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後藤審議委員記者会見要旨 ( 6月 9日)

平成10年6月9日・千葉県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

1998年 6月11日
日本銀行

—— 平成10年 6月 9日(火)
午後 5時から約1時間10分

【問】

本日の千葉県金融経済懇談会の模様如何。

【答】

(冒頭、懇談会席上における挨拶を概略説明。)懇談会の出席者から頂いたご意見についてであるが、まず、金利について意見が出された。流通業界をはじめ、何人かの方々から、消費マインドが冷え込んで、客数は増えても、1人当たりの売上げ単価が落ちており、どうしても必要なものしか買わない、という行動が消費者の間に拡がっているとのお話があった。そして、これを改善するには、金利はむしろ上げた方が良いのではないか、というご意見であった。その一方で、建設業をはじめ、多くの企業倒産が増加してきている中で、金利が上がれば、経営を圧迫し景気にとってはマイナスであり、利上げには慎重に対応してもらいたい、との意見も出され、金利については、利上げ、利下げ両方の意見が出された。

また、消費に関して、消費者に向き合っている食品や流通の方々からは、消費マインドとしてはデフレになっているのではないか、とのお話も伺った。また、消費のセグメンテーション——売れるものと売れないものの分化、例えば、「1,000名様限定」などの限定商品は売れても、普通のものはなかなか売れないといった現象——が進んでいるとの指摘もあった。先行きや雇用に対する不安感が消費の足枷になっているので、大幅所得税減税を実施するなどして、これを明るい方向に転換してもらいたいという意見も出された。

観光面では、千葉県はディズニーランドや幕張メッセ、また、成田山など神社仏閣等の観光地を有していることに加え、東京湾アクアラインが昨年末に開通したこともあり、全国平均と比べて落ち込みの程度は低いが、観光客の人数は増えていても、1人当たりの支出額は減少しているとのことであった。

千葉県では、バブルの時期に不動産を購入し、その後価格の下落と収入の減少で、住宅ローンを抱えた個人の破綻が多いとのお話も伺った。これに対しては、資産価格の値下がりに対応した融資や税金に関する特別措置等を講じるなど、温かい手を差し伸べて欲しい、というようなご意見であった。

建設業界の状況に関連して、政府が緊急融資対策を行っても、民間金融機関から融資を受けられずに困っている先は、結局政府の融資基準を満たすこともできないなど、政府・行政当局がこうした実態を把握できていないのではないか、との意見も出された。

また、家計は、源泉徴収後の手取り所得のみを意識しており、納税者としての意識が薄いことが、政治その他への無関心の原因となっているのではないか。したがって、所得税の増税——課税最低限度の引下げ——を行ったうえで、増収分を家計に何らかの形で還元給付することによって、消費者マインドの回復や政治への参加者意識を高めることは考えられないか、といった意見もあった。

景気対策としての公共事業については、土地の購入に向かった分について乗数効果が働かないほか、従来型の公共投資の効率性を点検する必要があるのではないか、との意見があった。

最後に、聖徳太子の肖像がお札から消えた昭和59年以降、バブルの発生と崩壊等、経済がおかしくなったので、ここで聖徳太子の1万円札を復活させるとか、5万円札を発行すれば景気は良くなるのではないか、とのご意見も出された。

【問】

利上げ・利下げ両方の意見を聞いた感想はどうか。

【答】

私からは、今まで金利を引き上げなかった理由ということで、マクロ的には、例えば法人季報をみると、直近の景気の底から97年までの企業の経常利益の増加の相当部分は、特に中小企業では、金融収支の改善によるところが大きいとか、資金循環統計をみると家計部門の利子所得はネットで減少しているものの、企業収益の増加に伴い雇用者所得は増加している、といったことなどを申し上げた。

