test
 

座談会「銀行ビジネスの現状と将来展望」

2004年 7月30日
日本銀行情報サービス局


(日本銀行から)

 この座談会は 5月11日に行われ、広報誌『にちぎんクオータリー2004年夏季号( 6月25日発刊)』に掲載されました。
 本資料の無断転載を禁じます。転載にあたっては日本銀行情報サービス局までご連絡下さい。


出席者
北山禎介(三井住友フィナンシャルグループ 副社長執行役員)
冨山和彦(産業再生機構 代表取締役専務)
タッド・バッジ(東京スター銀行 代表執行役頭取)
(五十音順、敬称略)
稲葉延雄(日本銀行 理事<司会>)


不良債権問題の現状

稲葉
 本日は「金融機関の将来像」というテーマで皆様方にご議論頂きたいと思います。

 初めに、将来像を議論していく前提として、日本の金融システムが抱えている大きな課題である不良債権問題の克服の手応えみたいなところから、お話を伺いたいと思います。

北山
 当行は、合併してちょうど3年経ったところです。合併当初に経営課題として大きく三つ掲げており、そのうち二つは、バランスシート問題で、具体的には不良債権と株式リスクの削減、三つ目は収益力の強化です。

 不良債権の削減については、合併以前から取り組んできていましたが、合併以降も一層の対応強化に努め、「平成17年3月末までに不良債権比率を平成14年3月末対比で半減する」という政府の方針に沿って、それを前倒しで達成すべく処理を進めてきています。

 この結果、当行の不良債権比率は、8.9%(平成14年3月末)から6.4%(平成15年9月末時点)にまで低下しており、この3月末時点では、さらに大きく削減されております(16年3月末の実績は5.0%〈5月24日に公表〉)。政府の半減数値目標に関して言えば、この上期のうちに達成したうえで、さらなる削減を目指していくべく、様々な手法を駆使して対応を進めている状況です。

バッジ
 当行では、旧東京相和銀行から債権を譲り受けた時点で不良債権をかなり処理しましたが、それでも当初、不良債権比率がピークで17%程度ありました。それが15年度は初めて一桁台の水準にまで低下しており、かなり改善されてきています。先行きについても、景気が回復してきているうえ、不良債権の回収体制も強化していることから、さらなる改善が期待できると思います。因みに、当行では、不良債権の削減に当たっては、債権売却、オフバランス化という対応よりも、むしろ当行自身による回収に力を注いでいます。

冨山
 不良債権問題には、「資産(不動産)価値の毀損」に起因する部分と、「事業の失敗」に起因する部分があると思います。現在、前者に起因する不良債権問題については既に峠を越し、過去の問題となりつつあります。銀行もこれまでにかなり処理を進めてきているほか、不良債権の売買もどんどん行われているなど、市場の解決能力も非常に高くなっています。

 ところが、「事業の失敗」に起因する不良債権問題については、必ずしも市場を通じた効率的な処理が進んでいるとは言えません。「事業の失敗」に起因する案件というのは、良い事業と悪い事業が混在しているうえ、さらにそこに多くの銀行が関係していて、とかく話がややこしい場合が殆どです。加えて、政府系の金融機関が関係していると、債権放棄が難しいため、本来、もっとスムーズに処理できる問題が、障害だらけで動かない。その結果として淘汰もされなければ、再生もしないという状態で塩漬けになり、立ち腐れていくという現象がまだまだみられます。こうした市場の機能不全が目下の最大の問題です。

北山
 当行でも、冨山さんがおっしゃる「事業の失敗」に起因して問題化している、要管理先や要注意先企業の再生をどのように進めていくかという点について、かなり力を注いできています。自力再生が可能な企業に関しては、当行としてできる限りのお手伝いをさせて頂いています。

バッジ
 当行では、従来、企業再生の案件も、他の融資案件と同じ営業部門が対応していました。しかしながら、各々の案件は状況が全く違ううえ、求められる知識も違うため、両者を明確に分けて、新たに企業再生部門をつくりました。

 こうした中で、出てきたのがDIPファイナンス(注1)です。これは必ずしも将来的に拡大させていこうとしている商品ではありませんが、現在のところ、お客さんにそういったニーズがあるため、DIPファイナンスを商品化していくことにしました。企業再生のポイントは、知識のある人材を集め、顧客別に戦略を立てることです。

(注1)  DIPファイナンス(Debtor In Possession Finance)とは、再生型の法的処理(会社更生法や民事再生法等)の申し立てを行った企業に対して、営業の継続に必要とされる当面の運転資金を融資すること。


