公表資料・広報活動

ホーム > 公表資料・広報活動 > 講演・記者会見 > 記者会見 1998年 > 藤原副総裁記者会見 (12月10日) 要旨

藤原副総裁記者会見要旨 (12月10日)

平成10年12月10日・宮城、岩手、山形県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

1998年12月16日
日本銀行

—— 平成10年12月10日(木)
於日本銀行仙台支店会議室
午後 4時から約30分

【問】

今回の来仙の趣旨、特に、仙台に来られたことについて、特別な理由があればお聞きしたい。

【答】

今年の4月1日に新日銀法が施行され、独立性と透明性の2つが理念として掲げられている訳だが、日本銀行がどういう理念でスタートしたかということを、キャンペーンとまでは言わないが、総裁と副総裁、審議委員が手分けして全国を巡り、日本銀行が何を考えているのか、金融政策をどう展開していくかを説明し、加えて、今のこういう厳しい経済情勢下で、各地で受け止められている経済実態や生の声を聞くことを企画し、地方行脚している。とりわけ、私は、数ヶ月前までは皆さんと同じジャーナリストの仕事をしており、——皆さんの場合は足で原稿を稼ぐ訳だが、——私の場合も現場主義ということで現場を直に踏んで経済の実態をお聞きし、金融政策や私どもの仕事に役立てたいとの趣旨から参った次第である。私についてはたまたま仙台出身であるので、日銀の支店の中でもブロック級の支店を中心に、どこへ行こうかとの話になった際に、わがままなのかも知れないが、その候補の中から、就任後なかなか帰省のチャンスがなかったので、仙台に行くと志願した次第。

とは言っても、スケジュールはかなりタイトで、明日から国会で新日銀法に基づく集中審議が午前 9時から始まり、総裁ほか役員が出席するので、政策委員会を私がどうしても主催しなければならず、実家に帰ることもなく、友人と会うこともなく、朝一番に帰らなくてはならない。室生犀星に「ふるさとは遠きにありて思うもの」とあるが、私は近くに来ても良いものだなと感じている。

【問】

本日は地元経済界の方と懇談された訳だが、そこでどのような意見が出され、それを聞いてどう感じたのか。また、東北のこれからの金融経済についてどういう展望を持っているのか。

【答】

先ほどまで約一時間半、宮城、岩手、山形の経済界の方々と懇談した。印象に残ったことの第一は、いわゆる貸し渋りについて、意外に深刻な事例は少ない、ないしは中央で言われているほど深刻ではない、ということであった。もちろん情勢は厳しい訳で、借りたくても借りられない人はいるので、日本銀行も企業金融を念頭に置いた新しい政策も打ち出した。政府においても多額に上る特別保証制度枠を設けて取り組んだことにより、漸く順便に資金が回るようになった。また、金融機関が防衛本能から自分たちの身を守る余り、自己資本を充実し企業の資金需要に対して応えない、自己資本を充実するがためにお金を融資に回さないといった、厳しいスタンスが東北では少ないと感じた。

皆様も報道でご存知と思うが、昨日、日本銀行が11月の金融機関の貸出実績を発表した。これによれば都市銀行、地方銀行、第2地方銀行協会加盟行、長期信用銀行、信託銀行の5業態の貸出実績は全体で4%の減少、つまりこれだけ貸出が減ったということだが、特殊要因を除いても引き続き1~2%程度の減少である。ただ、そのなかにあって業態別に内訳をみると、地方銀行はプラスの伸びを示しており、つまり貸出は増加している。従って地方銀行をはじめとする中小企業の取引相手となる銀行は、やはり地元のことを考えて、自分の銀行も苦しいが、貸出要請に応じているとのビヘイビアが看取されており、少し安心した。

次に、徳陽シティの問題については11月24日に営業譲渡がスムーズに行われ、これには関係者の努力があったと思う。日本全体でみると金融システム不安により固唾を呑むようなマーケットの雰囲気であったが、東北に関する限り情勢は一服したとの感じを受けた。もっとも、よくよく伺うと、これからが本番であるとの話も聞かれた。つまり営業譲渡そのものは済んだが、徳陽シティの融資案件を引き受ける銀行も、出来るだけ健全な融資を引き受けたい訳で、これから案件を一つ一つ精査していく過程で、この企業はどうなるのだろうといった厳しい問題も出てこようし、その意味で改めてこれからが本番だと感じた次第である。しかし、これから話し合いのなかで金融機関相互に創意工夫をほどこす余地もあるだろうし、もちろん、日本銀行としても出来る限りサポートしていく所存である。

