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総裁記者会見要旨(10月15日)

1999年10月18日
日本銀行

―平成11年10月15日(金)
午後4時から約30分

【問】

最初に、昨日住友銀行とさくら銀行の合併が正式に発表になった。今回の再編に対する総裁の評価と、今後の金融再編の見通しについてお聞かせ願いたい。

【答】

さくら銀行と住友銀行が昨日──突如といっていいのだろうが──2002年4月までに統合するということを前提にして、両行が全面提携を実施するというところまで基本合意したと報告を受けた。

本件は、経済・金融のグローバル化とか日本版ビッグバンの進展とか、情報通信技術の飛躍的向上といった環境変化に積極的に対応していくための決断だったというふうに聞いている。両行の経営判断を高く評価したいと思う。

また、統合までの間も両行の各種インフラの統合とか効率化とか、リストラの加速とか不良債権の処理といった経営課題に意欲的に取り組んでいくと決意しておられるようである。

日本銀行としては、関係者のご努力によって、今回の基本合意が円滑に実現されていくとともに、こうした動きがわが国金融機関の再生と発展に資することを期待して参りたいと考えている。

【問】

今回の統合を受けて、今後も金融再編はさらに加速するとお考えか。

【答】

かなり加速してきていると思う。私は、ちょうど去年の今頃から──もう少し早かったかもしれないが──金融再編ということを、どうしてもこれはやらないといけないと、こうした席でも言わせて頂いていたが、その頃、マネーセンターバンクというのは世界で幾つ位がいいのか、というような質問を海外から来られる権威ある方々に聞いてみた。色々な数をおっしゃる方がおられたが、1ダースでいいのではないかということを言っておられたエキスパートもおられた。そうしたことになると、日本の銀行の数としてはせいぜい5つか6つかということになるのだろうが、そのようなことがこれほど早く目処がついてくるとはその時は思っていなかった。やはり動き出すとかなり早いスピードで動きが活発化してきているということを、私としてはむしろ頼もしいし、また願っていた方向に動いてきたと思っている。

これからの広い意味での金融再編ということであれば、地方の銀行についても起こることであろうが、これも必要に応じて公的資金を入れ、あるいは第三者(割当)増資をやったり、地域、地域で動きがかなり見え始めてきている。まだまだこれから色々なことが起こるかもしれないが、この機会に、国全体の金融機関について再編が行われていくということは、非常に望ましいことだと思っている。

先般の金融再生法でテンポラリー・ナショナライズド・バンクになった日長銀の最優先交渉権を有する買い手が海外に決まったというのは、私は非常に注目すべきことであるし、できることならそれがうまくいけばいいと思っている。その理由は、やはりあのような欧米の大銀行の出資と、それからおそらく経営の中にそうした方々の意見がどんどん出てくるのだろうから、いわゆる護送船団方式で長年育ってきた日本の銀行というものの改革の時期であるし、ビッグバンの一つの成果だと思う。うまくいくかどうかは別として、そうした銀行の、今欧米のマネーセンターでやっている経営というものが見られるということは、非常に刺激にもなるし勉強にもなるので、早く実現していけばいいと思っている。

【問】

先日、政府が2千円札の発行を決めた。これに関しては、利便性が高まるという意見もあれば、金融界とか流通業界は、システム対応にコストがかかるという否定的な意見もある。2千円札発行の意義をどのように考えているか、あるいは、これが日本の景気や経済にどのような影響を与えるか、お考えを聞かせてほしい。

【答】

2千円札の発行というのは、銀行券の使い勝手の良さというか、利便性というか、皆さんもおそらく同じだと思うが、一段と利便性が高まると考えても良いのではないかと思う。ご承知のように、アメリカでも10ドルの次に20ドルがあり、その次が50ドルである。イギリスでも、10ポンドの次に20ポンドがあって、この辺のところが結構使い勝手が良いと私自身も感じていたので、銀行券の利便化を一段向上させることを期待したいと思うし、評価したいと思う。

これが(景気に)どういう影響を与えるかということを定量的に示すことは難しいと思うが、銀行券は、国民の皆さんが毎日利用する極めて身近で大事なものであるので、西暦2000年というひとつの区切りの年を迎えて、前向きなムードを作っていくといううえでは意義があることではないかと考える。

【問】

後藤審議委員の任期が切れて、現在審議委員が1人空席になっている。こういう空席の状況が長引いてもいいのかどうか。また、後任になられる方は、どのような方が望ましいと考えているか。

【答】

後藤さんは、旧法で来られたから、平成7年から4年おられたわけだが、私はここ1年6~7か月位ご一緒させて頂いた。政策委員会の中でも最古参で、農水事務次官から農林漁業金融公庫の総裁をおやりになったり、非常に該博な知識を持っておられる。それから政策委員会でも知識を積まれて、いい意見をおっしゃって下さったし、私どもにとっては、政界とか行政の人脈とか、あるいは仕事の流れとか、そうしたところの物の運び方をあまり知らないので、後藤さんのそうしたご経歴は、随分参考にさせて頂いた。それに加えて、ご本人は、ご承知のように人格円満で実に尊敬すべき方であったと思っている。そういう意味では、任期でお辞めになるのは、残念なことではあった。

