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総裁定例記者会見要旨 ( 6月16日)

1998年 6月17日
日本銀行

—— 平成10年 6月16日(火)
午後 5時から約80分間

【問】

今月の「金融経済月報」で改めて厳しい景気認識が示されたが、日銀の景気の現状認識、先行きの見通しと、当面の金融政策スタンス如何。

【答】

本日公表した「金融経済月報」の中でお示ししたとおり、私どもは、「わが国の経済は、最終需要が低迷を続ける下で、生産は減少しており、特に最近は雇用・所得環境の悪化が顕著となってきている」と判断している。

すなわち、最終需要面では、公共投資は下げ止まりつつあるものの、純輸出が頭打ちになっており、設備投資は減少傾向を辿っている。また、個人消費は悪化には歯止めが掛かってきたようであるが、回復感の乏しい展開となっており、住宅投資も一段と落ち込んでいる。

こうした最終需要の弱さを背景に、在庫はなお積み上がっており、生産は減少を続けている。この結果、企業収益がさらに悪化しているほか、最近では失業率が急ピッチに上昇するなど、雇用・所得環境が悪化してきて、この間物価も全般に軟調に推移しているというのが現状である。

先行きについてみると、政府による総合経済対策の効果から、生産・所得・支出を巡るマイナス方向への循環には、徐々に歯止めが掛かることが見込まれる。しかし、雇用・所得環境の急速な悪化等によって、今後経済活動の水準がさらに低下することになれば、そうした財政面からの諸措置の効果が減殺されることにもなりかねない。従って、企業・家計のコンフィデンスを含め、今後の経済活動全般の動きを注意深くみていく必要があると考えている。

以上のような経済情勢に対する認識に立って、今回の金融政策決定会合においては、様々な点についての討議をした結果、当面の金融政策運営を現状維持とすることを決定した訳である。私どもとしては、現在の経済が厳しい状況にあることを踏まえて、今後ともその展開を慎重に見極めていく考えである。

以上が6月の「金融経済月報」ならびに、先週の政策決定会合の結論である。

【問】

4月の失業率が4%台に乗り、卸売物価も下げ基調が続いているが、総裁は景気の現在の経済状況についてデフレ状況に至ったと考えているか。

【答】

最近の物価動向をみると、国内卸売物価は下落傾向が続いている。また、消費者物価も制度変更要因を除くと、僅かながら前年水準を割り込んでいるということで、物価は全般に軟調に推移していると言えよう。もっとも、物価の軟化テンポはこれまでのところ総じて緩やかなものであるほか、物価軟化の一因となっている国際商品市況の下落というのは、企業収益に逆にプラスに作用している面がある。実際、企業収益をみても、価格の下落が引金となって、広範かつかなりの強さで圧迫されるといった状況には至っていないと言えようかと思う。

こうしたことを踏まえて、私どもでは現時点では物価の下落が企業収益の悪化を通じて、さらなる実体経済の悪化を招くといった、所謂デフレ・スパイラルに陥ったとはみていない。

ただ、現在の在庫や需給ギャップの水準を踏まえて、物価はなお暫くの間、軟調に推移する公算が大きいと思う。また、仮に国内需要がさらに弱まる場合には、物価の下落圧力が一段と強まるリスクもあると思われるので、この点も念頭に置きながら、情勢の展開を注意深く見守っていく必要があると考えている。

【問】

「金融経済月報」でも、「経済活動の水準がさらに低下すれば、財政面からの諸措置の効果を減殺しかねない」旨の表現があるが、総裁自身も景気の先行きによっては一段の経済対策が必要だというふうに考えているか。

【答】

まだ効果が出始めるところまではいっていないから、——夏だとか秋口だとかいうことになろうかと思うが——、もう暫く情勢をみていてよいのではないかというふうに私は思う。特に最近の特徴は、景気の低迷ということと、金融システムの不安という二つのものが原因になっている訳であろうが、これが相互に作用し合って経済の足を引っ張っているというのが現状だと思う。

