公表資料・広報活動

ホーム > 公表資料・広報活動 > 講演・記者会見 > 記者会見 1998年 > 総裁定例記者会見要旨 (11月17日)

総裁定例記者会見要旨 (11月17日)

1998年11月18日
日本銀行

—— 平成10年11月17日(火)
午後 3時から約 1時間

【問】

日銀の景気の現状認識および先行き見通し如何。また、13日の金融政策決定会合での決定内容を踏まえての当面の金融政策運営スタンス如何。

【答】

「金融経済月報」が発表になっているのでご覧頂いたかと思うが、私どもとしては、「わが国の経済情勢は、依然として悪化を続けている」と判断している。

最終需要面をみると、公共投資の発注がかなり増加してきているが、設備投資とか住宅投資、あるいは個人消費といったものが引続き弱い。こうしたもとで、企業の大幅減産が続き、企業収益が悪化してきており、雇用所得も減少を続けている。

このように、生産・所得・支出を巡る循環が、依然としてマイナス方向に働いていると思う。また、企業金融面でも、金融機関の融資姿勢が一段と慎重化しており、年末から年度末にかけて、企業の資金調達環境はさらに厳しさを増しているというふうに言えようかと思う。

先行きについては、政府による総合経済対策や、9月の金融緩和措置の効果によって、これまでのような経済情勢の悪化テンポは次第に和らいでくるものと見込まれる。しかし、民間経済に働いているマイナスの循環の強さや、企業金融面からの制約を踏まえると、現時点では、速やかな景気回復はなお展望し難い状況にあると思う。また、物価も、卸売物価を中心に、下落テンポを若干速めていくことが見込まれる。

こうした中で、金融システム関連法が成立したことに加えて、今般、政府による緊急経済対策がとりまとめられた訳である。

先週13日の金融政策決定会合では、以上のような情勢を踏まえて、日本銀行としても、景気の回復に資するように、9月9日以来の思い切った金融緩和スタンスを継続していくことを決定すると同時に、金融機関借入・市場調達の両面において企業金融の円滑化に資することを狙いとして、オペや貸出の資金供給手段の面でのいくつかの措置を講じることとした。

私どもとしては、これら金融政策運営面からの措置が、政府による財政、金融システム面での施策の早期実施とあいまって、景気の回復につながっていくことを強く期待している。

【問】

このところジャパン・プレミアムが再び拡大傾向にある中で、年末に向けて邦銀の外貨調達に問題はないのか。日銀として、どのように対応する考えか。

【答】

ジャパン・プレミアムは、この夏場以降じりじりと上昇を続け、一時昨年末並みの水準にまで拡大していった訳である。こうした厳しい外貨調達環境のもとで、わが国金融機関は、海外市場における直接調達に代えて、円資金調達と為替スワップを行うことによって、外貨の手当てを進めてきた訳である。年末越えの円金利が11月上旬まで上昇していったのも、こうした外貨手当てのための資金調達が増加したことが大きいように思う。

しかし、邦銀の年末越え外貨資金調達は、大規模な円投の結果、既に一定の進捗をみてきている。これには、日本銀行が市場に対して潤沢な円資金供給を続けてきたことも、良い影響を与えていると思っている。また、国際金融市場における信用収縮懸念も、このところアメリカやその他でやや後退してきているようであるので、このようなことを背景に、ジャパン・プレミアムは、ここへきて縮小の兆しがみられ始めていると思う。

このように、マクロ的にみると、邦銀の外貨調達懸念は一頃に比べれば幾分緩和しつつあるように思う。

ただ、わが国金融機関の信用リスクに対する市場の警戒感は依然根強いものがあると思う。私どもとしては、公的資本の投入による自己資本の増強やリストラの実施などによって、邦銀の信認回復が早期に進むことを強く期待している次第である。金融政策面からは、外貨調達懸念などをきっかけに市場金利が高止まりし、金融緩和の効果が減殺されるといったことのないように、引続き市場に対して潤沢な資金供給を図り、市場の安定に万全を期していく考えである。