収益力の強化に向けて

稲葉
 金融界は、これまで長いトンネルを通ってきましたが、いよいよ将来に向けて大きく前進していくことを考えていくべき時期にきていると思います。預金者は、金融機関に対して、預金を預けるに足る信頼のおける経営体であって欲しいと思っています。そのためには健全さを維持しつつ、相応の収益を上げる必要がある訳で、金融機関にとって、収益力の強化が喫緊の課題であると思いますが、いかがでしょうか。

北山
 中間決算の発表後、海外向けIR活動の一環として、ヨーロッパとアメリカの機関投資家にお会いする機会がありました。その際に印象的だったのは、不良債権問題に関する質問の比率が大きく下がり、収益力強化のための戦略や他行との差別化戦略に関する質問が圧倒的に増えてきたことです。これは国内でのアナリスト向け説明会でも同様です。

 こうした中で、当行では、五つの収益力強化策を掲げています。一つ目は、多様化する個人の資産運用ニーズに合わせて、投信や年金保険の販売などを強化していくこと、二つ目が住宅ローンの強化、三つ目が中小企業金融の強化、四つ目が大企業・中堅企業向け市場型間接金融の強化、最後がホールセール対応の投資銀行業務の強化です。この五つの柱を強化していくべく、現在様々な取り組みを進めています。

稲葉
 日本の金融機関を巡る競争環境は極めて厳しいとか、日本はオーバーバンキングだと言われる一方で、金融機関のサービスは必ずしも十分ではないという議論もあります。その辺りをどのようにお感じになっていますか。

バッジ
 東京スター銀行の営業を開始した時点で、様々なマーケット調査をしました。その際にお客様からは、銀行は店舗が多いだけで役に立っていないとの声をよく聞きました。オーバーバンキングではあっても、オーバーサティスファクションではないということだと思います。

 では、なぜ満足していないかというと、資産運用アドバイスへのニーズが十分に満たされていないためだと思います。単なる「お財布」としての役割だけであれば銀行でなくても、コンビニエンスストアのATMでも差し支えない訳です。銀行の存在価値、付加価値は、資産運用のアドバイザリー機能です。信頼できるアドバイザーとしての役割を上手く果たすことができれば成功できると思います。

冨山
 銀行は預金を預かって運用して収益を上げています。では、何で運用しているかと言えば、突き詰めていくと基本的には全て事業融資です。事業融資をやっていくためには、事業がどういう仕組みで儲かっていて、どういう仕組みで儲からなくなってしまうか、という事業そのものを見つめる鑑定力が必要とされます。こうした能力は、単にビジネス・スクールの本を読んだだけでは学べません。わが国では、金融機関で働いている一人ひとりの持つこうした能力が、ここ20年間ぐらいの間に非常に弱くなってしまったと感じています。バブルの前後あたりから10年間は不動産融資だけをやって、その後の10年間はその回収だけをやってきたためです。

 従って、今後、金融機関の収益力強化を図っていくためには、事業融資をやっていくためのこうした能力をいかに強化していくかが課題だと思います。もっとも、この点は、必ずしも悲観する必要はありません。現在の不良債権問題に対しては、まさに全ての若手・中堅行員が直面している訳ですから、そこで本当に汗をかいて対応に努めれば、20年間の空白というのは急速に埋まると思います。

 恐らく20年前までの日本には、事業融資の土台というものがしっかりあったはずです。その土台をもう一度築き直せれば、銀行の資産運用力は必ずや高まるし、健全な経営を維持しつつ高い収益性を確保していくことができると思います。

バッジ
 日本の製造業をみると、ワールドクラスの企業は、プロセス管理や品質管理が世界で一番だということで知られています。こうした企業と比較すると、銀行を含めたサービス業は少し遅れていると思います。銀行も、製造業と同じ視点でビジネスに取り組んでいく必要があります。

 そのために重要なことは、新商品開発からアフターケアに至るプロセス管理です。さらにプロセス管理をしっかりやっていくためには、優秀な人材と高度なITインフラがないと上手くいかないと思います。

北山
 タッドさんが言われたように、銀行に求められていることは、一般のメーカーやサービス業と同じことです。


企業と銀行との関係

稲葉
 ここで焦点を法人向けサービス、企業向け与信という分野に絞ってみたいと思います。

 日本の企業に対する信用供与は、今後、もう少し多様なルートができ、企業のニーズに即した信用がきちっと供給されるようになっていくと思います。その一方で、銀行としても、無尽蔵にリスクを抱えることはできません。企業のニーズと自らのリスク許容量を前提として銀行が果たすべき役割というものは、どのような姿になっていくと思われますか。

