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藤原副総裁記者会見要旨 (12月8日)

平成11年12月 8日(水)・広島市における金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

1999年12月 9日
日本銀行

―平成11年12月 8日(水)
午後 1時から約30分

【問】

金融経済懇談会の感想は如何か、また、席上どのような意見が出たか述べていただきたい。

【答】

金融経済懇談会では、知事、市長、経済界、金融界の方々から現地の情勢等についてご説明を受け、かつ、ご意見を拝聴した。先日はGDPの発表があったほか、日本銀行も短観等を通じてマクロの経済情勢について常に把握に努めているが、その全国ベースでみた感じと当地——広島県および中国地方——の情勢との差異は、全国ベースよりも厳しいとの印象を受けた。最悪期は脱したが、個々には厳しい状況が続いているとの感じを持った。これは、ひとつには当地は重厚長大産業——自動車、一般機械、鉄鋼、造船など——のウェイトが高く、しかも輸出関連の企業が多い、その差の分だけ厳しいのかなと感じている。個々のご意見を拝聴しても、円高が当地の企業にかなり大きな影響を与えている、円高ということについては常に留意して欲しいとの政策要望もあった。それから、中小企業が依然として厳しいとの話──これは全国ベースでも同じ──(もあった)。したがって、今の日本銀行が採っている低金利政策、ゼロ金利政策、潤沢で豊富な資金供給を続けて欲しいとの意見が聞かれた。

全体を総括すると、日本銀行の景気判断は「足許は景気は下げ止まり、持直している」というのが最新の判断であるが、当地では持直しの直前の「下げ止まっている」まではいっているが、「持直し」までは、まだちょっとそこまではいっていない。先程、差異感といったが、そういったニュアンスの差はあるかと思う。これを企業収益でみると、減収減益から減収増益にはなってきたが増収増益という局面への移行はいまだしといった感じであった。

【問】

GDPが3期振りにマイナスとなったが、景気の現状についてどのような見方をしているか。

【答】

第1四半期、第2四半期が前期比プラスで、ここで第3四半期にきてマイナスになったが、全体を通して均してみると改善の方向には変わりないと思う。四半期毎に反動ということもあるし、アップ アンド ダウンもあるが、政府は今年度の経済見通し0.6%は達成できるだろうとのことだが、そういうトレンドを辿っているものと私どもも認識している。来週初に発表になる短観がどう出るか、注目してまいりたいと思っている。

また、付け加えるが、先程の当地での懇談会の感想の中で厳しいという話ばかりかというと、今がリストラのよいチャンスであり、このチャンスを奇貨として、構造調整、構造改革を行ううえで絶好のチャンスなので、しかも低金利という状況にも恵まれているので、前向きのリストラに取組む姿勢、そういったものも窺われるという、前向きの話もあった。

【問】

日銀のゼロ金利政策がこれだけ長期間続いているにもかかわらず、景気が本格的に回復しないのは何故か。

【答】

かなり長い間、たしかにゼロ金利政策を続けている。効果がないかあるかは見方によるが、明らかに先程ご紹介したQEをみても効果はあがっていると思う。たびたびの政府の財政を中心とした景気刺激策、それからゼロ金利政策が相俟って景気の下支えをしてきたし、その下支えが経企庁の言葉でいうと「改善」、私どもの言葉でいうと「持直し」につながってきているのは事実だと思う。ただ、本格的回復はまだなのは何故か、という質問であるが、これは「on the way」——今その途上に差し掛かりつつある——ということで説明できるかと思う。足許は輸出や生産を中心にして持直しているが、設備投資と個人消費というGDPの70%以上に及ぶ2大コンポーネントが、まだ先行きが今一つはっきりしない。例えば設備投資は減少しているが減少幅が少なくなっているという点にそういったことが現れている。個人消費は一進一退ではあるが、明るい兆候が見え始めている。しかし、ゼロ金利政策を解く、つまり、デフレ懸念の払拭が展望できるという状況にはなっていない、民需の自律的回復をはっきりと確認するまでには至っていない段階だと言えるのではないか。

【問】

来年、仮に2%の経済成長を目指すとすれば、為替レートはどのくらいの水準が望ましいか。

【答】

為替レート如何が経済成長を規定するものではないと思う。為替の振れがGDPにどの程度影響を及ぼすのか試算は数々なされているが、GDPを決定付けるには、それ以外のたくさんの要因が相重なって寄与するものであり、(為替レートが)どの程度の水準であればどの程度の成長が望ましいかといったような理屈の付け方は出来ないと思う。それよりもなによりも、為替レートの水準について、私が自分で数字を持ち出してコメントする立場にはない。

【問】

金融経済懇談会における副総裁の冒頭挨拶の中で、日本銀行としては明確に「ペイオフ」解禁の延期に反対という考えを示していたが、これに対して懇談会に出席していた地銀、地銀IIから何か要望はあったか。

【答】

(懇談会における冒頭挨拶の中では)現在の(金融機関の債務を全額保護するという特例措置の)制度の期限が切れたら新しいセーフティーネットで対応しようというコンセンサスには従おうということを申しており、その前段階で、最終的にどうするかは立法府が決めることであるとも言っている。しかし、新しい制度に移行することを前提として作業をしているわけであり、まだ作業が終わらない段階からコミットすることは出来ないという意味合いで、先程の答弁は申し上げたつもりである。

金融経済懇談会で出た意見は、ペイオフ問題については全体として慎重にやって欲しいとの話はあったが、延期に賛成、反対というはっきりとした意見の開陳はなかったように記憶している。ただ、決済性預金の取扱いについては慎重であるべきとの意見はあった。日本銀行は金融審議会に参加しているが、──ひとつひとつの問題についてこれがいい、あれがいい、という立場にはないが、──日本銀行の立場として、これから最終報告書がでればそれをみながら、その立場でできること、作業に参加していきたいと考えている。

