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総裁定例記者会見要旨 (2月16日)

1999年 2月17日
日本銀行

—— 平成11年 2月16日(火)
午後 3時から約35分間

【問】

先週末の金融緩和措置を受けて、週初、長期金利は上昇した。今日、宮澤大蔵大臣が資金運用部による国債の買入再開を発表して、また下がるという状況になっている。こうした動きについてどうみているか。

【答】

私どもはオーバーナイトの無担保コールレートを基準にして目標を定め、場合によってはゼロになっても良いという位の気持ちで、取り敢えず0.15%前後のところで様子をみようと思ってはいたが、市場の方は非常に早く下げていって、今は0.10%位のところで止まっている。この辺でもう暫く市場の混乱がなければ、もっと下がっていっても良いと思っているところである。

ご承知のように今回の措置は特に長期金利を狙ったということではなくて、最近の金融経済情勢——景気の悪化テンポは緩やかになっているが、民間経済は動きが依然として今一つ鈍いし、それから長期金利の上昇、円高が経済の先行きに若干マイナスの影響を及ぼし始めているのではないかということ——を踏まえて、景気の悪化に歯止めをかけるために、より一層金融を緩和して資金を潤沢に出すということで始めたことであるから、思ったより早く下がっていくのは私どもはこれで結構なことだと思っている。

長期金利への影響というのはどういうふうに出てくるかと思っていたが、昨日1日で若干(債券価格が)下がったかと思っていたが、今日たまたま大蔵省の発表もあり、2%を割るところまできているから、これもまた傾向としてはよろしいのではないかと思っている。

株の方は、年度末を控えて企業も投資家もみんな上がってほしいという気持ちが非常に強いであろうことは目に見えている。それが——先週は 14,000円を割り込んでいたが——今日は14,200~300円というところで少し上がってきているのは、そういう意味からは明るい方向だと思う。

為替についても、円高が金利の低下で117円台まで円安になっているというのも、今の情勢の下では国内経済を活気づけるためには良い現象だと思っている。

まだこれからであるから、どれ位動いていくか、とにかくもう少し市場の動きをよくみていたいというふうに思っている。

【問】

国債の買い切りオペの拡充についての議論はやはり今後も続けて欲しいという声が出ているが、これについての考え如何。

【答】

買い切りオペについては、これまでと同様の頻度と金額で、──今、月2回2,000億円ずつ買っている訳だが──このペースで私どもは行こうと思っている。

やはり国債買い切りというのは、無条件に増やしていくということは、財政節度を失わせることになるし、何らかの歯止めが必要であると思う。そのために、長い目でみて銀行券の増加に見合った金額に対応させていくという考え方で引続きやっていって良いのではないかというふうに思っている。12日の金融政策決定会合でも、その方針を維持することが確認されている。

【問】

大手行への公的資金の投入額がほぼ固まってきているが、どのように評価しているか。また、日銀として今後、金融再生委員会に対してどのような考え方を示していくのか。

【答】

公的資金の投入については、現在、金融再生委員会が3月末までに資本投入をするという方向で事前審査が一段落ついたということを、柳沢大臣から伺った。投入額等について報道されていることは承知しているが、この段階で私どもの立場から色々コメントするのは差し控えたいと思っている。方向としては大変良い方向に進んでいると思っている。

公的資本の投入に関し、私どもの考え方は、前から個々の金融機関が不良債権の抜本処理、過少資本状態を解消していくということが大切だということを言ってきた。そういう立場から言っても、今になって振り返ってみると、去年の6月か7月だったと思うが、自己査定、自己開示ということを私がこの席で申して、第2分類債権もそういう方向で進めていかなければいけないというようなことを言ったが、その時は非常に大きなショックで、反発も出た訳である。(金融)再生委員会の中間取りまとめというのは、かなり厳しいものであるが、こういう方向でやっていかれるのは、私としては非常に望ましい方向だと思っている。