いずれにしても、外貨調達に関する限り、かなりの部分が調達済みと考えてよいと思う。

【問】

昨日政府が打ち出した緊急経済対策の評価如何。

【答】

今回の措置については、私も昨日の経済対策閣僚会議でお話をさせて頂いたが、日本経済を一両年のうちに回復軌道に乗せていくための第一歩として、(1)来年度のプラス成長を確実なものにするということ、(2)雇用の創出・安定を図るということ、(3)国際協調を推進していくということ、の3つを目標にして謳っている。また、そうした観点から、金融システムの安定・信用収縮防止、あるいは景気回復のための具体策、21世紀を展望した「未来創造型プロジェクト」といったことが幅広く盛り込まれていたように思う。

その規模も、現時点で考えうる、ほぼ最大限のものが打ち出されているように思う。私どもとしては、これらの措置が、早期に実行に移されていくことを期待したいと思う。

ただ、今回の措置によって、来年度についてプラスの成長が見込めるとしても、緊急経済対策の中で述べられているように、経済が回復軌道に乗るには、なお今暫くの時間がかかる見込みである。したがって、今後の経済の展開については、引続き注意深くフォローしていく必要があると考えている。

私ども日本銀行としても、中央銀行の立場から、日本経済の建て直しに向けて、最大限の貢献をして参りたいと思っている。

【問】

本日のムーディーズによる日本国債の格下げ発表についての評価如何。

【答】

AaaからAa1に格下げになったということを、昼に聞いたが、民間の格付け機関の格付けについて、とやかく申し上げる立場にはない。

ただ、日本経済について言えば、対外収支とか対外資産にみられるように、(1)対外的な債務支払い能力は非常に高いということと、(2)足許の経済や財政状況は確かに極めて厳しい状況にあるけれども、製造業の高い技術力とか労働の質の高さといったようなものに支えられて、潜在的な経済力は失われていないと思う。

もちろん、日本経済の潜在力を発揮させるためには、「景気の回復」と「金融システムの建て直し」を早期に実現する必要があると思うが、これが、ひいては内外からの信認の回復にもつながっていくことは間違いないと思う。日本銀行としても、中央銀行の立場から、全力を尽くして参りたいと思っている。

この時点で、なぜ格付けが下がったのか私も分からないけれども、推測すれば、──これは全く私の推測だが──やはりこの約24兆円という非常に大きな財政措置が発表されたことと、既に前に16兆円という景気対策が打たれたものが実現していく過程で、財政の赤字あるいは国債の発行額が増えていくに違いないというようなことが、この時期に格付けを一つ下げるきっかけになったのかなというふうに思うが、日本がもともと持っている経済の地力が引き出されていくということを考えれば、そう心配することでもない。

先程も申し上げたように、日本は個人の金融資産が1,200兆円あるし、毎月の経常黒字は100億ドル程度ある。こういうものが累積して、対外資産のネット資産超過というのが1兆ドル近い数字になっている訳である。アメリカは、むしろ逆に1兆ドル近い負債超過になっている訳であるから、そういうようなことを考えると、日本の経済の地力というのは、そんなに衰えているものでも何でもないと思う。これをアクティベイトして、生産力なり需要なりを引き出していくということができさえすれば、また最高のランキングに戻ることは確かでなかろうかというふうに思っている。

【問】

先程、金融システム面で、公的資金を投入して大手行の信認を回復するとともに、リストラを是非実施してほしい旨おっしゃったが、──基本的には個別行が考える問題だとは思うが、──どんなリストラが必要だと考えているか。

【答】

前からここで繰り返しているように思うが、今銀行がやってほしいことというのは3つある。

1つは、早く自己開示をやり、不良貸出の償却をやってほしい。単に引当をするだけではなく、なるべく早くバランスシートから落として、そして損切りをしていかなければいけない。そのためには過少資本ということが問題になるので、それを埋めるために25兆円という大きな資金が用意されている訳であるから、そういった資金を使って早急に償却を進めてほしいということである。