金融システムの安定化について、今日は日本銀行の考え方、見方を総裁談話という形で発表させて頂きたいと思う。

【問】

このところの円安について、アジアや欧米の各国から、円安が世界経済の混乱の震源になっているのではないかという指摘があるが、このことについての認識如何。

【答】

アジアの通貨情勢をみると、確かにドルだけが強い訳であるが、日本の円が弱いということがアジア通貨の下落の原因になっているというふうには私は考えない。円の対米ドル相場の軟化を取り上げて、これがアジアの通貨の下落の一因であるというふうに単純にみるのは間違っているのではないか。

ただ、アジア(諸国)は輸出を増やしていかない限り、彼らも立ち上がり、復興もできないのであるから、そういう意味では、日本はものを買う、そのためには買いやすい相場になった方がよいというふうに思う——円建てで買ってもよい。いずれにしても日本が一番大きな市場であろうから、彼らのものを買っていくということは必要だと思う。反面、日本の輸出がどんどん伸びているということは、——ドルが強いからと言った方がよいのかも知れないが、競争力が非常にあるということで輸出が伸びている──このままいくとアメリカからも、その他の国々からも輸出が伸び過ぎるということを言われる可能性はなきにしもあらずであるが、輸出の増加ということが国内景気の上昇あるいは国内企業の業績の好転には当面非常にプラスになっていることだけは確かではないかと思う。

「トリプル安」——為替相場、株価、債券(の下落)——が言われているが、債券相場については、過去最高値を更新し続けてきた後、小幅反落しており、「トリプル安」という見方は当たらないと思う。また、日本経済の持つ潜在的な技術力とか、あるいは労働の質の高さといったことを踏まえると、日本経済に対する信認がなくなってきた、メルトダウンしてきたというような議論もあまりに極論に過ぎるのではないかということで、賛成はできない。

ただ、現在の日本経済にとって、先程も申し上げたように、「景気の回復」と「金融システムの建直し」、この二つを早期に実現することが最大の課題であるということを、このところ非常に強く感じている。また、このことを世界からも期待されている訳で、これを私どもとしては謙虚に受け入れて、取るべき措置を先延ばししないでやっていく必要があるというふうに思う。

日本経済に対する信認の確保に向けて、現在はわが国としてあらゆる努力を傾注していく局面にあると思うし、私どもとしても中央銀行の立場から、二つの課題の達成に最大限の努力を払っていく考えである。

ここで今、先程から申している後者の「金融システムの建直し」ということをマクロ経済の立場から、内外の信頼の回復を取り戻すという意味で、──先般も経団連とも話合ったし、銀行の先輩方あるいは政策委員の方々、その他この問題を考えておられる政治家の方々とも話をした──今、金融機関にとって、私どもがお願いすべきことというか、「こうやって欲しいのだ」ということを一枚の紙に纏めたので、述べさせて頂く。

1.わが国金融機関の不良債権問題を解決するとともに、金融システムの再生・安定化を図っていくことは、日本経済の回復を果たしていく上でも喫緊の課題であり、可能な限り迅速な対応に努めていく必要がある。

 その際、Free, Fair, Global を基本理念とする日本版ビッグバンと整合的な対応としていくことが重要である。

2.そのためには、情報開示の一層の徹底が重要と考える。わが国でも、この3月期決算から米国SEC基準による不良債権の開示が開始されるなどその拡充が図られてきているが、さらに自己査定の内容についても自主的な開示を進めていくことが選択肢の一つと考えられる。この点すでに、一部の銀行では、自己査定結果の部分的開示を始めている。

 もとより、どこまで自己査定の内容の開示を行うかは、あくまでも個別金融機関の判断によるべき事柄であるが、日本銀行としては、不良債権関連の情報開示が全体として更に進み、これにより不良債権の処理が促進されることを通じて、わが国金融システムに対する市場の信認の回復と金融再生への展望が明確となることを期待したい。

3.不良債権の引当・償却による会計上の処理についてはかなり進捗しているが、これからの問題はこれらを速やかにバランスシートから切り離し、キャッシュフローの改善を図ることである。

