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総裁記者会見要旨(1月19日)

2000年 1月20日
日本銀行

―平成12年1月19日(水)
午後3時から約40分

【問】

1月の金融経済月報が発表されたが、景気の現状と先行きの認識、ならびに当面の金融政策運営スタンス如何。

【答】

本日発表した景気の基本認識は、大体前月と余り変わっていないので、何だと思われるかもしれないが、まとめて申し上げると、「景気は、足許、輸出や生産を中心に、下げ止まりから持ち直しに転じている。こうしたもとで、企業収益の回復が続くなど、民間需要を巡る環境は、徐々に改善しつつある。もっとも、民間需要の自律的回復のはっきりとした動きは、依然みられていない」ということである。

具体的には、これまでのゼロ金利政策、それから政府による一連の対策が経済活動を下支えしている。輸出は海外景気が好転していることを背景に、増加傾向を辿っているし、これまで減少基調にあった設備投資にも下げ止まりの気配がみられている。こうした需要動向、在庫調整の進捗を背景にして生産も増加を続けている。この結果、企業収益の改善が明確化し、企業の業況感が少し明るく改善してきていると言えると思う。このように民間需要を巡る環境は徐々に改善しつつあるということは、はっきり申し上げられると思う。

ただ、目下のところ、こうした環境の改善が、積極的な企業活動につながっているという所まで言えない状況である。企業は人件費の抑制スタンスを堅持しており、家計の所得環境は引き続き厳しい状況にある。このため、先行きについては、設備投資や個人消費といった民間需要が自律的回復に向かうという展望は、まだはっきり得られていないという状況だと思う。

物価の方も概ね横這いで推移しているわけだが、今申し上げたような経済の先行きの展望を踏まえると、物価に対する潜在的な低下圧力というものはまだ残っていて、これには留意する必要があると言える。

一昨日の金融政策決定会合では、こういう情勢判断をもとにして、ゼロ金利政策を継続していくことを決定したわけである。

【問】

週末に開かれるG7では、為替動向がテーマの一つになると思われる。日本としては、前回に引き続き円高に対する懸念の共有というかたちで、為替相場の安定に向けた協調を各国に働きかけていくことになるのか。

【答】

G7では、もちろん為替の動向というのも一つのテーマになってくると思うが、とりわけ円について、具体的にどういう話が出てくるのか、まだこの段階でコメントするのは適当でないと思うので、ご勘弁頂きたいと思う。

【問】

円高に対する懸念の共有を各国に働きかけるにあたって、日銀は、追加的な金融緩和措置を求められる可能性があるとの見方があるが、こうした点も含め、日銀としては、どのようなスタンスで会議に臨むのか。

【答】

私としては、各国の大蔵大臣・中央銀行総裁方と日本を含めた各国の金融経済情勢について、膝を交えて忌憚なく意見交換をしたいと考えている。日本銀行の金融政策運営の考え方についても、これまでも説明してきているが、政策委員会の決定を踏まえて、各国の理解を得たいと思っている。

【問】

ペイオフの解禁が2002年4月まで1年延期されることが決まったが、これにより、日本の金融システムに対する信認が低下するとの批判も聞かれる。総裁は、これまでペイオフ解禁の延期については反対の立場をとってきたが、今回の決定をどのように受け止めているか。

【答】

2001年3月で特例措置を終了させるということは、5年も前に決まったことで、これを皆が目標にして、リストラや金融の再編をやってきた。「全債務全額保護」の特例措置というのは、グローバルなスタンダードから考えても珍しいことだと思う。そういうことで、私は、特例措置は予定通り2001年3月末で終わるべきだと述べてきた。

先月、国会でも申し上げてきたが、これは国民負担を伴うものである。特例措置をやる場合はお金がかかるわけで、その資金は、やはり国民に負担してもらわなければならない。こうしたことを考えると、どの時点で終了させるかという問題は、最終的には立法府を通じた国民の判断に任せるしかないと思う。与党におかれては、このような様々な観点から慎重な検討が行われ、今回の合意に至ったものだと思うので、そうした意味では立法府の判断を方向づけるものとして重く受け止めなければいけないと思っている。

ご指摘の日本の金融システムに対する信認については、この1年余りの間の金融機関における資本基盤強化や大手行を中心とする経営再編の動きなど、かなり思いきった動きが内外に伝わっており、進んでいるわけで、個別金融機関はもとより、日本の金融システム全体に対する内外からの信認は、今のところ大きく回復しており、このこと自体、今回の決定によってそう大きく変わるものではないと考えている。

