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総裁定例記者会見要旨(1月21日)

1999年 1月22日
日本銀行

—— 平成11年 1月21日(木)
午後 3時から約 1時間

【問】

日銀の最近の景気に対する認識および先行き見通し如何。また、最近の円高や長期金利の上昇が日本経済に及ぼす影響をどうみているか。

【答】

私どもでは、「わが国の経済情勢は、悪化のテンポが徐々に和らいでいる」というふうに判断している。

すなわち、公共投資の増勢が始まり、それから在庫調整が進捗している中で生産の減少テンポが段々緩やかになってきている。企業金融の面でも、政府や日銀が各種の措置をとっており、それを背景にして、一頃みられたような不安感というか逼迫感というものが和らいできたということは申し上げられる。

しかしながら、設備投資が大幅に減少しているほか、個人消費も総じてみれば、まだ低調な動きにとどまっているということである。また、企業収益面でも悪化が続いており、この3月決算はかなり厳しいものになるだろうと予想される。そういうことで、雇用・所得環境についても、必ずしも良くなっているとは言えないし、むしろ厳しさが増していると言っても良いかと思う。企業の資金繰りについては、逼迫感が少し緩んできて、年度末にかけての不安感というのが払拭し切れた訳ではないけれども、一時ほどの逼迫感が薄くなってきているということは言えようかと思う。何分需給ギャップが大きい訳であるから、民間の需要回復といったようなことがもう少し進んでいかないと、景気が明るくなっていかないというふうに思うし、物価の方も大幅な需給ギャップを反映して、軟調がまだ続いている訳である。

これからどういうふうになっていくかということだけれども、緊急経済対策が実施に移されていくにつれて、本年前半には景気の悪化に歯止めがかかるだろうと思う。

またその後どうなるかということになると、これを決めるのは、民間の企業、家計のコンフィデンスがどれ位回復してくるかということにかかっているように思う。企業について言えば、大企業であれば、製造業でも競争力のないものは切り捨てて、──新しい創造的破壊というのか──大きな設備でも、もう競争力がないもの、あるいは需要が期待できないものは、設備を切り崩して新しいものに切り替えていくと、また中小企業の場合にも、新しい需要をクリエイトするとか、新しい品物を供給していくといったようなことが起こっていかないと、なかなか企業の収益は良くなっていかない。家計の方でも、ここへ来て住宅などで、少し新築の動きが出てきたという明るいニュースもあるけれども、そういう今まで買い控えていた耐久消費財といったようなものが、ここで先がみえてきて、この辺で買おうかというふうな新しいコンフィデンスなり需要が出てくることが起こってくれば、それが景気の明るさにつながっていくと思う。

金融サイドでみると、先程おっしゃった長期金利の上昇とか円高といったようなことが、12月頃から起こっている訳だが、長期金利や為替相場というのは、やや長い目でみれば景気、物価の実勢から離れて決まるものではないというふうに思う。最近やや神経質な相場展開を続けているけれども、行き過ぎたという感じがしている所で相場はやはり反転して少しずつ戻ってきているというようなことも起こっている訳である。今後とも、これらの動向については、注意深くみていく必要があるというふうに思っている。

こういう情勢を踏まえて、日本銀行としては、一昨日の金融政策決定会合においても、これまでの思い切った金融緩和スタンスを堅持していくということを決定した。また、そうした金融調節方針のもとで、引続き潤沢な資金供給に努め、金融市場の安定に万全を期して参りたいというふうに考えている。

こうした私どもの金融政策運営が、政府による財政、金融システム面での施策などと相俟って、景気の回復につながっていくことを期待している次第である。

【問】

長期金利の問題とも少し絡んでくるかと思うが、最近、エコノミストの一部などから、「日銀が新発国債の引受けをするべき」という意見も出ているようだが、これについての日銀の見解如何。

