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植田審議委員記者会見要旨(7月1日)

平成11年7月1日・鹿児島県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

1999年7月2日
日本銀行

―平成11年7月1日(木)
午後4時から30分程度

【問】

本日地元経済界のトップの方々と懇談された訳であるが、その席上どのような意見が出されどう回答したのかという点と、鹿児島と東京を比較した場合の経済的な温度差について、どのように感じているか、お聞かせ頂きたい。

【答】

非常に活発な質疑応答があり、色々なご意見を頂き予定の時間をかなり超過して会が進行した。要約すれば、当地の経済情勢は日本経済全体のマクロのパターンと似ているとの印象を受けた。すなわち、公共部門からの刺激によって経済がかなり支えられている側面があり、これが足許で若干の明るさを創り出している。付け加えれば、当地では、電気機械関連の大手出先企業が最近は明るい方向に動いてきている、という話が出た。ただ一方で、マクロの話でも同じであるが、公共事業等がどこかで失速していくリスクについては、色々な方々から懸念が出された。さらに、中小・零細企業を中心に売上の伸び悩み、あるいは価格の低迷傾向によって苦しい経営が続いているという声も多数聞かれた。また、金融政策スタンスについても基本的には低金利政策、ゼロ金利政策を続けてほしいという方向での意見が多かったと思うが、一方で低金利によって預金金利等も低くなる訳であり、預金金利収入に依存している人達にも配慮してほしい、という意見も出た。私からは、そういった点に懸念は抱いているが、経済全体としては、低金利を継続することが需要を全体として刺激する効果が強いのではないかという方向で回答した。

【問】

昨日の国会で、総裁が景気の認識として「はっきりと」という言葉を付けられ、はっきりと下げ止まっているという認識の発言をされたと思うが、先ほど植田委員は下げ止まりの状況と発言したが、政策委員会の認識としては如何か。

【答】

直近の議論について、事細かに私の口から紹介することはルール違反であり出来ないが、景気認識が下げ止まりという判断から、更にプラスの方向に強く進んだという状態にはないと自分は判断している。

【問】

デフレ懸念の払拭が展望できるまでということに関して、総裁は具体的に何を指標にするかは発言されておらず、一応、総合判断と言っているが、植田委員の方から、もう少し詳しく具体的にどのような指標を重視しているといった点があれば教えて頂きたい。

【答】

特にこれ一つというものはないと申し上げるしかない。先程のスピーチの中でやや詳しく説明した訳であるが、我々の基本的なスタンスとしては、かなり先の将来を見た場合に、デフレ懸念がなくなるということが展望できるかどうかという点である。いずれにしても将来のことであり色々な指標を総合的にみて判断するとしか答えられない。

【問】

テクニカルな点で恐縮であるが、植田委員は量的緩和についてかなり色々な問題があると指摘していると思うが、ターム物金利の誘導という別の手法・考え方についてはどのように考えているか、という点と、先程のスピーチの中でGreenspan議長が1年ぐらい先を見るべきと言ったことを引用されたが、日本銀行としても、1年先を想定して物事を考えているのかという点をお聞かせ頂きたい。

【答】

最初の点については、一時期ターム物金利について目標を定め、それをコントロールするという政策方針が議論されたことがあるし、議事要旨にも出ていると思う。ただ実際にマーケットの状態をみると、ゼロ金利だけでなく、それを継続するという方針の表明により、ターム物金利は短期的な上下はあるにせよ、極めて低い水準にまで低下している。従って、ここまで来た段階において新たにターム物金利に誘導目標水準を定めるという政策の意味が、ちょっと前に比べ低下しているように思える。

2番目の質問で、どれくらい先を見て日本銀行が政策を決めているのか、あるいは決めるのが望ましいのかという点については、まず先を見なくてはいけないということは先程強調させてもらった。しかし同時にラグの長さ、政策効果のラグの長さは色々な状況によってかなり変動するものだと思う。従って、アプリオリにどれくらい先がよいということを決めてしまうことはややリスクが高いと思うが、様々な分析の結果をみると、最低半年から2年くらい先までのようなタイムスパンで物を考えるということかと思う。

