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日本銀行決済機構局 FinTechセンター 安全性と効率性のバランスを取りながらフィンテックを推進(2017年6月26日掲載)

FinTech(フィンテック)」という言葉が連日のように新聞などで取り上げられています。フィンテックとは金融サービスと情報技術とを結びつけたさまざまな革新的な動きを指す造語です。身近な例ではATMの生体認証もその一つです。インターネットやスマートフォン、AI、暗号など広範な情報技術の革新が進む中、それらを取り込む形で金融のあり方も大きく変わろうとしています。そうした大きな変化に取り組む部署が、2016年、決済機構局内に新設されました。それが「フィンテックセンター」です。その具体的な業務の内容について、実際に携わっている職員に伺いました。

日本にとってベストのフィンテックを追求する

フィンテックフォーラムの様子
(撮影:野瀬勝一)

2016年4月、日本銀行内に「フィンテックセンター」が新設されたというニュースが各メディアで報じられました。

「フィンテック」とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた言葉です。「フィンテックセンター」の設立は、フィンテックが金融・決済サービスの向上や経済の持続的成長に寄与するものとなるよう、日本銀行も中央銀行として最大限努力していくという姿勢を示すものです。

センターでは、数名の専従者が、日本銀行内外の多数の研究者・実務家をつないで活動しています。

米国では、フィンテックという言葉は2000年代前半から使われていました。その後、リーマンショックや金融危機を経て、インターネットやスマートフォン、AIなどを活用したサービスを提供する新しい金融ベンチャーが次々に登場しました。例えば、資金の貸し手と借り手を直接つないだり、Eコマースと結びついた決済サービスを提供する企業などです。また、巨大IT企業が決済などの金融サービスに参入する動きも増えています。

また、従来は金融サービスが十分普及していなかった途上国や新興国でも、スマートフォンなどを利用した金融サービスが急速に拡がる「金融包摂」の動きが進んでいます。さらに、「ビットコイン」(注1)のような仮想通貨や、「ブロックチェーン」および「分散型台帳技術」(以下、DLT)(注2)といった新しい技術も登場しています。

このような内外の環境変化も踏まえ、センターでは、新しい情報技術が日本の金融サービスの利便性・効率性向上につながるとともに、金融・決済の安定や金融サービスへの信認がしっかりと確保されるよう取り組んでいます。


  • (注1)ビットコイン/インターネット上で流通する仮想通貨。
  • (注2)ブロックチェーンおよび分散型台帳技術(DLT)/仮想通貨ビットコインを支える技術として考案されました。必ずしも確立された定義はありませんが、DLTは、特定の帳簿管理主体を置く代わりに、複数の参加者が同じ帳簿を共有する「分散型」での管理を可能とする技術です。ブロックチェーンはそのひとつで、改ざんをより困難とする効果を持ちます。これらの活用により、(1)大規模な電算センター構築費用の節約、(2)特定のコンピューターの稼動時間に制約されない連続的なシステムの稼動、(3)複数のコンピューターの一部がダウンしてもシステム全体の稼動を維持できるという意味での頑健性向上、(4)バックオフィス事務の効率化、などの効果が期待されています。

金融サービスの安全性確保と効率性向上の両立を目指して

センターは、日本銀行の決済機構局という部署内にありますが、経済取引の根幹でもある「決済」には、二つの大事な要素があります。

まず「安全性」です。人々にとって、決済が安全確実に行われること、安心して決済サービスを利用できることは、きわめて重要です。

もう一つは「効率性」です。すなわち、決済がいつでもどこでも、迅速に、安価に行えることも重要な要素です。

新しい情報技術を金融サービスに活用するフィンテックでも、やはり「安全性」と「効率性」が鍵となります。そのうえで、フィンテックセンターは現在、主に三つの取り組みを行っています。

まず、技術革新の下での金融サービスや金融構造の変化を的確に把握する活動です。次に、日本銀行が経済社会の基幹インフラを提供する立場から、新しい技術について、自ら活用できる可能性を含め調査研究を行っています。さらに、内外の議論に積極的に参画し、海外の議論や自らの分析結果を関係者に紹介したり、幅広い関係者の議論の場を提供することを通じ、前向きな変化を促す触媒の役割も果たしています。