2つ目は、やはりリストラをやって頂きたい。これは長年の護送船団方式とよく呼ばれているようなやり方で、皆が同じような方向に進みながら左右を見て、本当の意味での競争というものが厳しくなかったといったようなことがあったんだと思うが、もうそれは通らない。特にマネーセンター・バンクとして海外へ出ていって、一流の欧米銀行とやり合う場合には、どうしても過少資本(の問題の解消)とか、あるいは無駄を無くして合理化を進めていく、コストを下げていくということが必要なので、リストラを早くやって下さい、ということである。

3つ目は、今の世界的な金融再編の流れの中で、早く自分の進むべき道を決めて、自分はこういった方向で銀行を将来発展させていくんだということを決めて、その方向で進み始めてほしいということを言ってきたつもりである。

そのことが3つとも色々な形で今動き始めていることを、私どもは注目をしてみている訳である。近く、公的資本の注入ということが起こるし、前回金融監督庁と私どもで一緒にやった考査・検査の結果というのも出てくる訳であるし、こういう機会に先程申し上げた3つのことを是非進めて頂きたいというふうに思っている。

そういう動きは毎日の新聞をにぎわすくらい十分出てきているように思う。例えば、海外店を引き揚げるとか、地域のいわゆるスーパーリージョナル・バンクといったようなものの方向に進んでいく──そのために東京と関西地区とで相通ずる協力をし合って合理化を進めていく──といったようなこととか、信託銀行、あるいは証券、保険といったようなものとの合理的な協力関係を相手を探して進めていくといったような動きが非常に活発に動き始めていることは、喜ばしいことだというふうに思っている。

何がリストラかというご質問については、それぞれの銀行によって違うのではないかと思うので、一概には申しかねるが、全体として言えば今申し上げたようなことかと思う。

【問】

みどり銀行については、最近になって金融監督庁が株主責任を問う方針を示しているということだが、日銀としてはどのように考えるか。また、責任を問うとすればどの程度まで問うつもりか。

【答】

私は、みどり銀行のできた時の経緯については、全く外にいたのでよく分からない。それから今みどり銀行でどういう話し合いを監督庁がしておられるのかも直接は伺っていない。いずれ問題になってくるかと思うが、その時に事務方からよく話を聞いて判断を間違いなくしていきたいと思っている。

【問】

公的資金の注入について、各大手銀行が数千億円規模の申請を今検討していると言われているが、そういうレベルで十分かどうか。効果は果たして期待できるのかといった点について、総裁はどのように考えているか。

【答】

やはり公的資本の注入だけで全てが終わる、全てがうまくいくというふうには思えないが、まず何よりも過少資本を埋めて、そして先程申し上げたようにしっかり自己査定をやって、これは駄目というものは、なるべく早くそれ(公的資金)を使って償却をしていく──あるいは自己資本というか資本金で落として、資本が減ったところに新たに入った公的資金で埋めていく──ということが、この機会になるべく早い時期に行われることを期待している訳である。

(不良債権が)どれくらいになるか、本当に第2分類あたりを厳しく査定して、これは償却を要するというふうな判断を自分たちで、誰からみてもこれは間違いのない自己査定であると、そしてまたディスクローズがやれるように償却をしていくということができていけば、それは非常に大きな効果をもたらすだろうと思っている。今左右をみながら、私のところはいくらということではなくて、自分のところで本当に償却しなければならないものをどれだけ持っているのか、それを正確に計算して、それを埋めていくということができていけば、そして、外へ出て行く銀行であるならば、他のマネーセンター・バンクが持っているくらいの資本金勘定をしっかり持って出て行くというようなことになっていかないと、厳しいこれからのバンキングの流れの中でサバイブしていく、あるいは勝者になっていくということは難しいのではないかと思う。そういうことをこの機会に是非進めて頂きたいというふうに思っている。

日本銀行としても、主要行が市場における信認の回復に必要なだけの思い切った規模の資本増強を図って頂くことを強く期待している次第である。

【問】

早期健全化スキームの中には、中小企業向け貸出を増やすといったことが入っている。実体経済への影響の面をみるとそういうことも必要かと思うが、一方で不良債権を増やすことにもなりかねないという相矛盾した側面がある。金融システムの安定化と実体経済の悪化回避との関係についての認識如何。

