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総裁記者会見要旨(8月31日)

平成12年 8月31日・大阪経済4団体共催懇談会終了後の記者会見要旨

2000年 9月 1日
日本銀行

―平成12年8月31日(木)
午後4時30分から約30分

【問】

ゼロ金利解除後の経済状況をどう判断しているかという点と来春にかけての景気見通しについて伺いたい。またそれを踏まえた金融政策運営スタンス如何。

【答】

ゼロ金利解除をしてから約3週間が経つが、これをどういうふうに判断するかは次回の決定会合で十分な討議をしていかなければならないことであるが、私が感じていることを申し上げれば、ゼロ金利政策を解除した後、市場は全体として極めて落ち着いていると言って良いと思う。例えば、短期金融市場のうちコール市場をみても18兆円くらいまで減っていたのが25兆円くらいまで膨らんでいる。ゼロ金利を解除してからの市場動向を金融市場局長などに聞いていると、市場がすごく活気を帯びてきたということを言っているし、私自身も短資業界の方々の話を聞いたが、これまでかなり苦しかっただけに、息をついてこれからだという感じを持っておられるようである。

株の方も買いが内外から入ってきて比較的安定した相場が続いているし、為替の方はユーロ、ドルとの関係があって、多少動いているようであるが、円が外からも買われているということはやはり日本経済が健全な方向に向かっていると理解しても良いのではないかと思っている。長年懸案であった事項が実行された訳であるが、今後は引き続き内外の金融市場の動きについて注意深くウォッチしながら、市場の活性化に努めていきたい。

景気については前回の会合で「現在では、回復傾向が明確になってきており、今後も設備投資を中心に緩やかな回復が続く可能性が高い」と判断した。現在の日本経済は、ようやく「デフレ懸念の払拭が展望出来るような情勢」に至った段階であり、回復のテンポは全体として緩やかであると認識している。したがって、金融政策運営面では、金融緩和スタンスを継続することによって、物価の安定を確保しながら、引き続き景気回復を支援していくという方針でやっていきたいと思っている。

【問】

関西経済界との懇談の感想をお伺いしたい。また、関西の意見・要望を今後の金融政策にどのように反映していくお考えか。

【答】

今日の関西経済界との懇談会は一昨年の11月以来であり、約2年振りに皆様とお話もし、ご意見も聞くことが出来て、非常に有意義な経験をさせていただいた。関西地方の景気動向については全国同様、企業部門を中心に緩やかな回復をしているということであったと思うが、同時に「中小企業では景気回復の実感を掴みかねている」、「雇用面では厳しい状態が続いている」といったご意見を頂いた。また、金融政策に関しては、景気情勢に十分配慮して政策運営をお願いしたいとか、市場等とのコミュニケーションを通じて政策の透明性を向上して欲しい、といった要望を頂戴したところである。日本銀行としてはこうしたご意見等にも真摯に耳を傾けて適切な経済情勢判断や政策運営に努めて参りたいと考えている。日頃から支店を通じて各地の経済の実情把握に努めているが、加えて本日のような懇談の場も大切にして参りたいと思っている。

中小企業については、確かに良いところと悪いところがあって、マクロの経済指標や金融市場の動向だけではなく、地方へ来ると中小企業の厳しい実態というものを聞かせて頂ける。今日、ここへ来る前に東大阪のIT関連の部品を作っている非常に業績をあげている会社で工場を見せてもらい、社長ともゆっくりお話をする機会があったが、早く悪いものを壊し、良いものをうまい具合にクリエイトして新しい事業を始めているところはそれなりの効果が出ていると感じる。中小企業の金融に関しては新しいいろいろな手が打たれているし、この点については今日も少し説明はさせていただいたが、それぞれの立場で将来を考えて、創造的な破壊というか、駄目だと思うものは止めて新しいものに移っていくという転換が ── 言ってみれば一種の構造改革だと思うが ── 出来ていかなければいけないし、また、それに対して金融機関をはじめ必要な支援をしていく必要があると思っている。

【問】

先般の政策決定については、中央だけの判断で決められているのではないか、地方の状況が十分反映されていないのではないかといった声も聞かれるが、その点については如何お考えか。

【答】

地方経済の状況については —— そのために支店がある訳で —— 支店長が情勢を逐一本店に流してくれており、支店長会議でもいろいろ話を聞かせてもらっている。地域経済に関する動向については綿密に分析、検討しているつもりである。

地方の景気や中小企業の業況が首都圏や大企業と比較して厳しい状態にあることは十分認識している。現在、日本経済は循環的には緩やかな回復が始まっているが、依然様々な構造的な課題に直面していることは先ほど申し上げたとおりである。このために、経済全体として直ちに高い数字(成長)を期待するということは難しいと思うし、地域や業種による格差が大きくなっていくことはやむを得ないことだと思っている。

【問】

先ほどの四団体共催懇談会の挨拶で、雇用、所得環境には改善の動きが出始めていると指摘されたが、この辺りをもう少しお話し頂きたい。また、市場では、ゼロ金利解除後、かなり景気回復感が進んだという印象があるが、総裁はどのように評価されているのか、伺いたい。

【答】

雇用、所得の関係については、最近の数字を見ても、急速に良くなってきているとは思わないが、完全失業率は4.69%ぐらいのところでそんなに大きな動きを示していない訳で、むしろ有効求人倍率といった辺りは増えてきている。また、所得については、夏のボーナスは ── ここに数字はないが ── 前年に比べ多少下がっているかもしれない。しかし、所得全体としては、企業がこれだけ収益が上がっている訳で、所得の数字というのはいろいろな括り方があるかとは思うが、私は、所得 ── 企業から出ていく所得 ── は増えているというふうにみている。

