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総裁記者会見要旨 (12月 1日)

1998年12月3日
日本銀行

—— 平成10年12月 1日(火)
於 ホテルナゴヤキャッスル(名古屋)
午後 3時25分から約30分間

【問】

本日、日本国土開発が会社更生法適用を申請した。これを契機に、今後、経営再建中のゼネコンに対する信用不安や、これを支える金融機関の信用リスクが高まるのではないかと予想されるが、見解如何。

【答】

日本国土開発の件については、個別会社のことでもあり、詳細は承知していないため、コメントは差し控えたい。ゼネコンについては、多くの先が、バブル期の不動産投資の失敗等から、多額の不良資産を抱えていることは承知している。こうした情勢の下で、昨年夏以来、多くの先で抜本的なリストラ計画が策定されているほか、一部には経営破綻する先もみられる状況になってきている。不良資産の処理は、金融機関のみならず、企業にとっても早期に実行すべき課題である。各社の経営改善努力が実効を上げることを期待したい。

【問】

ゼネコンの信用不安が金融機関経営に与える影響如何。

【答】

金融機能早期健全化法は、金融機関の不良債権処理を進め、金融機能の早期健全化を図ることを目的とするものであり、もとより特定の業種の救済を目的とする訳ではない。また、公的資金の注入による自己資本の増強が本来の効果を発揮するためには、金融機関がリストラや不良債権処理を主体的に進め、経営の健全化を図っていくことが必要であると思う。そうした過程で、どの債権をどのように処理するかは、金融機関自身が個々のケースに応じて判断すべき問題であると思う。

【問】

「中央信託銀行と日本債券信用銀行が合併交渉に入った」との報道があるが、これをどのように受け止めているか。

【答】

報道にあるような事実は承知していない。今日の株価をみると、午後になって回復しているようであり、両行が「報道は事実ではない」とはっきりとコメントしたことが、市場にこういう形で出てきたのではないか。

【問】

金融機能早期健全化法に基づく公的資本注入について、数千億円規模で申請する考えを表明する大手行が相次いでいるが、自己資本の充実にはこれで十分と考えているか。また、相次ぎ発表された大手行のリストラ策をどう評価しているか。

【答】

それぞれの金融機関がどれだけ資本を増強し、さらに、そのうちどの程度を公的資本に依存するかは、個別金融機関の状況によって異なると思う。また、公的資本注入は金融再生委員会の承認に係る事柄であるため、大手行の申請見込額について、私の立場からコメントすることは差し控えたい。

そのうえで、一般論として申し上げれば、先程の各界代表者との懇談会において申し上げたように、市場の信認を回復するためには、個別金融機関が、現在の経営内容や今後の経営戦略を熟慮のうえ、思い切った規模の資本増強策を講じることを期待したい。各金融機関においては、こうした点を踏まえ、信認回復のために必要な金額を自分で判断して申請して頂きたい。左右をみて、「あそこがこれだけだから自分はこれだ」というのではなく、自分の不良資産の内容は、——どれだけ引き当てし、どれだけ償却してバランスシートから落とせるのか、どれくらい損切りができるのか等——自分が一番良く知っている筈である。これを埋めるために資本注入がある。長い期間をかけて与野党が議論した末、政府が巨額の資金を準備した訳であり、良いチャンスと考えて、この時期に不良資産の整理と過少資本の補給を行うことが、金融機関がこれから進むべき道への第一歩であると思う。

リストラ策の内容についても、自分のところでどういう方向に進むべきかを決めたうえで、合理化を極力進めていくことが大切であると思う。金融再編という世界的な大きな流れの中で、邦銀、特に大手行は、マネーセンター・バンクとして残っていくか、あるいは当地の東海銀行やあさひ銀行が表明しているような、所謂スーパーリージョナル・バンクとなることに力を入れて相互に協力し合ってギブ・アンド・テイクしていくのか、——こういった形も新しい生き方であると評価しているが——あるいは、もう少しインベストメント・バンクのような形に持っていくか、自分のところの先行きを決めたうえで、自己資本の注入も、それに向けた一つの契機にして頂けたらと思っている。一応道具立てが揃ったという意味では、今はチャンスではないかと思っている。

