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FIN/SUM(フィンサム)2024における日本銀行企画セッション:「ホールセール決済の将来像」議論のポイント

2024年4月30日
日本銀行決済機構局

セッション1:ホールセール決済の過去・現在・未来

セッション1「ホールセール決済の過去・現在・未来」では、まず、ホールセール決済に関する概要や銀行預金を用いた大口決済の仕組みについて説明したうえで、わが国の資金決済システムの発展の潮流に関し、技術の発展やユーザーニーズの拡大に合わせ、様々な対応が行われてきたことを紹介した。その一方で、例えばクロスボーダー決済におけるコストの高さやスピードの遅さ、貿易決済における紙ベースでの事務の複雑さや非効率さなど、現行決済においては様々な課題が存在することを指摘した。

こうした中で近年では、クラウドや分散型台帳技術(DLT)など技術の発展をベースに、現行決済における課題に対応する形で、ステーブルコインやトークン化預金など新しい民間マネーの検討が進んでいることや、これに対応する形で議論されている中央銀行マネーの高度化について、実例も交えながら紹介した。

具体的には、トークン化預金の活用にかかる民間主導の取り組みのほか、ホールセールCBDCや中央銀行当座預金のRTGS(即時グロス決済)システムにおける新たな技術の活用といった中央銀行マネーの高度化、トークン化預金や中央銀行マネーなどを共通プラットフォーム上で保有・決済するという国際的な議論(国際決済銀行(BIS)が提唱する「Unified Ledger」等)などについて紹介した。

また、ステーブルコインとトークン化預金の特徴として、前者は裏付け資産を必要とするプレファンド型であり、価値の裏付けは特定の資産に依拠すること、他方、後者については信用創造が可能であり、その価値の裏付けも銀行のBS全体となることなど両者の違いについて説明した。

セッション2:ホールセール決済の現在の課題

セッション2「ホールセール決済の現在の課題」では、ホールセール決済の現在の実務における課題や、その改善に向けた取り組みとともに、そうした取り組みを進めるうえで残された課題について、実際に実務に携わる登壇者で議論を行った。特に、DLTなどの新しい技術を用いた課題の解決策や、新しい決済手段・プラットフォームの可能性、資金決済の周辺領域や商流も含めた課題解決の重要性について意見交換を行った。

具体的には、まず、貿易決済の分野は、実務が紙ベースで行われていることによる課題が残されており、これを解決するために、DLTを用いて情報を連携する貿易プラットフォームの活用や資金レグとのDVP決済などの可能性について紹介が行われた。また、中央銀行や民間銀行の信用力が載ったデジタル通貨へのニーズが指摘された。

クロスボーダー決済に関しては、コルレス銀行を活用した現行の実務において、本人確認や規制対応など資金移動以外の付随領域における実務的な負担が重く、着金の遅さやコストの高さにつながっているとの指摘があった。これに対して、決済における付随領域の確認作業の効率化の可能性や、電文の標準化(ISO20022への移行)なども含めた業界全体での既存実務の改善や新たな慣行の形成などの重要性について紹介があった。

銀行の立場からは、現在のホールセール決済においては現状のシステムや既存の実務の枠組みの中で合理的な慣行が形成されている一方、様々な課題の存在が指摘された。そのうえで、新しい技術を活用して、取引に伴うデータ処理の流れを変えれば、取引や決済のあり方が変わりうるとの指摘があった。

さらに、BISが提唱するUnified Ledgerのように、既存の規制の枠組みやマネーの二層構造を活かす形で、DLTを用いた新たなプラットフォームにホールセールCBDCとトークン化預金を載せるアイデアの重要性、これによる様々な即時決済やプログラマビリティの活用可能性などについて指摘があった。

このほか、技術者の立場から、DLTが潜在的にクロスボーダー決済の透明性向上や情報の非対称性の問題の解決など、台帳そのものに限らない決済領域での活用が非常に期待されるとの指摘があった。他方、DLTを活用すれば実務的な課題が解決されるという単純なものではなく、技術者とビジネスサイドが協力して、金融機関の実務や慣行などに適合する形での技術の活用が重要との指摘があった。また、パブリックブロックチェーンの活用に向けたガバナンスの重要性やトラストアンカーの必要性についても紹介された。

セッション3:ホールセール決済の将来像

セッション3「ホールセール決済の将来像」では、ホールセール決済の将来像について、実務、アカデミズム双方の視点からその全体像を俯瞰するような議論を行った。すなわち、技術革新や外部環境の変化を踏まえ、既存のホールセール決済インフラの中での改善を目指すとすれば何をすべきか、また、新しい技術によるインフラを導入する場合にはホールセール決済システムの全体像をどのように描いていくべきか、といった論点について議論を行った。

具体的には、まず、信用創造機能のある預金通貨を決済資産とするシステムは、非常に効率的な仕組みであり、ホールセール決済の根幹として機能し続けるのではないか、という指摘があった。他方、ステーブルコインなど、新たな決済手段が登場することに伴い、銀行が決済情報を得にくくなり、銀行の与信能力を低下させることに繋がらないか、といった懸念が共有された。

こうした中で、預金通貨サイドでも、新たな技術を活用した形での決済手段や決済インフラの構築が模索されるのではないか、との指摘があった。例えば、BISが提唱するUnified Ledgerのように、中央銀行マネーと銀行預金を中心としたマネーの二層構造を維持する形で、ホールセールCBDCとトークン化預金を共通プラットフォームに載せ、クロスボーダー決済を効率的に行う構想が長期的には考えられるとの指摘があった。

また、広い目で見たときのホールセール決済の高度化という観点では、証券や実物資産のトークン化を通じた決済リスクの削減や効率化が期待されるとの指摘があった。これを踏まえ、資金決済を行う共通プラットフォームの上に証券等のトークンも載せて効率的にDVP決済を実現するアイデアや、資金と証券等が異なる台帳で決済されることを前提に、相互運用性を確保する形で各台帳を接続する方式などが考えられると紹介された。また、AML/CFTやKYC等の決済の周辺分野の対応負担の解決も重要との認識が示された。

最後に、官民の役割分担については、技術がどのように発展したとしても、中央銀行マネーの重要性は変わらないだろうとの指摘があった。こうした中で、ホールセールCBDCには、相互運用性の確保、価値のアンカーとしての役割が期待されるとの指摘があった。また、安心・安全かつ便利な決済手段を導入して、上手く活用していくような工夫については、これまでと同様、基本的に民間部門の役割となり、ネットワーク性や信頼性に課題が出てくる部分については公的セクターの関与が求められる、との指摘があった。