金融機関や企業、学界などさまざまな主体と活発かつオープンに議論

では、フィンテックセンターの業務内容について、三つに分けてご紹介します。

  1. (1)フォーラムやコンファランスの開催や、各種国際会議への参加などを通じた、金融機関・企業・学界・海外中央銀行などとの連携
  2. (2)DLTなどの先進的な技術に関する調査研究
  3. (3)日本銀行内での組織横断的な対応(「フィンテックネットワーク」の運営)

まず(1)では、「フィンテックフォーラム」やAI・ビッグデータ分析に関するコンファランスなどを積極的に開催しています。フィンテックセンターの宮将史さんは次のように語ります。

コンファランス(AIと金融サービス・金融市場)の様子
(撮影:野瀬勝一)

「昨年度は『フィンテックフォーラム』を3回開催しましたが、金融機関やベンチャー企業など幅広い業種から、約100名の参加がありました。このフォーラムでは、一方的なレクチャー形式を取らず、参加者間での議論が活発になるよう、会場をあえて車座にしています。参加者の方々が最新情報や技術面の課題などについて知見・知識を深めるうえでは、双方向の対話が重要だと考えてのことです。また、各参加者の取り組みに役立てていただけるよう、日本銀行自身によるDLTや生体認証技術などの研究、セキュリティー確保に関する考察なども紹介しました。中でも、DLTに関しては非常に白熱した議論が行われました。多くの参加者の方々から『技術面の分析や課題について深い議論が行われた』と高く評価していただき、手応えを感じています。このようなご意見も踏まえ、今年度もこうしたイベントを続けていきます」

また、国内でのイベント開催やイベント出席に加え、金融イノベーションに関する国際会議や海外のイベントにも積極的に参加しています。

「広い視野で最新の知見を吸収し、国内に還元していくことで『触媒』としての機能を果たしていく。それと同時に、日本の先進的な事例、特に生体認証技術など高い安全性を誇るテクノロジーを国際会議の場で発表することで、日本の存在感をアピールし、グローバルな決済システムの安全性・効率性に寄与したいと願っています」(宮さん)

加えて、地方銀行をはじめ、金融機関などを対象とした講演会や勉強会を実施し、地域活性化につながるフィンテックの理解を深めるサポートをしています。

情報セキュリティー分野で博士号を持つ田村裕子さんは、地域金融機関の関心度の高さに驚かされたと語ります。

「成長の起爆剤としてフィンテックに積極的に取り組まれる金融機関が目立っています。センター設立当初、フィンテックに関する講演依頼の多くは、広く金融全般を対象としたものでした。しかし最近では、『地域金融機関での活用』に焦点を絞った依頼が増えています。昨年度の講演依頼は100件近くに上りましたが、今年度も同程度かさらに上回る可能性があると思います」(田村さん)

金融機関や企業のフィンテックへの関心はますます高まるばかりですが、フィンテックを通じたサービスを現実に発展させていく上では、利用者がこれらを安心して使い続けられる環境を整える必要があります。そのためには、セキュリティー対策や利用者保護を万全にしなければなりません。

「実は、世界的に見るとフィンテックによるサービスは、北米のほか、インド、中国、東南アジア、アフリカなどの新興国や途上国で積極的に進められています。これらの国々では、これまで銀行店舗やATMなどの金融インフラが整備されていなかった分、スマートフォンなどを用いる金融サービスが普及すると、かえってそちらに人気が集まりました(新興国でのサービスについては、本誌2016年秋号『対談(黒田総裁、宮部みゆき氏)』でも触れていますのでご覧ください)。一方、日本は、ATMの数が多く便利な上、サービスの信頼度も高く安定しています。そのため逆に『スマートフォンやインターネットを使う金融サービスはなんとなく不安』と感じる利用者が少なくありません。当センターではフィンテックにかかるセキュリティー上の課題についても研究し、利用者側の理解を深めるような情報発信を行うことで、フィンテック推進の一翼を担っていきたいと考えています」(田村さん)

フィンテックは日進月歩であり、吸収しなければならない情報が多い一方、日本銀行の内外に発信していかなければならない情報も多々あります。フィンテックセンターの職員みんなで知恵を絞りながら、そうした仕事に日々取り組んでいます。

DLTの調査研究や実験にも取り組む

(2)DLTなどの先進的な技術に関する調査研究では、国内外の企業・団体による実証実験や実例などを調査し、最新の技術動向や金融・決済サービスの変化の方向性の把握に努めています。