【答】

長期金利は、先程も申し上げたとおり、少しずつ戻しているように思う。確か、新年度は約31兆円新規国債の発行が予定されている訳だが、長期国債を日銀が引受けるということは、財政法5条、日銀法はそれを受けて34条で禁止されている訳である。

それはどういうことかというと、中央銀行が一国の国債を引受けてしまうと、財政の節度を失うことになるし、そういう国債であると、中央銀行しか引受けないというようなものになると、おそらく格付けも下がってしまうという可能性も高いと思う。そういうことを考慮して、──他の国でも皆そうなのだが ──中央銀行による国債の引受けというのは、禁止されているということであるので、これはよほどの何かが起こらない限り出来ないというふうにお考え頂きたいと思う。

それと同じように、「どんどん買えばいいじゃないか」というご意見もあるかと思うが、この点についても、「どんどん買う」というのは先程の引受けと同じような結果となり、日銀がたくさん持ってしまっているということは、やはり財政の節度に関わると同時に、国債の格といったようなものにも影響が及ぶものであると思うので、これについても、私どもはやらないというふうに申し上げてよいと思う。

ただ、国債の買い切りオペについては、毎年銀行券の発行増加額と大体見合うような形で行ってきている訳で、その方針については、今後もそういう方向で進めて参りたいと思っている。基本的なこの考え方を変えるつもりはない。

【問】

最近また日銀の支店長宅や福利厚生施設の話題が取上げられるようになっていると思うが、民間金融機関がリストラを積極的に進めている、あるいは進めなければならないという状況の中で、中央銀行としても範を示すべきであり、もっと迅速、前広にやらなければいけないという声が高まっているが、如何お考えか。

【答】

日本銀行も、常に効率的な組織運営を目指さなければいけないということで、様々な改革努力を傾けている訳である。

既に保有資産の合理化といった観点から、ゴルフ会員権とかは順次処分してきている。また、舎宅を集約化し、遊休化した不動産を積極的に売却している。

また、支店長舎宅に関しても、建て替え時期の到来したものから順次マンション等へ切り替えを図りつつある状態である。

役員、職員の給与等の水準についても必要な見直しを図ってきている。

福利厚生施設の見直しとか、支店・事務所の統廃合とか、人員配置の適正化といったようなことはまだ残された課題だが、新日銀法で求められている「適正かつ効率的な業務運営」の実現の一環ということで、鋭意検討を進めていきたいと思っている。

そういう意味でも、このリストラの検討──今日でしたか「フィナンシャルタイムズ」にも大きく取上げられているが、日本だけでは考え方がある程度限られるということもあるので、海外のコンサルティング会社を使ってリストラをどういうふうに進めていくべきなのかということを依頼して、既に契約をして、これから相談に乗って頂くことにしている。

【問】

最近ブラジルの経済危機が再燃してきているほか、中国のノンバンクの相次ぐ破綻も報じられているが、こういう状況をどのようにみているか。これらが世界経済へ与える影響についての見解如何。

【答】

世界全体が金融危機的な色彩を帯びてきたと言えるかと思うが、1月の10日前後にBISの会議が香港であって、アメリカ、ECB──ユーロランドのほか、中国や、韓国等20位の中央銀行の総裁が集まって2日程色々議論をし、話を聞かせて頂いたが、どこの国もバブルがはじけた後には金融システムの波乱が起こるというのは、本当に一つの定められた流れのようになっているように思った。日本も金融システムの安定化の道具立てが一応揃ったということで動き始めているが、そういう人達から、むしろ日本はその意味では先輩だといった意味で色々質問を受けたが、今おっしゃったブラジルあるいは中国といった国々がこれからどうなっていくのかということは、アメリカも勿論だが、わが国も非常に注目しているところである。