その後どうするかというのは、これは日本銀行法第18条に、「委員会は、議長が出席し、かつ、現に在任する委員の総数の三分の二以上の出席がなければ、会議を開き、議決をすることができない」という定めがあって、審議委員の欠員が生ずることも一応予定して作られている。ご本人の任期でお辞めになったわけだが、ちょうど自民党の総裁選挙とかあるいは内閣の官房長官とか、その辺の本件に関係のあるところが多少動いていた時期であったので、決定が少し遅れているわけであって、これは仕方のないことである。いずれにしても、両院の同意を得て、閣議が決めると、総理が発令されるわけであるので、しばらく決まるまで空席ということになっている。

【問】

年末越えの資金供給オペを昨年よりもかなり速いペースで行っているが、その狙いについて再度伺いたい。

【答】

やはり、Y2Kというか、2000年問題──これはやはり1月1日から1週間位が一番心配なところなのだと思うが──を皆懸念しているわけである。ちょうど3ヶ月物になると年越しになるものであるから、一昨日発表した措置でもこれに対する特別な措置を決めたし、金融市場局でもそれに対応した資金の出し方をしていると思う。今のところ、こういう措置を発表したので市場はやや安心をしたのではないかというふうに、数字を見ていると感じる。

【問】

金利の面では、年末越えが下がるといった効果は出ていないように見受けられるのだが、どうか。

【答】

これは、上がるか下がるか分からないけれども、これだけの用意が出来ているということは、関係者には安心感を与えているのではないかと思っている。それで、年越しのものを入札に出したわけであるけれども、応募は非常に多かったと、私は数字を見て感じている。

【問】

総裁任期についてお伺いしたい。永田町など一部から、松下前総裁の任期も含めて総裁の任期を考えるべきではないかという意見もあるが、総裁自身はどのような認識を持っているか。

【答】

私は、あまりその意見は聞かないのだが。私の任期は平成15年3月までである。これは旧法の時に決まっているので、総裁の職を拝命した以上、今、こうした非常に難しい(時に)──就任当時に比べると、景気、金融システムの状況は良い方向に向かっていると思うが──なすべき課題はまだ多いわけであるから、引き続き身の引き締まる思いで毎日を過ごしている。

【問】

宮澤大蔵大臣が今朝の会見で、最近の金融政策を巡る日銀と政府の軋轢のようなものについて、「決着した」といった表現で語ったようである。今朝、蔵相と会う機会があったかと思うが、何か具体的な話はあったのか。

【答】

大蔵大臣とは、始終、会う時もあるし、会わない時は電話で、よく話をしている。財政と金融というのは、自ずから考え方が違うことも当然あり得るわけで、しかし、私の考えを言わせて頂くと、蔵相はいつも良く聞いて下さって、日銀の立場というものを非常に立てて下さっていることを非常に感謝している。今朝も、月例経済報告関係閣僚会議でお会いし、大臣方の前で一昨日の私どもの決定を簡単に報告、説明させて頂いたのだが、皆さん、特に強いご意見は出てこなかったので、あれで良かったのではないかと思っている。

【問】

日銀の独立性に関連して、例えば与党から金融緩和を求める意見が出ることに対して、これは独立性を冒すのではないのかという見方もある一方、日銀と政府はよく連絡を取らなくてはいけないという意見もあって、かなり論議になっている。政府と日銀の間合いの取り方というか、協力という点について、総裁はどのようにお考えか。

【答】

新法の中央銀行の独立性、それからそれに伴う説明責任——これは第3条にあるわけで、第4条に政府との関係があるが——この辺を見て頂くと今までの旧法とは随分変ってきている。先日来、色々市場やマスコミに書かれて、関心を呼んで、むしろ非常にこの点がはっきりしてきたと私は思う。第3条には、ご承知のとおり、自主性の尊重と透明性の確保と書かれている。中央銀行としては、独立性というのは、当然のことであって——社会主義国家なら別であるが——金融政策について、この1年半余りの間で、独立性を維持できたことは良かったと思っている。これからも、しっかり政策委員会でよく議論をし、よく検討をして決めていくべきものだと思っている。ただ、金融政策について言えば、説明責任というものが独立性の裏にあるわけで、政策運営の内容や考え方を国会や国民にきちんと説明し、様々なご意見に十分に耳を傾けたうえで、日本銀行が金融政策決定会合において責任を持って決定するということをやっていかなければならないと思っている。

一方で政府との関係については、第4条にも書いてあるように、「政府と十分な意思疎通を図る」べきことが明記されている。そういう意思疎通を実現する手段として、政府は必要に応じて金融政策決定会合にも出席しているし、私は大蔵大臣、それから国会に呼ばれて政治家の方々のご質問に答えさせて頂いているし、政治家や政府の方々と意見交換をさせて頂く機会も非常に多い。今後とも、そうした場を利用しながら意思疎通に努めて参りたいと思っている。この点についても、新法ができてもう1年半以上になるが、余り一般に知られていなかった面があり、そういう意味では、今回ガタガタしたことを通じて、はっきりしたということは、私はむしろ良かったのではないかと思っている。

以上