【問】

金融経済懇談会の中で今はリストラのよいチャンスであるとの話があったといわれたが、もう少し詳しく伺いたい。

【答】

具体的にどうのこうのという話はなかったと記憶しているが、低金利の問題についてはいろいろあるがせっかくこういう低金利の状況にあるし、リストラの心構えが出来ている折でもあり、今苦しいけれども、21世紀を展望して新しい経済システム・新しい事業計画などを立てるには良い環境が整いつつあるのではないか、それを逃す手はない、例えばベンチャービジネス等についても普通の状況とは違って皆でベンチャーをやろうではないかいう気運が澎湃として高まっている、このチャンスを逃さずに対応していこうではないか、といった話だったと思う。

【問】

当地の金融機関で公的資金を導入した先があるが、本日の金融経済懇談会で金融界や産業界から金融の再編について意見や要望はあったか。

【答】

金融再編成について、とくに格別な意見はなかったが、今、例として挙げられた当地で公的資金の注入に踏み切った銀行から、今こういう厳しい状況を迎えて自己資本を充実するにはよいチャンスでありこの機会を活かして新しい経営基盤を築いていきたいという強い決意が披瀝され、その決意には並々ならぬものが感じられ、私だけでなく満場がその決断に敬意を表した。

【問】

榊原前財務官が日銀総裁談話に対して批判したが、こうした中央銀行総裁について外部から色々な意見が出ることをどう考えているか。

【答】

私も1年8か月前までは皆様と同じ新聞記者で金融の取材が長く、日銀を批判したり、からかったりしたこともある。今、攻守ところを替えてみると、批判されるということは、どんな感じかよく分かる気がする。

日本銀行という中央銀行は、宿命的に職業的心配屋でもあり職業的嫌われ者といった性格があるかもしれない。金融は、しかも中央銀行が運営する金融政策は、万人にとってハッピーだという結果にはならないと思う。金利を上げれば喜ぶ人もいるし悲しむ人もいる、(金利を)下げても同じで、利害はフィフティー・フィフティーになるのではないかと思う。とくに、今のような経済が厳しい状況で、マネタイゼーションといわれるほど全てがお金に集約されて価値判断される時代、カネに恨みは数々あるので、人心もそれでもってささくれ立ったような感じになる時に、「一体これはどうしてくれるのだ、誰が悪いのだ」ということでスケープ・ゴートにとかくされがちなところかもしれない。

私が新聞記者であれば、また苛めかとか、バッシングかと言うかもしれないが、今立場を替えてみると、別にそういった感じではなく、マゾヒスティックに考えるのではなく、批判も愛の鞭というとそれこそマゾヒスティックになるが、フレンドリー・アドバイスというか、友情ある忠告というか、いずれ毀誉褒貶というのは相半ばする——先程、フィフティー・フィフティーと言ったが——60%以上評価されれば以って瞑すべしと言わなければならないのかもしれない。いずれにせよ、批判があるということはそれだけ注目されているということなので、責任の重大さを改めて噛み締めながら、金融政策の運営に誤りなきよう期していこうと、私はそういうふうに自戒している。

【問】

日銀から財政の規律について政府・与党に意見を言っていくことがあるのか。

【答】

あらためて今回の補正予算の中身とか来年度予算編成について内容を取り出して云々することは、多岐に亘っているし具体的にはできない話であるが、今は景気回復が先決だということで、財政再建という問題は法律上ひと休みして、ここで力を貯めて経済が良くなってから、財政の本来的なあり方を考えようという時期にあるわけで、その状況についてはよく事情が分かる。

しかし、いつまでも財政赤字を野放しにしていくわけにはいかない。国の財政悪化は国家そのものの信認・信用につながる話であり、ディシプリンといったもの──財政の規律といったもの──をちゃんと正していかなくてはならないと思う。そういう時期に当たっては、日銀が大蔵省に注文を出すといった性質のものではなく、既に大蔵省が自ら財政のあり方の検討に着手しようとされているわけなので、政治も経済も社会も日本の社会システム全体が、国家の根幹である財政のあり方を皆で考えていくべき時期が来ると思う。その時は、日本銀行の立場からも、国家全体の経済のあり方として、その立場から発言し、作業に参加していくつもりでいる。

【問】

2次補正予算に伴う国債の発行によって長期金利の上昇につながる懸念がでてくるが、これについての考え方はどうか。

【答】

国債の発行と長期金利の問題は、非常に重要な問題であるが、今回の補正予算の編成に関しては、これまでのようにある単一の銘柄の国債を必要だからといってドンと出すというのではなく、かなり肌目の細かい、期間のバランスを考えて発行することになっている。また、発行する債券の長さもそうであるし、いつどういうふうに発行するのかという発行計画もかなり肌目細かく立てられているように思う。

全体の額がどういう影響を及ぼすかという点については、既に金融政策運営上では許容範囲の中に十分入っていると私たちは認識しており、今回の補正予算に際して発行される国債の量自体が長期金利に直接影響を及ぼすことはないと思う。

長期金利は、物価の動向や景気の先行きに対するエクスペクテーションを反映して決まっていくものであるから、経済の実態が良くなっていくことに即応して金利が変わるのであれば、それは非常にリーズナブルな姿だと思う。国債の発行──需給問題が直接長期金利に(影響を)及ぼすことであればそれは問題になるが、そういう問題は起こっていないとみている。

以上