 情報開示の徹底は、以上のような日本銀行の考え方の基本的な前提であり、同時に政府・与党において現在検討中の金融再生トータルプラン推進のための諸施策の基盤ともなり得るものと考える。

以上であるが、この時期にこういうことを申し上げるのは、ご承知のように3月期決算で多くの銀行が今度新しく取り入れたSEC方式で、不良資産を摘出し、かなりの償却を進めてきている訳であるが、それぞれの銀行が自ら行っている自己査定による不良貸出というものは──私どもや大蔵省がやっている4分類の中の所謂第2分類の中で不良だと思われるもの──かなりある訳である。そういうものを自らの判断で、不良貸出というふうにして、それに対する引当なり償却なりの措置を取る、その前に自己査定したものを自ら開示する、ディスクローズするということが大切なのではないか。裕りのある銀行は既に3月期にそのことを行っている——27行位がそれを行っている。SECベースとは違った基準で、むしろ自分の判断で、「これは返ってきそうにない」、「これは危ない」——同じプロジェクトへの貸出の中でも「この部分は大丈夫だけれども、この部分は危ない」──というのを分けて、第2分類、第3分類としているところも随分ある。

そういうことをディスクローズすることによって、自分たちも認識を新たにするし、それから外から見ても、「この銀行はこれ位のものを不良貸出だと自ら判断している」ということが分かるということになれば、外から、いきなり格下げが起こったりするようなことがむしろ避けられる。同時に、銀行としては問題の貸出を可及的速やかに引当する、あるいは担保を処分するなどしてバランスシートから落としていく——これが一番大事である。ただ貸出と担保を持っていることによって、どんどん担保は値下がりする、貸出の方はますます出しにくくなる、それで損失が大きくなっていくというのがここ数年の動きであった訳である。

バブルがはじけてから、既に7年余りを経て、まだ日本の金融機関の不良資産・不良貸出が多く残っているということは、やはり他の国と比べても、かなりいわば恥ずべき事態だと思うし、これが残っている限り内外の日本経済をみる目がどうしても明るくなってこないというのが、先程申し上げたように、最近の景気の低迷の大きな原因ではないかと思う。

政府も、「トータルプラン」という計画を立てている——おそらく、不良資産の対策を法制化して、土地の流動化とか、あるいは買取りの特別機関を作るとか、そういうようなことが行われていくであろうと思う。しかし、それを待っていたのでは、とても9月、10月には間に合わないのではないか。それまで何もしないでじっと、先程申し上げたような状況でいるとすれば、やはり外からみる目はますます暗くなっていく。ここで、やはり「本当に心配な貸出はこれだけですよ」ということを自分で判断して、それをディスクローズする。それに対して可及的速やかに自分たちの考えた対策を打っていく——そうやってバランスシートの中から不良資産が落ち、バランスシートの中身が良くなっていくということが早く行われていくことを期待している。

既に27行が行っている訳であるから、私どもも「こういうことをやって欲しいのだ」ということをこの機会に発表した訳であるが、今後の考査、あるいは——金融監督庁も近く動き始める訳であろうが——検査の場合に、「自分たちの行っている自己査定の不良資産はこれだけです」(と確認し)、これをそれぞれの金融機関が力に応じてもっとも適当と思われる時、方法でディスクローズをする——というよりも自己査定し、ディスクローズをして——それに対処する手を打っていくということを期待している。そういう意味では、できるところは可及的速やかにそういう手を打って頂きたい。

ご承知と思うが、SEC基準の不良資産と自己査定ベースの不良資産は、かなり食い違いがある訳である。そういうものを本当に自分の銀行で「これは早く(バランスシートから)落とした方がよい」と思うものを落としていってもらいたい。それが行われていかない限り、なかなか金融システムの明朗化というものが進んでいかないのではないかというふうに考えた次第である。

【問】

前回の会見で、全銀協の岸会長が、分類債権の公表についてはやや消極的な方向を打ち出したと思うが、総裁も、あくまで個別行が自主的な判断において開示するのが望ましいと考えているのか。