【問】

先ほど量的緩和については、目標を設定することにつき、余り意味が大きくないと明解に反対されているが、本日強調されたラグとforward lookingについて、当然、近い将来のある時点において(先行きforward lookingな意味で)、デフレ懸念が一段と強まるということも十分あり得る訳であり、過去をみても昨年9月9日から約半年で一段と緩和に踏み切った例もある。そういった点を考えれば、次にデフレ懸念が強まった場合、具体的に量的緩和を目標にするといった選択肢がないとしたならば、どういう政策があり得るのかという点と、現状ではターム物金利は低い水準にある訳であるが、これが上昇してくればこの金利水準を目標にすることもあると思う。そうした手法を採るならばいずれは長期金利もという要求も出てこようが、その点どのようにお考えかお聞かせ願いたい。

【答】

今の発言の中には、色々なご質問が含まれていると思うが、要は、一段と悪くなっていった場合の政策手段はどうなるのかという話だと思う。この点、様々な可能性を全て排除するというスタンスは採りたくないと思っている。しかし、基本的には、現在のゼロ金利政策を続けるという政策スタンスが、極めて強力なインパクトを発揮し続けるというふうに了解している。

【問】

本日、景気認識の話の中で為替レートについての話は出てこなかったが、介入を行ったことの効果と、それが実体経済に与える影響につき、どのように考えているか。

【答】

介入と為替レートの水準については、立場上コメントできない。

【問】

現在の為替レートの水準が景気にどのような影響を与えると思うか。また、榊原財務官は景気が本格的に回復するまでは円高を阻止するとコメントしているが、先行きさらに円安が進んだ場合、景気に対してプラスの面が強いのかマイナスの面が強いのか。

【答】

抽象的な回答で恐縮であるが、基本的には先程の答えを繰返すしかない。その上で申し上げるならば、為替レートはファンダメンタルズを反映した水準にあるのが望ましいと思う。それが具体的にどの水準かはコメントを差し控えたい。勿論、現状から円安に進んだ場合、景気にどのような影響があるかと聞かれれば、輸出−輸入という需要のコンポーネントを通じて、景気にプラスの影響があるかと思う。

【問】

日銀がゼロ金利政策をスタートさせておよそ4ヶ月が経過し、最近マネーサプライは4%台と少し高くなって推移しているが、これは政策による結果と判断しているか。

【答】

狭い方のマネタリーベースを捉えれば、先程も若干触れたが伸び率が1月から5月にかけて高まっている。その全てではないが、一部は金融政策の結果であると判断している。その理由は二つあり、準備預金が政策効果として増えているという部分と、金利低下によって、現金を持つということのコストが下がるわけであるので、徐々に現金需要が増えてきているということはあろうかと思う。一方、広い概念のM2+CDの動きが金融政策とどのように関係しているのかということは、まだはっきりした見方を持てる段階にはないと考えている。

【問】

今日は長期金利も1.8%程度と落ち着いているが、ここ数日間、金利の上昇圧力が強まっているが、この点どのようにみているか。

【答】

長期金利については色々な面があると思うが、もしも本当に景気回復がきちんと展望できる、あるいは——現状ではそういう可能性からではないと思うが、——財政の長期的な姿に対する不安が心理的に高まり、それによって債券が売られるというような動きがあれば(上昇圧力は)長続きしていく、また質問にはなかったかと思うが、それを止めようとする行為も不健全であったり、失敗に終わるというリスクが高いように思う。ただ、足許はそういった動きではなくて、やや短期的な経済指標等に一喜一憂している部分がみえるように思える。しかしマーケットでは、ある程度時間をかけてであるが、結局は中長期的な景気あるいはインフレなどに対する予想と整合的な水準に、段々と金利が落ち着いてくるものだと思っている。

【問】

本日アメリカが0.25%の利上げに踏み切ったが、これが米国経済、また日本経済にどのような影響を与えるとお考えか。

【答】

FRBの金利引上げは、ある程度予想された動きであるが、私個人の解釈としては、アメリカ経済に基調的なインフレ率の上昇といった兆候は今のところデータ的にはみられていない。そういう中での利上げであるので、予防的な、先程の言葉の中ではforward looking的な、あるいはpre-emptiveな、そういう種類の利上げであると判断している。従って、経済を中長期的に安定化させるという趣旨での利上げであり、そういう方向となることを期待しているので、アメリカ経済にとってもよい動きだし、アメリカ経済が安定しているということは、日本にとってもプラスであると評価している。

【問】

本日のスピーチ原稿には、現状の景気判断についての記述がなく、付け加えられる形でお話されたが、その狙いは何か。また、マーケットには一部に先走る形で景気回復への期待感が出ているように思うが、この点どのように認識しているか。

