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日本銀行情報サービス局 金融広報課の仕事 「人生100年時代」に向けて~広めようお金の知恵、育もう生きる力(2021年3月25日掲載)

人生100年時代といわれる今、高齢化が進行し、キャッシュレス決済が広がるなど、私たちの日常を取り巻く環境や制度は大きく変化しています。また、国民の価値観やライフスタイルが多様化する中で、暮らしを守り、豊かにするために知っておくべきことも個々人によってさまざまとなっています。そうした状況下、人生に役立つ、お金にまつわる情報を広く発信し続けているのが、全国各地の金融広報委員会とその中央組織である金融広報中央委員会です。同委員会は、関係省庁や民間の金融機関・関連団体などと連携し、日々、中立公正な立場から多種多様な金融広報活動を行っています。今回はその事務局機能を担う情報サービス局金融広報課をご紹介します。


人生をより豊かにする金融リテラシーの重要性

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「知るぽると」のロゴマーク

「金融広報中央委員会は、暮らしや人生に関わる金融広報活動を中立公正な立場から全国的に展開しています。日本銀行情報サービス局内に事務局を置き、関係省庁や金融団体、さらには47都道府県の金融広報委員会と連携しながら、常に時代を先取りした金融広報活動を行ってきました」

そう語るのは、情報サービス局参事役(金融広報統括)で、金融広報中央委員会事務局次長も務める小泉達哉さん。同中央委員会では、現在、日本銀行の職員約30名が金融広報に関する業務を行っています。

前身となる貯蓄増強中央委員会の誕生は、今から遡ること約70年前の1952年。その後、日本経済は成長し社会が豊かになる中で、1988年には名称を貯蓄広報中央委員会に改め、さらに2001年には現在の金融広報中央委員会に変更されました。委員会の愛称は「知るぽると」。「知識(知る)の港(ぽると)」を意味し、金融広報委員会を国民の役に立つ金融経済情報が行き交う場にしたいという関係者の願いが込められているといいます。

「前身の組織も含めて、金融広報中央委員会が発足以来一貫して『国民一人ひとりの目線に立ち、暮らしに必要な金融知識をお届けしたい』という思いで業務に励んできました。それを形にし、時代に即した情報を提供するためには、金融技術の進展やライフプランの多様化などの情勢変化に対して常にアンテナを高く張っておくことが大切です。私たちは、金融業界や全国各地域とつながった全国的な組織であり、各方面から多様な情報が入ってくるという強みがありますので、それを十分に生かしていきたいと思っています。

ただ、金融業界サイドの独りよがりの金融広報活動にならないようにしなければなりません。来る時代に、どのようなお金に関する知識や判断力を身に付ける必要があるかを的確に把握すべく、1953年に開始した「国民の金融行動に関する世論調査」をはじめとする幾つかの調査を実施し、それらの結果を私たちの活動に反映させています。こうした調査も重要な仕事です」

お金に関する知識や判断力は「金融リテラシー」と呼ばれます。なにやら難しいことのようにも思いますが、暮らしに直結した身近な内容であり、人生100年時代といわれる今、長い人生を実り多いものとするために金融リテラシーはより重要になっている、と小泉さんは話します。

「個人の資産形成を後押しするような金融制度や商品が拡充される中、金融に関する知識があって、時間を有効に使えば――これを「時間を味方に付ける」とも言いますが――資産形成を通じて老後を含めた人生・生活設計に選択の幅が広がり得ますし、詐欺などの犯罪に巻き込まれるリスクを減らすこともできます。ただ、リタイアの時期や個々人の健康寿命、介護の問題など、年齢が高くなればなるほど人生設計をめぐる事情は千差万別となります。そういう意味では、国民の皆さまに一律の情報提供を行っていては意味を成しません。金融広報委員会に求められるのは、国民各層・各年代が直面する課題に目配りしながら、かゆいところに手が届くような情報提供を実現していくことだと思っています。それによって、国民の皆さまの実りある人生設計のお役に立てればうれしいですし、そうした存在にならねばと常に思っています」

