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日本銀行決済機構局 業務継続企画課の仕事 どんなときも安心してお金が使えるように日本銀行の業務継続を支える日常(2020年12月25日掲載)

地震や台風といった自然災害からサイバーテロ、世界各国を巻き込んだ新型コロナウイルス感染症まで、平穏な日常の陰には社会の動きを止めかねない多種多様なリスクが潜んでいます。しかしながら指定公共機関である日本銀行では、有事に際してもその業務を円滑に継続させていかなければなりません。そのため、過去の災害や訓練などを通して得た教訓や社会情勢をもとに体制を整える役割を果たしているのが、決済機構局業務継続企画課です。万が一のときには日本銀行災害対策本部の事務局として前線に立ち、速やかに対応する必要もある重要な責務。常日頃から緊張感をもって有事に備える、業務継続企画課の仕事をご紹介します。


24時間体制で行われる有事の業務継続に対する備え

「決済機構局業務継続企画課の主な仕事は、大きく二つです。一つは有事における日本銀行の業務継続体制に関する企画立案や、それに基づいた定期的な訓練の企画、運営。二つ目は有事の際の災害対策本部立ち上げなどの初動対応です。私を含め8名がフル回転して、こうした事務にあたっています」

そう説明するのは、課長の益田清和さんです。例えば、日本のどこかで大きな地震があった場合、真っ先に関係する地域の日本銀行の支店や事務所に状況を確認する必要があるとのこと。また大規模災害の折には、直ちに災害対策本部を立ち上げて被災状況の情報収集にあたらなければなりません。

「課長と企画役が交代で本店近くに寝泊まりし、もしものときは休日夜間問わず、すぐに本店にかけつけられる体制を敷いています。どんなときでも携帯電話は手放せず、気の抜けない毎日です」

2011年の東日本大震災では、地震発生から14分後に災害対策本部が設置されたと聞けば、その責務の重さが察せられます。

「災害時であっても、日本銀行は指定公共機関として業務の継続が求められます。一例を挙げれば、災害時にも国民の皆さまが安心してお金を使える環境・状況を維持すること。そのためには中央銀行たる日本銀行の初動対応は極めて重要です。東日本大震災をはじめこれまでの災害などの経験から得られた教訓の下、役員から各部署の担当レベルまで議論しながら、時代に応じた業務継続体制の構築を進めてきています」

東日本大震災以降、政府による首都直下地震や南海トラフ地震における被災想定の切り上げを踏まえた対応も着実に進んでいるという。

「日本銀行の本店が被災した際の大阪支店のバックアップ機能強化や、万が一、日本銀行の支店が被災した際であっても、管下金融機関が別の日本銀行の支店から現金を引き出せる仕組み(有事現金供給スキーム)を構築するなど、あらたな取り組みも行ってきました」

とはいえ年を追うごとに脅威を増す台風などの風水害、地震、サイバーテロ、さらには今回の新型コロナウイルス感染症まで、想定されるリスクは年々広がっています。もしもの際に的確に対応するために行われるのが、さまざまな状況を踏まえた訓練です。より実態に近づけるため、被災想定内容を訓練参加者に事前告知しない訓練(シナリオブラインド型訓練)を行うことや、取引先金融機関なども含めた訓練を行うなど、訓練はより実践的かつ広範囲になっています。

「業務継続を考えるにあたってここまでやれば大丈夫、ということは残念ながらありません。もちろん、起こりうる全てのケースに備えるのは困難ですが、いざというときに対応するためには、基本型を押さえた訓練の繰り返しが極めて重要になってきます」

さまざまな経験を踏まえつつ逐次更新される体制

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関係機関と連携したシステム障害対策訓練(2019年3月)

同課企画役の大竹真さんもまた、益田さんと交代で有事の際の初動を担います。

「いつ携帯電話が鳴るか分からないので、いつでも対応できるよう常に心掛けています。前任者からは、『災害時ほど、業務継続企画課員は常に冷静であれ』と言われました。そのために、日頃からのさまざまな準備はもちろんですが、過去のやり方にとらわれない柔軟性も大切だと思っています」

2020年は、まさにそうした柔軟性が求められました。コロナ禍では、2014年に定められた新型インフルエンザ(以下、新型インフル)に関する対策業務計画をベースに対応に当たりましたが、新型コロナウイルス感染症の特徴を踏まえ、新型インフルの想定になかった対応も行った、と大竹さんは言います。

「コロナ禍では、当初ウイルスに関する情報が錯綜していましたので、当課としても、走りながら業務継続の在り方を考える部分はありました。徐々にコロナウイルスの特性が分かってきましたので、職員の健康に十分留意しつつ、継続する業務範囲を新型インフルより広げたり、在宅勤務を活用するなどの対応をしました。新型コロナウイルス感染症は終息していませんが、当課では今回の対応で得た本店各部署および全支店・事務所の教訓を、取りまとめて行内で共有しました。こうした取り組みを大事な財産として、今後の体制整備につなげていきたいと考えています」

日本銀行では、大小合わせてさまざまな訓練が各部署で行われていますが、日本銀行だけが業務を継続できればよい、というわけではありません。取引先金融機関や、取引所など金融システムを担う機関と連携して進められる日本銀行金融ネットワークのシステム障害対策訓練のように、外部をも巻き込んだ大がかりな取り組みも実施されています。