ブラジルの方は、一応財政改革、対外収支不均衡の是正といったようなことをIMFを中心に支援のアドバイスを受け始めていたが、為替の方が先に荒れ始めて、資本の流出が起こるといったようなことで、1月13日に事実上の通貨切り下げを行い、18日にフロートに移行した訳である。それで今のところだいたい落ち着いたような感じはしているが、まだこの近隣国、ブラジルの中でもそうかもしれないが、何が起こるか分からないし、この余波というのは、いろんな形で出てくるかもしれない。

中国についても、広東の国際信託投資公司(GITIC)の破綻が公表された訳であるが、こういう類似の機関がたくさんある訳だろうし、今のところかなり貸出が返ってこないものも多いという見方もある訳で、そういうものが ──日本はブラジルへは各国が出している全体の6%位だが、中国の方はかなり出している──日本にも影響がある訳で、注意深くみていく必要があると思っている。

【問】

このところ信託銀行や生保等で合併、提携に向けた動きが相次いでいるが、こうした金融界の再編の動きをどうみているか。

【答】

これは、前から銀行に繰り返し3つのことを言ってきたつもりであるが、1つは、自己査定をやってそれを早期にディスクローズし、(不良債権を)早期に償却して下さいということと、思い切ったリストラをやって下さいということと、再編の流れというものが必ず起こってくるはずなので、それに向かって早く自分達の得意の領域を決めてその方向に動き出して下さい、ということを言ってきたつもりである。そういう意味では道具立てが整い、金融再生委員会、金融監督庁が動き始めて、銀行の方もこれは早くやらないといけないという感じを持って、ここへきてこの動きが毎日のように新聞を賑わして、私どももそれを見てびっくりする位各行が先を考えて動き出しているというふうに思う。合併、提携あるいは基本的に今後の動きを他行と合意をして発表していくというようなことが起こっている訳で、こういう動きは、金融機関が競争力の抜本的な向上を求められる中で、将来を見据えて経営戦略の見直しや業務の再構築に本腰を入れ、取り組み始めたということであって、お客さんのニーズにも対応していくことになるし、競争力強化という観点から望ましい方向に動き出したというふうに評価している。

【問】

日債銀への出資が焦げ付いたり、整理回収銀行への出資や山一證券への特融もそうなりつつある中で、日銀の財務の健全性をどう確保していくのか。システミック・リスクの回避とはトレード・オフの関係にあると思うが、その辺の関わりをどう考えているのか。

【答】

日銀の資産の流動性という点については、私どもも非常に配慮しているつもりである。本行資産の内訳をみると、今のところ銀行券とほぼ同額の国債を保有している。国債という場合、買い切りオペで増えている長期国債のほかに、FBといったような短期証券が20兆円以上含まれている。特にFBは、今まではすべて日銀引受で、利回りから言っても売れないものであったが、これから市場公募になっていく訳で、しかもこれが今後の円の国際化を支えていく。20兆円というのはかなり大きな金額であるが、一つの旗印、目標になってくるだろう。また、内外の投資家が買えるように、あるいは円を使うときにしばらくの運用をこういうものに使えるようにということもあって、源泉徴収課税も免除される。もともと短いものは、有価証券取引税はなかった訳であるが、これからは源泉徴収課税も免除されていく訳で、市場にかなり売買が起こってくる可能性があると思う。

そういう銀行券とほぼ見合った国債の保有額は、短期証券の分だけは少なくとも少なくなっていく訳であるが、——その代わりと言っては何だが——、買入手形、CPが多くなっている。これも市場が出来ていて、すでに8兆円近くのCPを日銀が持っている。これは、決して質が悪くなったというものではないと思う。基準に適合したものを銀行を通じて買っているので、いつでも売れるというものである。そういう優良企業の債務を債券化、市場化したものを買っていくという方向が資産の流動化を進めていくことになろうかと思う。