【答】

間抜けな話であるが、今朝ほど自分の講演原稿を読み直してみた。そこではゼロ金利政策をデフレ懸念があるので続けると主張している訳であるが、その根拠となる景気の将来に亘っての姿に対する判断が十分書かれていないように思えたので、焦って付け加えた次第。また、その時話したように、(景気認識とすれば)中長期的にはまだまだ不安感が残るということである。

【問】

現状の景気判断をお話された中で、Krugman教授の考えを引用したうえで、「少々景気が回復しても金利を上げないと宣言するだけで良いと述べている。その考え方は我々のスタンスに近い」とおっしゃったが、この我々とは金融政策決定会合の多数意見と考えてよいか。

【答】

そのとおり。

【問】

金融政策は出尽くした感じがするが、仮に景気の回復がみられない場合は金融政策として打つ手がないのか。

【答】

先程出た質問と同じだと思うが、現行のスタンスの中に景気回復がおもわしくない間はゼロ金利を続けるという表現が含まれているので、これを続けていくということである。

【問】

テクニカルな話で恐縮であるが、最近の金融調節の朝方の積みでは、積み上幅は1兆円を継続しており、先日の手形の買いオペで応札ゼロの時でも、この1兆円は維持されている。マーケットサイドからみればこの1兆円は疑似ターゲットのような感じもあり、その点政策委員会から指示があるのか。また、別な角度からの質問で、中立調節で(コールレート無担翌日物が)0.03%になるような調節をやっているのかどうかお聞きしたい。

【答】

政策委員会からこれだけ積めといった指示は出していない。しかし我々の判断としては、ゼロ金利を維持するということと、デフレ懸念払拭までそれを続けるということを信頼していただく、これに対して必要な額の資金供給が行われているというふうに判断している。ただし、ご指摘の点についてさらに答えれば、そのぎりぎり最低必要額まで絞っているのかという質問かと思うが、それをテストしにいくという動きのメリットと、若干市場にそういうことによって不安感が発生し、金利が変な動きをする、すなわち積み上という指標にやや過去の経緯を引きずってマーケットが重い判断を置きすぎているということがないでもないので、そういうテストを無理に行う必要があるかという点については、ややコストが高いかなという判断はあると思う。一方で、目標を持ってここまで積もうとかあるいはこの金額を増やしていこうという話がある訳ではない。

【問】

昨日の総裁の発言で、国債マーケット等ではゼロ金利がそろそろ終わりに近づき、金利を上げる方向になるのではないかとの思惑まで広がった訳であるが、この点どのように考えるか。

【答】

総裁が発言されたのは、私が鹿児島に向う飛行機の中であり、(総裁の)やり取りをきちんと見聞きしておらず、事後的な報告を受けた範囲での情報で話をする。おそらく質問者は鈴木淑夫議員で、抽象的な言い方をすれば経済が平時の場合、あるいはそういう状態になると期待できる状態にあるという時に、金融政策はどういう在り方が望ましいかという方向感の質問であったと思う。それに対して総裁は平時であればそれに合った金融政策が望ましいけれども、現在は平時ではないのでそれに相応しいゼロ金利政策を続けるのが我々の意図であるというふうにおっしゃったのだと思う。しかし前段の部分だけが引用された結果、市場が過剰反応したのだと思う。

【問】

ゼロ金利政策の効果をどうみるかという視点で、マクロ政策的には中長期金利がフラット化して好ましい目標にいったが、金融機関個々の行動からみると、短期のクレジットリスクと中長期の金利リスクであるデュレーションリスクをとらせたのか、あるいはとらすように促したのか、どのように判断したかは難しいが、金融機関のバランスシートに金利が将来上昇することで発生するリスクが蓄積されているとも考えられるが、こういった状況が暫く続いた場合、それをどのように解除していくのか。突然サプライズを与える形で、言ってみれば政策決定会合で突然決めるのか、あるいは事前に何らかの、これは難しいが、Greenspan議長が時々やっているようなバイアスを示すといったような方法もあろうかと思うが、この点どのように考えているのか。

【答】

ご指摘頂いた点は極めて重要だと思うが、幸いというか残念ながらというか、そういうことをまだまだ考える時期ではなく、当面はゼロ金利政策を継続する。そして、そういう意思であるということをマーケットにきちんと伝えていく方向感で努力を集中していきたいと思っている。

以上