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総裁記者会見要旨 (7月19日)

2000年 7月20日
日本銀行

―平成12年 7月19日(水)
午後 3時から約60分 

【問】

17日の政策決定会合で注目を集めていたゼロ金利政策については、維持という決定となったが、これに関連して幾つか伺いたい。当日の会合では景気判断が前進し、解除の最大の要件である「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」ということについても、大方の賛意が得られたということを伺っている。にもかかわらず、「維持」であったことについて、改めて総裁の口からその過程・そういうことに至った理由について説明を伺いたい。

【答】

7月17日の金融政策決定会合は、皆さんに大変注目して頂き、私どももひとつの目当てに考えていたこともある。決定後に短いステートメントを出して説明させて頂いたと思うし、また昨日は、衆議院の大蔵委員会で半期報告書を約6時間に亘り説明ないし討議する場があり、その席でも大分色々申し上げた。それと、今朝公表した7月の金融経済月報、こういうものを見て頂くと、私どもの今の経済状態あるいは景気に対する見方が、かなり明るくなったということがお分かり頂けると思う。

景気の現状については、企業収益が改善していく中で、設備投資の増加が続くなど、緩やかに回復していると思う。先行きについても、海外経済等の外部環境に大きな変化さえなければ、今後も設備投資を中心に緩やかな回復が続く可能性が高いということで、景気判断をかなり前進させたということである。

物価については、このように緩やかな景気回復が展望できるもとで、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力──需給ギャップで下へ引っ張る力──は大きく後退してきていると判断している。

こういう前進あるいは改善といったものを踏まえ、日本経済は、ゼロ金利政策解除の条件としてきた「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」に至りつつあるというのが、委員会の大勢の判断であったように思う。

しかし、最終的にゼロ金利政策を解除するためには、雇用・所得環境を含め、情勢判断の最終的なつめに誤りなきを期したいとの意見があった。また、私も予想しなかった最近のいわゆる「そごう問題」については、今まで債権放棄ということで片が付けられるかと思っていたが、新生銀行(旧日長銀)との関係等がきっかけとなり、私どもが予想していなかった民事再生法の申請を出してこれでいく──そのこと自体については早く決着がつく、整理すべきものが整理されていくということで良いことだと思うが──こととなった。同社は1兆8千憶円もの借入を持ち、1万件以上の仕入先(取引先)を持っている大会社のデパートであるから、これがどういう影響を各種の市場に与えていくか、また金融機関にどういう影響を与えていくか、その辺のところは正直に言って読みかねる。たまたま12日に発表があって、市場としては17日の決定会合まで2日間しかないわけで、そういうことではゆっくり今後の影響を確かめることが出来ないという不安があり、特に市場心理等に与える影響をもう少し見極める必要があること──これは皆さんもそういうお感じを持ったと思うが──が留意点として指摘された。

そういうことで、総合的に検討し採決した結果、ゼロ金利政策の継続が賛成多数で決定されたということである。

【問】

それに関連して、伺いたい。今総裁は、いわゆる「所得・雇用等の最終的なつめ」と「そごう問題の影響」の2つをポイントとして挙げられていたが、議論の中味として、それらは併行してあるものとして認識すればよいのか、それとも「そごう問題の市場に与える影響」が会合の中では大勢を占めたと考えてよいのか、そのウエイトはどのように考えればよいのか。

【答】

初めの方の、いわゆる「つめ」をもう少ししっかり見たいということについては、前々から皆さん思っていた考え方で、一歩一歩進んできてはいるが、まだこれで良いのかという感じがあったということである。

後者の方の、いわゆる「そごう問題」については、突如出てきた問題であるだけに、一層不安があったということが言えるかと思う。

直接関係ないにしても、そういう環境の中でそごうの問題が出てきて、これが他にどういう影響を与えていくだろうか、また、今後の破綻企業の処理についてもどういうことが起こるであろうか、といったようなことがあったことは事実であるが、今後の破綻については、今回の「そごう」ほどの驚きは恐らく起こらないだろうと思うし、大体皆さんが予想したようなことで準備を進めておられているのだろうと思うので、あのような急激な市場へのショックというものはないだろうと思っている。