それから、11月4日に安斎理事を長銀に送り出されたが、送り出した側としてどのように考えているか。

【答】

第1の点は、クレジット・クランチ——貸し渋り——をやって財務内容を良くしていくことと、政府が公的資本を入れて、なるべく貸し渋りをしないように、「中小企業あるいは弱者に金を貸すことを続けてやってくれ」ということを盛んに言っていることをどう考えるかという質問であると思う。

今銀行に私どもが期待していることは、収益性を追求することと、健全性をさらに追求することの2つである。そのことを貸出の面で追求していけば、どうしても貸し渋りという事態——信用力のない危ない貸出は新たにしないし、今しているものはなるべく返させるという方向——が出てくることは自然の動きだと思う。

しかし、それを乗り越えていかない限り銀行も駄目になるし、貸し渋りされる方は耐えられなくて倒産していくというようなことが起こっていく訳で、それを調整するために色々な手が打たれている。公的資金の投入もその1つであるし、強力な1つの支援である。それから、40兆円くらいの中小企業向けの政府系金融機関貸出や信用保証協会の保証も含めて、中小の借り手が貸し渋りで倒産しないようにという手が打たれている——これは地方では非常に使われているというふうに、先般の支店長会議でも支店長から報告を聞いている。

こういう二律背反とも言うべきことをうまく調整していく——景気を良くする、金融システムを安定化していくという2つのことを同時に進めていかない限り、日本経済は信認を回復し、安定成長に移っていかないということであるから、その辺は政府も日本銀行も色々な形で手を打ってきていると思う。

もう1つの点については、長銀に何故安斎を送ったかという質問であると思うが、安斎は——私も彼には随分助けて貰ったが——特に信用機構・考査関係やアジア(関係)でも、豊かな経験を持ち、個性のある理事であったと思う。私としてはもう少し任期もあるから、暫くやって頂くつもりでいた訳だが、長銀のトップに誰を置くかということで、「日本銀行から出してほしい」ということがあり、日本銀行のOBにも1人当った——これは皆さんが書いたOBとは違う。あれは勝手にお書きになっているので、ご本人は随分迷惑されたと思う——が、「それは私はちょっとできない」ということだったので、そうなればあの案件を最初から全部知っているのは安斎をおいていないというふうに私は思った。だから、安斎がもっとも適任であるということで推薦した訳である。彼が今のポストで力一杯やってくれることを期待している。

【問】

先程、不良債権処理について「資本勘定を使って、不良債権を処理する」旨言ったが、これは具体的には、各銀行に臨時株主総会を開いてもらい、減資の手続きをとってもらうということか。

【答】

それは銀行によって違うだろう。優先株が発行できないところもあるし、優先株の発行枠がまだ残っているところもあるだろう。優先株だけでなくてもよい訳であるし——普通株でもよいし、劣後債(でもよい)——、資金の取り入れ方は銀行によって色々違ってくると思う。

それぞれの銀行の内部では、株主総会を開かなくてはならないところもあると思うし、それぞれ違う訳であろうから、そういうことを皆さんが考えて、最善の道を選ぼうとしているのだと思う。

しかし、いずれにしても、思い切った金額を(考えるべきである)——こういう機会というのは二度とないと思う。責任問題というのがすぐに出てくるが、むしろ思い切って入れて、思い切った償却、改革をやれた経営者がやはり、将来「あの人は立派な仕事をやった」ということになることは間違いない訳であるから、その辺のところは色々なケースがあるとは思うが、この機会を逸しないように自らの進むべき道を定めて進んで頂きたい——思い切って進んで頂きたいというふうに思う。

【問】

大手の全行が公的資本注入を受けることが望ましいと考えるか。

【答】

私は、全体の中味を知っている訳ではないが、自己査定をして自己開示ができる自信があるくらい不良資産の償却をやるならば、おそらく今の資本勘定——これは、BIS比率におけるTierIIを入れたものではなくて、(不良資産を)消すのに必要なTierIを中心とした資本勘定であり、19行で15兆円くらいしかなかった——では足りないだろう。

