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武富審議委員記者会見要旨(2月19日)
平成11年2月19日・高知県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨
1999年2月25日
日本銀行
―平成11年2月19日(金)
午後2時から約30分
【問】
今回の国内出張先として高知を選ばれた理由如何。
【答】
人生58年の中で、これまで高知を一度も訪れたことがなかった。土佐は、幕末・明治維新や戦後の吉田茂さんなど時代の節目に躍動した土地柄。今もまた、歴史の節目を迎えている中で、土佐を訪れて何らかのヒントを得られるのではないか、というような思いもあり、地方を訪れるのであれば、先ず高知と心の中で思っていた訳で、それが今回実現した。
【問】
金融経済懇談会で高知県の代表者と意見交換された訳だが、その感想と昨日と今日と現地視察しての感想はどうか。
【答】
一言でいえば、ご苦労が多い中で、それぞれ頑張っておられるというのが全体としての印象だ。高知県(の就業者数の産業別構成比)は、第一次産業が約15%と全国平均(6%)に比べてウェイトが高い訳だが、その中で今回は、農業の分野で消費地に直結した形で、技術面や機械化によって競争力を高めるべく努力されている園芸作物の実情を拝見した。
また、製造業についてもウェイトが低いとはいっても、高知にはよく探せば世界や日本でナンバーワンのシェアを持つ企業もある。伝統的な地場産業の精神やノウハウを活かしながら、世界に通用する製造業の成り立ち方を工夫して立派にやっておられる企業の一端を見せて頂いた。
第三次産業については、まずプロ野球3球団が当地でスプリングキャンプを張っている。大物ルーキーや老練監督という目玉があるため、その波及経済効果がこれまでの30億円から今年は50億円にものぼるのではないかという話を伺い、観光立県的な面もある高知県にとって明るい材料と感じた。また、建設業の分野でも、足許の公共事業について、国体関連施設や高速道路の整備など大きなイベントを進めているということもあって、世の中一般に比べると活気があるように見られた。
もちろん、高知県も厳しい経済情勢の影響を受けているのだが、その中でいろいろ工夫・議論をしながら新しい対応をしているように思われた。新しい息吹や将来に希望が持てるような現場を見たいと思って高知に来たが、その願いのかなりの部分を達成できたと感じている。
【問】
土佐の酒文化についての印象はどうか。
【答】
一種の文化というか、「郷に入っては郷に従え」でしょうし、むしろそういう地域特性を内心求めて高知に来たが、昨晩は支店長と程々にしかいただいていない。また機会があればと思っている。
【問】
日銀のリストラの中で支店統廃合の問題があるように思う。高知支店については、重要で利便性の高い必須の機関という地元の強い声があるのだが、支店統廃合の問題をどう考えているのか。
【答】
日銀は、新しい日銀法ができる前から、中央銀行としてどうあるべきかを自らいろいろ検討し、また対応を進めてきている。
支店統廃合の問題は、日銀法改正の中で、首相の私的諮問委員会や金融制度調査会、また、国会審議の過程でもいろいろとご意見を頂戴している。新しい日銀法の中にも「適正かつ効率的な業務を運営するよう努めなければならない」とあり、支店統廃合問題も広義には、その精神を受けて、いろいろな議論をして頂いたと思う。これを日銀が新しい時代に即して、経営の責任を全うするうえでどう受け止めるかということになるが、大変広がりのある問題であり、いろいろと関連する分野がある。これまで経営効率化についての他の問題は、ほぼ実施あるいは方針決定してきているが、唯一支店統廃合が大きな課題として残ったと言えるかもしれない。事柄の性格上、広範囲に考え抜いていく必要があり、もちろん、地元のご意見も拝聴しながら、適正かつ公平な形になるようこれから本格的な検討を進めたい。
【問】
今回の金融緩和の副作用として、コール市場で資金の出し手がいなくなり、ファンクションしないのではないかとの指摘があるがどうか。
【答】
このように低いレートのオーバーナイトのマーケットは、日本はもちろん外国でも経験がなく、どのようになるかを経験則からは言えないので、市場に混乱のないよう慎重に配慮していくべき問題だと思っている。市場に出し手がいなくなるというようなことが、仮にあるとすれば、そうしたことを含めて混乱のないよう注意深くモニターしながら、秩序が崩れない範囲で金利がさらに低下できるように対応していきたい。秩序ある市場を維持しつつ金利が低下できるように、中央銀行が緩和姿勢を継続し潤沢な資金を供給することによって、いろいろなルートを通じて景気、物価によい効果がでることを期待している。政府も経済対策等の手段を講じている訳で、両方の政策が相俟って景気悪化への歯止めを確実にし、願わくば底入れから立ち上がりに繋げられればよいと期待している。
【問】
このところ、ジリジリ円安に振れているが、マーケット動向についての感想は如何。
【答】
金利の問題と為替の問題はおそらく一部関係している。短期金利は低下し、ここ2~3日は長期金利も落ち着きを取り戻している。そうした中で一部はそうしたことを反映した自然の流れが為替相場にも生じていると思う。長期金利の落ち着きは景気を考えるうえで、大変歓迎できることではないかと思う。