情報を広く浸透させるための各地域との深い連携

金融広報活動を全国で効果的、効率的に行っていくには、47都道府県の金融広報委員会との連携が欠かせません。その各地域の金融広報委員会とのパイプ役やサポート役を担うのが、地域サポートグループ長の福山泰弘さんです。

「地域により文化や人の考え方は異なりますから、関係者と会い、意見交換をしてはじめて分かることは多い。そうした現場の声を的確に金融広報活動に反映していくことも必要です」

全国各地の金融広報委員会では、外部専門家に金融広報アドバイザーを委嘱し、お金に関するセミナーの講師として、学校や大学、自治体、公民館、市民団体などに派遣しています。その回数は約4300回にのぼり、その受講者数は約19万人に至っています(2019年度中)。そうした草の根型の活動を普及させるには、社会情勢や各地のニーズをくみ取り、これに応じた講座を提供していくという不断の努力が必要です。

「金融広報委員会が提供する講座や講演会は、ただ『面白かった』と喜んでもらうだけで終わってはいけません。それを聞いた人に気付きを促し、行動変容に結びつけることこそが成果です。知識を得たことで得をする人を増やすというより、知らないで損をする――人生をより実りあるものとするチャンスに気付かずに過ごしてしまう――人を一人でも減らしていきたいですね」

社会に出る前に備える大学生向け金融教育

金融知識が必要なのは、高齢者や社会人だけではありません。若い世代に金融リテラシーを浸透させるために、金融広報課が行っている活動のひとつが、関連省庁や業界団体とともに講義を行う大学連携講座です。2020年後期は、計9校と連携した講義が進められています。その業務を取り仕切り、ときには教壇に立つのが、金融教育グループ企画役の酒井輝さんです。

「昨今、奨学金返還の滞納や国民年金の未納などが注目されていますが、このように大学生が関係するお金の問題は少なくありません。2022年4月に予定されている成年年齢の引き下げが実施されれば、若年層向けの金融教育はますます大切になると思います」

酒井さんが最も心がけていることは、人生と深く関わる金融の話をするにあたり、聴講する学生の価値観を理解し、寄り添うこと。

「就職や結婚、ジェンダーの問題など、今の若者の価値観は一層多様化しています。学生の考え方を理解し、一方的な価値観の押しつけにならないよう心を砕いています」

2020年度はコロナ禍の影響でオンラインによる講義が行われていますが、結果的に多くの気付きがあったと酒井さんは話します。

「伝えるという点においては対面式講義が一番良いと思っていましたが、チャット機能を利用したオンライン講義では学生からの質問が増えました。対面より気軽に質問できると好評です。双方向性が高まり、講師と学生間のコミュニケーションが深まった面も出てきたと感じています。講義を聞いた学生の金融に関する判断力や行動力の向上につながるような講義内容にしていきたいと思います」

その講義をより良いものにするための貴重な情報収集が、終了後のアンケート調査です。

「非常に勉強になった、役に立つ講義だった、という声を聞くと率直にうれしいものです。ただごく少数ですが厳しい意見もあります。そういう意見にも常に耳を傾けつつ、講座を運営しています」

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    大学での講義の様子(感染対策を徹底して実施)

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    オンラインでの講義の様子(工夫しながら実施)

子どもたちが社会の中で生きる力を得るためお金の大切さを知ってもらう

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金融広報中央委員会が主催する各種コンクールの募集ポスター

2018年から順次実施されている学習指導要領の改訂にともない、就学前の段階から小中学校、高校まで、金融教育に対する関心が高まっています。その教育現場のサポートを担う金融教育グループの早川裕子さんは、担当業務についてこう語ります。

「自分の生活や将来をしっかり考えられる、いわば『社会の中で生きる力』を養うのが金融教育の大きなテーマ。学校では、金融教育を通して、ものを大切にするという生きる上での根本や、生きるためにはお金が必要であり、稼ぐためには働かなくてはならないことなどを、それぞれの学齢に応じて学びます」