2つ目は、公的資金を投入して──相当額入れて──それによって早期償却と過少資本の補填ということをやらないと、これからの競争の激しい金融界の中で立っていけなくなると、これを早くやるべきだということ──取引先その他から増資で手伝ってもらえるところはなるたけそれをやり、それではとても足りないので──数字も何回も申し上げたが──、要するに今すぐ使える資本勘定──コア・キャピタル──というのを増やしていかなければ駄目なんだということを何回も言ったつもりである。

3つ目が、金融再編の大きな社会的な流れの中で、自分の進むべき道はどれなのか、自分の得意とする道はどれなのかということを早く決めて、その方向に向かって歩み出す、あるいは再編の相手を見つけたり、探したり、話し合ったりということを早くやって下さいという、この3つのことを都市銀行や信託、長信銀の方々には申してきたつもりである。ここでもそのことは何回も申し上げた訳だが、今になってみると、これがやはりかなり速いスピードでここへきて実現されつつあることは非常に喜ばしいことだと私は思っている。

【問】

今週末にボンでG7が行われる予定になっているが、日本の問題が重要なテーマになるのではないかという事前の観測が流れている。そこでどのような議論が展開されて、総裁の方からはどのようなことを訴えていくお考えか。

【答】

G7の議題というのは、私も具体的に内容についてあまりよくみていないが、そういう意味で、この段階で何をしゃべるか、あるいはどういう議論をするかというコメントは差し控えさせて頂きたいと思う。

G7ではこれまで同様に、中央銀行の立場からわが国の経済の現状、それから金融政策運営の考え方、そういうものをよく皆さんに分かって頂くことが、まず第一に必要だと思っている。そのことはいずれにしても──彼らがどれだけ重要性を感じているかどうかは別として、──私としてははっきり説明させて頂きたいところだと思っている。自己資本の公的資金によるインジェクションが必要だということも、ワシントンでの会合の時にかなり強く言ったつもりであるが、25兆円の予算が対応され、それをどこにどれだけ入れて使っていくかという話が3月までにはだいたい決まるというのは、私どもにとっては喜んで皆さんにお伝えできることではないかと思う。

どこの国も皆──多少の違いはあるが──、景気の膨らんだリスクで、危機の後に必ずバブル弾けというものが起こって、バブル弾けにはやはり資産の減価が起こり、その結果として金融システムの不安が起こっているというのは、大体同じような流れで起こってきていることなので、そういうことを私どもの方はかなり時間はかかったが、こういう格好でそれを解決してきているんだということはご出席の方々には関心の深いところではないかというふうに思っている。

その他に、為替ゾーンとか資本の扱い──資本流出入をどうするかとか──といったお話も話題には出るだろうと思うが、いずれにしても丸一日の会議であるから──一日と一晩であるが──、そう突っ込んだ話が出来る場所ではないのではないかというふうに思っている。

【問】

先日の金融緩和決定後の記者会見で、「緩和方向での金融政策は打ち止めか」という質問の答えで、「まだ緩和する必要があるということであれば別のことを考えなければならない」旨言っているが、具体的に何らかの局面で一段の金融緩和を迫られた場合に、想定される政策というのはどのようなことを考えているのか。また効果をどの位見込んでいるのか。

【答】

これから、どういうふうにやっていくかというのは、もう少し市場の動きをよくみた上で、今後の対策については行内でいろんな方法を議論し考えていきたいというふうに思っている。この段階では何をやるというのは申し兼ねる。

【問】

預金準備率とか、そちらの方向の政策なんかを想定されているのかと思ったが、そういったことは考えていないのか。

【答】

まだ具体的には何も考えていない。これからよく勉強していきたいというふうに思っている。

【問】

先日の記者会見では、「当初0.15%を目指して、うまく進められれば、さらに引下げることを考える」旨の説明であったが、先程の総裁の説明では既に足元でも0.15%を大きく下回るようなことも歓迎するというような言い回しであったが、日銀としては、現状でも0.15%より下に誘導するという方針なのか。

