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藤原副総裁記者会見要旨 (6月22日)

平成12年 6月22日・福岡市における金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2000年 6月23日
日本銀行

―平成12年6月22日(木)
午後2時30分から約30分

【問】

金融経済懇談会の席上でゼロ金利解除に関する話も出たものと思うが、ゼロ金利解除の時期について、もう少し詳しく考えを聞かせてもらいたい。また、地方銀行の金融再編がこれからかなり出てくるのではないかと言われているが、どういう形で進むのが望ましいと考えておられるかについても伺いたい。

【答】

今日の経済人との懇談でゼロ金利の話が出たか出ないかということを言われたが、今のご質問の前に長くなって恐縮だが、折角の機会なので、今日の経済人との懇談でどういう様な話が出たかということを、私からまず総括的にお話してそこから始めることとする。

一言で言うと、今日伺った話から得た当地の景況感は、中央で私どもが分析している景況感、経済情勢判断とあまり大きく差がないという印象を受けた。つまり、景気は持ち直しつつあるということで、大体同じような感じということである。もっとも、十数人の方からお話を伺ったが、中小企業の方々からは、全国的な景気の回復と、中小企業が肌で感じている実感には差があるとのご指摘があった。そういうことだと思うが、中小企業ということだけではなく大企業もそうだが、日本経済全体が二極分化しているような感じは当地でも受けた。福岡商工会議所が日銀の短観同様の調査をなさっているそうだが、それによると、この1~3月の調査は、──これはD.I.の調査、ディフュージョン・インデックス形式の調査だそうだが──ここにきて消費に少し動意がみられた、つまり、消費がこれまで落ち込んでいたマイナス幅が少なくなってきているので、もしかしたら曙光が少し射しかかってきたのかなという感想を述べられたのが印象的であった。ご承知のとおり、全国ベースでみると、消費については一進一退という状況にある訳だが、当地でも少し何か動意がみられそうだということが私には印象的であった。九州らしい特徴と言えば、非常に新しい企業、つまりアントゥルプルヌール(起業家)と言うか、ベンチャラスな動きがみられて、かなり積極的だということで、例えばここの証券取引所で「Qボード」という東証のマザーズのような試み、その他色々なアイディアが出ている。「景気は気から」と言うが、その事例を紹介された方は、「九州の特色は元気があるということなんです」とおっしゃっていた。

ゼロ金利の問題については、勿論、多くの方から意見が聞かれたが、ゼロ金利政策解除の時期といったような問題に言及された方は一人もいらっしゃらなかった。勿論、様々な意見があったが、今の景況感からすると、もう少しゼロ金利政策を続けて欲しいという意見もあった。さはさりながら、ゼロ金利という異常な状態が長く続きすぎていて、特に預金金利はずっと低く据え置かれたままで、個人の預金者もそうだが、基金とか、財団とか、つまりファンドの面で色々な影響を及ぼしているので、もうそろそろ解除してはどうかとの意見も聞かれた。現状持続と引き上げという両様の意見が聞かれたということであった。

それから、地方銀行の再編成については、ご承知のように、大手銀行では、様々なコンソリデーション、再編のケースが生まれてきている。統合もあるし、合併もあるし、異業種の参入もあるし、様々なケースが出ていて、一旦固まった計画を再検討するという動きまでみられている。別に大手銀行から始まって、地方銀行、そして中小金融機関というように一つの順路がある訳ではない。地方銀行についても、日本の金融システムが当面している問題を解決しながら、それぞれの銀行が新しい計画を立てながら、リストラクチャリングをしながら、生き延びていくために様々な工夫がなされている。大手銀行ほど動きは顕著ではないが、同じような事情を抱えた日本の金融機関なので、様々な形で再編成のケースが、別に九州ということだけではなく、全国ベースで今進行しているのではないかと思う。

【問】

副総裁は金融経済懇談会の挨拶の中で、ゼロ金利解除後も引き締めに転ずる訳ではないと述べているが、追加的な利上げの可能性は小さいということか。

【答】

追加的な利上げと言うと、ゼロ金利を解除して第2段というものが続いて起こるかどうかということか。まず、ゼロ金利解除自体が、今検討中というか、政策決定会合でディスカッションしている最中で、現実には解除されていないので、解除された暁にどうなるかということは今ここで私は何も申し上げられない。ただ、今私どもがディスカッションしているゼロ金利解除そのものは、去年の2月にゼロ金利が導入されたときは、ご承知のとおり流動性危機から来るデフレスパイラル的な動き、その瀬戸際にある経済状況にどう対処するかというところから、緊急的に、臨時的に導入されたというふうに認識しており、それはいつまでも長く続くなどという前提で導入されたわけではなくて、これは「デフレ懸念の払拭が展望されるまで続けよう」という一種のコミットメントから出発したものである。だから、そのデフレ懸念の払拭が展望できる時期がいつだろうと模索してきている訳で、その展望の把握を巡る議論が今煮詰まりつつあるということである。その煮詰まりつつあるものが今後どのような形で更に固まっていくのか、今それを見極めようとしている最中だと言うことを申し上げておきたい。