【問】

大型倒産が続く限り、ゼロ金利解除ができないということではないと国会で発言されたが、今回の決定に関して言うと、そごうの破綻によって消費者心理が冷え込む恐れがあるとか、破綻が相次ぐ懸念をどう考えるかといった中長期的な問題ではなく、短期的な市場の混乱を、今回の場合は2日間しかなかったため吸収する時間が足りなかったということであると理解してよいのか。

【答】

そう思って頂いて結構である。政策決定会合の開催日というのは予め設定されているので、たまたまそういうのとぶつかると──経済というのはいつ、何が、どこで起こるか分からない──今回の場合はそういうことが直前にあったということで、やはり一つの事実としては無視できない大きな変化だったと思う。

【問】

先程総裁は、今後同じような事が起こった場合でも、最初の大きな破綻に比べると織り込み感があり、それ程のサプライズはないのではないかとおっしゃったが、それは今後そうした事が起こった場合には、今回とは議論の中身がかなり違ってくる可能性があるという理解で良いか。

【答】

債務超過であったり、多額の借入れをして、赤字が続いているというような企業はまだたくさんあると思う。バブルの後遺症というか、先延ばしでここまで生き延びてきたというか、そういう企業のバランスシートをきれいにするとか、再生を図るというようなことは、まだまだこれから起こっていくだろうと思う。債権放棄というようなことは、金融機関で普通の時にもかなり起こっていることではある。今度の場合は、関係銀行が非常に多かったことと、その中に、一時国有化銀行になっていた新生銀行が含まれていたということで、国の資金との関係が出てきたものだから、政治問題としても大きな問題となって、国会で討議されるということで、ちょうど私どもの金融政策決定会合の日に国会討議が行われていた訳で、その辺がどのように国会で処理されていくのかということも分からなかった。そういう意味での不安もあった訳で、今後あれ位大きな企業がどうかするということはそう多くはないと思うけれども、仮に起こったとしても、今回のような各方面がびっくりするようなことはまずないのではないだろうか。前もって大体見当がついているということが多いのだろうと思う。

【問】

今回のケースの場合は、そごうの破綻が起きたことが非常に大きかったが、森首相がゼロ金利政策の継続を期待することを表明するとか、かなり政財界の方からそういう声も強かったと考えるが、金融政策決定会合の中で、そういった声というか、環境を配慮したということはあるのか。

【答】

それは全くなかったと私は申し上げたいと思う。それは皆さんそうおっしゃると思う。ゼロ金利政策の継続あるいは解除を巡って、内外で多くの意見が出ていることは、皆さんご承知のとおりであるが、日本銀行としては、これまでもそうしたご意見に真面目に耳を傾けながら、政策委員会の責任と判断によって、ゼロ金利政策の継続を決定してきた訳である。今回の場合も、あくまでも金融政策決定会合において、金融経済情勢の判断に基づいて行ったものであると申し上げたいと思う。このことは、いずれ公表される議事要旨をご覧になれば、はっきりしてくると思う。

