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日本銀行のシステム開発プロジェクト 新しい日本の決済システムを構築する(2013年9月25日掲載)

日本銀行は、資金・国債の決済が安全で効率的に行われるように「日銀ネット」というコンピュータ・ネットワークシステムを運営しています。

私たちが銀行のATMを利用して他の銀行にお金を振り込むと、銀行間の決済は最終的に日銀ネットで処理されます。1988年の稼動開始以来、このシステムは日本の決済を支え、一度も全面停止することなく安定的に稼動しています。

日銀では現在、日銀ネットから「新日銀ネット」へ、システムを一新するプロジェクトを進めています。安定稼動をつづけているシステムをつくり直すのは、なぜなのか。新日銀ネットは日銀ネットと何が変わるのか。東京都府中市の日銀電算センターを訪ね、システム情報局の方々に話を聞きました。


日銀のシステム開発・運行を担う府中分館の「電算センター」

新宿新都心から電車で約30分。武蔵野台地の緑あふれるエリアに、近代的な外観の建物があります。ここは1993年設立、今年20周年を迎えた「日本銀行府中分館」です。

出入口ごとに警備員が配置されるなど、同館は厳重なセキュリティ態勢。その理由は、日銀のシステムの中枢である「電算センター」が置かれているからです。システム情報局システム企画課企画役の岡田拓也さんは「電算センターの日銀職員は約400人、このほかに外部委託の民間企業の技術者が多数常駐しています」と、説明します。

「日銀の各部署における情報・経理処理など、日銀が機械化(システム化)に取り組んだ歴史は古く、府中分館の建設前から、電算情報局(システム情報局の前身)を中心に企画・開発・運行などを行ってきました。府中分館に電算センターを設置して以降、日銀ではシステム化に一層力を入れています。進展するIT(情報技術)を活用しつつ、各種システムを開発して、政策・業務運営の効率化・高度化を積極的に図っています」

国内外の金融経済や金融機関経営などに関する情報を迅速に提供するシステム、さらには日銀内の組織運営の効率化を目的としたシステムなど、日銀の電算センターで開発・高度化に取り組むシステムはさまざまです。そのなかでも、岡田さんは「日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)は、我々が開発・運営する最も大事なシステムの一つ」と言います。

「なぜなら、『日銀ネット』は我が国における基幹的な決済システムであり、金融経済取引の発展を支えているからです」

  • システム運行風景

  • 府中分館外観

一日200兆円の資金・国債決済を処理する「日銀ネット」

商取引における資金決済の流れ。詳細は本文のとおり。

日銀ネットでは、日銀の電算センターと本支店、日銀ネットのシステムを利用する約520の金融機関が通信回線により接続されており、接続先で入力されたデータは電算センターで処理されます。金融機関の間では、日々、資金や国債の決済が行われていますが、日銀ネットはその決済を円滑に処理しているのです。日銀の「銀行の銀行」という重要な役割を支えるシステムと言えます。

具体的に説明しましょう。たとえば、あるメーカーが商社に仕入れ代金1億円を振り込む場合です。A銀行にある自分の預金口座からB銀行にある商社の口座にお金を振り込むと、A銀行のメーカーの預金口座から1億円が引き落とされ、民間金融機関が運営する全国銀行データ通信システム(全銀システム)にデータが送られます。すると、全銀システムはB銀行に対して、商社の口座に1億円入金するように通知します。では、A銀行からB銀行へのお金をどうやって移動させているのでしょうか。答えは日銀ネットを使って処理されています。全銀システムからオンラインで日銀ネットに決済データが送信され、日銀ネットでは、A銀行とB銀行の日銀当座預金口座の間で資金が振り替えられ、決済が完了することになります。

国債の決済も日銀ネットを通じて実行されます。金融機関間で取引される日本国債は完全にペーパーレス化されています。券面(国債証券)の発行がなくなり、購入・売却といった国債の取引は口座への記録によって管理されています。日銀は、その「振替機関」として国債決済を行っています。国債を購入した場合は、購入者が金融機関に開設した口座で国債の残高が増えることになり、逆に売却した場合は、売却者の口座で国債の残高が減ることになりますが、その際の振替口座簿上の口座振替などを日銀ネットでオンライン処理しているのです。