【答】

そう思う。

【問】

全銀協で縛りをかけるということではなく、あくまで個別行の自主開示という方向か。

【答】

然り。

【問】

円安がこのところ続いている中で、今日一部の報道で、政府の高官がこの円安の局面で協調介入が一回位あったのではないかというようなことを発言したと伝えられているが、これについてはどうか。

【答】

私は為替相場のことは公には申し上げる立場にないので、相場のこと、また介入のことについては何も申し上げる訳にはいかない。

今日、参議院の予算委員会でFB——外為証券を含む——の質問があり、ご承知のように30兆円近いものを日本銀行が引受けてきている訳で、私も説明し、大蔵大臣も説明をされ、総理からも最後にお口添えがあったので、そのことを少し披露させて頂きたい。

FBは伝統的というか慣習的に日本銀行がほぼ全額について、現在は 0.375%という金利で引受けて、外為会計に必要な円資金を2か月——60日——供給している訳である。政府短期証券には、外為証券、大蔵省証券、食糧証券があり、FB(Financing Bill)と言われている、これはほぼ全部日銀引受ということになっている訳である。これは政府が発行する短期の国債であるから、ロンドンでもニューヨークでもそうであるが、今度日本が作ろうとしている、いわゆるビッグバンによる国際金融市場では、最も信頼のあるしかも使い勝手の良い、投資しやすいBillであるはずである。

ビッグバンを4月1日から始めたこの機会に、円の国際化ということが言われている最初の一つの課題として、これを日銀引受でなく、市場公募の形で——市場で公募して売買もするし、日本銀行も必要に応じて買ったり売ったりもするというふうに——切り替えていこうということを考えている訳である。これは諸外国でも皆そうしている訳であるが、一国の通貨が国際的に使われるためには、その国の経済が健全であること、通貨の価値が安定していることなどのほかに、海外からみて使い勝手の良い短期金融市場が整っているということが条件になる訳である。短期金融市場の整備のためには、信用リスクがなく、海外からも保有ニーズの高い「短期の国債」の一つとしてFBというものの市場を作っていくことが重要であるというふうに私どもは考えている。また、FB市場を作ることは、ビッグバンの出発点としてもまず取り組むべき課題だと思う。

もう一つは、中央銀行と政府の関係の観点であるが、長い目でみて通貨価値の安定を維持するためには、中央銀行による政府向け信用は極めて限定すべきである、という考え方が国際的にも確立している。

こうした観点を踏まえると、FBの公募入札化とその市場を創設していくということは、早急に実現することが望ましいと私どもは考えている訳である。

勿論、FBの公募入札化に当っては、国庫の円滑な資金繰りを保証しなければいけないし、介入の機密性確保といったような要請にも配慮する必要がある。ただ、私どもとしては、これらの点については技術的に十分対応可能と考えており、中央銀行として、市中公募、市場を創っていくことについて、できる限りの協力を尽くしてやっていきたいと思っている。これはまさにビッグバンによる市場創設の第一歩になるべきものだと思う。

以上の考え方については、政策委員会においても既に何回か検討を重ね、共通の理解が得られている。こうした政策委員会の総意を踏まえて、執行部に対しては、国庫資金繰り等の問題にも配慮しながら、FB公募入札のための具体案を取りまとめて、関係者の理解を得るよう、強く指示をしている訳である。

私どもとしては、引続き関係者の理解を得て、可及的速やかにFB市場の創設が実現するように努力を払って参りたい。こういう考えでいた時に、FBがかなり国会でも取り上げられて、今日も参議院予算委員会で、日本銀行はどう考えているかという質問があり、今申し上げたようなことから、円を国際化していく第一の手段としては、例えば円で日本に輸出し、円の代金をアジアの人たちが貰ったり、その円の代金を一週間なり十日先にはまたどこかで使うから、それまでは運用しておきたいといったような場合に、東京市場にあるFBに運用して、十日間でも収益を稼ぐことができる、最も信用のできる運用方法としてそういうことができるようにしていくということが、円が国際化され使われていく方法だというふうに考えているというようなことを申し上げた。大蔵省の方でもご検討はされているようであるが、最後に総理から、「今、日銀総裁から提起された問題は、大蔵大臣にもむしろ私は積極的に検討すべきことではないのかということで、改めて指示を致した」ということを国会でおっしゃった。これはなるべく早い時期に実現できるように私どもも努力するが——これは市場を創っていく訳であるから、内部的にも色々準備を要することではあるが、——皆さん方も一つビッグバンの第一歩という意味で、色々な形でご協力頂ければ有難いと思う。