欧州中央銀行(ECB)とのブロックチェーン・DLTに関するディスカッションの様子

決済システム課の小林亜紀子さんは次のように説明します。

「DLTを使用することで従来の事務がどのように効率化できるか、どのような新しいサービスが可能になるのか、さまざまな主体が模索しています。例えば、現在でもファクスや手紙など多くの紙の書類がやり取りされている貿易金融は、DLTを用いることで多くの書類が関係者間で迅速に共有され、効率化が進むと期待されています。その一方で、情報の秘匿性の確保など、分散型システムのメリット、デメリットを慎重に考慮する必要もあります。それらの知見を得るべく、東京証券取引所は本年より証券業界連携型のDLTの実証実験を開始しました。日本銀行もそのフォーラムに加わり、安全性確保と効率性向上の両立という問題意識を持って、積極的に議論に参加しています」

また日本銀行も、自ら実験を行っています。

「昨年来、パソコン内に複数のコンピューターが存在する仮想環境を設定し、これらが連携して銀行間決済を処理したり、『流動性節約機能』(注3)を実現するプログラムを組んでみました。こうした実験を通じて、DLTの特徴を手触り感をもって理解することができ、日本銀行内外の関係者にもよりわかりやすく伝えることができます。同様の実験は、多くの海外中央銀行も行っています」(小林さん)

欧州中央銀行(ECB)とのDLTに関する共同研究プロジェクトも、昨年12月に立ち上げています。同課資金・リテール決済システムグループ長の渡邉明彦さんによれば「成果は、2017年中に公表する予定」だそうです。

「欧州中央銀行の市場インフラ決済総局と共同で、どのような形でDLTを金融市場インフラに生かせるか研究しています。欧州では複数国が集まってシステムを構成しているため、異なる相手やシステムをつなぐDLTの応用についても、われわれとは別の視点を持っていると考えられます。そうした点は大変興味深いと思います」(渡邉さん)

欧州を含めた各国の中央銀行とも、これまで日本銀行が蓄積してきた良好な関係を最大限に活用し、最新の取り組みや今後の方向性について、活発に議論を行っているそうです。

「欧州中央銀行とは週に一度は必ず電話で会議をしますし、メールでの情報交換は毎日のように行っています。決済インフラがグローバルにつながっている中、欧州以外の各国の中央銀行とも頻繁に連絡し合っています。得られた情報はわれわれとしても最大限活用するとともに、必要に応じ日本銀行内の各部署とも共有しています」(渡邉さん)


  • (注3)流動性節約機能/日本銀行当座預金の決済において、各金融機関が決済のため準備しておくべき資金や担保の量を節約する機能です。

日本銀行内でネットワークを形成広い視座に立って理解を深める

フィンテックセンターのメンバー

また、(3)については、フィンテックが金融・決済サービスに加え、中央銀行インフラや経済への影響、金融教育など広範な分野に関わることから、日本銀行内の金融・決済やインフラ運営、経済分析や金融教育などに携わる複数の部署の間で「フィンテックネットワーク」を形成しています。

「この組織横断的なネットワークは、30〜40名ほどの職員で構成されており、日ごろから密に連携を取り合うことで、情報や知見の共有を図っています。四半期に一度は対面での会合を開催し、それぞれの現場でフィンテックをどう生かすべきか、また中央銀行として今後どのように取り組むべきか、率直に話し合っています」(宮さん)

フィンテックの技術の多くは、本格的な応用が進む段階にあり、今後大きく飛躍させるべく、職員はやりがいを感じています。また、環境変化への職員自身の柔軟な対応力が大事であるとも実感しています。

「今までの考え方を前提に議論していては、新技術のメリットを十分に生かせない。発想の方向性を全く変えるように心がけてフィンテックが持つ可能性を調査しています。金融サービスのイノベーションを進め、効率性を高める一方で、安全性はしっかり守っていきたいと思います」(渡邉さん)

「2016年度に組織を立ち上げ、情報収集、分析において大きな成果を得ました。今年度は多くの金融機関などが、実際に新しい情報技術を応用したサービスを開始することが予想され、このことに伴う実務上の課題解決をサポートし、さらに大きく前進したいと考えています」(宮さん)

未来を形作るフィンテックセンター。ますますの活躍が期待されています。