いずれにしても、日本銀行としては、今回の決定を前提として、引き続きわが国金融システムの確固たる安定の確保と、新しいセーフティネットの具体化に向けて、政府と協力しながら努力して参りたいと考えている。

【問】

G7では各国の経済情勢について意見交換があると思うが、米国経済についてバブルなのかバブルではないのかということも含めて、今の米国経済の状態を総裁はどのように認識しておられるか。

【答】

先週月曜日にシンガポールでBIS特別総裁会議が開かれ、ニューヨーク連銀総裁のマクドノーさんも来ておられたし、割合ゆっくりお話をする機会もあった。またグリーンスパンさんとサマーズさんが先週ニューヨークとワシントンでそれぞれ講演された原稿を皆さんもご覧になったと思うが、私も非常に興味を持って読ませて頂いた。

今米国の経済は、この2月でおそらく過去最長の景気拡大が続いており、物価も引き続き落ち着いている。こうした極めて良好な経済情勢というのは、規制緩和などによる競争的な環境のもとで、ITその他の技術革新が行き届いて、その成果が──7、8年かかったのであろうが、──経済にうまく取り込まれてきたこともあり、物価が上がらないで生産性が伸びてGDPが伸びていく、所得も増えていく、失業はむしろ減っていくといったことが続いているわけである。

ただ、資産効果などを背景にして貯蓄率が下がってきているということや経常収支の赤字拡大──99年も3千数百億ドル、2000年は4千億ドルを上回り、来年もおそらくそれぐらいだろうという数字が国際機関からも出ているが、──こういうものは無限に続けられるものでないことは彼らも十分承知していると思う。そういう意味で、経済というものは、好調なときほど、「行き過ぎ」が生じていないかということを注意していかなくてはならない面が強いと思う。

難しいのは、そのときにそれが「行き過ぎ」なのかどうかということをその時点で判断することが非常に難しいということである。グリーンスパン議長も講演で、金融政策運営に当たっては、色々な可能性やリスクを念頭に置きながら、インフレの無い持続的な景気拡大を実現するように、全力を尽くしていく、ということを言っておられる。4%(の成長率)のうちの1%くらいが資産効果で上がっているというようなことも言っておられたと思うが、私も米国経済が警戒感を十分持ちながら、息の長い成長を続けていってほしいと期待をしている次第である。

【問】

ペイオフ延期の問題であるが、先程、日本の金融システムに対する信認が大きく変わることはないとおっしゃったが、私の記憶では、前回の記者会見で総裁はペイオフ解禁を延期することになれば、日本の金融システムの信認にかかわる問題だとおっしゃったように思うが、その見解は1か月の間に変わったということか。

【答】

いや、正直言って心配していた。与党サイドが決定をしてかなり詳しく説明されたことが私は良かったと思うが、信用組合というのはかなり限られた部分であって、そうかといってその部分だけ(期間を)延ばすというわけにはいかない。公平公正ということもあるから、そういうことを考えて全体を1年延ばして、その代わりにその間にセーフティネットその他とるべき準備を整えるというような説明があったと思うが、そういうことが割合よく理解されて今のところそう大きな批判が海外からは出ていないのではないかと思う。

国内の国民がどのようにそれをみているかというのは、これはちょっと私は何とも申し上げられない。

【問】

保険会社のセーフティネットについても、年末大枠が決まったが、これについては、「金融システムの安定をより強固にするためには必要な措置」との考え方もあるし、「決済システムに関係ないので公的資金を使うことには疑義がある」との考え方もある。この点に対する総裁の考えと、出来上がった保険会社のセーフティネットへの評価を伺いたい。

【答】

保険の関係については、私もまだ詳しくフォローしていない。確かに、日本の保険も随分パワフルであり、世界を支配していることは確かである。他の国と比べてどうかということは、専門家ではないのではっきりとは申せないが、かなりトラディショナルな方法で大きくなってきた──株式会社になっているのが非常に少ないということを考えてもそう言えると思う。銀行のBIS規制といったようなものに類する保険の健全化というものが、かなり検討されている過程であると承知している──私どもはそれに入っていないが。内外でそういう大きな動きがあり、すべての産業・事業が国内では構造改革をし、リストラをやろうとしている時であるから、保険についても時を失せず、合理化等によりグローバルなスタンダードの下で競争力をつけていくことが大切だと思う。

