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政策委員会議長記者会見要旨 (9月9日)

1998年 9月10日
日本銀行

—— 平成10年 9月 9日(水)
午後 7時35分から約20分間

1.冒頭説明

政策委員会議長(速水総裁)が「金融市場調節方針の変更について」(別添)を読上げ。

2.質疑応答

【問】

3点質問する。1つは、今回の低め誘導強化の決定に当って、全員一致の決定だったのか、またその狙いは何か。2点目は、今回の措置によるメリット、デメリットをどう考えるか。3点目は、国際協調の流れの中の判断なのか、海外市場への影響をどう考えて判断したのか。

【答】

ご質問の「全員一致であるかどうか」は、大多数であるが全員一致ではない。本件の狙いは、今読上げたとおりである。資金供給を今以上にもっと潤沢に行うように金融緩和をしていくということである。

メリットは今申し上げたとおりであり、「デメリットがあり」とすれば、当面、為替にどう響くか——理論的には多少円安になるのかもしれないが、今は幸いにしてかなり円が戻している時であるから、一時的には円安に動いても、また戻るものだというふうに、自分は思っている。それと、預金金利には殆ど影響ないと思うので、消費者の方々、あるいは預金者、年金生活者のお気持ちは分かるが、それよりむしろ金融・経済が活性化して、景気がよくなっていくことが(大切で)、金利低下で企業も伸びていくし、経済の活性化に役立つというふうに考えている。

国際的な話合いは一切ない。日本だけの現状をみて、あるいは先行きをみてとった措置である。

【問】

今回の金融緩和は、執行部からの提案だったのか。

【答】

政策委員会議長の提案である。

【問】

今回政策変更がなされたのは、何が一番変化したからか。

【答】

実体経済がうんと悪くなってきていることが、第一に申し上げなければならないことだと思う。それから、金融市場においても金融不安を何となく皆心配し始めている訳であるし、金融安定化のためにも、このタイミングが適当であると判断した訳である。

【問】

公表文に「コールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」という文言があるが、これは一部委員が言っていた量的緩和の考え方を今回取入れたということか。

【答】

量的緩和をする方法として金利を下げるということも、結果としては量的緩和ということになるだろうと思う。

【問】

公表文に「マネーサプライの拡大を促していく」と書いてあるが、これは金利が下がると同時に緩和を続けていって、マネーサプライが増えてくるまでこのスタンスを続けていくということか。

【答】

然り。

【問】

今回、コールレートの誘導目標の引下げだけで、公定歩合の引下げをしなかった理由は何か。

【答】

公定歩合はご承知のように95年に0.5%に引下げた訳である。0.5%ということで日本が金融緩和をやっていくということは十分分かる訳で、実質的には、ご承知のようにコールレートの操作が、今金融政策としては当面の課題になっている訳である。そういうことを考えて、今回は公定歩合を据置いて、——日銀のスタンスを示すアナウンスメント効果という意味では、確かに公定歩合引下げというのは大きく伝わるのかもしれないが、——実質的にはオーバーナイトの無担保のコールレートを平均的にみて0.25%前後にもっていくということにした。今コールレートは公定歩合を少し下回る線でということになっていた訳で、──それで0.4%~0.45%といったような平均であった訳であるが──、今度0.25%前後というふうになっていく訳で、実質的にはこれは大きな意味があると思う。

【問】

本日の政策委員会で、マネーサプライの誘導目標をアナウンスしようかという議論はなかったのか。

【答】

それはない。

【問】

低金利が続いた結果、不良債権を持っていることによるコストが下がって、色々な構造処理の問題が進まなかったという批判がある中で、改めて更に金利を下げると、これで処理がまた先送りになるという懸念はないか。

【答】

構造問題と言われると、不良債権を早く整理するということか。それは、金融システム問題を解決していく意味では、最も大切なことであるけれども、同時に一方で、金融不安が募っていくということは、ますます不良資産を増やしていくことにもなっていく訳であるから、この所はむしろやはり経済を活性化していくということが、今の大切なことだと思うし、市場に資金を潤沢に供給して、銀行の資金繰りを良くして企業に資金を送り込むと——特にこの9月末を控えている訳だから——そういう意味でも、ここで必要な資金を潤沢に供給するということが大切だと思う。そういう効果は十分期待できると思っている。

【問】

無担保コールレートのオーバーナイト物の金利を平均的にみて0.25%前後で推移するよう促すということだが、どういう水準まで許容するというか、テクニカルにどこまで低下させることができるかという問題も含めてどう考えているか。

【答】

平均で0.25%前後ということだから、その前後で平均が出ていれば良い訳である。公表文の尚書きのところで申し上げた「金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う」ということは、殆どの委員の皆様が賛成し、あるいは自己主張したところである。

【問】

銀行発行CPと社債の買入れオペについては、実施する考えはあるのか。

【答】

銀行発行CPオペについては、まだ結論を出していない。社債の買入れもいずれ必要であれば実行されると思うが、当面はCPオペとレポオペで十分資金供給できると思っている。

【問】

今回の政策のトップ・プライオリティーは、銀行の資金繰りをよくすることにあると考えてよいのか。

【答】

金融市場に資金を潤沢に供給するということである。

【問】

マクロ経済押上げの効果はあるのか。

【答】

銀行が資金潤沢になれば、貸し渋りも本当はなくなる訳である。

以上


(別添)

1998年 9月 9日
日本銀行

金融市場調節方針の変更について

  1. (1)日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、金融市場調節方針を一段と緩和し、以下のとおりとすることを決定した(賛成多数)。

無担保コールレート(オーバーナイト物)を、平均的にみて0.25%前後で推移するよう促す。
なお、金融市場の安定を維持するうえで必要と判断されるような場合には、上記のコールレート誘導目標にかかわらず、一層潤沢な資金供給を行う。

  1. (2)わが国の景気は全般に悪化を続けており、物価も軟調に推移している。金融面でも、民間銀行貸出が減少を続けるなかで、マネーサプライの伸びは緩やかなものとなっている。この間、金融資本市場では、金利のリスクプレミアムや株価などに不安定な動きがみられる。
     今後、総合経済対策の実施等によって、景気のさらなる悪化には徐々に歯止めがかかるものと期待される。しかし、経済活動の水準はすでに相当低下している。また最近の金融資本市場の動向や企業倒産の増加等が、企業や家計のコンフィデンスを一層低下させるおそれがある。これらを踏まえると、先行き、景気や物価がさらに下振れる可能性も必ずしも否定できない。
  2. (3)日本銀行は、インフレでもデフレでもない、「物価の安定」を金融政策運営の目標としている。上記のような金融経済情勢を踏まえて、日本銀行は、経済がデフレスパイラルに陥ることを未然に防止し、景気悪化に歯止めをかけることをより確実にするため、この際、上記の金融緩和措置を採ることが適当と判断した。
  3. (4)日本銀行としては、上記の金融政策運営方針のもとで、引き続き潤沢な資金供給に努め、これを通じて、金融市場の安定に万全を期すとともに、マネーサプライの拡大を促していく考えである。
  4. (5)日本経済にとって、現在、景気の回復と金融システムの建て直しは、一刻の猶予もならない課題である。今回の金融緩和措置が、これらの課題の克服にも資することを期待するとともに、関係各方面が一丸となって取組み強化を図られることを強く期待する。

以上