もう一つは、今ご指摘のあった、預金保険機構あるいは日銀特融というlender of last resort、最後の貸し手としての機能に関連したものである。こうした不況の時に、金融システムの安定を維持していくために、他に出し手がいない、しかもこれをいつまでも持つのではなくて、なるべく財務の悪化を防ぐようなかたちで流動的なものを持っていく、しかもモラル・ハザードを起こさせない範囲でそういうものを持っていくという方針で、lender of last resortという最後の貸し手としての機能を果たしてきている、または果たしつつある。これに伴い、残高がかなり増えてきており、38条貸付、日銀特融の方は、今6千億円位であるが、預金保険機構への貸付金は、一時8兆円を超えていたが、また7兆円台に減っている。これなども、一方で必要に応じて貸していかなければならないが、預金保険機構におかれても、債券を発行したり、民間から借り入れたり、あるいは保険料が定期的に入ってくる訳であるから、そういうものが入ってきた時に、返していって頂くということで、残高が急増することをなるべく避けて参りたいというふうに思っている。

そういう二つの面から、ここにきて日銀の資産が多少中味が変わってきている。これは一方で金融システムを早く安定化するということと、もう一つは今後の円の国際化に備え、かつ日本の金融の正常化をもたらすべく、市場を作って、市場で売れるものを日銀が持っていくということが始まっている訳である。

それにもう一つ強いて付け加えれば、臨時の貸出を行い、2回で1兆円ほどに膨らんでいるが、これも3月、あるいは4月になって、落ちていくものであるというふうに考えている。

そういうことが、日銀の資産の変化であって、必ずしも悪化しているというふうには思っていない。悪化しないようになるべく色々と努力を重ね、お願いをするところにはお願いをしながら、必要な資金を供給していくというのが私どもの務めであると思っている。銀行券もこのところあまり大きく増えていないが、それに対して、約5兆円、約10%の自己資本を持っているので、その辺のところは、ほとんど各国並みである。余り内容が悪化したといったようなことを書かれるのは、私どもにとっては非常に迷惑で、よく内容をみて書いて頂きたいというふうに思う。

【問】

ペイオフについてであるが、実施時期がこれから近づくにつれて、預金のシフトが起こるとか、色々な金融システムへの影響が出てくると思うが、どのように見通しているか。自民党の中にペイオフの実施を延期するというような意見が出始めているが、これについての見解如何。

【答】

不良債権問題の克服という大きな課題をもって、2001年の3月末まではペイオフはさせないということを橋本内閣でかなり早い時期に決めた訳で、このことは良かったのか悪かったのか、色々意見が分かれると思う。これがあったから銀行はかなり落ち着いて、再生の道を切り開いていけるのだという考え方と、これがあったために7年とか8年とか、他の国に比べて少し金融システム安定化に年月が、先延ばし先延ばしで、かかりすぎたといった批判は外国からもある訳で、私どもも少しかかりすぎているなという感じがする訳である。

こういう所謂包括的なセーフティ・ネットというのは、これまで日本はあまり銀行の破綻を経験していなかっただけに、これまでの経緯からいけば、やはりある程度経過期間を置いてセーフティ・ネットを張っておかなければならなかったと思う。公的資金を含む多大なコストを要するものであることは、まずよく私どもが意を用いなければならないところであるし、預金者や債権者、あるいは金融機関のモラル・ハザードを惹起する——安心して、改革なり厳しいリストラなりを遅らせてしまう——というようなことになっても困る訳である。ビッグ・バンが始まったのが昨年4月であるが、「フリー・フェアー・グローバル」といった3つの要素を掲げて動き始めた訳であるから、これをこの時期に是非貫いていかなければいけない。時限立法であるが、——最終的には立法者が決めるべきであり、国民の意思を考えて決めていかなければならないことであるが——2001年3月末に向けて、関係者が全力を尽くして不良債権の克服に当るべきであるというふうに考える。安易に期限延長を視野に入れるということは、コストの増大にもなるし、モラル・ハザード発生の惧れも生じるし、不良債権問題克服の遅延を招きかねないということも考えると、私は適当ではないと思っている。