【問】

山一證券の破綻から1年が経ったが、同社向け日銀特融について、「投資者保護基金」をどのように活用するのか。

【答】

山一證券の問題は、(廃業方針が発表された)当時は、(投資者保護基金の創設を定めた)今の法律がない中、大蔵大臣談話や日銀総裁談話が出されたが、山一證券がどのように業務を停止し、その後どうなっていくのかが分からない段階で、(内外の金融・資本市場の混乱を回避し、顧客財産の返還等が円滑に行われるように)取り敢えずの資金融通が行われたものだと思う。その後、株主総会の株主の数が揃わなかったとか、新しいファクターも起ってきている。

私どもとしては、現在の融資残高を大きく増やさないということが大事だと思っている。これから、証券会社についても、本日から投資者保護基金ができた訳であるから、同基金の中で吸収できれば良いと思っている。その辺のところはこれから話し合うことであるが、私どもとしては、今の残高以上には(特融を)増やさないことを目標に進めていきたいと思う。

【問】

日本国土開発の件にも関連するが、メインバンクの役割が変質してきていると思う。今後のメインバンクの在り方について、どのように考えているか。

【答】

メインバンク制は、日本の金融界における支柱であり、特色でもあったと思う。しかし、先行きの企業金融のあり方を展望すると、間接金融方式だけでいこうというのは無理がある訳である。企業が自己の債務を市場で証券化して、内外の投資家に買ってもらえるように心掛け、市場で企業と投資家との出会いが起こることによって初めて直接金融というものは成立していくと思う。大企業であれば、それだけのことはできる筈である。メインバンク制は、株式の持合い等と相俟って、日本経済をこれまで支えてきた一つのバックボーンであった訳であり、直ちにこれをなくせといっても急にはできないことだと思う。そうした中で、企業の破綻が起こった場合、銀行がどうするかという問題は、銀行に迫られている一つの決断ではないかと思う。これが契機になって、少しずつ今のメインバンク制は変わっていって然るべきであると思う。時間はかかると思うが、そのためには直接金融の道をもっともっと広くしていくことが大切であると思う。

【問】

最近、在庫調整が徐々に進捗し、公共工事請負金額も7〜9月期は久々に前年同期比プラスとなったことなどを眺め、政府、特に経済企画庁から、「景気に胎動がみられてきた」とか、「回復の時期はそう遠くないとみている」といったコメントが頻繁に出てくるようになっているが、これについての見解如何。

【答】

今のところ、景気の諸指標はマイナスであり、底を打ったという感じは数字的には出てこない。しかしながら、金融システム問題でも、長銀問題でも、長い間かかった課題が一応一段落し、道具立てが揃ったことは確かである。今後それが如何に活用され、金融システムの再編が起こっていくかということはこれからの課題であるが、道具立てが揃い、関係者がその積もりで動き始めたという点はプラス要因だと思う。

また、消費がなかなか伸びず、あるいは物価がまだ軟調に推移しているという点については、暗いファクターではあるが、今年4月に決定された総合経済対策の16兆円、今般の緊急経済対策の24兆円、合わせて40兆円という政府の経済対策は、GDPの8%に相当する大きな金額である。しかも、前者の経済対策については、漸く9月頃から契約が結ばれ支払が始まり、その効果が出始めたところである。後者についても、これからであるが、恒久的減税——ないしは恒久減税まで行けばよいが——について、政府は6〜7兆円の規模を考えておられるようである。これは是非とも必要な課題であると思う。特に、法人税については、来年の3月決算に、新しい税率——40%程度まで下げると検討しておられると聞いているが——を実現して頂きたいと思う。それだけでも、企業はかなり楽になってくるに違いなく、株価にも良い影響を与えると思う。所得税についても、できることなら来年の1月1日に遡って恒久的な税率の変更ができれば、プラスになると思う。

また、公共投資については、詳しい内容は知らないが、従来のような使い方だけではなく、かなり合理的で有効な使い方をすると、政府は強調している。是非そうして頂きたいと思う。今日の懇談会でも、当地の経済界代表者から、「是非とも早期に実施してほしい」との発言が多く聞かれた。早く実際の取引ができていくようになれば、これも明るい要因であると思う。

