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篠塚審議委員記者会見要旨(2月4日)
平成11年2月4日・道南地区金融経済懇談会終了後の記者会見要旨
1999年2月10日
日本銀行
——平成11年2月4日(木)
午前12時から約30分
【問】
本日の道南地区金融経済懇談会の模様如何
【答】
(冒頭、懇談会席上における挨拶を概略説明。)懇談会の出席者から、現在函館市が抱えている問題点や先行きへの課題をお話しいただいたが、その中で特に興味を持った話題を若干紹介させて頂く。
まず、函館の場合はやはり公共投資が景気を牽引しているが、その一つとして公立大学の建設が始まっており、12年4月の開校を目指しているとのことであった。個人的には、経済が活性化するためには労働力がその地域に定着する必要があると認識しており、公立大学が開校されるということは、他県に流出する若者たちを地元に食い止めるという点で非常に大きな経済的効果があると思われ、こうした公立大学開校に向け尽力された関係者に敬意を表した次第である。
次に、かつて函館といえば造船等製造業が盛んな地域であったわけだが、徐々に観光業にシフトしつつあるというはっきりとしたメッセージが伝わり、これから函館は観光業で発展していく方向にあると確信した。と同時に、もしそうであるならば、あらゆる産業界がもう少し本腰を入れ、協力し合うことも不可欠であるとも感じた。国内の観光客動員だけではなく、台湾等海外からも観光客を招くにはどうしたら良いかという模索を続けているような息吹が感じられ、ここから新しい函館の経済活性化の道が開かれると思われた。
また、木材業界の話題として、市況が低迷している中にあって、ベニヤ板の価格調整のための努力や、片道貿易ながら地の利を活かし、サハリンと交流を行っているといったお話を伺ったほか、地場産業である水産加工でも、問屋任せの流通形態を見直し、メーカーが直接スーパー等に納品するといった新しい試みが聞かれ、非常に感銘を受けた。
最後に金融関係であるが、私自身、北海道拓殖銀行の破綻以降、この地域の金融がどのように動いているのか非常に関心があった。破綻から1年以上が過ぎ、非常に厳しい状況から多少落ち着きを取り戻している中にあって、預金者の低金利に対する苦情の声を聞けたことが収穫であった。もちろん、低金利というのは、企業にとっては低コストで借入れできるというメリットがあるものの、金融機関にとっては、預金があってこそ貸出しができるわけで、その預金者の苦情の声を聞けたということで、興味深いことであった。
【問】
篠塚審議委員は、政策決定会合の場で現状の金利水準について反対の意思を表明しているが、どういう点で異常な低金利であり、それによってどういった弊害が生じているとお考えか。
【答】
まず、異常な低金利という点で申し上げると、このような低い金利を採用している国は、先進諸国の中には何処にもないということである。そして、低金利がもたらす国民生活全般への影響をオールラウンドに見なければならないと思っている。緊急事態においては、低金利は企業の活性化を通じて、生産→雇用→家計といったマクロの流れが考えられるが、日本ではバブル崩壊以降、低金利政策を採り続けたにもかかわらず、その間なかなかその効果が表れてきていない。緊急事態ということであれば2〜3年が限度であり、預金者の方が不満を持ってくると、資金の流れそのものが不安定になるということが考えられる。また、私自身が政策決定会合で反対を申し上げている一番の背景は、昨年の9月9日の政策決定会合の場においても、差し当たって何がなんでも金利の誘導目標を引き下げなければならないといった経済指標が、私にとって見当たらなかったということである。
【問】
最近の長期金利の上昇を通じて、預金金利等が引き上げられる方向にあるが、こうした傾向は、篠塚審議委員にとっては好ましい兆候ということか。
【答】
好ましい兆候とは考えていない。長期金利は、景気の先行き見通しを勘案して形成されるものであるが、現在生じている長期金利の上昇は、目先きの国債の増発懸念から生じていると思われる。翻って、金融政策では長期金利をコントロールできないという大原則があるため、現段階では本行として何か施策を行なうべきとは考えてはいない。
【問】
長期金利はコントロールできないということであるが、現状の長期金利の水準は問題ないということか。
【答】
政策として長期金利をコントロールできるかという問題と、現在の長期金利の水準が適正であるかということは別問題だと認識している。
【問】
先日、米国財務省のルービン長官が「金融政策は通貨供給量に焦点を置くべきであり、その一つの検討材料として、日銀による国債の引受けも考えられる一つの政策である」旨の発言をしていたが、その点についての見解如何。
【答】
私はルービン長官の正式な発言内容を把握していないが、現状の長期金利に対する認識は、国内と海外では立場、見方が違う。日本は日本独自の政策を行うべきで、たとえルービン長官の発言があったとしても、切り離して考える必要があろう。その上で、本行が国債引受け問題に関して直ちに何かすべきかという点については、私どもとしては否定的である。だからといって、何もしなくてもよいのかという点についても、まだ検討中である。
【問】
11月後半の政策決定会合で、インフレ率を目標にし、そのためにコールレート目標を0.1%引き下げるという提案があったが、篠塚審議委員の見解如何。
【答】
金利決定のメカニズムというのは、通貨量と金利の同時決定である。これまでのところ、金利の誘導目標を設定して金融政策を運営するやり方が比較的成功している一方、通貨量の増減で金利を誘導するというのはあまり上手くいっていないように思われる。もちろん、国によっては、通貨量や物価を目標にしながら金融政策を行っている先もあるが、私自身は、その意見に対して賛成する立場にはない。
【問】
しかしながら、金利が限界水準に達している中にあって、通貨量を拡大させるという施策は既に実施しているのではないか。