【問】

企業のCP(発行)は今後も増加していく可能性があるが、日銀としてはCPオペの残高を今後も増加させていく考えはあるか。

【答】

企業が市場でCPを出して、資金調達ができていくということは望ましい方向だと思うし、私どもも色々基準を付けてはいるが、多く出てくれば、CPを買っていく、残高も増えていって然るべきだと考えている。

【問】

日銀による国債の引受・買入の問題について、財政法と日銀法で禁止されている旨おっしゃったが、それは対政府信用供与がインフレを招くという過去の経験に基づいた知恵だと思う。今の日本の経済情勢は、デフレ・スパイラルの瀬戸際に立っているといった議論もある訳で、今回の月報にも「先行きの物価の下落基調の懸念」というのが出ている。これまで言われていたような日銀のディシプリンは、デフレが進行する状況でも、やはり守らなければいけないものと考えているのか。

【答】

インフレであろうとデフレであろうと、私どもはオペを通じて買ったり売ったりしていく訳で、これまでは銀行券(の発行増加額)に見合う国債をネットで買い増してきたというのが実情である。オペは資金を潤沢に供給する時は買いオペをやるし、少し資金を締めた方がよいという時は売りオペをやるし、それはその時々買ったり売ったりしていくのが筋だと思っているので、何もインフレに対してだけ国債を引受けてはいけないということを決めた訳ではないと思う。

市場を相手にしていつも国債を買ったり売ったりできることが大事だと思っている。

【問】

今月12日の東京外国為替市場についてであるが、おそらく日銀の方で市場介入をやったと思うが、本日(発表)の月報に「介入警戒感」という言葉を使っており、また閣僚の中にはその当日に「市場介入を行ったという報告を受けた」と言っている方もいる。12日に実際に市場介入が行われたのかどうか伺いたい。

【答】

市場介入をしたかどうかは、私どもは申し上げる立場にはないので、ここでいつどれだけやったとか、やらなかったとかということは、お許し頂きたいと思う。

【問】

関連してであるが、(為替介入を)やったかやらないかという事実は別にして、総裁はかねてから「円高は日本経済にとって決して悪いことではない」という持論をお持ちであるが、円売り介入というのは一般論としてやるべきか、やってはいけないものなのか、あるいは場合によってはやることもあり得るものなのか、その効果はあるのかについて伺いたい。

【答】

それは余程市場が荒れている時には、(円を)売らなければならないこともあるだろうし、買わなければならないこともあると思うが、それはやはり市場の流れをよく見ながら、やることが必要であるかどうかはその時々の情勢で判断すべきことであろうと思ってる。売ってはいけないとか、買ってはいけないとは思わない。

【問】

小渕首相は「目標相場圏」のような提案をしているが、それに対する考え如何。

【答】

これは、今問題になっている課題のひとつだと思うが、1971年のニクソンショックから73年のフロート制になった前後から、この課題は随分議論されてきたことである。実際問題として、あの時点でひとつのかなり広い上下限を設けて、その中でメンバー・カントリーの通貨の売買をやっていた。しかし、その場合、特に強く申し上げておきたいのは、売ったり、買ったりした時には、翌月ないし翌々月末に必ず買ってくれた国に損をかけないように返済するというルールができていた。これを「アセット・セトルメント」、「資産決済」と言っていた。それがないと弱い国の通貨を買ってさらに弱くなってしまった、それで国損が出てくるのでは、長続きするはずもないし筋も通らない。そういうことも良く考えた上で、介入のターゲットを作るなら、作らなければいけない訳である。ただ、「こことここをターゲットにする」ということでは、そういう大きな流れが一方的に起こった時に、そう簡単に流れを止められるものではないし、──しばらく時間が経てばまた戻ってくるものであろうかと思うが──その辺はターゲット・ゾーンというものは、一種の固定相場であるから非常に難しいものであるということを考えておくべきだと思う。