日銀ネットで一日に決済している金額は、資金決済で約110兆円、国債決済で約83兆円にも上ります。これは日本政府の年間予算(一般会計)の2倍以上です。この決済システムが止まったら大変です。当てにしていた資金が入らない事態で金融経済取引が混乱したり、世の中の金融システムに対する信頼感が大きく損なわれたりするでしょう。

岡田さんは「東日本大震災の直後も日銀ネットは正常に機能しつづけ、その旨を直ちに対外公表しました。運行状況を監視し、障害が発生しても早期対応できる体制も敷いています。日銀ネットは、1988年の導入以来、今日まで一度も全面停止することなく安定的に稼動しています」と強調します。

従来の「安定稼動」を引き継ぎつつ将来の変化への「柔軟性」を持たせる

日銀ネットが稼動しはじめた80年代末は、「IT」などという言葉すら耳慣れない時代でした。当時から25年が経過する間に金融のグローバル化や情報技術の革新が進み、この先も環境変化は続くはずです。そこで日銀では、日銀ネットのシステムを一新する「新日銀ネット」開発プロジェクトに取り組んでいます。システム情報局新日銀ネット構築運行課長の武田直己さんは、こう話します。

「25年が経過する間も、プログラムを追加したり修正したりしながら、日銀ネットは継続的に改善を続けてきました。でも、その結果、システムが複雑化し、環境の変化に柔軟に対応したり、最新の技術進歩を円滑に採り入れたりすることが難しくなってきています。そこで、現在のシステム基盤や機能を抜本的に見直した『新日銀ネット』を構築し、将来のシステムの発展性を確保することが必要と考えたのです」

新日銀ネットは2010年度から開発が進んでおり、第1段階として14年1月に、その後第2段階として15年秋から16年初めまでの間に稼動開始する予定です。日銀ネットに代わる、四半世紀ぶりの再開発は、日銀が取り組む過去最大規模のシステム開発プロジェクトです。

  • 新日銀ネット開発スケジュール表。第1段階対象業務(国債売買関係事務、金融調節等入札連絡事務、一部の国債発行関係事務)は2010年度より仕様確定・設計・開発・テストの工程を経て、2014年1月6日を稼働開始の候補日に、第2段階対象業務(第1段階対象業務以外の業務)は、2011年度より同工程を経て、2015年秋~2016年初の稼働開始を目途にスケジュールが組まれている。

「これまで安定稼動してきた日銀ネットをつくり直して大丈夫か、と心配する声もあるかもしれません。しかし安定稼動だけを重視し、現行のシステムを使い続けていくのには、自ずと物理的な限界がありますし、将来的な金融経済取引・決済の新たなニーズに対応することは難しくなります。新日銀ネットに求められるのは、日銀ネットの安定稼動を崩さないこと、そして変化に対応できる柔軟性を有することです。この2点を両立させるべく、我々は開発を進めています。まさにチャレンジと言える開発ですが、日本の基幹的な決済システムを再構築することになりますから、失敗はできません」(武田さん)

新日銀ネットには、最新の情報処理技術を採用する方針です。新たなシステム基盤への移行に当たり、たとえばプログラミング言語(コンピュータに動作指示する人工言語)には、「Java(ジャバ)」という言語を採用します。日銀ネットには80年代に主流だった言語が使われており、それを刷新するのです。

最新技術の採用に加えて、新日銀ネットは「変化に強い」システムを目指し、設計段階から工夫が重ねられています。やや専門的になりますが、たとえば、新しい取引を始めたり、今までの業務を変更したりする場合、日銀ネットでは、プログラムの追加や修正が必要でしたが、新日銀ネットでは、システムの設定値を変更するだけで迅速に対応できるような仕組みを用意しました。また、大がかりな変更が必要な場合に備え、新しいプログラムを追加しやすい設計としました。

その他、新日銀ネットでは、金融取引で利用される通信メッセージ(電文)に関する国際規格である「ISO20022」を採用したり、稼動時間の大幅な拡大を可能とするシステム基盤が整備される予定です。その狙いは、新日銀ネットに対するアクセス利便性の向上を図り、グローバルな金融環境の変化などへの対応力を強化するためです。

新日銀ネットの構築に当たっては、日銀ネットからの機能の改善や統廃合も行います。たとえば、前述した国債の決済については、現状、元金や利子を支払う日の直前は決済ができません。これを新日銀ネットでは改善し、決済できるようにしています。そうなれば日本国債の取引がより便利かつ安全に行えるようになるでしょう。