昨日の国会でも若干説明させて頂いたが、金利を上げるということは非常に難しいことである。日本銀行は過去10年金利を上げていない──ずっと下げている。1995年から0.5%の公定歩合をずっと据え置いてきて、昨年になって翌日物無担コールを下げていって、ゼロに等しい所まで運用金利を下げた訳で、その間10年金利を上げたことがないということである。金利を上げるということは、どの場合も非常に大きな議論があるし、上げにくいということである。今回の場合でも、上げるということは、やはり債務者にとっては耳が痛いというか、余り面白くないことは確かである。金利を上げる場合、最終的な債務者というのは企業であり──企業には財界人も含まれる──もう一つは政府(国債)である。資金を出す方(債権者)は1,360兆円の金融資産を持っている一般家計というか消費者というか国民の方々、特に年金生活者などが多い訳であるが、その中でも個人の借入れというものが日本は割合少なく──これは欧米と非常に違うのだが──400兆円位だから、差し引いても900兆円余りの金融資産が日本の家計にある訳である。特に日本の場合は、大部分が金融機関や郵便貯金等を通じて──一部は市場を通じてのものもあるが──企業にいったり国債を買ったりするようなことになっている訳だが、そういう債権者の方は金利を上げれば喜んでくださる、明るくなってくださることは当然のことである。借りる方と、上げてもらって喜ぶ方とがある訳で、声としてはやはり債務者の声の方がどうしても強く出てくる。国民は、預金金利が安すぎるというのは、もう耳が痛くなるほどお聞きになっていると思うが、そういう債務者と債権者というか、出し手と借り手にとってフェアなタイミングでフェアな幅で上げていくというのが、日本銀行の機能であり、責任であり、我々が決めるべきことである。そのために独立性も与えられている訳であるから、私どもの正しい判断で、ここでやれると思った時に、勇気をもってやるのが私どもの責任だと思う。そういうことをいずれやらなければならないと思っているが、どのタイミングが良いのかというのは、その時その時の状況を、広く見たうえで決めるべきことであり、「デフレ懸念の払拭が展望できる(ような情勢)」までという──非常に抽象的な言葉だとおっしゃるが──そういうものを一つの基準にしながら、今いつゼロ金利を解除したら良いかと考えている訳である。ゼロ金利を解除するといっても、これは引き締めを始めるということではなく、昨年の2月に、あのような異常な事態の中で決めた非常対策というものを元へ戻す微調整──ファイン・チューニングと英米などでは良く使うが──であって、金利を上げて引き締めたり、インフレの対策にしたりということではない。危機対策として採った措置を微調整して、普通の元へ戻していく過程というふうに考えて頂きたい。だから解除しても、今の情勢なら潤沢な資金供給を続けていくということが前提になっているから、その辺はそんなに大きくやったというようなことにはならないはずである。そういうことであるので、今後なるべく早い時期を見て、今の微調整をやっていく、その事が決して政府の政策と反するものではないと思っている。

【問】

昨日、総裁は今年度2%程度の成長も可能との認識を述べられたが、微調整であるということなら、景気が上向く前に解除したほうが良いのではないか。

【答】

「国会で2%というふうに言った」というのは、民間の見通しとして今2%というのが非常に多いようだけれども、私どももそれ位の所は行くんじゃないかなと。今の4−6月の色々な数字を拾っていると──機械受注とか生産とか雇用消費関係もそうだが──それぐらいの所はこのままで行けば、海外で変なことでも起こらない限りは、いけそうな気がすることは確かだが、私どもの方で数字を出した訳ではないので誤解のないようにして頂きたい。

それから、ファイン・チューニングというようなものは、そこが金融のやるべきことというか、他のことではなかなかやりきれないことだが、マインドや動きを見て、先行きに対する経済主体あるいは市場の動きを見て、早目に手を打っていくというのが、金融政策の妙技だし、やるべきことだと思う。そういう心がけというのは、私も長く鍛えられてきたから分かっているつもりである。だから、一般論として、なるべく早目早目に手を打っていくのが金融のやるべきことだと思う。

【問】

色々な事態があって、ゼロ金利を維持することになったわけであるが、それより以前に、総裁や日銀幹部が市場との対話ということで、早期解除を織り込ませてきたと思う。しかしながら、今回、解除を見送ったことで、日銀の信認への影響を懸念する声もあるが、この点はどのようにお考えか。

