発信、提供されるよう、大いに期待しております。

 ―― 本日は有難うございました。(聴き手 丑山)



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