【問】

ゼロ金利が解除されてもそれを引き締めと言わないとは、具体的にはどういうことか。

【答】

ご承知のとおり、景況自体は改善をみせているが、それで日本経済がこれで大丈夫だなどという保証は全然ないわけで、今のこの回復途上にある経済を更にしっかりと軌道に乗るまで、引き続き政策的な支援、サポートが必要なわけであるから、それを金融政策の側面で言うと、引き続き金融緩和基調を続けていくということである。従って、インフレになりそうだから引き締めるというような強い意味合いがあるゼロ金利解除ではないという認識に立っている。

【問】

景気認識については日銀と政府はほぼ同じとの印象であるが、にも拘わらず、日銀は政策判断につき「煮詰まってきている」と言っているのに対し、堺屋長官はゼロ金利解除について「まだ早い」と言っている。どの当りに認識の違い、ないしズレがあるのか。

【答】

経済情勢の認識について、経済企画庁が毎月発表している月例経済報告、それから日本銀行も毎月政策委員会で議論して発表している金融経済月報との間に大きな差はないと思う。そういう認識に立って日本銀行はゼロ金利解除問題を検討しているのだろうと言われているが、それは先程申したように緊急避難的に昨年の2月に導入されたゼロ金利政策、デフレ懸念の払拭が展望出来るまでとコミットした金融政策、そのコミットメントをどう考えていくかということで私どもは今のところ検討を続けている訳である。その結論が出るまで検討を続ける訳で、何月とか、タイミングについて「初めにスケジュールありき」というような目的意識を持って、締切時間に迫られて検討している訳ではない。だから、あくまでも経済の実態を見極めていく、今ご指摘のあったように、企業部門から家計部門へ立ち直りがきちんと移行しているかどうかを今見極めようとしている、「on the way」にある訳である。勿論、色々な方が経済の現状について、または政策についてご意見をおっしゃることに私どもは注意深くいつも耳を傾けており、それからあらゆる経済現象、状況、データを刮目して見て、そうした作業を続けながらディスカッションし、結論を出すべく議論を進めている。

【問】

ゼロ金利解除の問題とも関係するが、日本銀行は、デフレの意味、インフレの意味を含めて、物価についての考え方をまとめたレポートを夏頃に出すと公表されていたが、その検討状況如何。

【答】

これは、公約というかお約束したというか、夏頃を目途に物価問題について検討を続ける、大体テーマを4つ位に絞って検討を続けるということで、その各テーマについて、同時並行的に検討をしている。 chapter by chapterという訳ではないが、その作業が完成したものから公表していくスケジュールに変わりはない。幾つかのchapterに分かれているので、早いchapterは早い機会に公表したいと思っている。

【問】

午前中の金融経済懇談会で政策委員会の議論は煮詰まっていると言っていたが、煮詰まっている状況が2か月も3か月も続くと水が蒸発してしまう。煮詰まっているという状況はどれくらいのことなのか。

【答】

「煮詰まってきている」という表現を使ったが、デフレ懸念払拭の展望できる状況が、「近づきつつある」という表現で言われたこともあるし、「潮はかなり満ちつつある」という表現でも描写されている。私が使った「煮詰まりつつある」ということをboilの状況で申し上げると、今、どれくらい煮詰まりつつあるかというのは、味見をしながらやっている訳で、それをどういうふうに煮詰まっているかということを、煮詰まりすぎても困るし半生でも困るので、政策決定会合の際にきちんと味見をしながら検討を続けているということである。

【問】

決定会合の中で議論がなされていることは理解しているが、藤原副総裁ご自身の景況感として、デフレ懸念の払拭の展望というのはどのくらい近いところにあるのか。

【答】

私自身の景況感の判断は、午前中、経済界の方々の前でスピーチ申し上げたとおりの景況感で、それに基づいてデフレ懸念の払拭の展望に関する議論が煮詰まってきているというふうに申し上げた。

【問】

「諸君」の7月号で副総裁は、ゼロ金利解除は「小手をかざして遠望すれば見えてくる状態」と表現していたが、本日は「煮詰まってきている」と言う表現を使っている。この間の違い、「煮詰まってきている」という位置付けについてお聞かせ願いたい。

【答】

「小手をかざして遠望すれば」とあの時は申し上げたが、いつも同じ表現ではあまり芸がないと思い、その時その時適切な表現はないかなと、無い知恵を絞りながら私なりの言葉でご説明しようとしている訳である。ただ、あの雑誌のインタビューは、「さらばゼロ金利」というタイトルがついていたが、まだ「さらば」という結論を出す状況には至っていない。従って、あの見出しはフライングではないかと思う。「小手をかざす」は今あまり流行らないかもしれないが、こうやって、よく見極めようとして、遠望というのは遠くを見る訳だが、遠くを見ているうちに、よりはっきりと見えてくるという状況になれば、さらにゴールに近づいていくという、当たり前のことだが、そういうことになるのではないか。