【答】

政策運営の透明性、信認の向上といった観点もあって、我々の考え方をできるだけ正確に国民や市場に伝えていくことが重要であると、かねがね申しているし、昨年の4月に「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」といった考え方を示したり、その後、この基準に照らして、どのように判断が進んで来ているかについてもできるだけ率直に、色々なルートを通じて説明してきたつもりである。その結果、ゼロ金利解除に関する基本的な考え方については、ある程度一般的な理解は進んできたと思う。ただ、それをいつやるかということは、私どもがフェアに判断して、この時だということを決めるわけで、具体的な時期について、色々な見方が出てくること自体は避けられないと思う。今後とも適切な政策運営の実績を積み重ねていくと同時に、政策運営の考え方についても正しくご理解頂けるよう、なるべくコミュニケーションを良くし、私どもの考えを伝えていきたいと思っている。

【問】

ゼロ金利を解除する場合、「最終的なつめに誤りなきを期したい」との表現があったが、「つめ」というのは具体的にはどんなものか。そしてその「つめ」を期すには、あとどのくらいの期間が必要か。

【答】

期間というのは、非常に難しいと思う。「情勢判断の最終的なつめ」ということであるが、「デフレ懸念の払拭が展望できるような情勢」、つまり「民間需要の自律的回復の展望」ができるかどうか、これを最終的に確認するうえで、何か特定の材料か指標があるのかと言われても、それはちょっとこれだというふうには言えないと思う。

企業部門の回復傾向が十分しっかりしたものになって、それが家計部門にも波及していくという展望が拓けたというふうにいえるのかどうか、今後の各種指標やヒアリング情報などを注意深く点検しながら、ここのところを適切に判断していきたいと思っている。

ダム論という言葉がいつの間にかできているが、企業収益が良くなっていくことははっきり分かっているが、それがどういうふうに家計に流れていくのかということについては、もう少しつめていく必要があると思っている。

【問】

ゼロ金利解除のタイミングの問題について、昨日の大蔵委員会では、ゼロ金利解除の時期は迫ってきているという表現をし、今また早目、早目に手を打っていくということをおしゃっている。非常に思い入れがあるのはよく分かるが、「迫ってきている」というのは、具体的にどういう状況をとらえて言っているのか。状況が整えば、来月の金融政策決定会合でもありうるという考えなのか。また、もし「そごうの問題」がなくて景気判断があのような状況であれば、17日の金融政策決定会合でゴーサインを出した可能性があるのか。

【答】

「そごう問題」がなければやったのかという仮定の質問について、やれたかどうかということは、私が言う訳にはいかないので、それは勘弁して頂きたいと思う。今回「ゼロ金利政策の継続」を決定したのは、情勢判断の最終的なつめに誤りのないことを期する必要があるということと、いわゆる「そごう問題」について、市場心理などに与える影響をもう少し見極める必要があるということなどを総合的に検討した結果である。ぎりぎりの回答であると思うので、このへんでご勘弁して頂きたい。「迫ってきている」というのは、「デフレ懸念の払拭が展望できる状態」に至りつつあるということで、その時期が迫ってきていると思っている。

【問】

日銀が「そごう問題」と、具体的な企業の名前を挙げているのが、非常に不自然という印象が否めないが、そもそも「そごう問題」というのは、どういう問題だと考えているのか。どうして不良債権問題とか債権放棄問題とかそういった問題ということにならないのか。

【答】

一般的に「そごう」ということでなくて、いわゆる「そごう問題」といった意味は、「そごう」が前々から債務超過で借入れが多くて赤字が累積しているというのは、皆知っていただろうし、関係している銀行が「そごう」と話し合って、債権放棄交渉が進んでいるということも耳にしていた。「そごう」が立ち直ることが出来ればいいなと思っていたが、やはりそういうことをやるには、少し遅すぎたのかもしれない。特に、先に申し上げたように、日長銀が破綻をして、テンポラリー・ナショナライズド・バンクになっている間に、ますます「そごう」が悪くなっていったと思うが、政府が銀行を──新生銀行という名前が付いているが──外資を主としたところに売ることについて、瑕疵担保といったようなことが起こるであろうことは、この頃から予測されていたと思う。政府が、売買について、3年以内なら責任を持つということを約束している訳で、新生銀行がこの約束を履行してくれということを(政府に)言ってきたんだろうと思う。それが血税で救うのかというようなかたちで政治問題化して、大きな話になり、──新聞記事等でも大きく捉えるし——とにかく「そごう」というのは大きな企業であるし、借入額も大きいし、取引先も多いし、雇用も多い。影響力の非常に大きい民間企業が、突如そういうことになるということは、そうしょっちゅう起こることではないと思う。しかし、何とか処理しないといけないことなので──可及的速やかに処理しないといけない──、今度新しく4月から施行された民事再生法というものはいい法律だと思っていた。中小企業を対象にしているのかと、私は勝手に思っていたが、大企業についても適用できるし、裁判所の判定にしたがって、かなり早い時間で整理できると聞いている。既に100以上中小企業は整理が進んでいるようである。こうした大きな企業を扱うというのは初めてだと思うが、どのみち整理されなければならないのなら、こういう方法をとったということは、後になって気が付いてみると良かったのではないかと感じがする。