【問】

これまでに自己査定について公表している地銀などが出している数字は、おそらく第3分類、第4分類についてだと思うが、どこまで公表すべきと考えているか。また、自己査定については、米国でも公表されていない訳であるが、何故日本で公表しなければいけないのか。

今日の総裁談話は、日銀の統一見解ということなのか、個人的見解ということなのか、またそれを業界にどう伝えるのか。

【答】

日銀の統一見解である。それから分類について、どういうふうに自己査定していくかということは、各行がそれぞれの判断で行うことである。また自己開示をするかしないか、これもそれぞれの銀行が判断すべきことであって強制すべきものではない。

業界には会長には事前に話をしてある。しかし、それぞれの協会に話すということはしていないが、これは各行がそれぞれの判断でやって下さい、ということをお願いする意味で申し上げた訳である。

【問】

日銀の統一見解ということは、政策委員会で決定したということか。

【答】

諮っている。

【問】

円安はアジア諸国の通貨安の原因ではない旨発言したが、先程も──確か中国のスポークスマンとしか書いていなかったが──日本及び関係のある諸外国に対して円安を止めるために、何らかの措置をとって欲しいというような報道があったが、その辺はどのように考えているか。

【答】

私はそれを聞いていない。為替はそれこそ世界中ワンマーケットで24時間フリーに動いているマーケットだから、そう簡単に相場を動かすということは(難しいし)、これは市場に任せるしかないのが普通だと思う。ただ、市場が行過ぎることはよくあることで、行過ぎた場合には、市場は普通は後になって戻してくる——市場が大きければ大きいほど——そういう修正力というものを持っていると思う。

【問】

「金融経済月報」で、「雇用・所得環境の悪化等により、経済活動の水準がさらに低下することになると、財政面からの諸措置の効果を減殺することにもなりかねない」と書いてあるが、仮にそういうことが起こった場合、金融緩和というのは有効な手段になり得るのか、それとも、そういう場合は財政で対応すべきなのか。

また、先週の金融政策決定会合で、賛成多数で金融政策の現状維持を決めているが、反対意見はどのようなものだったのか。

【答】

政府の景気対策というものが効果を現さない、ということがどういう形で起こってくるのか、私はちょっと想像ができない。これは、真水12兆円と言っている訳だし、──特に私どもが非常に期待しているのは、土地の流動化のために買取り機関を作ったり、あるいはSPCというものを官民で作るとか、デューディリジェンスとか、サービサーとか、土地の虫食いなどを調整する会社を作っていく——これは官民で作るのか、官が作るのか、民が作るのかその辺のところはまだ分からないが——そういうような今までになかった土地の流動化に必要不可欠な法律的な問題、あるいは技術的な問題を処理する機関を作りながら、不動産の売買を活発にしていこうと——そのことが不良資産の解消の道であるというふうに——おそらく政府は考えて、そういう法案を今準備しているところだろうと思う。従って、それが全然効かなかった場合に、どうなるかというところまでは、今は私は知恵もないし、考えも及んでいない。

それから二つ目の金融政策決定会合の結論が全員一致ではなかったということについて、今度は8時間を超えるロングランの議論を行った訳だが、先程も申し上げたように、議論の中心は現在の景気局面を踏まえて、デフレ・スパイラルに陥るリスクをどの程度見込むかといったような点とか、最近の金融市場の動向をどうみるか、といったようなことが、判断、論争の対象になった。私が先程申し上げた景気、物価等に対する判断は委員の大勢意見としてのものであると、そういうふうにご理解頂きたいと思う。