 関係する行内各部署との協力体制も常日頃から構築する必要がありますが、大竹さんは職員の意識の高さが大事だと話します。

「いざというときも、国民の皆さまが普段と同じようにお金を使えるようにしなければならない。その使命感、『公』の意識が、有事の際の業務継続を支えています。そうした意識を土台に、各職員が、各自の持ち場で、想像力を働かせ、いざというときに何をしなければならないのかを常日頃から考えることが、頑強な業務継続体制の構築につながっていきます」

南海トラフ地震を想定した大がかりな訓練を経て

写真2

災害対策本部運営訓練には役員も参加

例年9月に設定している「BCP(業務継続計画)月間」には、もっとも重要度の高い訓練の一つであり、総裁と副総裁も参加する災害対策本部運営訓練が行われます。昨年(2019年)までは首都直下地震の想定のもとに訓練が重ねられましたが、2020年は初めて南海トラフ地震を想定した訓練を実施。関東以西の広域を対象としたため、本店ほか国内の24の支店と8つの国内事務所が参加して行われました。その訓練の企画運営を担い、シナリオ作成に当たったのが、同課企画役補佐の宮本浩行さんです。

「南海トラフ地震の想定は、今回が初めて。まずはどういう初動体制・対応が必要なのかを関係者に認識してもらうことが大きな目的でした」

情報連携する支店が多いため、訓練の際には報告が集中し、課総動員での対応が必要となった時間帯もありました。

「一分一秒を争う対応を迫られる事態を訓練で経験しておくことも大事です。また今回は、テレビ会議も活用して、本店とこれまで以上に多くの支店、事務所を結んだ連携の確認も行いました。細かいことですが、有事の際には誰がテレビ会議システムの操作をするのか分かりませんので、全関係者が対応できるように備えることも大切です。こうした小さな気付きを次に活かすことが、災害時の円滑な業務継続につながると思います」

こうして繰り返し行われる訓練とさらなる業務継続体制の見直し。終わりのないこの作業について宮本さんはこう話します。

「当課が準備したことを本当に実行に移すのは、災害などで日本銀行の業務継続が試される場面に直面したということ。そうした場面が来ないに越したことはありませんが、訓練などを通じて、見直された業務継続体制が以前よりも強化されたという実感がやりがいにつながっています」

  • テレビ会議システムを利用して遠隔地の拠点と訓練を行っている様子
  • 災害対策本部に参集した各部署の職員が訓練に臨んでいる様子

南海トラフ地震を想定した災害対策本部運営訓練(2020年9月)

重要なのは実態をともなったよりリアルな訓練を重ねること

写真3

首都圏被災を想定し、関係機関と連絡会を開催(2019年7月)

火災などにより、日本銀行本店の建物で業務が行えないケースを想定した訓練の企画・運営を担当する同課企画役補佐の山田真史さんはこう話します。

「日本銀行本店の建物が使えない場合、役職員は、別の場所で業務を行うことになっています。ただそうした体制を作っても、いざというときに機能しなければ意味がありません。事が起こった際の連絡体制や、業務再開までの手順を関係者間でしっかり共有しておく必要があり、本訓練では、その確認を目的としています。毎年繰り返し行われているような訓練であっても、同じ内容を継続するのではなく、実効性を高めるため、有事が発生する時間帯や災害シナリオを変えるなど、訓練内容の工夫もしています。また、訓練の事前準備に際しては、実際の被害状況などをイメージして、本番できちんと実行できるように一人ひとりの役割を決めてシナリオを組み立てています」

2020年はコロナ禍の影響もあり、訓練を企画する際には、参加人数や訓練メニューの絞り込みや、訓練に参加する職員が密にならないよう配慮するなどの工夫をしたそうですが、そうした中でも、基本的な動作の大切さを山田さんは強調します。

「有事の際は、マニュアルにはない柔軟な対応を求められることが出てくるでしょうが、そうした柔軟性も、基本動作の定着があってこそです。そのため、より多くの職員に日常的に業務継続に関心を持ってもらえるよう、情報の発信など啓蒙活動も続けています。そうした地道な取り組みの積み重ねに加え、近年多発している甚大な自然災害や、コロナ禍も、役職員の業務継続への意識を一層高めています。訓練や被災時対応の経験を経て、職員それぞれが自ら行動できるようになってきている実感があります」


各種訓練や、現在のコロナ禍における教訓や課題は、各部署からの意見とともに集約され、今後の企画や対応に生かされます。皆さんがそろって語っていたのは、その繰り返し、すなわち計画、実行、評価、改善といういわゆるPDCAサイクルの重要性です。

「業務継続体制の構築は、PDCAサイクルの繰り返し。訓練や災害に対応した後でそれを振り返り、次の行動やよりよい体制整備につなげていく。前例にとらわれず、常に状況に即して体制を更新する意識が必要なんです」と話すのは課長の益田さん。

「有事の際に日本銀行の業務に支障を生じさせず、国民の皆さまが安心してお金を使える状況を裏で支えるのが、業務継続企画課の最大の使命。そのために何をしなければならないかを、平時から考え続けなければならない。ただ日本銀行の業務継続は当課だけで実現できるものではありません。日本銀行の職員一人ひとりに当事者意識を持ってもらうことも重要。業務継続は、それぞれが自分の役割を果たして初めて成し遂げられるのですから」

災害が起きても、預金が引き出せて買い物ができる。そうした一見当たり前のことを陰で支え続けるのが、日本銀行業務継続企画課。過去の経験を生かしつつ、日本銀行を取り巻くリスクの変化をしっかりとらえ、中央銀行として業務継続体制の確保にこれからも取り組んでいきます。