また、全部ではなく何か選択的に金利を下げられないかとの意見もあったが、これは今の市場経済では難しいのではないかと申し上げた。

【問】

量的緩和論についての考えを伺いたい。

【答】

量的緩和論についての考え方は米国のポール・クルーグマン教授も処方箋を書いておられるが、私は「利下げはできないが量的緩和をすれば良いではないか」という議論については、通貨の供給が増えれば金利に全く影響を及ぼさないという訳にはいかないだろうと思う。今ベースマネーは55〜56兆円あると思うが、そのうち準備預金が約3兆5千億円で残りが現金通貨である。そしてベースマネーは対前年比で8〜10%程度増加しているのに対し、信用乗数が低下を続けて、マネーサプライとしては3%台の伸びに止まっている。これまでの過去の推移からすると、ベースマネーの増加が信用乗数の低下によって相殺されてマネーサプライの増加に必ずしも繋がってこなかった、ということである。これは突き詰めると、一種の信用創造機能の不全という問題ではないか。

日本はデフレスパイラルの入り口に近づいてきているので、量的金融緩和を行い、インフレ期待を創り出し、それによってデフレ要素を打ち消すべきであるなど、色々な論調があって、外国の新聞にも出ているが、中央銀行としてインフレ期待を創り出すことを政策として意図的に行うべきかという問題もあろう。

たった今、通信社の報道を見たら、米国上下両院の合同経済委員会が「日銀は通貨供給量重視型の政策に転換してはどうか」というような報告書を纏めたということである。その報告書もよく読んで、(今週)金曜日の金融政策決定会合までにじっくり考えさせていただきたい。

いずれにせよ、金利と全く無関係な量的緩和論は考えにくく、少なくとも通貨供給量をかなり増やせば短期金利は相当ボラタイルな動きをするということは覚悟しておくべきではないだろうか。一方、長期金利については、国民の期待なり経済に対する先行き見通しによって影響の仕方が違ってくるだろう。いずれにせよ全く金利に関係のない量的緩和は考えにくいのではないだろうか、というのが私の印象である。

【問】

FB(政府短期証券)の市中公募入札を行うべきということについての考え方如何。

【答】

FBの問題について考えるに当たっては、2つの視点があろう。1つ目は、FBの殆どを日銀が引受け、しかもそれがずっとロールオーバーされている点である。財政法の文理には違反してないが、FB本来の趣旨、すなわち短期間の資金繰りを賄うための資金調達を目的としたものであるという点に鑑みれば、30兆円以上も残高があるということについてはどうかと思う。財政法の有権解釈は財政当局である大蔵省が行うことであるが、金額的にも、また、日本銀行が引受けてロールオーバーを続けているということも、財政の透明性——財政というのは歳入と歳出、収入と支出を全て総計する、途中で相殺してはいけない——という点からすると若干問題があるのではないか。

2つ目は、今度のアジア通貨危機という問題を契機に、円をもう少し使い勝手の良いものにし、円の国際化を進める必要があるということで、TB・FBの源泉徴収税問題について与党でも検討が始まっているが、その一環としてFBについても公募入札による市中消化の道を開くということも考え得るかと思う。

新日銀法の下では市中消化をして下さい、とか、日銀が引受けはしないと決めれば済む話ではないか、と言う人もいるが、例えば、FBを原資とする為替介入は急を要する。また、公募入札すればどのくらいの資金量を用意するというのが見えてしまうから、そうすると為替介入の量もわかってしまうという議論もあるようである。そうであれば少なくともロールオーバーはしないとか、FBを公募入札によるFBなりTBに切り替えるというやり方もあると思う。

いずれにせよ、この問題は日銀法改正の時に日銀と大蔵省との間で引続き検討するということで残された宿題で、まだ結論が出ていない部分である。新法の発足に当たって色々なことがあったが、ようやく落ち着いてきたので、これから政策委員会で改めて議論を詰めていこうということになっている。