 金融政策の運営については、これまでの金融緩和基調を維持して、経済活動を下支えしていくべきという意見のほかに、経済活動が一段と厳しくなっているという判断の下で、準備率の引下げを行ってはどうかというような意見とか、無担保コール・オーバーナイトレートの誘導目標を微調整してはどうかというような意見もあった。さらにやや異なった観点からの論点として、金融調節方針の中にあるコールレートの誘導目標を、定量的に示してはどうかという意見もあった。

これらの討議を経て今回の決定会合は現状維持の方針が賛成多数で決定された訳である。

【問】

経済対策に期待をしているというのはよく分かっている。一定の効果があるというのも分かっているのだが、「効かないかもしれない」と言っておきながら、「(効くか)どうか分からない」というのは如何なものか。

【答】

それは何が起こるか分からないのだから・・・。それは当然何もなければ効くだろう。16兆円の景気対策だから。ただそれはすぐに効くものでもない——おそらくこれも8月とか9月とかいう色々説が分かれているようである——。どの程度効くかというのは、なかなか計算は色々あるだろうが、これから先のことは、「必ずこれが景気を浮上させるんだ」というふうに言い切る訳にはいかないのではないか。情勢はやはりみていかなければいけないと思う。

【問】

自己査定のところに戻るが、先程第2分類の中に不良だと思われるものはかなりあるという話だったが、第2分類について、妥当な引当はどの位になるのか。もう一つはSEC基準の不良資産と自己査定で不良資産をみる場合の見方は、かなり食い違いがあるということであったが、具体的にどのような違いがあるのか。

【答】

第2分類というのはご承知の通り、「回収について通常の度合を超える危険を含むと認められる債権等の資産」ということだから、もともと全部が全部安全なものではない。それぞれの銀行が、ご自分で「これは第2分類である」というふうにみて入れられるものを——ご自分のことだから一番よく分かっているはずであろう——公表する——どれとどれがどうだということではなくて——第2分類がどれ位といったような公表の仕方は十分あり得るというふうに思う。

【問】

先程の答えを窺うと、先週の金融政策決定会合で、賛成しなかった委員は3人いると受け止めてよいのか。

【答】

案はいくつかある。自分で出した案が通らなくて、原案に賛成という委員もいる。人数は申し上げる訳にはいかない。今申し上げたような点で、意見が分かれたことは確かである。

【問】

第2分類の開示に関しては、それを開示することによって貸出を圧縮したいというインセンティブが働く傾向があり、その結果として信用収縮が進むという見方もあるが、それについての見解は如何か。

【答】

これからそれぞれ自己資本が足りないというところは自己資本を増やす方法を考えるであろうし、一概にそれがクレジット・クランチに繋がっていくとは思わないが、色々なケースがあるだろうと思う。発表をとてもできないというところは、「無理に発表しろ」と言っている訳ではないので、「自分たちで自己査定をして、自己開示ができるところはどんどんやって下さい」ということを、一般的にアナウンスし、日本銀行の立場として申し上げている。

今、先程も申し上げたように、銀行の不良資産の整理、あるいは特にバランスシートから外していくことについて、これは皆さんそれぞれのご判断でやるべきことであって、やって悪いということはないはずである。「できるところからどんどんやって下さい、このまま先延ばししていったのでは、やはり損失がさらに大きくなっていく可能性がある」というふうに判断するからである。

【問】

日銀のバランスシートが水膨れしているという見方もあるが、こういうことが円の信認の低下、円売りに繋がっていると考えているか。

【答】

それは直接関係ない。確かにバランスシートをみると、去年よりも今年は随分増えている訳であるが、これはそれぞれRepurchaseの現金担保で国債を借りるということをやって、資産・負債を二重に計上している。そういうオペレーションをやっていること自体、——これが良いことか悪いことか分からないが——、非常に有効な金融調節手段であることは間違いない。また、中期・長期の資金を放出して、それを売出手形で必要に応じて吸収していくというやり方が、特に有効に機能してきた。短期金利を調整していくには、非常に有効な手段であったことは間違いないと思う。