19行で370〜380兆円の貸出残高があって、これに対する不良債権を消していくとすれば、どれくらいのものが要るかということを全体で数字を考えてみれば、やはり相当の資本注入が必要ではないかと思っている。そういう意味で、「私のところは大丈夫です」というのも1つの選択肢にはなるかと思うが、こういう機会にできることならば(公的資金を)入れて、少しでも資本を強化していく、あるいは不良貸出を償却していくということができればよいと思っている。

【問】

13日の決定は、企業金融支援という目的であったと思うが、個別金融機関の資金繰り支援という点でも有効なのか、あるいはそうした狙いを持っていたのか。

【答】

今回の措置は、特に年末、年度末にかけて、企業金融が一層厳しさを増していく可能性があるということを心配した上で、金融機関の借入や市場調達の両面で、企業金融の円滑化に資することが狙いであった訳である。

今回の措置のうち、CPオペの積極的活用については、直ちに実施していく。買入れの対象となるCPの期間について3か月というのを1年に変えた訳である。これは昨日から始まっている。私どもは既に4兆円程度のCPを買って持っているが、これがもっと増えていくことは間違いないと思う。

次に、企業金融支援のための臨時貸出制度についてあるが、ご承知のとおり、今、日本銀行はそうした貸出をほとんど行っていない訳である。(商業手形の)再割引と輸入決済手形が少しあるだけで、銀行に直接貸すということは行っていない訳である。今回は、先程の貸し渋りという問題で、貸出が全国銀行で9月、10月とマイナス幅を拡大させている訳であるから、それが増えていくということは、貸し渋りを止めていくことになる。そこで、貸出の増えたところに、その半分までは日本銀行が全国の本支店で直接お貸しするということを決めた訳である。これは臨時の措置なので、いつまでも続くものではない。おそらく3月末を越えるまでということではないかと思う。

もう一つ、社債を根担保にして、手形の入札方式によるオペレーションを始める。これも、金融機関の民間企業に対する与信の順便化に寄与することは確かであると思う。しかし、これについては、社債の査定・格付けもあるし、約定も決めていかなければいけないし、そういう細目をこれから決めて、おそらく年明け早々から3月末を一つの大きな目途として、期末越えを乗り越えていこうというふうに考えている訳である。

私どもがこれで一番心配して気を配っているのは、一つは、中央銀行の資産の健全性を守っていくことである。銀行券を出しているのは私どものところであるので、円が内外で信認されるためには、中央銀行がどういう資産を持っているかに関わる。これからのことを考えると、質の面では、格付けその他でかなり厳しい条件がついていくと思う。内容の良くない資産を日本銀行が持つということでは、日本経済の信認にも関わってくる訳なので、そこのところは十分注意を払っていくのが私どもの使命であるというふうに思っている。

もう一つ、今ご承知のように、日本銀行の資産の中には、国債、FBといったものがたくさんある訳であるが、——今、ビッグ・バンで市場を作っていくということであるから——、そういうものをなるべく市場に出していく。それと同時に、企業の債務が証券化、債券化、市場化されていくことによって、企業が資金調達を銀行だけに頼らないで、市場で内外の投資家とミートして、それで資金がついていく。投資家も企業家もそこで競争が起こる訳なので、競争に負けたところは格が落ちていくということになっていくのが金融市場本来の姿であると思う。従来の日本は、間接金融中心で、しかも護送船団方式で、同じような形で進んできたことが、日本の生産・経済成長を促進してきたことは間違いないが、これからはそういう時代ではない。ビッグ・バンというのが思い切って作られたのも、それが一つの展開の動機になっている。こういうことで金融の市場を作っていくということは、私自身の長年の夢でもあるが、こういうものを考えながら企業の債務を金融政策の中でうまく使っていくということを考えていかなければいけない時期に来ているということも、中期的には考えている。直接の景気——貸し渋り——対策として、先程申し上げた難しい二律背反をうまく乗り越えていく一つの調整政策として、こうしたものが出てくる訳であるが、それも色々な形で、企業の債務の市場化を考えながらやっていくというのが、これからの私の一つの使命であると思っている。