【答】

当初は0.15%前後を目指すということは、確かに公表文の中にもあったが、今回の緩和措置では、「潤沢な資金供給を行うために、無担保コールレートのオーバーナイト物をできるだけ低めに推移するよう促す」ということも最初にディレクティブの中に書いてあると思う。その際短期金融市場に混乱を生じないように、その機能の維持に十分配慮しつつ、当初0.15%前後を目指し、その後市場の状況を踏まえながら徐々に一層の低下を促していくというふうに書いてあり、できるだけ低めに推移するよう──できるだけ低めというのは、ゼロにでもなることだってあり得る訳だが、そういうことはいきなり起こると市場がどうなるか分からないから、できるだけ低めに推移する──というふうなことがメインのポイントであり、それを市場に混乱を起こさせないために当初0.15%位のところでまでいって、市場の状況を踏まえて徐々に一層の低下を促すというふうに書いてあるし、申し上げたつもりである。

それが最初の日に0.10%近くまでいったということである。今のところこの辺で少しストップがかかっているのかもしれないが、資金がどっちの方に流れていくのか、その辺は私どももよく分からない。これをよくみていないと──例えば普通預金の金利と大体同じになれば普通預金に流れていくのがあるかもしれないし、あるいはその他の金がどっちの方へ流れていくか──その辺はこれから市場の動きを金融市場局で色々な情報を集めてみてくれるというふうに思っている。その動きをみながらさらに進めるか、あるいはどの辺で止めるかというようなことが起ってくるのかもしれない。

【問】

外国の政府関係者の間でも、日銀は国債の購入を拡大すべきなのではないかというふうな意見が出ていたと思うが、それがまたG7で議題になるとお考えか。また、現在の日本の長期金利の水準について、日銀としてどの程度まで上がることについて、許容できる範囲と考えていると説明する予定か。

【答】

具体的な水準をどうこう言える性質のものではないと思う。この前の 0.6%、0.7%という金利は、アメリカでヘッジ・ファンドのトラブルが起こったりして、むしろフライト・トゥー・クオリティというか、他に逃げていくところがなくて、ロシアあるいはブラジル、中南米といったところへ運用していた資金が、「日本の国債なら大丈夫だ」といって、わっと来たのが、昨年秋の急速な金利の下落をもたらしたものである。その時の下がり方が余りひどかったものだから、その後の上がり方をみていると、確かに今年に入ってかなり急速に上がったという感じがするが、どの辺が良いのか、──それはとにかく国債が内外の人達に消化され、売れていくことが一番望ましいということであるから、これは市場にお任せするということだと思う。

それから大蔵省が、新しい国債対策を今日発表なさったようだが、これは(国債の)発行元であるから、色々消化し易いように長さを変えたり、場合によっては、月中に少し市場から買ったりというようなことをなさっていくのは、私は非常に結構なことだと思っている。

【問】

今のと少し関連するが、大蔵省が国債の対策を新たに打ち出したということに、政治サイドから色々な要求があった日銀の新発国債引受け、買い切りオペの増額について結果的に日銀が拒否したという事実が影響しているとお考えか。

【答】

それは全くないと思う。どうしてくれというご要望も受けていないし、今度の措置についても、今朝ご連絡を受けたのであって、私どもの方の窓口で実務はお手伝いさせて頂いているとは思うが、これはタイミング良くおやりになったというふうに私は評価させて頂きたいと思っている。

【問】

3月決算に向けて輸出企業は、昨秋以降の円高進行で大分苦しい決算を迫られているという中で、若干昨日から円安の方にシフトしてきたという感もある。先程総裁は、円安が国内経済を活気づけるには良い現象だというふうにおっしゃったが、今後更に円安が必要なのかどうか、介入の必要性も含めて伺いたい。

【答】

為替の問題は、どこが良いかということをコメントすることは差し控えさせて頂く。私どもの金融緩和措置は、長期金利の上昇とか円高気味な展開が、経済の先行きに及ぼすマイナスの影響といったものを踏まえて決めたものであるから、多少円高が調整されていくのは結構なことだと思う。