マーケット・オペレーションをやっていくという意味では、先程申し上げたように、TBやFBなどが、オペの対象として、市場と日銀との売買にうまく使えることができればそれに越したことはないと思う。ご承知のように、今までは、市場で売れない金利で引受けているので、これはオペの玉としては使えない訳である。そういうこともあったということは、ご理解頂けると思う。そういうものをなるべく自然のものに切り替えていく。例えばCP然り、あるいは社債然り、そういう銀行相手の直接取引でなく、市場相手にやっていくウエートがこれから大きくなっていくと思うが、そうした玉を作って、金融市場を作り上げていくというのが、これからの課題ではないかと思っている。それには企業や個人、内外の機関投資家が、その市場で売買を行っていくということが、これからのビッグバンの一つの目標として考えられている訳である。そういうことによって、投資家と企業とが、銀行を通じてではなくて、市場を通じて直接、資金の調達あるいは投資の選択ができるようなマーケットになっていって、日本がこれまでずっととってきた、所謂間接金融方式というか、お金のある人が銀行に金を預けて銀行がそれを企業に貸すというやり方が主流をなしてきた今までの金融組織というものが、市場を通じて、投資家と企業家とが資金調達・取引関係を作っていく——その仲介を色々な金融機関が作っていくということがウエートとして大きくなっていくというのがこれからの方向ではないかと思う。

そういうふうになってくれば、自ずから今の日本銀行のバランスシートの内容も変わっていくであろうと期待している。私は今のあり方が悪いとは必ずしも思っていないが、ややartificialな感じで資産が膨らんでいくということは、去年との比較では言えると思うし、特融も約3兆円出ているので、そうしたことも含めて資産が膨らんだということはあると思う。

【問】

先程、「円安は他のアジア通貨安の原因ではない」旨発言したが、現に中国の当局からも円安に対して懸念が示されている。円安が人民元の切下げに結び付くような可能性をどのように考えているか。

【答】

人民元と円の関係はやはり市場の関係であるから分からない。

私はやはり、今度のアジアの問題が起こったのは、ドルだけが基軸通貨であって、ああいうどんどん伸びている国々がドルにだけリンクしていたということに問題があったのだと思う。

ドルが弱い時は彼らの通貨も競争力があるからどんどん輸出が伸びていくが、ドルが強くなってくると、彼らの通貨は競争力がなくなって輸出が伸びなくなる。しかも、ドルで大口に借りていた資金を返すには、強いドルに対して巨額のローカル・カレンシーを積み上げないと返済できない。そういうことが大体共通したことであった訳で、もしドルだけでなくて、──これはかねてからの私の持論であるが──円とドルに分けて外貨を持ち、そして取引も円でやれるところは円でやる。今もドルが確かに強いが、円とアジア諸国の通貨の開き、動きはそんなに大きくない訳であるから、円でやった方がよいという取引はたくさんあったはずである。あるいは、リンクするという場合にも、円とドルをバスケットにして、──そのパーセンテージは50:50にするか、40:60にするかは分からないが──ドルが強い時は円が弱い、ドルが弱い時は円が強いというのは、過去50年の円−ドルの流れをみればすぐ分かることなのだから、両方にリンクしておけばこの間のようなことは起こっていなかったはずである。

そういうところへユーロができてきたし、将来の中期・長期のことを考えると、米ドルだけの単一の基準通貨制度は、やはり無理がある。大きな経常収支の赤字で、各国に払ったドルが、他の国々で主要な基軸通貨として使われている。そのこと自体、長年続いてきたことであるが、それによって随分今までもカレンシー・クライシスが起こった訳で、やはりこれから先を考えると、投資や貿易がどんどん増えていく、あるいは国際的な金融取引がどんどん増えていく時にドルだけが基軸通貨であることには無理があると思う。