【問】

13日の金融政策決定会合における決定は、政府の経済対策の公表と平仄を合わせたのか。また、決定内容に対してどのような反対意見があったのか。

【答】

政府からの、直接の依頼は全くなかった。13日という日は、私どもの方で、前から決めていた訳であるから、年末に向けて、先程申し上げた二律背反をどうやって乗り越えていくかという政策を頭の中で考えていく時に、13日くらいにあのような一つのパッケージを作って出していかないと効果がないであろう、ということは考えていた。特に、貸出の実績に対して50%を、なるべく民間の企業債務を担保に使いながら貸出をしていくというようなことは、実績が出ていなければ、数字が決められない。そういう意味からも、12月中頃までに貸出を始めようと思えば、10、11月の貸出残高が出てくるのはその頃であるから、そのことを早く言っておいて、貸し渋りを止めていくと(いうことである)。貸出が仮に増えても日銀から資金が出るのだと銀行が思ってくれれば、それはそれなりの効果が早く出るであろうというようなことも、もちろん考えた。そのような訳で、13日という日を選んだ。たまたま、政府の発表が16日になったというだけのことである。このことは、私も「今日、こういうことを決めました」ということを、関係の大臣に決まってから報告をした次第である。

反対意見は、この場所でまだ申し上げる訳にはいかないが、3つの内容を一緒に出す必要があるのかどうか、ということについて意見があった。必ずしも強い反対ということではなかったと思う。そのことは1か月後に、議事要旨で出ると思うので、そのことだけを申しておく。

【問】

本日発表の「金融経済月報」では、秋口以降の円高の企業収益等への影響について触れているが、これ以上の円高は、経済にとってあまり好ましくないと考えているか。

【答】

私は、円高が国益に反するものであるというようなことを言ったことはないし、今、毎月100億ドル程度の経常収支の黒字がたまってきている時に、どんどん円安になっていくことが、世界的にはどういうふうに受け止められるかということは、誰でも分かると思う。それと同時に、やはり、今まで内需が弱いだけに、輸出が伸びているということが、経済を支える非常に大きな力になっていたことは確かだと思う。そういう意味で、輸出産業の収益が従来よりも悪くなるということはあると思う。

それと同時に、——私がいつも申し上げていることだが、——日本が輸入を増やさない限り、今立ち上がろうとしているアジアの国の再建というのはできないと思う。それには、やはり——日本の門はもう十分に開いていると思うが——円が安ければなかなか彼らの対日輸出というのは伸びない訳であるから、そういう意味からも——内需が弱いということが輸入が伸びない一つの強い背景になっていることは間違いないが——為替の面だけで言えば、もう少し円が強くても彼らの輸出がやりやすくなるし、それよりも何よりも、彼らがもっと——我々もそうであるが——輸出入に円を使うべきだということをいつも考えている。一つの私の長年の夢であるが、円の東京国際金融市場というものができて、そこで円が運用できれば、円を貿易の決済、あるいは資本の流出入に使う、それで必要な資金を東京の円のマーケットでしばらく運用しておく、というようなことが自由にできていくのが、これからの日本の貿易決済、あるいは通貨のあるべき姿だというふうに思う。

そういう面から言っても、あまり通貨が大きく変動するのは、日本の製造業者にとっても、アジア諸国の対日輸出業者にとっても、非常に大きな障害になるであろうことは容易に推測できると思っている。そういう意味で、なるべく大きく変動しないことが望ましいと思うが、どの水準がいいのかということになると、これは一概には言えないと思う。経済を明るい面に支えていたのが輸出の増加であったことは間違いないから、そういう意味では、少し暗い面になるかもしれないが、今の経常収支、貿易収支の数字から言えば、やはりこれ以上円を安くしていくことは、あちらこちらにフリクションを起こしていくと容易に推測できることから、あまりそのことは強く大きく言えないのではないかと思う。

以上