北山
 当行では、リスクに見合ったリターンを頂くことをベースに、お客様に納得が得られるプライシングを目的として、内部的に標準金利というものを設定しています。この標準金利の適用を2、3年前から注力してきております。お客様に対しては、なぜこの金利が適用されるのかということに加えて、「財務内容がこうなれば、こういう金利に変わります」といったことも含め、いろいろな形で十分に説明をしています。

 また、審査面でも標準金利をベースに色々と改革を進めてきております。例えば、こういう範囲の融資ならば支店長権限で認められるというように、従来型の本部審査を大幅に削減するなど、ローン・ポートフォリオに関するリスク管理手法がここ数年の間に随分変わってきています。

バッジ
 リスクに見合ったリターンを確保していくことが一番大事ですが、優秀な人材がいなければ、それを判断することはできません。特に中小企業の場合は、大企業と比べると判断するための財務情報が不足しているケースが殆どであるため、それでもリスクを見極められる優秀な人材をいかにして確保していくかがポイントです。

 また、商品としても単純な融資だけではなく、ノンリコースローンやシンジケートローンなどを提供していく必要があります。

冨山
 借り手の立場からみると、その企業のことを一番よく知っているのは取引銀行の担当者です。そうした場合、実は企業にとっては、株式による資金調達も、借入による資金調達も、全てその銀行にアレンジしてもらうのが最も効率的なのだと思います。

 法人向けサービスのあり方を議論する際に、日本の金融界では「借入と株式は全然別物で、銀行で一緒にやってはいけません」といった議論がなされていますが、こうした議論が本当に市場全体にとって望ましいことなのか疑問です。むしろ、それは法律上の弁済順位の面で、借入は優先債権、株式は劣後債権というに過ぎないのであって、調達する側からすれば両者を連続的なスペクトラムの下でとらえたいと思っているはずです。その点からすれば、両者に一生懸命に線を引くこと自体あまり意味がないような気がしています。

 銀行経営の将来像を考えていく際に、政府や金融界が「商業銀行」、「投資銀行」という枠組にこだわっていることも、マーケットニーズとの間で少なからずミスマッチが生じているような気がします。

北山
 もっとも、そうした金融制度に関する問題は、長い歴史の中で培われてきた企業と銀行との関係もあるため、一朝一夕で変えるにはなかなか難しい面もあります。例えば、借入と株式の関係についても、徐々に変わりつつあるかも知れませんが、かつて銀行が資本に近い性質の資金を貸出として供給し、企業を支えてきたという流れがあるのは事実です。

稲葉
 企業と銀行との間では、一層高度なリレーションシップが必要とされるようになっていると思います。いかに銀行にとって貸出が利益の本源だとはいっても、預金者、株主の信頼に応えていくためには、リスク管理をしっかりと行いつつビジネスを進めていく必要があります。

バッジ
 リレーションシップ・バンキングという表現が世間でよく使われていますが、当行では敢えてパートナーシップ・バンキングという表現を使っています。リレーションシップという表現には、単に関係があるから貸出をするという印象があります。パートナーシップにおいては、あくまで企業と銀行との関係は対等で、双方にメリットがあるのが基本です。つまりwin/winの関係を築くことが必要だと思いますし、そうでない取引ならばやらない方がよいと思います。

冨山
 企業を長期的に発展させようとする場合、ある種の経営上の緊張感が絶対に必要です。ところが日本では、この緊張感をつくりだす企業統治の仕組みが必ずしも十分に機能していないのが問題です。

 企業統治をしている側は、最終的に経営に介入することも覚悟しなければ企業統治はできません。いざとなったら即座に入っていって、経営にかかわるという最終手段を持っていないと、経営者は「外部の人間になど経営ができるものか」という気持ちを持ってしまいます。

 かつてメインバンク・システムが機能していた時代は、銀行がこうした役割を果たし、場合によっては、経営者を交代させていたのだと思います。しかし現在はこうした対応がなかなかできない時代です。かといって今の日本では、それを株主がやるかと言えば、そこまで株式市場が機能していないため、企業統治が空白の状態です。

 日本的な環境の中で、例えば、アメリカのように株主が明確に経営に介入していく姿が望ましいのか、むしろ日本のメインバンク・システムを基本にしつつこれを修正していくのが望ましいのか、あるいはその両方のコンビネーションが望ましいのか、今後、検討すべき大きな課題だと思います。日本の株主が、アメリカの株主のように企業経営に対して強い関心を持ち、統治能力を発揮するとは思えません。私自身は日本の実態に即して健全な意味でのメインバンク・システムを活用していってもよいと思います。