【問】
金融緩和を1週間前に行った訳であるが、この1週間を振り返ってみてどうか。
【答】
繰り返しになるが、景気の悪化に歯止めがかかることを確実にするため、金融緩和に踏み切った訳で、加えて、政府サイドの施策等の効果と相俟って、長期金利にも落ち着きがでている。先行きの景気を考える時に、マクロで整える環境として、一般論として望ましいのは、低金利と適切な為替相場の組合せだと思う。現状はそういう流れになっているということではないかと理解している。
【問】
適切な為替相場水準はどの程度と考えるのか。
【答】
お答えはできない。
【問】
ペイオフの実施について(一部に延長論が出されているが)予定どおり実施されるのか。
【答】
日銀だけで決められることではない。今は預金にいろいろな形でセーフティーネットがかかっており、時限立法が2001年3月に期限が切れることとなっているので、それ以降が本当の意味でビッグ・バンになるということだと思う。終わりが設定されているからこそ、万が一にも将来信用不安が発生しないように、金融機関の不良債権の早期償却とそれを可能とする資本基盤の拡充などの対策が打たれつつある。今後、市場が金融機関の経営の健全性を認知していくというプロセスの中で、ペイオフが実施できる条件が整っていかなければいけない。
したがって、現在はご質問のようなことについてコメントする段階ではない。予定どおり、粛々として完遂できるように金融システム全体をできるだけ早期に立て直し、モラルハザードが生じないように、またディスクローズ等もきっちり進めていく決意が重要であり、この段階で安易に延長論等を議論するのは如何なものかと思う。
【問】
金融経済懇談会ではどのような要望が出されたのか。
【答】
個別具体的なことは、あまり申し上げるべきではないと思うが、支店統廃合の問題は、地元でも関心が強いとの印象を持った。
また、貸し渋りの相談窓口を設けても相談案件がなかったなど、貸し渋りが殆どないというお話があった。地元金融機関の地元企業を育てたいという思い入れや当局サイドの努力もあると思うが、他地域では中小企業が貸し渋りで苦労された時期があったので、当地でのお話を承り、結構なことと思った。
雇用についても、第一次産業に関連する失業とそれに対する取組みのお話を伺った。
また、グローバルな動きの中で、地方をどう考えるのかという点について、地方に立脚した話が多く聞かれ、地に足のついた実感を踏まえたご意見だと感じた。日本が市場経済化、グローバル化の大きな節目にきていることとうまくバランスを取りながら、地方に立脚した考え方を貫徹できる道はないか、規制緩和等についても観念的でなく考える必要がある、というようにかなり幅広い話を伺った。
懇談会に出席された方々は、松尾高知市長をはじめ産業界、金融機関を代表される方々であった。また、幅広い地域、業種からのご出席があった。なお、橋本知事とは別途個別に昨日時間を取って頂き県庁で懇談した。こうしたことで、かなり高知県の状況を理解することができた。
やはり、地域経済については、現地で実際に物をみて、人と話をして把握することが重要だということを今更ながら実感した。
【問】
ウォール・ストリート・ジャーナルに、榊原大蔵省財務官が「日銀は今後数週間以内に一段の金融の緩和を行うだろう」との発言をしているが、独立性と絡めてご自身の考えはどうか。今回の緩和は、量的緩和なのか。一段の金融緩和策として一部に買切りオペについて期待が高まっているがどうか。
【答】
1点目は、内容を知らないし、コメントする立場でもない。
2点目は、繰り返しになるが、金利が市場に混乱のない範囲内で低くなり、そのことが、いろいろなルートを通じて景気にプラス効果を及ぼしていくことを期待している。緩和の姿勢としては、先行きも睨んで早目に対応した訳で、これからその効果を見極めていくことになる。一般論として言えば、金融政策の効果は、半年から9ヵ月位かかると言われている訳で、今回がそうだと言っている訳ではないが、今回の措置についても、よくよくいろいろな角度から、国内の他の市場、債券市場、株式市場、為替市場を含めて慎重にモニターしていくことが必要だ。
3点目については、日銀としては何度も総裁をはじめとして意見を申し上げている。改めて私から何か申し上げることはなく、答えは十分ご存知のことと思うので繰り返さない。今は、今回の措置の浸透状況を見極めていくということだ。
以上
(参考)
金融経済懇談会出席者一覧
- 高知市長
- 松尾徹人
- 高知商工会議所会頭
- (いりまじりふとじろう)(入交産業会長)
- 高知商工会議所副会頭
- 澤村拓夫(関西土地社長)
- 高知商工会議所副会頭
- 竹村維早夫(司牡丹酒造社長)
- 高知商工会議所副会頭
- 横田善治(SKK社長)
- 土佐経済同友会代表幹事
- 関裕司(ニッポン高度紙工業社長)
- 高知県経営者協会会長
- 吉村雄治(轟組社長)
- 四国経済連合会副会長
- (たてだけいじ)(立田回漕店会長)
- 高知県中小企業団体中央会会長
- (ふるやとしお)(サンライズホテル社長)
- 高知新聞社社長
- 岩井寿夫
- 四国銀行会長
- 濱田耕一
- 四国銀行頭取
- (はまだしょういち)
- 高知銀行頭取
- 樋浦啓悟
- 高知信用金庫理事長
- 山本正男
- 幡多信用金庫理事長
- 小橋延夫
- 高知県信用農業協同組合連合会会長
- (ところだにたかお)
(計16名)