いずれにしても為替市場というのは、国内の金融政策の独立性を保証するものだと思うし、自由なフロート制度というのは、そうやって金融情勢の国と国との間の違いを調整していくものが市場のフローティングなレートであり、そういうものがこうやって機能していくのは自然の流れではないかと思っている。

【問】

「翌日物コールレートをできるだけ低く」というのは、ゼロ金利を目指すということか。

【答】

目指すというか、ゼロでやっていけるならばゼロでもいいと思うが、できるだけ低めに推移するよう促してほしいという指示を与えている。

【問】

今回、ゼロ金利を容認するということは、量的にはいくらでも出すということか。その際、何を見て、どれくらいの量を出していくのか。

【答】

金利と量というのは、コインの裏表のようなものであって、金利を下げていけばたくさん(量が)出ていくであろうと思う。私どもが、今までやってきた政策は、オーバーナイト物の金利を0.25%、あるいは今度は0.15%からさらに下げていくというのを、政策のひとつのターゲットというか目標にしてやっていくことであって、どれだけの量が出ていくのかということは、私どもとしては、特に数字も持たないし、そういう指標をもってやっていこうとは思っていない。金利については、すぐ(結果が)出るので、だいたい今日はどこまでいって、どういうふうに動いたというのはすぐわかるが、量の方は必ずしもそれがはっきり分からないから──どっちがいいかというのは今後色々議論のあるところであると思うが──今までのところは金利をひとつの目標にやってきたつもりである。

【問】

日債銀の奉加帳増資を行った時、民間や日銀に伝えられた第3分類額7千億円について、日銀は当時の日債銀の東郷頭取から報告を受けたということであるが、その後日銀から大蔵省に対して確認をしていないのか。

【答】

日債銀は平成9年4月1日に経営再建策を発表した。私どもが考査を行ったのは平成7年2月であるが、経営再建策を発表した平成9年4月1日の前の3月24日、25日の2日間を使って、日債銀の自己査定のヒアリングを実施して、査定が適正なものかどうかをチェックした。

私どもは、新金融安定化基金に全体として1千億円を拠出することを既に政策委員会で決めていて、3月24日、25日の自己査定のヒアリングを行った上で、4月1日に、日債銀に8百億円を限度として新金融安定化基金を通じて出資することを決めた訳である。その頃債務超過でないということは確認をしていたし、大蔵省の検査でも、5月中頃、途中経過で債務超過ではないという話を聞いていた。9月には、特に日債銀から大蔵省の検査結果を聞いて、その時に第3分類が7千億円であるということを聞いていた訳である。

その間、7月の終わりに、8百億円を払い込んでいる。こういうことなので、その後もずっと債務超過ではないということを前提に考えていた。この位の記録は残っている。

【問】

日債銀から7千億円という数字を説明されて、それを鵜呑みにしたのか。大蔵省に何故確認しなかったのか。また、現時点では、その時の第3分類額が1兆千2百億円であったと判明していて、実は債務超過だったのではないかという疑いが出ているが、それについて日銀は特段調査・フォローアップをしていないのか。

【答】

フォローアップは常時していたと思う。考査については、大蔵省が入った直後なので、当方がまた出ていくという訳にはいかなかったと常識的に考えられる。大蔵省の検査結果については、債務超過でないということを日銀にも口頭で説明してくれているし、最終的な検査結果は日債銀から報告を受けている。それは9月である。

【問】

金融監督庁は、7千億円について、国会で、「日債銀が作った数字が一人歩きしたものだ」と説明しているが、そうすると日銀が受けた報告は実際とは食い違っていることになる。これについては、どのような認識か。

【答】

一人歩きかどうかは知らない。私どもは、日債銀頭取から、「大蔵省検査結果で第3分類は7千億円であった」と(聞いた)。日債銀は、自己査定ではもう少し少ない数字を持っていたようであるが、私どもは、「決して債務超過ではない」と聞いていた訳である。

以上