北山
 日本企業の統治のあるべき姿というものは、いずれ形づくられていくと思います。もちろん委員会等設置会社が望ましいのか、あるいは従来の監査役型が望ましいのか、やり方にはそれぞれ一長一短があると思います。しかし、日本が戦後ずっと培ってきた実績、特徴を踏まえると、株式市場に完全に任せるという形には、すぐに移行できないのが現実だと思います。


リテール分野への取り組み

稲葉
 次に個人向けサービスに論点を移したいと思います。

 個人も将来のライフプランに役に立つような情報やサービスを銀行が提供して欲しいと思っています。こうした個人のニーズに対応すべく銀行も様々な個人向けリテール戦略を立てているかと思いますが、いかがでしょうか。

北山
 当行の場合、個人のお客様に対しては、二つのキーワードがあります。一つはコンサルティング、もう一つは決済ファイナンスです。

 コンサルティングというのは、投信や年金保険などの資産運用関連や、住宅ローンなどお客様のマネーにかかわるライフプランに対して、その年代に合わせた最適な提案を行っていくことです。

 決済ファイナンスというのは、主として預金口座を軸とした受払いに関するサービスで、利便性を重要視しています。

 また、お客様が便利だと実感して頂けるように、夜間営業や土日営業など窓口対応の多様化・充実を進めてきております。

バッジ
 日本では1400兆円の個人金融資産があり、非金融資産まで含めると約2700兆円の資産と家計が持っています。しかも、法人向け貸出は、貸出金利が1、2%程度なのに比べて、個人向け貸出は、例えば、消費者金融会社が29.2%ぐらいまでの金利で貸出を行っているように、利鞘の面で相当な拡大余地があります。個人向け貸出はこれからの成長部門だと思いますし、法人と個人とを比べてどちらが魅力的なマーケットかと言えば、個人だと思います。

 もっとも、これまでの銀行の組織体制では、こうした個人のニーズに対して、十分に応えていくことはできないと思います。リテール分野で成功するためには、スピードと柔軟性が必要不可欠です。そのためには、単に支店のデザインを変える等の表面的なことばかりではなく、銀行全体の考え方や経営手法をそれこそ小売業者のような形へと抜本的に変えていく必要があります。

冨山
 個人向けサービスへの取り組みについて、一般の小売業と銀行との違いは何かと言えば、銀行が公益事業体としての歴史を有しており、ある種の公共サービス的な役割を求められてきたことだと思います。良くも悪くも公共サービスだと位置づけられた瞬間に、様々な制約条件が課せられるため、ある程度、官僚的な要素を組織の中に持ち込まざるを得ないのだと思います。長い歴史の中で、組織の遺伝子として刷り込まれた部分というのは、一朝一夕に変わるものではないため、銀行も必死になって変えようとしているのでしょうが、それなりの時間が必要です。

 一方で、一般の小売業については、政府も大して面倒をみずに、自由にやって下さいという対応を取ってきています。その意味では、そもそも銀行とは一番遠いところに位置していたのだと思います。

 例えば、小売業のセンスは「日々是決戦」です。一日一日で決算が締まって、一日一日で儲かったか、儲からなかったかを考える世界です。一方、銀行のような公益事業体はもっと長い目で物事を考えます。「今ここでこんなことをやった場合に、こういうところで問題が起きないか」など、広い空間と長い時間の中でじっくりと物事を考える癖がついてます。

 今後、個人向けリテールの分野において、銀行がスピードや柔軟性を求められていくとすれば、結果的にこの分野において銀行間の多様性が生じるでしょう。コンビニエンスストアと大規模小売店とで戦略が異なるように銀行間で多様なリテールサービスが提供され、それによって利用者の利便性が高まるのであれば、それはそれで素晴らしいことだと思います。

北山
 日本で金利自由化が始まって以来、既に二十数年も経っており、この間、グローバルなマーケットばかりではなく、個人のお客様一人ひとりの意識も大きく変わってきています。また、規制緩和の中で、外国資本が銀行経営に参画したり、異業種から銀行へ参入したりといった動きが拡大しています。