私も、戦後、固定相場からフロートに移るのを、ずっと日銀で見てきた、また外でもその動きを見てきたつもりであるが、ターゲット・ゾーンを守っていくというのは、狭いものであればあるほど難しいということを経験から感じているので、そう簡単にターゲットというものはできないと思う。特に、それを公表したりしたら、難しい。「ネガティブ・ターゲット」などという言葉もあるが、「これ以上は我慢ができない」というところをその都度関係国と決めて、そこを超える時は両国で協力して介入するというターゲットであれば、やってやれないことはないと思うが、ターゲット・ゾーンというのは一種の固定相場制であるから、なかなか難しいことだというふうに私は思っている。

これは、銀行で議論をした結論ではないが、私の体験からそういうふうに思っている。まだ、ユーロ、円あるいはドルの間で、そういうことをやったらどうだろうかという話が起こり始めている段階であり、どうして作るかというところまで話がいっていないと思っている。この点は、大蔵省とも良く話し合って決めていくべきことだというふうに思う。

【問】

介入権を持っている大蔵省は、介入したかどうかということを事後的にでも国民に知らせるべきであると思うか。

【答】

外貨の増減とか、あるいは色々なことで、いずれは分かることかもしれないが、私は強いて発表する必要はないと思っている。

【問】

先進国は外貨準備──日本で言えば外為特会についてであるが──の詳細なディスクロージャーをする必要はないとお考えか。

【答】

各国は、外貨準備の内容を公表するべきだという議論が大勢を占めているのではないかと思う。BISのユーロ委員会でもその討議が行われている。

【問】

金融監督庁等の当局が公的資金を梃子にして、性急な形で再編を迫り、中には経済合理性に反した合併を押し付けられるのではないかとの危惧の声が金融界で聞かれるが、これに対する考え如何。

【答】

最終的にはどの銀行も皆株式会社であるから、株主を尊重しなければいけない──言われたからやるという、それは債務超過にでもなっていたら別であるが。どの銀行もそうであるが、今のままの姿でいけるかというと、なかなかそういう銀行は限られていると思う。25兆円の資金の保証が約束されているこの時期に、この資金で不良資産を処分して、そして過少資本を埋めて、それからどういう方向へ持っていくかということを良く相談もし、──私どもの所にも来られるであろうし、金融監督庁や金融再生委員会でも相談に乗るであろうが──検査、考査をこの前一律にやっただけに、その辺のところは資料がある程度整っている訳であるから、監督機関やあるいは私どもの所へ意見を聞きながら、方向を決めていくというのが、これは銀行としてもこの時期を逸しないでやって頂きたいと思う。また、銀行の方も「この時期を逸したら」という気持ちはどこもお持ちではないかと思う。これは、必ずしも強制というようなことではないと思う。

【問】

個人的な見解で結構なので、リストラ関連についてお伺いしたい。一般的に支店長宅の大きさ、豪華さが指摘されているが、なぜ今までそういう大きな支店長宅が必要だったのか。また、実際こういう批判を受けた中で、総裁ご自身はこういった批判は、受けても仕方がない、やはり一般的には不釣り合いと思っておられるのか、あるいはこういう批判を受ける筋合いにはないというふうに思っておられるのか。

【答】

支店長舎宅というのは、今でこそ交通の便も変わったし、地域経済も変わってきているが、戦前からずっと30幾つかの日銀支店が皆それぞれ持っていた──古いところと新しいところがあるが──。古くて昔からのものを持っているところは、やはり当時は土地も豊かであったし、日銀の支店長という立場も今とは少しは違っていたんではないかと私は思う。そういう日銀支店長の住居というものは、色々な意味での金融の相談や経済の相談をしたり、あるいはお客さんを呼んだりというようなしきたりがあった訳で、そういうものに相応しい支店長の舎宅がそのまま残っているというところも幾つかある訳である。

