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総裁記者会見要旨 ( 5月21日)

1998年 5月22日
日本銀行

—— 平成10年 5月21日(木)
午後 3時から約40分間

【問】

本日発表の「金融経済月報」で、「生産・所得・支出を巡る循環はマイナス方向に働き始めている」という表現が入ったが、景気の現状認識および金融政策の運営スタンス如何。

【答】

今日公表した「金融経済月報」の中でお示ししたとおり、今週火曜日の金融政策決定会合での経済の現状判断ということで、「景気は停滞を続けており、引続き経済活動全般に対する下押し圧力が強い状況にある」ということが現状判断、一言で言えばこういうことである。

【問】

「生産・所得・支出を巡る循環はマイナス方向に働き始めている」という表現を素直に読めば「デフレに入っている」と日銀が認識しているというふうに受止められるが如何か。

【答】

最終需要面では、公共投資は下げ止まった兆しが窺われる。設備投資は減少を続けている。純輸出も頭打ちである。ただ、個人消費だけは悪化に歯止めが掛かってきているようにみられる一面がある。

そういうことであるから、最終需要動向の弱さを背景にして、在庫が一段と積み上がっており、生産は減少を続けている。

その結果、企業収益も悪化している。雇用・所得環境の悪化も顕著である。このように生産・所得・支出——支出という場合は、設備投資あるいは住宅投資、それに消費が入る訳であるが——を巡る循環はマイナス方向に働き始めていると言ってよいと思う。

この間、物価の方をみると、卸売物価の下落が続いている。消費者物価の方も実勢ベースでみて前年比ゼロ近傍まで低下してきているということで、需給ギャップの水準を踏まえると、物価はなお暫くの間は、全般に軟調に推移する公算が大きいと考えている。

こうした状況を踏まえて、今後わが国の経済が自律的な回復軌道に復していくためには、企業・家計のコンフィデンス——自信——が改善していくということが重要であると思う。

先般、政府の総合経済対策が決定され、これを実施に移すための補正予算案が国会で審議されている訳であるが、今後これが具体的に実施されていけば、景気の下押し圧力にも歯止めが掛かってくるのではないかと見込まれる。

以上のような経済情勢に対する認識に立って、今回の金融政策決定会合では様々な点について討議をした結果、当面の金融政策運営を現状維持とすることを決定した訳である。私どもとしては、現在の経済が厳しい状況にあることを踏まえて、今後ともその展開を慎重に見極めて参りたいというふうに考えている。

【問】

昨日、日銀は給与関係の一部報道に関する調査結果を公表したが、これに対する総裁の考えを改めて伺いたい。また、9月末までに職員給与の支給基準を公表するということだが、現在の都銀上位行並みという水準についての総裁の考え方如何。

【答】

都銀上位行並みというのは、昭和34年の金融制度調査会でそういう方向が示されて、それがずっと職員の給与について守られてきていたのだと思う。特にバブルが大きく膨らんでいく過程においては、おそらく民間の大銀行の方の給与もかなり上がっていったのだと思うが、それにつれて職員の給与も上がっていったということかと思う。

一方、役員の給与というのは公務員並みということで、大蔵省の認可を取っているから、伸びが職員の場合よりも少なかったということで、若干の給与に歪みが出た。

今回色々調べたところ、いつ頃からそういう歪みが出てきたかということが分かった訳で、そういう意味では、──人員を水増しして請求したとかそういうようなことはないことがはっきりしたけれども──、長い景気の変動の間に給与体系に若干の歪みが起こっていたということは、私どもとしても十分反省を要するし、今後もそういったことの給与関係の情報の開示等については、もっともっと意を払って皆さんによく分かるようにしていくべきだということを感じた。

職員給与については、9月までにどういうふうにしていくか、議論をして決めていくことになるので、まだこの段階で私の考えを述べるのは良くないというふうに思っている。

この機会に、一部の報道でこのことが非常に大きく取り上げられて、国会に私自身も何回も参ったけれども、皆さんに非常にお騒がせもしたし、それは本当に私どもの不注意の面もあったと思う。今後よくこのことをチェックしながら、外に十分に——それこそアカウンタブルに——申し開きができる給与体系というものを作っていかなければいけないと思う。そういう意味で今度は反省の良い機会になったと思っている。

昨日、引馬理事から、大蔵省に提出した「(日本銀行法)58条に基づく報告」についての説明をお聞きになったと思うので、細かいことは省略させて頂くが、一応「報告」を受けて頂いて、これで一段落ということになれば良いと思っている。私どもとしても今後十分反省の材料にさせて頂きたいというふうに思っている。

【問】

先般のみどり銀行と阪神銀行の合併公表に関して、旧兵庫銀行の破綻の処理のスキームというかシナリオが不十分であったのではないかという声が強いが、日銀の見解如何。

【答】

みどり銀行の経営再建が10年計画で作られ、その時に日本銀行としても劣後ローンを出したりして、みどり銀行の再建を願っていた訳であるが、結果は、一つは震災後のあの地区の復興状況あるいは資金需要といったようなものが思わしくなかったということ、そしてまた景気全体があの当時考えていたよりも、日本の景気が上昇するところでなく、横這いを続けてきたといったようなこと ——この辺が一つの見通しの間違いであったのかもしれないが、——が考えられると思う。