 従って、従来からの銀行も「本当のサービス業、お客様に受け入れられる企業に変わるんだ」との意識を強く持って、お客様の意識変化に対応していく必要があります。

バッジ
 一方で、日本では個人の資産運用に対する意識も少し変えていく必要があると思います。例えば、アメリカの金融資産は日本の2.8倍程度ありますが、その40%程度を直接金融が占めています。日本は10%程度です。今後は、お客様に対してリスクとリターンの基本的な関係を分かりやすく説明し、お客様が運用チャンスを上手く活かすことができるようにアドバイスしていくことも銀行としての重要な役割です。


日本発の業務展開

北山
 今、日本が大きく変わりつつある中で、規制緩和、税制、公的金融のあり方といった日本の将来を左右する様々な課題が議論されています。こうした議論が上手く着地すればいいと願っています。

冨山
 こうした議論が止まってしまうと、再びバブルのような市場の失敗が起きたときに、また「失われた10年」ということになってしまいます。日本では、バブル崩壊という現象が、まだ政府の関与が非常に強かった時代に起きてしまったために、専ら政府の失敗ということになっています。しかしながら、あれは明らかに市場の失敗も同時に発生していたのだと思います。

 従って、今、喫緊の課題として考えなければいけないのは、将来の市場の失敗にどう備えるか、あるいは市場の機能をどう強化するかということだと思います。今、金融界全体が様々な形で苦労しています。その苦労について、できれば政府や日本銀行にもフォローして頂き、今後も生じ得る市場の失敗への対応策や、市場機能の強化策へと結び付けていって欲しいと思います。

稲葉
 確かに今、前向きな議論がどんどん出てきていますので、こうした動きを政府なり日銀ができる限りサポートしていく必要があると思います。

 将来的には、日本の金融界からも、例えば、日本の製造業が世界規模で活躍しているように、日本発のユニークな金融サービスが出てくるようになればいいと思っています。

北山
 当然出していきたいと思っています。例えば、製造業の世界では、最終消費財を生産している世界中の企業が、日本をテスト・マーケティングの場として使っています。日本の消費者は品質やサービス内容に対する要求が厳しいため、「日本で成功するなら他国でも成功するはずだ」と言われています。

 こうした事実があるため、いずれ金融界でも日本国内でリテール・モデルを開発、成功させた上で、それがアメリカやヨーロッパで導入されるといった姿にしていきたいと思っています。

バッジ
 もっとも、ビジネスはローカルなマーケットに合わせないと成功しない面もあります。基本となるアイデアを活用しつつも、ビジネスを展開する国のお客様のニーズに合わせていくことが必要です。当行でも仮にアメリカの銀行を日本でつくろうとすれば必ず失敗します。従業員もお客様も全て日本人な訳ですから、日本で理想とされる日本的な銀行をつくろうとしています。

冨山
 日本の消費者は世界で最も洗練されていると言われています。日本は平均的なミドルクラスの知的水準が非常に高いし、細かい点によく気がつくためです。一般的にサービスというのはお客様によって鍛えられる面が大きい訳であり、加えて日本では企業間の競争が厳しいため、ナショナルなサービスがさらにナショナルなものとして鍛えられます。そもそもナショナルなものを極めないとインターナショナルでは成功できません。

北山
 確かに、例えば、値段が安ければ多少品質は悪くても仕方がないというのがアメリカ人の考え方ですが、日本人の場合は、値段が安くても、きちっとしていないと駄目だということがあります。

バッジ
 もう一つの違いは、アメリカ人は「自分だけへの特別なサービス」を重要視するため、お客様のニーズに細かく合わせたサービスが素晴らしいサービスということになりますが、日本では必ずしもそうではありません。例えば、レストランに行った際に、少し違うことを頼んだら、「それはできません」、「どうしてできないんですか」、「他のお客様に不公平だからです」と言われます。

冨山
 日本では、ある種の「サービスの安定性」みたいなことも重要視されるのだと思います。また、基本的な思想をつくるのはアメリカ人が得意ですが、それをローカルに合わせた形で改良するのは日本人が得意だといった事情もあります。

 こうした様々な議論を考え合わせると、リテールの分野においては、日本の可能性というものが大きく広がっているような気がします。

稲葉
 ローカルなニーズに合わせて洗練されたものをつくりあげていくと、その中から世界で通用する普遍的なものが生み出されていくということだと思います。

 いずれにしても今後は、日本発の様々な金融活動が世界に向けて展開していくことを期待しています。日本銀行としても、こうした活動を円滑に進めていくための前提となる税制、会計制度、あるいは公的金融といった問題にきちんと対処しながら、皆さんの動きをサポートするような金融面の基盤整備に取り組んでいきたいと思います。

 本日は大変貴重なお話を頂き、誠に有り難うございました。

このページの先頭へ

test