【答】
ご指摘のとおり、様々なオペを実施して潤沢に資金を供給しているのは、緊急事態であるということが背景にあるためである。しかしこの場合も、量的なターゲットを設けている訳ではない。
【問】
国債引受けは、財政法で禁じられているため実施できないということであるが、既に行っている国債買切りオペ増額により通貨量拡大を図るというのは将来の検討課題になりうるのか。
【答】
本行は新日銀法の下、独立性と透明性を標榜しており、かつ金融と財政を切り離して独自で金融政策を行っていくことが理念であるで、国債買切りオペの増額の可能性は低いと思われる。
【問】
デフレが進行している情勢において、日銀による新発国債の引受けや国債買切りオペの増額を含め検討すべきだという声が高まっているが、現在のデフレ状況と国債引受けとの関係で、国債問題はいずれ検討しなければならない局面を迎えると思われるが、如何か。
【答】
日銀による国債の引受論議と同時に記者の方たちは、本行のバランスシートに関する懸念も随分書いて下さっている。こうしたことも念頭に、私どもとしては、バランスシートを睨みながら検討している最中である。
【問】
検討中であるとは、つまり新発国債を引受けた場合、どういったことが発生するかを検討しているということか。
【答】
そこまでは含めてはいないが、国債の引受けということがどのような影響を及ぼすか、また、バランスシートに対し、どのような悪化をもたらすかという勉強会は実施している。あるいは、どのような資産を保有するべきか(すなわち、流動的な資産を保有した方が様々なオペが可能になるわけだが)ということも検討している。
【問】
先程、「低金利は預金が安定的に集まるための弊害」とおっしゃっていたが、低金利が及ぼすデメリットとして、他にはどのようなことが挙げられるか。
【答】
金利とは、生活全般に組込まれているので、例えば、年金制度の立て直しの際にも金利は影響を及ぼすであろうし、運営資金を金利に依存している組織(財団法人等)は悲鳴を上げている等々を勘案すると、金利にはある程度の幅(ゆとり)が必要であると認識している。
もっとも、金利に関しては、水準ではなく変化だという意見もあるが、変化というのは、おそらく市場での話であり、国民生活一般においては、どういう水準にあるかというのが非常に重要であろう。
【問】
長期金利の急騰で景気回復の足を引っ張るという見方があるが、これに対する見解如何。
【答】
あまりにも急激な金利の上下というのは、ある程度の予測を立てながら景気回復に向けた財政政策等を実施している状況下では、マイナスに作用すると思われる。だからといって、本行が直ちに何かできるかというのは別問題である。
【問】
現在、日本銀行として何ができるか勉強会を行っているとのことであったが、具体的にどういった内容か。
【答】
本行としては、今後何が発生するか分からない危機的な状況にあると認識しており、例えば、預金準備率の操作がどういった効果があるかとか常に勉強会は実施している。また、国債に関しては、やはり本行のバランスシートにどのような影響が及ぶのかといった勉強会を実施している。
【問】
勉強会を実施しているということは、その結果、バランスシートの悪化を避けられる方法が見つかった場合は、当然、国債引受けは金融政策の有効な手段となり得るということか。
【答】
政策委員の9人が勉強し、議論を交わすわけであるから、結果がどうなるかは分からない。
【問】
国債の問題はさておき、新しいオペの形態についても勉強会の内容に組込まれているのか。
【答】
政策委員会では、様々な政策の手段について勉強会を行っているが、マスコミは日銀を煽っておきながら、いざ実行するとバランスシートが劣化していると批判されてしまう。いずれにしても、政策委員会では、政策のあらゆる可能性について模索している状況である。
【問】
FRBの独立性を尊重している米国財務省が、日本銀行の政策に口を挟んだことに対して、見解如何。
【答】
ルービン長官の正式な発言内容を把握していないが、日本国内の金融政策は日本国内の事情で行うべきであると認識している。また、国際的な金融不安が生じている現状、様々な国からの要望もあると思われるが、そのことに関して、本行としてすぐ対応するというのも、個人的には、おかしいのではないかと認識している。
【問】
篠塚審議委員が東京で想像していた函館と、実際の函館の印象は如何か。
【答】
函館といえば、北海道拓殖銀行の破綻以降、本当に厳しい状態に陥り、その後1年以上経過していることから、心配しつつ参ったわけである。もちろん1年目は大変厳しかったということは理解できたが、比較的観光業を中心に粘り強く頑張ってきたということは驚きであった。東京にいる限りでは、函館に関して暗い情報が目立っているものの、実際には随分頑張っているなという印象を持った。
以上
(参考)
金融経済懇談会出席者一覧
- 小池亮一
- 函館税関長
- 村井太美雄
- 函館財務事務所長
- 加藤大明
- 渡島支庁長
- 長尾明宏
- 桧山支庁長
- 井上博司
- 函館市助役
- 竹内巌
- (株)北洋銀行函館支店副支店長(函館銀行協会会長行)
- 佐原正三
- 函館信用金庫理事長
- 相馬正明
- 渡島信用金庫常務
- 山村祐悦
- 江差信用金庫専務
- 沼崎弥太郎
- 函館商工会議所副会頭
函館国際観光協会会長
((株)エスイーシー社長) - 村瀬順一郎
- 函館地方法人会会長((株)村瀬鉄工所社長)
- 小笠原金悦
- (株)テーオー小笠原会長
- 相馬宏二
- 函館どつく(株)副社長
- 高口義勝
- 太平洋セメント(株)上磯工場長
- 浜出雄一
- (株)東和電機製作所代表取締役
- 河内孝夫
- (株)湯の川プリンスホテル社長
- 柳沢勝
- (株)魚長食品代表取締役
- 石黒義男
- 函館特産食品工業協同組合理事長((株)布目社長)
- 小泉新一
- 山一食品(株)会長
- 田中仁
- 第二物産(株)会長
(計20名)