今度、阪神銀行と一緒になることによって、所謂「県民銀行」として立ち直ってくれればよいというふうに思っている。日本銀行としても、特融の対象にすることは決めているが、——幸い今のところ預金の動きも非常に落ち着いているので、まだ資金は出してはいないが、——(来年)4月1日からの新しいスタートがうまくいってくれればというふうに思っている。

【問】

今日、スハルト大統領が辞任を表明したが、インドネシアを含めた最近のアジアの金融経済情勢、および日本経済に与える影響についてどのようにみているか。

【答】

私もインドネシアは比較的何回も参ったし、前にいた職場でオイルやLNG、燃料を買ったりしていたので関心がある。スハルト大統領は随分長く大統領のポストにおられて、それが色々な形で無理が起こって、多少民衆からも反発を食うといったようなことになっていったのだと思う。

もとよりきっかけは為替問題であり、借入資金が非常に多く、しかもそれがドルで借入れていたために——ドル・リンクの固定相場をとっていたために——競争力もなくなる、一方で返済時のドル買いで大変な損失を生ずるといったようなことで、ここまできた訳である。

IMFが中心になって──、しっかり再建の条件をつけてIMFの援助がスタートし始めたところであっただけに、社会不安が強くなって、ああいう状態の中ではなかなか簡単に経済の再建というものは期待できない訳である。大統領がお辞めになるということを宣言されたと先程ニュースで聞き、これは一つの変化が起こりつつあるなというふうにみている。

ハビビ副大統領が大統領になられるというふうに伝えられているが、政治面、社会面で早く落ち着いてもらわないと、経済的にも正常な復興が起こっていかないのではないかということを懸念している。日本も随分資金を貸してもいるし、物を買ってもいるし、売ってもおり、かなり経済関係の多い国であるだけに、早く落ち着いてもらわないと困るなという感じはしている。

【問】

先般、山口副総裁が金融政策に関して国会議員に行った説明がマーケットでは金融緩和観測として受け止められた。金融政策決定会合では様々な議論が出たとのことであるが、「一段の金融緩和」の議論もあったのか。また、現在デフレの局面にあると考えているか。

【答】

デフレ・スパイラルというのは、私はそちらの方に入っていきつつあるとは思っていない。

山口副総裁のことについては、——これは国会で話したことではないのであるが——国会議員がここへ来られた時に懇談があって、「金利の低下の効果をどうみるか」という話題になった。その時に「現在の厳しい経済情勢の下で、金融面から追加的な措置をとることについてどう考えるか」という質問が出されて、それに対して山口副総裁が答えたのは、「(1)第一に、金利は既に極めて低い水準にあって、これを踏まえると、一段の金融緩和については、金融経済動向やその効果を慎重に検討する必要がある、(2)第二に、総合経済対策の効果は必ず出てくるものであるから、その出方を見極めることが大切である」と二つのことを言った上で、「一段の金融緩和は、企業収益や設備投資等、それなりのプラスの効果を期待できる反面、現在のように家計のコンフィデンスが非常に弱い状況の下では、家計の支出活動をむしろ防衛的にさせかねないといったおそれ——いわば副作用——がある。この両者をトータルして差し引きすれば、なにがしかプラスの効果が残ると思うが、金利水準は既に低いところにあるだけに、副作用がどのような強さをもって現れるかは見逃せない点である。この他の様々な側面にも慎重に留意しながら、現在は、総合経済対策の効果の出方を含めて、情勢の展開を見守っているところである」というふうに答えている。

当日、私自身は出席しておらず、——国会に呼ばれていて出られなかったのだが——「衆議院決算行政監視委員会」の方々にお目にかかることはできなかった訳であるが、もし私がお尋ねを受けているならば、私も同様な答えをしていたものと思う。

最初に二つ申し上げたことの方が重要なのであって、「仮に動かすとした場合に」というような、後の所は、むしろ付随的ではなかったかと思う。

【問】

19日の金融政策決定会合で、「もう一段の緩和を」という議論はあったか。

【答】

政策決定会合の内容については、議事の概要が発表されるまで申し上げる訳にはいかないので、ここではお答えできない。

【問】

最近の為替動向について、総裁はどうみているか。今日発表の「金融経済月報」を読むと、対アジア通貨を含む実質実効レートは若干円安に振れているという表現があるが、ドル、アジア通貨に対して円安になっているという認識でよいか。

【答】

為替相場あるいは長・短金利について、私の立場から足許の相場水準について、あれこれ申し上げることは適当ではないと考えているので、コメントは差し控えさせて頂く。

市場というのは、——特に為替市場は世界的に非常に大きな市場であるから——行き過ぎたと市場が判断した時には、必ず帰ってくるものだというのが、私が申し上げられる限度だというふうに思う。