【問】

G7で為替もひとつのテーマであろうとのことであったが、その他例えば電子商取引に対する国際的監視をどうするかとか、テーマについては色々なものが挙げられているかと思うが、為替以外についてはどのようなテーマに注目しているのか。

【答】

今、国際金融システムの今後のあり方について、色々な場で議論が進められているわけで、G7でも、9月の時にもそういう議論があったし、国際金融のアーキテクチュアをどういうふうにしていくかとか、資本の流れをどういうふうに調整し、あるいは円滑なものにしていくかとか、外貨準備をどれくらい持ったらいいかとかといったような議論は行われているわけで、そういう議論はIMFの中でも議論が進んでいると思う。1日の会議であるから、各国のサーベイランスをやった上に、そういった問題をどの程度議論が出来るか。BIS規制の改正とか、色々なそういうことを、各委員会の報告あるいは基本的なことの討議は行われるであろうが、ここで何かが決まるというものではないのではないかと思う。

【問】

G7に関して、さきほど「政策委員会での議論も踏まえて各国の理解を得たい」とおっしゃった。この前の決定会合ではゼロ金利政策を継続することを決めたわけだが、これは、前回のワシントンでのG7の時と同様に、「ゼロ金利政策をデフレ懸念の払拭が展望できるまで続ける」ということをはっきりその場で表明して、共同声明に入れるという意味なのか。

【答】

前回も申したように、この1年で随分、日本の経済情勢、日本への信認というものは変わってきた、良くなってきた。日本売りから日本買いに変わったということは、株価や為替相場をみてもそうだし、企業への外資の導入あるいは外国資本が日本に金融機関を含めて入ってきている(ことをみても分かる)。そうした随分大きな変化がこの1年で起こっているわけで、金融システムがほぼ安定化し、それによって今、構造改革がまさに走り出したところである。

そうしたものが本当に動き出すまで、ゼロ金利政策──これも随分思い切った政策を約1年続けてきているわけだが──、もう少しはっきり見えてくるまでこれを続けるということを私の立場からはよく説明をしなければいけないと思うし、またこれがどれだけの効果を上げてきているのかということも是非分かってもらいたいと思う。(ゼロ金利政策は)株価が上がったりするのにもかなり大きな影響があるし、長期金利が上がらないで済んでいるということにもかなり大きな貢献があると思う。

しかし、これは、異常な金利であることは間違いのないところであり、前から申しているように、副産物も少しずつ膨らんできていることも確かである。そうしたことも含めて、よく理解をしてもらいたいと思っている。

それと、やはり財政がこれだけ大きな赤字を出して景気の回復を図っているわけであるから、そうしたことも、宮澤蔵相が今回は議長をなさるので、おそらくアジアの問題も含めて、よく説明されることだと思っている。

【問】

さきほど、「円高に対する懸念を共有してもらうことを求めるのか」との質問に直接お答えにならなかったが、それは、そうした懸念を各国に感じてもらうような状況にはない、つまり去年9月のワシントンでのG7の時とは状況が違うという認識をお持ちだということか。

【答】

円の動きはまだはっきり分からないが、105円前後であることがどういう効果を持っているかということは、やはりもう少し時間が経たないと分からないわけである。

従来に比べて、円高に対する抵抗力がかなり輸出産業にも付いてきたし、輸入の方で原油価格が上がったりしていることの相殺要因にもなっているわけであるし、特にアジア諸国は円が強いということがかなり彼らのプラス要因、メリットになっている。そして並行貿易──日本もアジアもともに輸出が伸びている──が続いている。

そうしたことは、かなり以前とは情勢が変わっているとは思うが、国内の景気対策としては、やはり少し(円が)強すぎるのではないかという声は今も残っているわけである。この辺のところはどのように皆が判断し、私どもの説明を聞いてくれるか、これからの課題であるが、いずれにしても為替相場というのは、それぞれの国のファンダメンタルズを的確に反映して安定的なものにしていくことが大事だということは、前々から私どもの原則とするところである。大きな流れとしては、現在の相場には少し強くなっていくという方向が出てはいるが、これも、これからどうなっていくのか、米国が落ち着いてきて、また米国への資本の流出が続いていけば、市場というものは売りと買いが均衡して、あるいはもう少し円安になる可能性も十分あるわけであり、もう少し様子を carefully にウォッチしていく必要があると思っている。どういう表現でこうした問題をG7が扱うかというのは、今の段階では何とも言えない。