この時期に、もう少し売れるものは売って、マンションに切り替えていくとかというようなことが起こるのは自然の成り行きであり、ただ一斉に、一遍に売ってしまってというのは──やはりどこかに住まなければならない訳であるから──、急に急いでやってしまうということは、必ずしも今必要ではないと思うが、古くて切り替えた方が良いと、あるいは余分なところが多すぎると、とてもこれは管理も出来ないというようなところもある訳であろうから、そういうところは処分をして、もう少し新しいあるいは住みやすいマンションなり何なりに切り替えていくということは起こっていくのが自然の成り行きだというふうに、少なくとも地方の支店等については申し上げることが出来ると思う。そういうことは、今内部管理の担当部署で一生懸命進めている訳であるので、これは見ていて頂きたい、必ず一定の期間を経て全てが落ち着くというふうに思っている。そういうものについて、皆かなりのレンタルというか家賃を頂いている訳である。

支店長舎宅の家賃というのは、大体5万円前後頂いているのではないかと思うが、大阪支店長は関西地区の一つの大事なポストであるので、これはかなり大きなものが必要だと私は思っている。これも家族同伴の場合は、今の規定では約110万円という高い家賃になってしまう。これはとても月給で払えるものではないから、どうしても単身赴任ということになって、今18万円位の家賃を払っている訳である。その上で色々な会合が出来るだけの広さを持ち続ける必要があると思う。大阪は別だというふうに思って頂きたい。たまたまこの間の震災でやられたので建て替えた訳であるが、その他の支店長舎宅は先程申し上げたような順序で次々と古いものは売って、新しいマンションなどを買って入ってもらうといったようなことになりつつあることをご認識頂きたいと思う。

【問】

長期金利の上昇のことについてお伺いしたい。今日の月報の中でも「注視していく」という姿勢を見せていると思うが、一体どこまで「注視」という形でアクションをとらずにご覧になっていくのか。先程質問も出ていたが、デフレ・スパイラル入りが確認されるような危機的な状況になった場合にとるべきアクションについて、日銀としてはどのように今議論を進めているのか。

【答】

今、長期金利が高くなったと言われたが、1.7%とか1.6%とかいうこの水準というのは、1年半位前はもっとずっと高かった訳である。2%位からずっと下がってきて、去年の夏位になって1%を割るようなことになっている訳である。これはやはり去年の夏場は、皆さんご承知のように、夏から秋に向けてフライト・トゥ・クオリティと称して他に運用するものがない、国債なら間違いがないということで、内外で日本の国債をお買いになった訳で、それで利回りが1%を割るという事態になった訳である。これが3、4か月続いて、ここへきて12月頃から上がってきたということであるので、今の水準が、確かに高いといえば高いが、夏頃の1%を割っていた水準というのは、低すぎたという感じを持ってもいいと思う。1年半前の今と同じ位の水準で、あるいはずっと下がってきつつある時でも、短期物のコールは0.5%を割って0.4%位──今よりもちょっと高いが──の時に、これ位の水準の長期金利が続いていた訳であるから、今が特別に高くなっているということではないというふうにご認識頂きたいと思う。これはもうグラフをご覧になればすぐ分かることである。

【問】

初めて一時国有化された日本長期信用銀行についてお伺いするが、資金調達能力の回復の状況や資産の振り分けの進捗状況、それから今後の課題について総裁は今どのようにみているか。一時国有化という選択が、今後もシステムの安定や銀行の再生に有効であるというふうに判断できる材料というのはみえてきているか。

【答】

事実上債務超過ということで特別公的管理になっている訳であるが、今安斎頭取はじめ、残った方々が一生懸命資金繰り面で──金融債の発行もそうだし──、それから不良貸出の整理やあるいは新しい貸出を見つけるといったようなことを含めて動き始めており、海外にも手を伸ばして将来日長銀を引き受けていく銀行を探していかれるんだと思う。こういう努力が実っていくことを願っているというのが現状である。

以上