そういうことは前から分かっていたことではない。今回の「そごう問題」についても、市場心理などに与える影響が大きいというところに問題がある訳で、現に株が下がり、円が弱くなり、売られている訳である。そのへんのところが心配であった訳である。前例があまりないだけに、皆が市場の動きに非常にナーバスになっている時にこういうことが起こったということは、そう沢山あることではないし、個別企業の経営問題について配慮して、やめたということではない。市場がどう受け止めるか、その辺が分からなかったから、もう少し見ようということで、決定のひとつの材料に(なり)、現状維持をすることについて、もう少し様子を見ましょうということにした。

【問】

そごう問題が与える市場心理への影響というものの中には、景況感も含まれているのか。

【答】

そういうものにも影響が出てくるかどうか、それはまだ分からない。これで上手く整理が出来ていけば、これは良い方法だと思って、かえってプラスに働いていくかもしれないが、その辺は分からない。

【問】

今回、現状維持の中でステートメントを出すこと自体かなり異例なことであるが、恐らく、市場は次の決定会合で解除があるであろうと注目をすると思う。仮に、そういう中で現状維持を決めた場合、もう1回ステートメントを出すことになるのか。

【答】

それは分からない。それは何とも申せない。2日後のこの記者会見でご説明するのが普通のやり方だと思う。ただ、緊急を要する時は、やはりその日のうちにステートメントを出すことが有り得ると思う。

【問】

「最終的なつめ」をするために、4−6月期のGDPを見た方が良いという意見が霞ヶ関や財界に多いと思うが、総裁自身は「最終的なつめ」をするために4−6月期のGDPを見る必要があると思うか。

【答】

6月の日銀短観が、かなりはっきりこれから数ヶ月の見通しを示してくれていると思うし、その他の個々の統計を4−6月について見ても、皆前向きな数字が出ている。4−6月期のGDP統計が出るのは9月であり、どういう数字が出てくるか分からないが、通常個々の計数を追っていけば大体の見当はついてくるのではないかと思う。民間需要の自律回復が拓けていくかどうか、それから企業部門の回復が確かなものであるかどうか、家計部門にも波及していく道筋が展望できるかどうか、こういったものが、今私どもがデフレ懸念の払拭の判断として注目している点だと申し上げて良いと思う。それらのものを見極める材料は、必ずしもGDP統計だけでなく、その他統計指標やヒアリング調査などを集めれば、幅広い情報を掴むことができるし、それらによって総合的な判断をすることができると思っている。

【問】

マーケットの一部では、総裁が先週森首相とお会いになられたのではないかという観測もあるが、実際はどうか。仮に会われたということであれば、どういった話であったのか。

【答】

単独ではお会いしていない。月例経済報告関係閣僚会議では同じ席にいたが、特にお話しをした記憶もない。

【問】

そごう問題による市場の動揺をみていく必要があるとおっしゃったが、株に影響を与えたのは1日だけで、翌日は戻した。むしろ政府の高官の発言に市場が惑わされたという見方も一方であるが、総裁はそうした市場の動きをどのように見ていたか。