ある小学校では、地元の特産品の野菜を自分たちで栽培し、地域のバザーで販売する取り組みが行われているそう。キャッシュレス化が進み、現金に触れる機会が昔より減っている中で成長していく子どもたち。お金への実感が持ちにくい世の中だからこそ、金融教育は重要性を増していくのではないか、と早川さんは言います。

「体験を通して、働くことの大変さや勤労から得たお金で暮らしていることを理解し、働くことやお金の尊さを感じるようになってほしい。また、バザーへの参加といった地域社会に密着した活動を行うことは、自分が住んでいる地域の良さを再認識する機会にもつながっていくと思います。こうした取り組みは、図らずも、コロナ禍で地方の魅力が見直されている最近の世の中の流れとも合っているのかもしれません」

子どもたちへの教育にとどまらず、先生向けの金融教育セミナー(2020年度はコロナ禍の影響でオンライン開催)や、中高生を対象としたお金にまつわる「作文・小論文コンクール」を開催するなど、活動は多岐にわたっています。

「作文・小論文コンクールでは、子どもたちの意外な発想に驚いたり、気付かされたりということが多いですね。キャッシュレスや特別定額給付金の話題など、内容も時代を反映していて、子どもたちの意識も変わってきていると感じています」

雑誌からインターネットまで幅広い発信で金融知識の普及を推進

世代を超えてより多くの人に情報を発信し続けるための広報ツールの一つが、全国各地の金融広報委員会を通じて図書館、公民館や金融機関などに幅広く配布される季刊広報誌『くらし塾 きんゆう塾』です。その編集に携わる金融知識普及グループ企画役の石黒毅一郎さんは、お金や暮らしにまつわるさまざまな情報の提供について、記事によってはマンガを用いるなど分かりやすさにこだわっていると語ります。

「年代やライフイベントなどに応じて必要な情報は異なります。より多くの読者に関心を持ってもらえるよう、各号とも幅広いテーマを取り上げるように心がけています。例えば、相続法改正があれば、時機を逃さず紹介したり、最近ならコロナ禍関連の詐欺・悪質商法の最新事例を特集として取り上げるなど、お金や暮らしに役立つ情報を、世の中のニーズを読みながら掲載しています。読者から、有意義な内容だった、おかげで詐欺被害に遭わずに済んだ、などという声を頂くと、微力ながらも世の中に貢献できているようでやりがいを感じますね」

知るぽるとのウェブサイトでは、広報誌だけでなくさまざまな情報を掲載していますが、最近では、若い世代にも注目してもらえるよう、ツイッターなどSNSも情報発信のツールとして活用しています。

「いくらいい情報を掲載しても、伝わらなければ意味がありません。より効果的に情報を伝えるためには、見せ方の工夫も必要です。ほかの媒体や電車の中づりなどが、どう伝えようとしているのか、という見せ方を意識して見るようになりました」

時代の変化を追う金融広報中央委員会のアンテナのひとつ、「金融リテラシー調査」や「家計の金融行動に関する世論調査」などのアンケート調査の実施も、同グループが担う業務。長年にわたって蓄積した膨大な調査結果のデータは、マスメディアで報道されるだけではなく、大学などでの分析、研究に役立てられ、暮らしや社会に還元されています。


金融知識の普及に努める金融広報中央委員会の業務の特徴は、一般の方々と直接触れ合う機会が多いこと。教育現場から講演会まで、感謝の言葉が励みになるといいます。

今後はeラーニングなど情報通信技術のさらなる活用が検討されていますが、現在でも『くらし塾 きんゆう塾』や知るぽるとのサイトで得られる情報は多々ありますので、ぜひ一度、ご覧になってみてください。人生を豊かに過ごすためのさまざまなヒントが見つかることでしょう。

(肩書などは2020年11月時点の情報をもとに記載)