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日本銀行金融市場局 金融市場の整備・育成の仕事 金融市場の更なる効率化に向けて、国際交渉に臨み、市場参加者と対話を深める(2018年3月26日掲載)

日本銀行は、金融市場調節や市場情報の活用を通じて金融市場と深く関わっているだけでなく、金融市場そのものの整備──金融市場の働きを一層効率的なものとするために、幅広い関係者と協力しながら、目には見えない金融市場の姿を明らかにし、時代に合った取引慣行や制度の見直しを後押しする仕事──にも取り組んでいます。
今回は、統計の公表・整備や、透明性の向上に向けた国際的な取り組みなどを手がけている金融市場局の活動を詳しく紹介します。


コールレートなどの統計を毎日公表し「コール市場」の円滑な動きを支える

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調節業務グループが毎営業日公表している統計資料(手前の4つがコール市場関連)

日銀政策委員会の金融政策決定会合で決まった金融市場調節方針に基づき、公開市場操作(オペレーション)の実務を担う市場調節課「調節業務グループ」では、短期金融市場(注1)に係る統計の作成・公表も行っています。

「調節業務グループでは、毎営業日、『コール市場関連統計』など短期金融市場に係る統計を5回日銀ホームページに公表しています。日銀は多くの部署で統計を作成・公表していますが、日々5回も統計を作成・公表する部署は、他にないと思います」こう話すのは、調節業務グループ長の草野雄司さん。

「コール市場」は、1902年に最初の取引が成立した日本で最も長い歴史を持つ短期金融市場です。「コール」の由来は「money at call(呼べば直ちに戻ってくる資金)」から来ていると言われており、銀行等の金融機関同士が毎日の資金を融通(貸借)し合う場となっています。

草野さんは「金融機関の資金繰りの観点から、コール市場が円滑・効率的に動くことは金融市場全体、経済活動全般にとって重要です」と強調します。

「公表したコールレート(コール市場での金利)は、翌日以降の金融機関の市場取引行動に影響を与えたり、他の取引で参照金利になっている場合もあります。そのためレートの算出から公表まではとても神経を使います」

コール市場の取引は、原則午前8時半に始まり、取引の大半は午後3時頃までに行われます。調節業務グループは、取引を仲介する短資会社から提供されるデータをもとにコールレートを作成し、当日の午後5時15分頃に「速報値」を、翌日の午前10時頃にその後の情報も加味した「確報値」を公表しています。時間との勝負ですが、間違いは許されません。同グループの元木寛之さんはこう説明します。

「コールレートの算出とその検算は、3人で順番に行います。私は検算を担当しており、同じデータを基に最初に計算した人とは違う計算方法を用いています。そして最初の人と同じ値になるかを確認します。登山に例えるなら、別々のルートをたどっても一つしかない頂上に達するかを検証するのです」

算出されたコールレートが3番目に確認する人に渡る際、また別の観点からチェックが入ります。草野さんはこう話します。

「市場参加者と密接に連絡を取り、資金調達や運用動向等をヒアリングしているのが同課の『市場調節グループ』です。私は、その担当者とのミーティングや、前日・当日の周辺情報と、算出されたコールレートの整合性を確認します。『違和感がある』と思えばグループの担当者に『この数値の動きにつながるような情報は確認できるか』と改めて聞いています」

正確な統計の公表に向け、日々細心の注意を払って作業が行われています。


  • (注1)短期金融市場は、期間1年以内の金融取引が行われる市場です。これに対し、1年超の金融取引が行われる市場は、長期金融市場と呼ばれます。

「レポ市場」の透明性を高める目的でデータ収集を強化するプロジェクト

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レポ市場フォーラムの様子(撮影:野瀬勝一)

短期金融市場には、コール市場の他に資金と証券とを期間を定めて交換する「レポ市場」があります。レポ市場が本格的に利用されるようになったのは1996年と、コール市場に比べると歴史は浅いですが、今ではその取引残高は100兆円を超え、短期金融市場の取引残高全体のおよそ半分を占めます。市場企画課「市場整備グループ」では、このレポ市場の透明性を高めるための国際的なプロジェクトを、国内外の金融当局や市場参加者と連携して進めています。

国際的なプロジェクトが立ち上がった背景には、かつて米国や欧州を中心に、証券化商品等を用いたレポ取引が拡大していたなかで、2008年にリーマンショックが発生し、証券化商品の価格下落等に伴い大きな混乱を引き起こしたことがあります。

こうした反省から、リーマンショック後、FSB(注2)は、レポ市場の透明性を高めるために「レポ市場における取引金額等の詳細なデータを、各国当局およびグローバルレベルで収集すること」を提言し、15年11月には、具体的な対象・項目・方法について決定しました。

「グローバルレベルのデータ収集の実務的な検討は、FSB内の専門家グループで行われています。専門家グループには、市場整備グループのメンバーが参加して、議論をリードしています。また、国際的な検討と同時に、国内における金融機関からのデータ収集やシステム構築も着実に進めていかねばなりません。日本のデータ収集は、金融庁と日銀が共同で実施しますが、集計とFSBへの送付といった実務は日銀が担うことになっており、その責務は重大です」と話すのは、同グループの山崎さやかさん。