【問】

先ほど利下げに慎重な理由として3つの理由を話したが、追加利下げも整合的な選択にはなり得ると判断しているのか。

【答】

人によっては、現在の水準がノミナルな金利水準としては最低ではないかとか、もうこれ以上金融政策でやることはないのではないか、という方もいるが、私は理論的にはもう一段、小幅ではあるが金融緩和は選択肢としてあり得ると思っている。しかし、やる場合には色々な影響を考え、そのタイミングについては余程慎重にやらなくてはいけないと思っている。それについては明日から決定会合までの2日間じっくり考えたい。

【問】

それは公定歩合の引き下げという意味だけか、それとも広い意味での金融緩和ということか。

【答】

広い意味(の金融緩和)ととって頂いて結構である。

【問】

市場での金融調節の方法を変えるということも念頭にあるということか。

【答】

あり得るかもしれない。

【問】

利下げに慎重になっている理由がクリアされれば、金融緩和もあり得るということか。

【答】

それがクリアになるかどうかである…。

【問】

委員は今の政策委員会の中で金融緩和に関してはどういうポジションにあると考えるか。

【答】

「タカ派」から「ハト派」までの間でどの辺にいるか自己申告しろということか(笑)。それは答えられない。

【問】

利下げのタイミングを見極める必要があるとのことであるが、タイミングで一番重要視するのは何か。例えば個人消費にしてもあまり回復感がない。また日銀は政府の景気対策の効果を見守っていくと言っているが、秋口になってもその効果の現われ方が小さい場合はある程度考慮するということになるのか。

【答】

それも1つあるであろう。また、前に申し上げたように、政府の経済対策が消費なり設備投資なりに対しどの程度効果を持ち得るかとか

、利下げの対外的な影響をどう考えるかということもタイミングの判断と関わってくると思う。

【問】

140円/ドルを超えた今の円安傾向についての認識如何。

【答】

為替レートについては、日本銀行の審議委員として、高いとか低いとかいう判断を申し上げることはしていない。

【問】

速水総裁は、「円高は悪いことではない」といった円高の効用論を言っているが、水準の是非というよりも、変化のスピードとか、ベクトルについてはどうか。

【答】

なかなか微妙な質問だが答えようがない。ただ、やはりある程度はファンダメンタルズを反映している面があるであろう。

【問】

今の円安が150円/ドルまで行くという見方もマーケットにはあるが、為替レートがそういう動きを示した場合は金融政策の足枷になると考えるか。

【答】

その質問に答えることも予断を与えることになってしまいそうだ。結局、150円/ドルという水準そのものだけではなく、それがアジアだとか香港だとか中国だとか、国際的にどういう影響を及ぼすかということでもって判断していくということだと思う。

【問】

新日銀法になってから金融政策決定会合に政府の方から——大蔵省とか経済企画庁から——必ず出席があるが、そのことが活発で自由な政策委員会の議論に何らかの影響を及ぼしているとは思っていないか。

【答】

思っていない。遠慮していないから。大臣や長官がおられても言うことは言う。

【問】

新日銀法になってから日銀のスタッフとの関係が変わったことはないか。

【答】

全体的に言って、新旧の法律を並べてみるとお分かりのように、議決事項の範囲も拡がったし、業務執行を監督するということも入ってきているので、執行部との接触や議論が今までよりも多くなったということは言えると思う。一言で言うと、3月までと比べると忙しくなった。

【問】

4月になって独立性が高まるという良い変化の反面、この春から色々な事件が起きて、職員の中にも不満が溜まっているとか、萎縮する職員も出ているとか、日銀の組織運営についても問題が出てきていると思うが、こういう問題について委員はどう考え、どのように取り組んでいくのか。

【答】

やはり法律が変わるということだけでなく、その下で新しい体制が新しく組み直されるということには時間がかかるし、一種産みの苦しみも経験しなければならないと思う。

また、独立性を獲得し、保つためには、今までやらなくてよかったことをやらなければならないということも出てきていると思う。国会対応にしても今までに比べれば遥かに多くなっている。やはり、4月1日に新しい法律が施行されたことでぱっと切り替わって、組織としてもあるいは職員の気持ちとしても何の問題もなくいくという訳にはなかなかいかないと思う。ただ、今おっしゃったような職員の士気というかモラールを高く維持しながら、活力のある日本銀行の組織運営や業務運営をどうやっていったら良いかということについては、政策委員会の中でも色々な議論を折に触れて行っている。