新日銀ネットの開発は、金融機関や決済システムの運営機関の意見も参考にしつつ、進められています。新日銀ネットで柔軟性やアクセス利便性が高まれば、金融機関も決済プロセスを効率化できるなど、大きなメリットがあります。では、私たち一般の個人にとってはどうでしょうか。

武田さんは、こう答えます。

「新日銀ネットをつうじて決済リスクの削減や新たな金融サービスの提供の可能性が広がります。日本円や日本国債の魅力が増し、グローバルな金融取引に使われる環境が広がります。金融環境の改善は、経済全体にとってもプラスです。つまり、このプロジェクトは、金融機関、投資家、国債発行者といった市場参加者だけでなく、国民全体の利益にもなるのです」

現場の高い士気と万全の工程管理で「最高のシステム」を目指す

新日銀ネットの開発プロジェクトにかかわる日銀職員と常駐する外部委託の技術者だけでも数百人に上ります。このほか、間接的に関与する関係部署や、外部の方も含めると、非常に多くの方が支援しています。これだけ大規模な開発になると、その管理も容易ではありません。日銀ではシステム情報局内に設置した管理専門チームが、多くの開発チームを統括しています。開発チーム同士の連携のために横断的なマネジメントが必要なのです。

システム情報局でプロジェクトマネジメントを行っていた福田格さん(現・金融市場局市場企画課企画役)は「システム開発も、突き詰めれば『人』の作業の積み重ねです」と話します。

「一人ひとりが工夫や知恵を発揮できるか、しっかりコミュニケーションを図りながら一つひとつの作業を進めることができるか、それが全体のプロジェクト成功へのカギになります。一つひとつの作業がシステム開発の品質、コスト、納期に与える影響を確認できる仕組みをつくり、そのなかで各自が役割を果たす。そして、問題が起きたら開発チームで共有し、『何故』という問いを繰り返しながら、根本原因に対する解決を図ることが大事です。新日銀ネットプロジェクトでは、チームの各メンバーが自律的に動き、開発の現場から提言がどんどん上がってくる雰囲気ができています」

新日銀ネットの開発では、大規模プロジェクトに適した「ウォーターフォール型」と呼ばれる開発工程モデルを基本としています。水の流れが後戻りしないように、開発の各工程(要件定義→設計→プログラミング→動作テスト→稼動)を段階的に進めていくやり方です。この方法に沿って、各工程では、たとえ小さな問題であっても、立ち止まって、しっかり共有・解消することを通じ、品質の高いシステム構築に努めています。

打ち合わせ風景

実際にシステム開発にたずさわる人はどう考えているのでしょうか。開発チームのシステムエンジニア(SE)として、国債関係の業務アプリケーションの開発を担当する糸川通代さん(システム情報局業務システム開発課企画役補佐)に聞きました。

「新日銀ネットの開発は、私たち日本銀行のSEにとっては生涯一度の大プロジェクトです。責任重大で負荷も重いのですが、このプロジェクトに関わることができて幸せです」

糸川さんは具体的なSEの仕事についてこう語ります。

「日銀のSEは、分かりやすく言うと、新日銀ネットという大きな建物を設計する建築士のような役割です。

はじめに、システムを利用する部署と相談しながら、業務に本当に必要な機能は何かを見極め、システムでどう実現するかを考えます。業務とシステムの両面の知識、SEとしての総合力が問われます。

次にそれを外部委託の技術者と二人三脚で設計書に落とし込みます。設計書を一枚一枚作成し、検証するのは膨大な手間がかかる地道な作業です。限りあるスケジュールの中で、その地道な作業をいかに厳密に、効率的に積み重ねていくか。それでシステムの品質が決まってくると信じてやっています。設計書に基づくプログラムの作成作業は外部委託の技術者に依頼し、進捗状況や問題点の有無を管理します。

最後に、出来上がったプログラムがうまく動作するかどうかを利用者も巻き込んでテストで検証します。『想定外』を作らないように、さまざまな角度から効果的なシナリオ、バリエーションを検討してテストを企画します。過去の経験を総動員し、これでいいのかと自問自答しながらの作業です」

新日銀ネットの第1段階の稼動開始予定は14年1月。プロジェクトにかかわる面々の苦しいけれども充実した日々はまだまだ続きます。その日々が報われたとき、日本の決済システムの歴史に輝かしい一歩が記されることは間違いありません。