【問】

株価の水準についてどうみているか。日米それぞれについてお伺いしたい。

【答】

米国については、グリーンスパン議長も、ずいぶん資産価値が上がって——それはプラスの面もあるけれども——10年経ってみればバブルであったという判断が出るかもしれないといった表現を使って、行き過ぎているのではないかということを言っておられるような感じがしたが、確かに金利を何回上げても株がどんどん上がっていくということは、やや不思議と言えば不思議である。そうした環境というか、空気が流れていることが少し気になることだと思う。それと、そうしたことが出てくる背景に、オーバー・スペンディングというか、支出の超過——貯蓄率がゼロ以下になっているということ——が、さきほど申し上げた米国の経常収支の基本になっているわけで、そうした赤字が続けばドルへの不安が起こってくることは間違いないと。そういう意味で、株価だけでなくて、オーバー・スペンディングをどのようにみるかということが、これからの課題ではないかと私は思う。

日本の株価は、一つは米国が強くなり、かなり上がってこれ以上上がらないといって日本に流れてきたのが、恐らく去年の流れであったと思う。海外の日本の株買い超が9兆円にも上った。これは株価を30~40%近く引き上げたと思う。それと同時に、店頭取引やマザーズとか、ナスダック・ジャパンなど、新しい市場が出来てくるということは歓迎すべきことだと思う。ただ、日本の株をみて思うのは、両極というか、IT産業、あるいは電機関係、銀行株というものはかなり上がっているが、従来の基幹産業であったヘビー・インダストリー等についてはまだ——これは構造改革を迫っているというのであればそうかもしれないが——全部が上がっているのではなくて、一部の株が非常に上がってそれが全体を吊り上げているということではないかと思う。

しかし、最近のマネー・フローの流れをみて感じることは、1,200~1,300兆円になっている日本の個人金融資産をみると、従来は700兆円以上が預貯金に回っていたものが、債券あるいは株券等への投資が増えてきている。これは間接金融から直接金融に少し流れ始めているということで、企業の資金調達の立場からもそうした数字が出ている。従来、預金者が銀行に預貯金をして、どこに入れても余り変りはないとして金利を稼ぎ、それを銀行は主として企業に貸出して日本の産業が栄えていったというこれまでの経緯、半世紀の歩みというものが、少しづつ直接金融のウエイトが増えつつあるのではないかという数字が出始めている。米国の場合も91年に底を打ってから2年くらいは、株式・社債あるいは個人の投資といったかたちでの投資で、経済が活況を呈していった。ジョブレス・リカバリーとか言われている、IT産業などの、特にサービス部門の中小企業での動きがどんどん出て来て新しい事業を始めていることもあちらこちらで聞くし、そうした先の設備資金など今の統計の中に出てこない、時系列のなかで比較できないようなものがかなり動いていることは確かであろう。そうしたものが意外に伸びていって、構造改革なり設備投資なり、新しい経済を作っていく、新しい産業の基礎になっていく。中小企業もそうだが、大企業もそういう部門を、あるいは子会社を作ってそういったものを育てていくということが起こりつつあり、数字の上では確認できないが、これからの民間需要の自律的回復というもののかなりの大きな変化になって出てくるのではないかという気がしている。

そういうものをどうやって育てていくか、どの辺まで伸びていくかは何とも言えない。店頭取引の株価がどんどん上がっていくという事実がはっきり出ているわけであるから、そうした動きが一部上場に移っていくのかもしれない。証券業界の方も、去年および今年にかけて非常に明るい見通しを持っているのではないかと思っている。

【問】

年末の講演で、新しい世紀への目標として出来るだけ早くデフレ懸念との戦いに勝利したいということをおっしゃたが、それはゼロ金利を解除できる状況に早く達するということだと思う。G7とは別に、改めてデフレ懸念との戦いの決意を伺いたい。

【答】

「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」がどういう情勢なのかを具体的にいうのは難しい。確かに、昨年末にデフレとの戦いになるべく早く勝利したいといったのはその通りであるし、これは私の偽らざる気持ちである。これは、——余りデフレ懸念、デフレ懸念というと皆さんの気持ちを暗くするようなことが起こっても困るが——どういう表現を使うかは別として、こういうことを確認するまでは、ゼロ金利政策を続けていきたい、続けていくしかないと思う。

以上