【問】

委員は農水次官経験者ということでお尋ねする。先程FBに関して述べたことは外国為替資金証券の話だと思うが、食糧証券に関しても公募入札が適切であるという考えか。

【答】

私が食糧庁長官の時はかなり細かいことまで全部知っている積りでいたが、糧券についてこういう問題があるとは知らなかったので、食糧庁の者を呼んで色々と聞いた。

一度、糧券は残高がゼロになったことがあるが、ここ3年ぐらいの間に米が連続して豊作で、今在庫がものすごく溜まっている。食糧管理特別会計法は、規定の仕方が他の短期証券の規程とは若干違っているが、私は、やはり一番大きな問題である為券の問題についてある結論が出るとすれば、糧券もそれに準じて見直しがなされてしかるべきだと思う。

初めは、糧券もかなりの残高があるので、これは収支の赤字ファイナンスではないかという疑問をもって食糧庁の人に聞いてみた。通常は、糧券を発行して買った米を1年かけて売っていくので、需給均衡する訳であるが、3年間連続の豊作で膨大な米の在庫が発生して糧券の残高が膨れ上がったということで、連続豊作の影響をかなり受けていると思う。

【問】

先程、円安はある程度ファンダメンタルズを反映しているという話があったが、現状の140円/ドル台前後の円相場は、日本経済にとって差し引きするとプラスと考えるか、マイナスと考えるか。

【答】

それは、先程も申し上げたように、中央銀行の立場としてその評価を下すということは慎むべきであると思う。

【問】

先程、貸出債権の自己査定結果を情報開示すべきとの話があった。今は金融機関は自己査定結果を開示していないが、積極的にこれを公表すべきであるという趣旨か。

【答】

やはりそういう形に進んでいくことが望ましいのではないかと思う。大蔵省と日銀が手分けして全部の金融機関に乗り込んで、整理するものは整理し、生かすものは生かすようにすべきだという議論もあるが、やはり今はこういう時代でもあるし、また、各金融機関は、ある程度はそれぞれ個性を持った金融機関であるから、今の「金融再生トータルプラン」と30兆円の資金により金融システムの再活性化をやるという場合にも、情報開示とマーケットの力というものを媒介にして進めていくのが望ましいのではないか、というのが私の意見である。

どこかが「自分のところはここまで情報開示をやりますよ」と一歩進んだ情報開示をやると、他の皆さんもそれについていくということがよくある。そういう形の方が、物差しを上から決めるやり方よりは良いと思う。

以上

第1回千葉県金融経済懇談会出席者

(参考)

(五十音順)

青柳 文二
京葉瓦斯株式会社社長
石井 健太郎
石井食品株式会社社長
磯村 貞雄
千葉県商工会連合会会長
板倉 敬一
浦安商工会議所会頭
大西  明 
マブチモーター株式会社副社長(代理出席)
加賀見 俊夫
千葉県経済同友会副代表幹事
勝又 基夫
千葉県経済同友会副代表幹事
金綱 一男
新日本建設株式会社社長
川口 幸雄
千葉県経済同友会副代表幹事
志村 征一
習志野商工会議所会頭
白石 英夫
木更津信用金庫理事長
菅井 康祐
佐原商工会議所会頭
鈴木 政夫
株式会社鴨川グランドホテル相談役
鈴木 康夫
千葉県経営者協会副会長
玉置  孝
千葉県商工会議所連合会会長
早川 恒雄
株式会社千葉銀行頭取
平島 昭久
株式会社京葉銀行常務(代理出席)
藤野 武美
扇屋ジャスコ株式会社社長
儘田 公明
株式会社ケーヨー専務(代理出席)
免出 都司夫
株式会社千葉興業銀行頭取
吉原 三郎
千葉県経営者協会会長

(以上21名)