雇用情勢についても厳しい認識が示された。これは全国的にも言えることであるが、特に来春の新卒採用が、過去の実績に比べると非常に厳しい見通しにある事例が何件か紹介された。さらに、印象に残っているのは景気回復の芽とまではいかないが、景気対策の中で政府が最も力を入れている財政出動、すなわち公共事業の発注が遅れ馳せながら東北地方でも出てきたようで、どこの県からも同様の話が聞かれた。もちろん地方の場合は、地方議会の審議を踏まえる必要があるため、中央政府よりは遅れるかもしれないが、この調子で行くと、宮澤蔵相がいった15ヵ月予算的な、間断のないカンフル注射が出来るのではないかとの期待が寄せられている。建設業にとっては干天の慈雨、漸く雨が降ってくれたような、ほっと息をついた感じがしているとのことだが、倒産件数が多いのも建設業であり、下請け・孫請けといった中小の建設業の状況は依然として厳しい。全国的な現象ではあるが、今申し上げた点が特に印象に残った点である。

【問】

公的資金の申請がこれまでに判明しただけで 6兆円程度とのことであり、これは少ないのではないかとの見方もあるが、どのように評価しているのか。また、昨日、日債銀・中央信託の業務提携の発表があったが、これからの金融再編についてどのような展望をお持ちか。

【答】

公的資金の注入問題については、今お話の通り、各行がそれぞれのリストラ計画に従って申請を行ったことは既に公表されている通りである。中には申請しなかった銀行もあるが、そうした先は(自己努力で確保した)自己資本で大丈夫だろうとの判断であろう。全体の印象を申し上げると、なるほど今回の公的資金導入に当っては、早期是正措置のメルクマールである自己資本比率8%を超したということを前提として、リストラを実行し、申請されたのだと思う。中身について個別金融機関により違いはあるが、それはそれで評価に値すると思う。今回の公的資金導入について政府、国会が相当な議論をして、枠組みを作ったからには、21世紀を展望して、日本の銀行が真の意味での自己資本を充実させて、金融システムは大丈夫といった体制が出来ることを期待して、こうした枠組みを作ったのだと思う。そういう意味では、あのオーダーで大丈夫かどうかはまだ分からない。出来るだけ、実質的に自己資本が充実されるような体質改善のあり方、つまり、不良債権や株式の含み損までも考慮してリストラを進め、将来の経営戦略を展望して、これで大丈夫であるという体質状況を考え、さらに充実策を検討して欲しいものだと思う。

金融再編については道筋として当然起こるステージであると思う。事実各銀行では外資と提携したり、業態の垣根を越えて協力し合うという動きが具体的にあることは皆さんもご存知のとおりである。これまでも速水総裁から申し上げているように、先程の質問にあった金融機関の自己資本を、出来るだけ強固なものとするために、選択肢の一つとして自己査定の計数を出来ればディスクローズして欲しい。そのディスクローズに基づいて償却・引当を実施し、会計上の処理に止まらず、実際にバランスシートから切り離したうえ、その後に21世紀を展望した戦略を各銀行に立ててもらいたいと考えている。あくまでもこれからの時代は収益率と経営効率を念頭に置いた自己資本充実でなければならない。そのための選択肢として、合併とか提携とかの道はあるはずで、先程ステージと申し上げたが、そうした段階に差し掛かっているのではないかと考えている。

日債銀と中央信託との提携については両行による昨日の発表でご承知と思うが、両行で業務提携を検討していくとのことであり、発表した提携の範囲内で双方が話し合いを進めていくことだと認識している。

【問】

政財界の一部で景気の明るい面を強調する声が出始めているが、副総裁自身の見方如何。

【答】

基本的には、毎月金融経済月報を発表しているし、政策決定会合における議事要旨も公表しているからお分かりだと思うが、「景気は依然悪化を辿っている」という見出しがここ数か月続いている。今のところその判断に変化はない。個人消費や設備投資などにブレークダウンした説明はこの場では差し控えるが、過去の景気対策、さらには現在計画している新しい経済対策を反映し、公共事業を中心に少しづつその効果が指標面にも顕れてきている。一方、個人消費は基本的にまだ厳しいが、例えば、電気製品の一部等で上向きの状況がみえ始めてきたという事実もあるなど、いくつかいわゆる明るい指標も出てきてはいる。

しかし、今の全体の状況が何となく落ち着いているのは、一つには政府があれだけ経済対策を打出したこと、二つには先述の公的資金導入を含め、金融システム安定化のための枠組みが出来たということがある。その2つの大きな要因の作用により、先行きどうなるのかわからないというパニック心理のようなものが収まり、従って、マーケットも小康を保ち出したというのが最近の状況であると思う。これからは、色々な対策の効果がどう出てくるのか、私どもが実施した 9月の金融緩和や、11月の企業金融を念頭に置いた措置等がどう動き出すのか見極めていく段階にあろう。日本銀行はどちらかと言うと今まで慎重な立場をとってきたために、ケチ銀ともいわれるが、引き続き情勢を注意深く見守っていくことが必要である。それを文学的に表現すると色々と言えるかもしれないが、私は今のところ文筆活動を中止しているため、どういう表現をとるかは差し控えさせて頂く。

【問】

先程話された9月9日の一段の金融緩和策、11月13日のCPオペ拡充、臨時貸出制度等の効果はどうか。また、名目金利は低いが、物価が下落する中で日本の実質金利は相対的に高いとみられており、この点につき、副総裁自身の考え方はどうか。

