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質問日本銀行は、景気をみるときに、何を判断材料にしていますか? 「公共投資、輸出入、設備投資、個人消費、住宅投資(各経済主体の支出)」の見方を教えてください。

教えて!にちぎん

回答

日本銀行の景気判断と見通しについて詳細に説明している「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」の「背景説明」を例にして、経済・物価情勢の具体的な判断材料について見てみます。

「背景説明」の「1.経済活動の現状と見通し」では、財(モノ)やサービスに対する最終需要の最近の動きおよび先行き見通しについて、各種統計や企業に対する聴き取り調査等を通じて分析しています。最終需要とは、公共投資・輸出入・設備投資・消費といった各経済主体の支出のことです。

経済全体の景気動向

経済は、国や地方公共団体(政府)、外国の個人、企業や政府(海外)、会社(企業)、個人(家計)などの経済主体によって成り立っています。このような様々な主体で成り立っている日本経済全体の景気動向を把握するためには「GDP(国内総生産)」が適しています。GDP(支出側)では、政府部門による「公共投資」、海外部門による「(純)輸出」、企業部門による「設備投資」、家計部門による「個人消費」と「住宅投資」など、各経済主体の最終需要の動きから、日本経済全体の景気動向を把握することができます。

また、景気動向を的確に判断していくうえでは、労働と設備の稼働状況を捉えることで日本経済全体の活動水準を表した「需給ギャップ」や、長い目でみた日本経済の成長力を映し出す「潜在成長率」も有益です。これらは客観的なデータとして観察できるものではないため、何らかの方法で推計する必要があります。日本銀行では、景気判断の材料とするほかに、皆様の経済・物価情勢の分析に資することも目的として、分析データ「需給ギャップと潜在成長率」を四半期に一度、公表しています。

このように、GDPや需給ギャップなどは、日本経済全体の景気動向を把握するのには有益ですが、より仔細に、よりタイムリーに経済活動を把握するには、GDPの基礎統計も含めた様々なデータを見ていくことも重要になります。以下、各経済主体の支出別に、どのようなデータを用いて景気判断を行っているかについてご紹介します。

公共投資

国や地方公共団体による道路の整備や、公共施設の建設などに係る支出が「公共投資」です。「公共投資」の最近の動向については公共工事の出来高統計などで、先行きは公共工事請負金額や受注高、国・地方の予算といった発注面の動きから、その動向を判断します。

輸出入

海外部門と関係のある最終需要を示すものとしては、輸出から輸入を差し引いた「純輸出」が挙げられます。輸出は日本国内で生産した財(モノ)やサービスに対する海外からの需要であり、輸入は、海外で生産された財やサービスに対する日本の需要です。輸出の増加は、国内の生産活動を活発化させる一方、輸入の増加は、国内需要の一部が海外部門によって供給されることから、その分国内生産の伸びを抑えることとなります。したがって、輸出と輸入の差である「純輸出」の変化を確認することは、国内景気を判断するうえで重要となります。

財の輸出入について、名目金額は貿易統計で把握することができます。ただし、輸出入の動きを実質GDPと整合的に捉えていくためには、価格変動の影響を除いた実質ベースでの輸出入の動きをみることが有益です。日本銀行では、景気判断の材料とするほかに、皆様の経済・物価情勢の分析に資することも目的として、財の輸出入を対象とした貿易統計から価格変動の影響を除いたデータを、分析データ「実質輸出入の動向」として、毎月、公表しています。また、併せて公表している地域別・財別の実質輸出をみることにより、わが国の輸出動向を一段と多面的に分析することが可能となります。

さらに、サービスの輸出入については、国際収支統計が有益です。特に、外国人観光客の国内での支出(サービス輸出に分類)について詳しくみるためには、日本への入国者数や訪日客一人当たり消費額などの動向をみることも重要となります。

財やサービスの輸出入の先行きに関しては、海外経済の成長も含めた海外市場における需要動向や、為替レート(例えば「実効為替レート」)、また企業の中長期的な生産行動に関する調査などから判断することとなります。

設備投資

企業による最終需要として「設備投資」があります。例えば、企業による工場の新設や機械設備の購入、スーパーや百貨店の店舗の新設などがこれに当たります。「設備投資」は、GDP全体の2割程度と高い割合を占めているほか、財(モノ)やサービスの供給能力を形成するため、経済成長の原動力としての役割も果たしています。また企業では、この「設備投資」の増減を通じて、供給能力を需要対比でみて適切な水準となるように調整していることから、「設備投資」の変動は一般に大きく、これが景気変動にも大きな影響を与えます。

「設備投資」の分析に際しては、設備投資に関連する財の出荷状況や、設備投資の先行指標である機械受注等の動きを把握すると同時に、設備稼働率、企業収益、貸出金利などの金融環境、さらには企業の業況感や設備過剰感等、企業の設備投資行動に大きな影響を与える要因をつぶさに見ていくことが重要となります。また企業に対する聴き取り調査から得た情報も、こうした分析を裏付けるほか、設備投資の新しい動きを見出して行く上でも重要な役割を果たします。

個人消費

最終需要のうち、最も大きな割合を占めるのが、家計が財(モノ)やサービスを購入するために行う支出である「個人消費」です。「個人消費」はGDPの5割以上を占めています。家計が食料や衣料品のような非耐久・半耐久消費財、あるいは自動車のような耐久消費財を買う、さらには映画や旅行に行く(こうしたサービスを買う)ことなどを通じて、消費に対する支出を増やしたり減らしたりすることが、景気に大きな影響を与えます。

こうした「個人消費」の分析に当たっては、様々な統計から得られた財やサービスの販売面の動きが重要となります。日本銀行では、財とサービスに関する各種の販売・供給統計を用いて、わが国の消費活動を包括的に表す分析データ「消費活動指数」を、毎月、公表しています。また、伝統的な統計データと比べ入手可能タイミングが早く、頻繁に更新されるオルタナティブデータ(いわゆる「高頻度データ」)や企業に対する聴き取り調査を通じてより直近の動向を把握したり、各種アンケート調査によって示される消費者や小売関連企業のマインド面の動きを丁寧に追ったりすることでも、「個人消費」の基調を判断する手掛かりが得られます。先行きに関しては、消費に影響すると考えられる諸々のマクロ変数(例えば、所得、金利、資産価格、人口動態の変化等)から判断することとなります。

住宅投資

家計部門による最終需要には、個人が住宅を新築・増改築したりする際の支出である「住宅投資」もあります。「住宅投資」は、経済(GDP)全体の数%程度を占めるに過ぎませんが、住宅建築には木材や金属製品など多くの材料や製品が使われるほか、住宅を購入すると、家具や家電を新調するなどの付随的な消費も行われます。このため、住宅投資が経済全体に与える影響は、それが直接的に占める割合以上に大きいといえます。

「住宅投資」の分析に当たっては、新設住宅着工戸数やマンションの販売統計等によって最近の動きを把握するとともに、所得や金利、人口動態といった諸々のマクロ変数によって先行きの動きを考えます。

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