19年初にはデータ収集を開始する予定です。それに先立ち、データを報告してもらう市場参加者を17年に選定しました。同グループの高木健司さんはこう話します。

「幅広い業態の1300以上の市場参加者に取引量調査をお願いし、取引全体の95%を占める上位50数先を報告先として選定しました。報告先からは、日々の詳細な取引データを毎月報告してもらうことになります。事務負担が大きいので、プロジェクトの重要性を丁寧に説明するよう意識しています」

市場整備グループでは、金融庁と合同でデータの報告先を対象に説明会を開催しているほか、日銀本店で「レポ市場フォーラム」を随時開催し、この国際プロジェクトの最新の状況を市場参加者と情報共有・議論しています。

さらに鍵となるのが、システムの構築です。システム構築は、国際的な議論や市場参加者とのコミュニケーションを経て決まった内容を「形にする」プロセスです。

総務課「総務グループ」でシステム構築の作業を長年担当してきた大倉真奈美さんにとっても、今回のプロジェクトはこれまでに経験のないものだといいます。「過去のテストデータから推計すると、報告先から提供を受けるデータ量は、取引量の多い先だと、1先・1カ月当たり100万件程度あります。報告先は50数先なので、単純計算ではデータ件数は5000万件を超えます。これだけのビッグデータを扱うシステムの構築・運用は日銀では初めてでしょう。データの正確性を損なわないために、適切なシステム構築が何よりも重要です」

このプロジェクトは、国内外の金融当局や市場参加者との調整に加えて、システム構築を担う関係部署等が協力し合うことで初めて実現できます。山崎さんは「関係者すべてがチームの一員だと思っています。皆で議論し、各々が確実に対応を進めていけるように丁寧に企画・調整していくことが大切です」と話します。


  • (注2)FSB(Financial Stability Board)= 金融安定理事会。国際的な金融システムの脆弱性対応や金融システムの安定を担う当局間の協調促進に向けた活動を行う組織。2017年末時点で、主要25カ国・地域の中央銀行、金融監督当局、財務省、主要な基準策定主体、IMF(国際通貨基金)、世界銀行、BIS(国際決済銀行)、OECD(経済協力開発機構)等の代表が参加しています。

世界16の中央銀行と市場参加者による「グローバル外為行動規範」の策定

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グローバル外為行動規範に関する説明会の様子(撮影:野瀬勝一)

外国為替市場(以下、外為市場)でも公正性や透明性を強化すべきとの認識が広がり、レポ市場と同様に、国際的な取り組みが進んでいます。

もともと外為市場は、銀行のみならず輸出入企業や資産運用会社など多様な市場参加者が取引を行っているほか、各国・地域の外為市場においてさまざまな取引慣行が存在し、それらを前提として市場参加者が自主的に遵守すべき行動規範が策定されてきました。しかし、13年にロンドン外為市場の指標レートをめぐる不正行為等が発覚したことが契機となって、外為市場の公正性の強化の観点からグローバルに統一された行動規範を策定しようという機運が高まりました。

17年5月、「グローバル外為行動規範」が公表されました。これは、BIS(国際決済銀行)の作業部会が約2年をかけて策定したものです。BISのあるスイス・バーゼルでの国際会議に継続的に参加するなど、その策定過程に関わった為替課の藤原正雄さんは「日銀を含む世界16の中央銀行のスタッフが2カ月に一度のペースで集い、40名を超える民間専門家の方々とも協力して、膝詰めの国際的議論を繰り返しました。その過程では、世界中の市場関係者から寄せられた1万件以上のコメントを考慮するなど、外為市場の現実を踏まえた行動規範とすることを目指しました。私自身は、行動規範をグローバルにより適切なものとすると同時に、東京の外為市場参加者の方々にとっても使いやすいものにしたいという思いで、世界の中央銀行や東京の市場参加者の方々と議論を重ねました」と話します。

「グローバル外為行動規範」は、外為取引の売り手(銀行等)だけでなく、買い手(顧客)にも適用されることを念頭において策定されています。その内容は、(1)倫理(2)ガバナンス(3)取引執行(4)情報共有(5)リスク管理とコンプライアンス(6)取引確認と決済の6章構成で、全部で55の原則から成ります。これに外為市場で許容される行為とされない行為の具体例を◯×形式で示した「具体的な例示」が付属書として続きます。

「外為市場の自主的な規律付けを強める必要があるとしても、市場参加者の行動を過度に委縮させないことも大事です。禁止事項だけを並べ立てるのではなく、適切な行為に『◯』印をつけて例示したのは、こうした狙いに基づいたものです。実は、この例示集は、東京外為市場委員会の行動規範に盛り込まれていたアプローチが反映されたものです」(藤原さん)

法律や規則ではない行動規範が効果を発揮するためには、自主的な遵守の輪が幅広い市場参加者に広がっていくことが極めて重要です。このため、為替課では、東京外為市場委員会と協力して市場参加者向け説明会を10回近く開催するなど、行動規範の認知度の向上と遵守促進に向けたさまざまな取り組みを進めています。

藤原さんは「日本でも、すでに金融機関などの10を超える市場参加者が遵守意思を表明しています。日銀においても、関係部署が協力して、日銀自身の外為業務が行動規範の原則に沿ったものとなっていることを確認し、1月末に遵守意思を表明しました。今後は、行動規範の公表に伴って新たに設立されたグローバル外為市場委員会や、東京外為市場委員会の活動を通じて、海外の中央銀行や国内外の市場参加者の方々と連携しながら、外為市場の健全性確保に向けた取り組みを続けていきたいと思います」と話しています。