【答】

大きく動いたのは木曜日だけだったかもしれないが、まだ安定した方向へ行ったとは思えない。今日あたりでも株は動いている。為替の方は少し弱くなって、それが、107円、108円というところで動いているようだが、方向としてはやはりそごう問題があのようなかたちで効いて出てきたというのは、日本経済に対する海外、あるいは内外の見方が市場に表れたというふうにみてよいのではないか。

【問】

構造問題を解決するまで金融政策は変更しないとの受けとめ方もありうるが、そこをどうお考えになるか。また、昨日の衆議院大蔵委員会で、今後仮に大型の企業倒産があったとしても、ゼロ金利政策の解除の問題というのは拘束されないという趣旨のことをおっしゃったが、そのような理解で良いか。

【答】

構造問題というのは、企業なり業種なりの合理性というか、競争力というか、内外の競争力──言ってみれば質──の先行き見通しがあるかどうかということをみて、この機会に今までの構造を改革して新しいものに投資をしていく、あるいは仕事を移していく、雇用も移していく、そういうことだと私は思うが、これは、むしろゼロ金利といって質を考えないで、どこにでも潤沢な金をどんどん出していくという考え方──これは量──とは本来は相容れない考え方であると思う。資本主義的な考え方であれば、本当に強くて将来性があって、また、そういうふうに構造を改革していかなければ、世界の企業と戦っていけない。そういう改革の時代であるから、資金がそういうものに優先的に流れていくということが、経済の長期にわたる発展を促すものではないか。金融が構造改革を決めるものではない。けれども構造改革を前提にして金融政策を考えていく場合にも、将来性のあるものに金融が潤沢に付いてそれを支援していくというかたちになっていくような資本主義経済が早く復活し、育っていくように持っていくのが金融政策面でも考えるべきことだと思うので、今おっしゃったこととは、ちょっと逆ではないかという気がする。

【問】

繰り返しになるが、昨日の大蔵委員会で、総裁は「仮に大型倒産が今後あったとしても、ゼロ金利政策の解除は拘束されない」といったことを述べられたと思うが、そうした理解でよいか。

【答】

それは、そうだろう。市場に大きな影響を与えるような破綻の仕方が起こるとすれば、それはやはり問題であるが、企業の破綻というのは、それだけが金融政策の対象となるのはおかしいことだと思う。そごうの場合も、先ほどから申しているように、市場での受け止め方がかなり動揺したというところに私どもの懸念があったわけで、そこは間違いなくご理解頂ければと思う。

【問】

前月の会見あたりから、総裁はゼロ金利解除の理由として金融政策の自由度を確保したいと述べられているが、なぜゼロ金利解除を行うことが金融政策の自由度につながるのか。

【答】

今後、どういうことが起こるかは分からないが、現在は、無担コールレートは実質ゼロである。これは、これ以上下げられない。何が起こっても。したがって、日々の需給のバランスを取って調節を行っていく場合に、これ以上下げられないことが、自由な金融調節を妨げるものであることは、間違いない。それが証拠に、短期のコール残高は、40兆円ぐらいあったものが20兆円ぐらいになっている。そういうことだと、もし万が一何か起こった場合、量的に資金が足りないといったようなことが起こらないとも限らない。そういう意味では、上にも下にも自由に動かして、金融調節ができることが、望ましい姿だと思う。

【問】

受け止め方によっては、一度ゼロ金利を解除して、再び金利をゼロに戻すための自由度とも受け止められるが、そういうことも含めてどうか。

【答】

そのような短期の話をしているわけではない。いずれにせよ、ゼロまで行くということは、それ以下に下げられないということであり、色々なケースが起こってくると思うので。「銀行券を発行するとともに、通貨及び金融の調節を行うことを目的とする」というのが日本銀行法第1条に定められた目的である。金利というものが金融を調節するわけであるから、これがゼロであるということは、やはり、自由度という言い方が良いかどうかは分からないが、金融の在り方としては非常に歪んだ状態であると言えると思う。

以上