もっとも、GDPに対して8%というのは、かなり大きな負担であり、それに伴い財政赤字が増えていくことも確かではある。しかし、今大事なことは、国内需要を動かし、生産を増やすことである。また、企業家が、新しいアイデアを持って動き始めることが今一番大切なことである。設備投資がガタンと落ち込んでいるのは、企業が何をやってよいか分からないということであり、これが基本的には景気に対して非常に大きなマイナスの要因になっていると思う。

また、アジアを再生するためには、——アジアと日本は国際分業で製品輸入、あるいは半製品輸入を互いに行っているが——日本の市場を開放し、どんどん製品を買わなければならない訳である。その意味で、国内需要を強くし、円もさほど安くならないという水準を維持することがアジアのためにはプラスになると思う。

一方、欧米についても、私がみている限りでは、2000年に向けて、かなり新しい勢いがみられている。特に、欧州通貨統合については、——まだ遠い世界だと思われているが——来年1月から統一通貨制度(ユーロ)がスタートし、一つの欧州をつくるということが始まる訳であり、これは大きな前進であると思う。そのような面からも明るい要因が揃ってきている。こうしたことが、堺屋経済企画庁長官の発言にも繋がっているのだろうと思う。

ただ、来年の後半になってどうなるかということが、まだ一つの心配であると思う。こうした明るい動きが、企業家や消費者の需要に繋がって、盛り上がっていくようになれば、(景気全体も)そのまま緩やかな回復に進んでいくと思うし、是非そのように持っていかなければいけない。このために、金融面でも、年末から年度末の金融調節について、できる限りのことをやろうとして、政策を動かしたところである。

【問】

先程の懇談会における各界代表者の方々の発言を踏まえた、東海地域の経済状況に関する感想如何。

【答】

私は、約20年前、支店長として名古屋に勤務し、東海地域には、企業家として非常にクリエイティブな発想を持つ、立派な経営者が多数おられることを知った。さらに、当地には、自動車産業があり、——業況が悪いと言いながらもやはり地元の大きな力であることは間違いないと思うが——また先程、鈴木愛知県知事から、中部国際空港や愛知万博の話が今日までかなり順調に進んでいると伺った。(中部国際空港の開港および愛知万博の開催が予定されている)2005年はまだかなり先であるが、当地では、こうした明るい見通しを持ちながら、元々ある企業家精神が活かされているということであり、相対的に明るい地域であると言えるのではないかと思う。東京などで聞いている感じに比べて、地元の力が動いているという実感を受けたというのが、偽らざる感想である。

【問】

昨日は大阪、今日は名古屋において、地元経済界との懇談会が開催されたが、この2日間を振り返った感想はどうか。

【答】

皆さんが、それぞれの立場で、先行きを心配していることは確かであるが、何か明るい話がないかと考えておられるという印象を持った。

金融政策については、名古屋でも、大阪でも、日本銀行が比較的早め早めに手を打って、年末、次は年度末というように、資金の潤沢な供給を心掛けていることがある程度実効を上げているということについて、評価して頂けたように思う。

年末の外貨手当てについても、——9月頃から皆さんが心配しておられたように思うし、私も、9月末時点における年末超えの外貨要調達額が2,500億ドル程度であるという認識を申し上げてきたが——ここにきてほぼ目処がついたという感じを持っている。

金融システム面では、日本長期信用銀行の問題について、まだどのような結果が出てくるかは分からないにしても一応片付き、デフォルトの宣言もなしに何とか一時的に国有化することができ、これから再建あるいは整理を始めるというところまできた。(この問題への対応は)今年6月から約5か月を要したが、——少し時間がかかり過ぎたとは思うが——漸く片が付いた訳であり、これが良い前例になれば、金融システム不安は薄らいでいくのではないかと思う。

さらに、今回の大阪、名古屋への訪問では、多くの方々が、緊急経済対策の早期実施を求めておられた。その点は、私どももそのように思う。政治がどのように動くかが今一つ不確定な要因ではあるが、いずれにしても、景気対策は早急に実施されると思う。国会で早く動き出して頂きたいと思う。

以上