【問】

回復が、企業部門から個人部門までまだ流れてきていない、と判断する根拠如何。

【答】

企業部門から家計部門に回復が移行していくかどうかを見極めると言っている訳だが、個人消費については、ご存知のとおり、日本の統計でははっきりと掴める材料が残念ながら乏しい訳で、販売統計とか何とか色々あるが、統計の問題もあり、一進一退でなかなか見分けがつかない。それではそれをよりよく見るためにはどういう方法があるだろうかということで、所得の部門とか、雇用の部門から検討、攻めるようなかたちで詰めていっている。それで所得とか雇用の部門が回復して上向くということがはっきと掴めるような状況、確信が得られるのはいつかということを、政策決定会合を基に、別に決定会合がなくても、日々、色々な指標が出てくるのを丹念に見ながら検討を続けているということかと思う。

【問】

仮にゼロ金利を解除しても、引き続き、金融が大幅に緩和された状態は維持されるという考えを示したが、大幅に緩和された状態とはどのくらいか。

【答】

「ここで言う大幅の幅はどのくらいか」ということは、まずゼロ金利を解除してみてから、見ていく問題だと思う。

【問】

マーケットは、藤原副総裁のことを、決定会合のメンバーの中ではかなり「hawkish」な、つまり引き締めに積極的なメンバーであるとみているようだが、それについてはどうお考えか。

【答】

hawkish」とは英語の「hawk」、タカ派ということ、引き締め派ということかと思う。「タカ」とか「ハト」とかと言うのは、欧米で金融政策を占うことから言われたものらしく、私も外国の人と話していたら「あなたは『hawkish』」と言われた。自分が鳥獣図鑑の中のどの鳥かということを自ら点検したことはないので、おやと思ったが、その時、その外国人の方に、「能ある鷹は爪を隠す」と説明してもわかるかな、と思いながら、「『タカ』とか『ハト』とかの分類でみると、自分で自分の姿を見たことがないからわからないが、私は強いて言えば『チキン』かな」と言ったことがある。「チキン」というのは鶏だが、英語ではご承知のとおり、「臆病者」、「小心者」という意味がある。

【問】

「市場との対話」の重要性を講演の中で触れており、「金融市場関係者や産業界との対話に心掛けていく」としているが、具体的にはどういうことか。また、現在の日銀と市場との対話はうまくいっているのかどうかお聞きしたい。

【答】

うまくいっているかどうかは、自分で判定することができないので残念ではあるが、新日銀法が発足して2年余りになるが、透明性ということで、金融政策の決定に関しては、「市場とのダイアローグ」ということをしきりに申し上げている。ではどういう方法があるのかというと、日本でいわゆる「マーケットの時代」と言われるのは、ごく最近になってからだと思う。従って、アメリカのFRBのグリーンスパン議長がよく例に出るが、「市場との対話」についても、まだ不慣れな部分もあって、それで、transparency、説明責任が未だし、というご批判を受けている訳で、私達は様々なチャンネルを通じて「市場との対話」に心掛けている。総裁の記者会見もそうであるし、雑誌のインタビューもそうであるし、最も最たる「市場との対話」は、こうやって皆様方と対話をしていることではないかと思う。その対話がうまく伝えられるか、伝えられないか、また、その我々の発信を受け取ったマーケットがどういうふうに受信して、どのように私達にまた問いかけてくるか、そういううまい対話の循環というか、道筋がつけばよいと思う。「市場との対話」を開始してから時間は余り経っていないと言ったが、日本銀行が中央銀行として非常に対話を重要視しているのは、日本銀行自身がマーケットの一員だからである。金融調節という作業、政策運営を通じて、短期金融市場では、マーケットのメジャープレーヤーの一人でもあるからである。マーケットの一員だから、いつもマーケットのために、「for the market」という意識で、その「in the market」のメジャープレーヤーとして「for the market」という信念で、「ダイアローグ」を展開している。ということは、出来るだけ「against the market」とならないように、「with the market」、そして「along the market」ということを心掛けながら、対話の努力を続けている訳である。

【問】

副総裁は現状を、引き続き金融が大幅に緩和された状態、と評価・分析されているが、現状の経済情勢で中立的な金利の情勢とは、具体的にはどういった水準なのか、また、何に比べて大幅に緩和されたということなのかご説明願いたい。

【答】

大幅とか、どういう程度、という点について、定量的なメルクマールをお示しできないのが残念だが、また、数字で表現できるような問題ではないと思う。必要に応じて豊富で弾力的な資金供給を続けるという、これまでの私達の説明以外に表現の方法はないと思っている。

【問】

速水総裁は「猪突猛進型」に見えるが、それに対して藤原副総裁は、先程ご自身を「チキン」、「臆病」と表現したが、それは自身として、「慎重にありたい」という意味が含まれているのか。

【答】

昔、観た西部劇で、悪漢が普通の町の人のことを「チキン」と言っているのを観て、それから「チキン」というのは何だろうということで辞書を引いたら「臆病者」とか「小心者」という風に出ていたので、鳥ということの例えとして思いついたまま申し上げた。少し冗談も込めて言ったつもりであるが、あまり冗談として通じなければ申し訳ない。また、冗談を記者会見で言うということを不謹慎であるということであれば謝る。なお、速水総裁が「信念の人」であることはそのとおりである。

以上