一番大切なことはやはり日本の経済の動向というか、それに対して打たれていく経済対策というものが、あるいは構造改革といったことが、どの程度スムーズに取り決められ、それが実行されていくかということを内外が皆見ているのであって、そのことが最も大事ではないかと——非常に大きな相場を動かす中・長期には材料になるのではないかと——思っている。そういう意味でも、今度の16兆円の景気対策のディテールが早く決められて、特に公共投資もそうであるが、内容がはっきりし、そしてまた特に不動産、土地の流動化ということを今回、そのために資金——予算——を組み入れてやろうとしている。こうしたことを非常に早くやってもらいたいところだというふうに思っている。

どういう形のものになっていくか、——アメリカでもS&Lが随分と破綻して困っていた時に、やはり土地の流動化が起こって、所謂「SPC」といったものができて、そこが土地を買って、不良貸出、不良資産を(金融機関の)バランスシートから落としていった、それがあの時の金融システムの不安を修正していったという経緯があるが——日本にとっても今そういうようなことが行われていくことが、今回の景気振興・対策の中で取り進められていくことを期待している。

【問】

今日発表の「金融経済月報」をみると、足許の設備投資、企業収益がかなり落ちているのに、先行きは経済対策の効果で歯止めが掛かるということを強調しているが、この点について詳しく説明してほしい。

【答】

設備投資とか企業業績をみていると、確かにおっしゃるように、まだまだという気がするが、個人消費の点ではこの辺で若干底を打っているのかなという感じも出始めている。ここで、先程申し上げた減税を含む景気対策が順調に取り進められていくということは、やはり——従来の例をみてもそうであるが——かなり大きな期待要因、プラス要因になり得るものだというふうに思う。

【問】

昨日の「58条報告」の件に関し、国会に提出した資料では、バブル期のピーク時には700万円位理事と局長の給与が逆転していた。総裁はこの700万円の差を社会通念上異常であったと思うか。また、そうした給与体系の歪みがあった背景には、給与そのものに対する当時の日銀の自己規律の甘さがあったというふうに考えているか。

【答】

700万円というのは、理事と職員最高の給与との格差であろうと思うが、やはりかなりの差であると思う。職員については、業績の良い者には、賞与その他で給与が増えていく。一方で、役員の方は、公務員のベースで、大蔵省の認可を得て決めていた訳である。(職員は)おそらく銀行並みということであるが、あの時点では、民間の銀行もかなり高い給与であった人がいたと思う。ただ、決して700万円が少ないとは思わない。随分差があったなという感じは率直にする。そうした歪みを放っておいたということはやはり甘かったということは言えようかと思うので、それをかなり時間をかけて修正してきて、今はなくなったと思う。これからもそうしたことが起こらないように、給与体系のチェックと、それを外に開示して、十分アカウンタブルなものにしていくよう努めて参りたいと思っている。

【問】

日本の金融システム安定化のために発動した資金がかなり海外に流出しているように見受けられるが、こうした事態が日本・海外の市場に与える影響についてどう考えているか。

【答】

今、日本の経常収支は、非常に大きな、年間千数百億ドル程度の黒字になっていると思うが、それ位の金額がおそらく色々な形で流出していることは、為替相場の動きをみてもそうであるし、国際収支統計をみてもそういう数字が出ている。どういう資金がどこへ出ているのかは簡単には分からない。色々な形で海外に資金が流れていることは、確かであると思うが、公的資金がそちらに出たというようなものではないと思う。随分資金の海外流出が起こっていることは確かであると思うが、それは積極的な投資もあるだろうし、借入の返済もあるだろう。そうしたものの内容を把握することは非常に難しいと思う。しかし、今、まだ流出超(額)が非常に大きくて心配だという類のものではないことは確かであると思う。

【問】

先程「デフレ・スパイラルに入っていきつつあるとは思っていない」旨答えた具体的根拠如何。

【答】

確かに、卸売物価も小売物価もかなり下がってはきている。これは、一つは国際価格が下がったり、あるいは国内の需給のバランスがまだ供給超過の面が多いといったようなことがあるかと思う。どちらが強いかは分からないが、今の段階がデフレ・スパイラルであるというふうには思わない。

というのは、消費の流れにしても、あるいはこれからの生産、設備投資の動きにしても、——企業業績が毎日のように発表されて、予想よりも悪いという所がかなり多いようなので、そういうことで暗くなっている面はあると思うが——、先程から申しているように、政府も民間もこれからどのように日本経済、自分の企業を活気づけていくかということを一生懸命考えている段階であるし、それなりの手が打たれてきている。特に、今回の景気刺激対策は、かなり新しいものを含んでいるし、量的にも大きいものである。これが少なくともプラス要因であることは間違いないので、この動向をもう暫くみていく必要があると思っている。今の状態がデフレ・スパイラルであるとは思っていない。

以上