そういう意味では、複数基軸通貨——マルチ・キー・カレンシー・システム——というものができていくのではないか。今度もユーロがおそらくその仲間入りをしていくであろう。また、円も、これだけの強い経済力を日本経済が持っており、しかも1兆ドルもの対外資産超過を持っているし、1,200兆円もの個人の金融資産を持っている。さらに毎年1,000億ドル以上の経常収支黒字を貯めている日本が将来基軸通貨の中に入っていくことは、極めて自然な流れである。経済力があり、通貨は——今でこそ少し弱くなっているが——中長期にみてずっと強くなってきている訳である。

問題は使い勝手だけであった。使い勝手が全くといってよい位なかった。それをビッグバンで作っていこうということである。円の国際化というのは、この頃漸く言われ出したが、意味するところはそういうことであって、円を使いやすい通貨にしていくようなマーケットを東京に作っていこうということである。

こちらから(資金が)出ていくだけでなく、外からもどんどん国内に入ってくるのを自由化して、それが便利な、使い勝手の良い資産に運用できるようなマーケットが東京にできるようにすることを今やろうとしているのである。そういうものができていけば、円が基軸通貨の一つになって、ドルのバーデンというか重荷をシェアしていくことは十分起こり得ることであるし、そのことはそれほど不自然なことではない。

従って、米ドル・ユーロ・円が、中期・長期にみれば、マルチ・キー・カレンシーということで、世界の貿易金融の一つの基軸、キーになっていく日が必ず来ると私は思っている。

【問】

総裁の話からは、円とアジア経済は相当関係が深いように思われるが、「アジア通貨安と円安は関係がない」という根拠は何か。

【答】

直接関係はないのではないか。

「円」は円−ドルの関係で弱い訳であり、これは先程から申し上げているとおり、日本の景気、そして金融システムの安定感がまだはっきりしない、この二つのことで、ドルに対して弱い訳である。同じような見方をアジアもしているかもしれない、ヨーロッパもしているかもしれない。

【問】

「とるべき措置を先延ばししないことが重要」の「とるべき措置」とは、「自己査定のディスクローズ」のことだけか、それとも「不良債権の引当を十分に行う」ことも含むのか。

【答】

自己査定をやって、自己開示をやって、その上でどういう償却をやっていくかというのは、それぞれの銀行の判断である。今やるのがよいのか、あるいは資本を増やすのがよいのか、そういう判断はそれぞれの銀行がやってよいことだと思う。

【問】

先程、このままでは9、10月までに間に合わないという危機感を表明したが、何が間に合わないのか。

【答】

それは、今の政府の措置である。

【問】

政府の経済対策の効果が出るのを待っていたのでは市場からの「狙い撃ち」に持ちこたえられないということで、「ディスクローズが大切である」という話であったのか。

【答】

持ちこたえられないというよりは、それぞれの金融機関の不良資産の償却なり、あるいはディスクローズなり、改善なりということが、先送りになりはしないかということである。

【問】

不良債権の処理を先送りしている銀行があるという判断か。

【答】

それは、そうである。

【問】

それは、日銀考査等を通じて分かったことか。

【答】

それもある。(バブル崩壊後)7年かかってまだ消えていない訳であり、これは先送り以外の何ものでもないのではないか。

【問】

今3月期決算では、皆「不良債権の処理は終わった」とのことであったが、「そうではない」という判断か。

【答】

皆終わったとは言っていないのではないか。

【問】

少なくとも、会計上の処理は終わったとのことであった。

【答】

やるべきことはやったかもしれない。しかし、まだ不良資産は残っている。

【問】

総裁の判断としては、「銀行の不良債権の引当がまだ足りない」ということで「自己査定をディスクローズしろ」ということではないのか。

【答】

引当もまだ十分行っていないかもしれない。また、各行が、「これは危ない」と思って、まだ手をつけないでいるもの——おそらく第2分類に入っている多くのものであると思うが——SECベースでのリスク管理でやったものだけで、「すべて終わった」とは私は思わない。

【問】

要するに、第2分類でも償却すべきものが多数あり、それがまだ十分行われていないということか。

【答】

そういうことである。

以上