【答】

9月9日にはオーバーナイト・コール・レートの誘導目標を、公定歩合をやや下回る水準から0.25%に引き下げたが、その時の経済情勢は非常に厳しく、政府の経済対策の効果が現れず、設備投資や個人消費も冷え込み、生産活動も低迷し、また企業収益も落ち込み、一方で物価の基調も弱いなど、つまりデフレスパイラルといわれるような状態に陥る惧れがあった。また、国際金融上の影響もあるが、マーケットも不安定な状態にあった。こうした状況を勘案して、とりわけ年末・年始の資金繰り問題が各銀行や企業側でも極めて厳しい状況にあるのをみて一段の緩和に踏み切ったわけである。しかも、仮に必要があれば、短期金利の誘導目標を離れてさらに緩和することもありうべしとのスタンスも取っていた。

これらはやはり、その効果があったと思う。ご承知のとおり年末の資金繰りであるが、外貨調達面からみて銀行の年末越えの目途は概ねついたといえる。これらは日銀の金融緩和政策のためだけだとはいえないにしても、与って大きな力となった。一方で、企業金融についても、その効果が及びつつあるというのが事実であり、貸し渋りとの懸念もあり厳しい状況にはあるが、11月13日からのオペ対象CPの期間の延長や審査事務の迅速化、臨時貸出制度の創設、それから社債等を根担保とする手形オペ制度の導入の検討等に踏み切った訳である。これらはあくまでも年末・年度末を意識したものであり、特に臨時貸出制度は時限付きの措置である。一方で、日銀のバランスシートの健全性確保も重要な点であり、受け入れる担保の審査も厳格に行うものである。また、これは直接企業に対して日銀が資金供給を行うものではなく、間接的に企業金融を支援するものである。臨時貸出については、日本銀行の本支店で申し込みを受け付け、今月21日から貸出を開始することになる。

この間、CPオペの効果はかなり出てきた。今のところCPの発行残高は、14兆円程度で、このうち半分の7兆円がCPオペの対象となっている。

社債等を根担保とするオペレーションについては、現在実質的な検討を進めている段階にあり、近く政策決定会合で正式決定の運びとなろう。数字の効果がどれくらいあるか今すぐ挙げるわけには行かないが、CPなどで成果が上がっていることは先程述べた通りである。

実質金利については、物価が下落している分だけ上がっているのは理論的にも実感としてもありえないことではない。だからといって日銀の与えられたスタンス、すなわちコールレートを通じて政策を運営し、市場に潤沢に資金を供給していくとのスタンスに変わりはない。

【問】

先頃7~9月のGDPが四半期連続でマイナスとなったとの報道があったわけだが、14日の短観で厳しい内容が出た場合には景気判断は厳しい方向に変えていくのか、副総裁自身の考えをお聞かせ願いたい。

【答】

14日に短観の数字が実際に出てこないと、申し訳ないが申し上げられない。というのも、徹夜で作業して14日月曜日の午前 7時にならないと誰も結果は分からない。短観の結果を予測している通信社もあり、短観の短観といった様相を呈しているが、結果が出ないうちから想像しては軽々に過ぎるので、やはり申し上げるわけにはいかない。

ただ、短観はあくまでビジネスサーベイによるフォーキャストであり、日銀はフォーキャストだけではなく、さまざまな実績の数字や企業の皆様からのヒアリングを活用して判断する。今のところ日銀としての判断は総裁の最近の会見でお示ししたとおりであり、15日に 9人の政策委員で議論する。9分の1の投票権を持っている立場からといわれれば、これまでの状況は厳しく、短観その他の実績やこれまでの経済対策の効果がどのように動き出しているのか、情勢をウオッチしていきたい。

【問】

さきほど11月の貸出が減少したとの話があったが、リファイナンスの効果は出ていないとの指摘もあるがどうか。

【答】

(日本銀行が打ち出した企業金融に関する)リファイナンスの措置は実効は上がらない見通しにある、とのアナリストの意見があることは承知しているが、いまだ実施していない以上、現時点ではなんとも言えないわけで、効果がありうべしとして政策を打ち出しているわけである。どうせあんなもの、という見方があるかもしれないが、実施後の状況ををみてから判断しよう、ということである。

以上


(参考)

金融経済懇談会出席者一覧

浅野 史郎
宮城県知事
齋川 慶一郎
宮城県商工会議所連合会会長
手島 典男
仙台経済同友会代表幹事
松村 富廣
みやぎ工業会会長
奥田 和男
宮城県建設業協会会長
大山 健太郎
アイリスオーヤマ代表取締役社長
佐藤 光
岩手県経営者協会会長
岩手県商工会議所連合会会長
河野 逸平
岩手経済同友会代表幹事
金山 亜希雄
岩手県工業クラブ会長理事
鈴木 傳四郎
山形県商工会議所連合会会長
鈴木 俊幸
日東ベスト代表取締役会長
勝股 康行
宮城県銀行協会会長
斎藤 育夫
岩手県銀行協会会長
丹羽 厚悦
山形県銀行協会会長
日下 睦男
仙台銀行頭取

(以上15名)