それから、市場の景気回復への感じというのは、これは株価にも反映されているし、今度のゼロ金利解除により、当面は借入のコストが上がることになるのかもしれないが、私は今まで信用供与をしておいて ── 翌日物の無担コールであるが ── 金利がゼロであるというのは、やはり市場経済にとっては極めて異常なことであって、そういうものが常態に復してきたということだけでも、内外とも日本の経済は少し良くなってきたんだというふうにみているといっていいと思う。

それから、先ほどの所得の関係で言わせて頂くと、ゼロ金利解除を決めた後、随分多くの方々から「よくやってくれた」という激励の手紙やFAXや電話をいろいろ頂いた。1,360兆円という国民が持っている金融資産 ── 預貯金が主なものであり、住宅借入といった若い人たちが借りているものや、個人の商店の借入とかを差し引いても900兆円から1,000兆円の預貯金 ── の利回りがここ10年ずっと下がってきている訳で、それがここへきて底を打ったような形で少し上がってきたということは、明るい陽が射し始めたというふうに思う。特に、年金生活者などが生涯かけて蓄えた預貯金の利回りが極めて低いというのは、元本の減価はなかったにしても非常に暗いものであったと思うが、そういう人々 ── あるいは財団などもそうだが ── にとっては明るいニュースであったことは確かだと思う。そういう人々からの手紙や激励の言葉を貰ってつくづく感じたのは、一般国民の預貯金については、これまでは随分厳しかったなということである。

先ほど申し上げたように、これから大事なのは市場を活性化していくことであって、かつて良く言われた「フリー、フェア、グローバル」、これが今まさに市場経済活性化の基本になるべきことであって、そういうことを推し進めていくことがこれからの金融政策の方向でなければならないと思っている。

これにより競争が激しくなるということにはなると思うが、競争に打ち勝てば、それだけのことが与えられるということにもなる訳で、それがまさに資本主義経済のバイタリティなのであって、そういうものが蘇ってこない限り、なかなか日本経済の活性化あるいは構造改革による経済の活性化というものは起きてこないと思っている。

【問】

これまでは「デフレ懸念の払拭」という言葉が浸透していたが、今後の金融政策についてはどのようなメルクマールで考えていくつもりか。仮に2%成長が達成出来るとすると、0.25%でも低すぎるという見方もあるが、その辺は如何か。

【答】

先ほど申し上げたように、ゼロ金利の解除を行ってから、今のところ市場はこれを冷静に受け止めている。株も為替も金融市場も活発に動いている訳で、それをどのように判断するかということはもう少しみていかなければならないが、次に何をやるのかということ —— 先行きの金融政策運営 —— については、ここで具体的にコメントすることは差し控えさせて頂きたい。ただ、ゼロ金利解除を決定した際の対外公表文でも明確に述べているように、金融政策運営面では、金融緩和スタンスを継続することによって、物価の安定を確保しながら引き続き景気回復を支援していくという方針は変えないでいくつもりである。

【問】

政治的圧力が強い中でゼロ金利政策を解除したことについて、先ほどの懇談会の中でも高い評価の声が聞かれたが、その辺を総裁御自身はどのように評価しているか。

【答】

これは、日銀の新法に定められたことをやっただけのことで、9人の政策委員で議論した上で1年半続いたゼロ金利をここで解除すべきだということが多数決で決まった訳である。それについては、政府の代表委員の方から、もう少し時期尚早ではないかとの意見が出て、新日銀法の19条にある議決延期の申請が出された訳であるが、それも法律に定められている採決を行った結果、否決され、(その後)ゼロ金利政策解除という議長案が多数決で決定をみたということであって、これは新法が定めたことをその通りに実施したと思っている。新法の2つの柱である自主性と透明性、もう少し具体的な言葉でいうと、独立性とアカウンタビリティというか説明義務というか、この2つのことを実現した訳であり、新日銀法の精神として定めるところを実施出来てよかったと思っている。

今後、市場とのコミュニケーションをもっとうまくやりなさいとか、あるいは政府との話し合いをよくやりなさいといった論説などが出ているが、まったくその通りであり、コミュニケーションについては、かなり私どもは留意しながら、あらゆる機会を使ってきたつもりである。今後とも、私どもも市場に対するコミュニケーションが足りないという批判を受けないように十分気を遣っていきたいと思っているが、そうかといって、いつ何をやるんだということを事前に言う訳にもいかないし、それは限度のあることである。

今回のケースを振り返ってみると、私は、前々からゼロ金利というものはなるべく早い機会に元に戻すべきであるということを、決定会合でも言い、また他のところでも言ってきたつもりであるが、4月10日の決定会合でそういう意見が出てきて、4月12日の記者会見では、 ── 当時、ゼロ金利解除は年内はないだろうという見方や報道がかなり多かったと思うが —— そういうことを受けて、ある程度出来るようになればなるべく早くやりますよということを申し上げたつもりである。これは新聞に大きく取り上げられたが、その後もいろいろ決定会合で議論が進み、8月になって今ならやるべきではないかという議論になって実施出来たということは、あまり大きな市場へのサプライズではなかったというふうに思う。その証拠に市場は落ち着いている。

それから、もう1つの政府との関係については、今度の場合でも、日銀内のそれぞれの段階において、日銀法4条に定める「経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」ということは十分やってきたつもりである。そういう状況判断については政府と十分話し合いをしてきているつもりであるが、それに基づいてどういう政策をとるかという点については、3条に「日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない」と書かれており、私どもの決定会合の採決で実施に移したというのが今回の決定であるので、これは新法に基づく措置であったと考えて頂きたいと思っている。

【問】

先ほど、市場は概ね冷静に受け止めているという話があったが、長期金利が、今のところ2%を目指して、場合によっては2%を超える可能性もあるという展開になっていると思うが、この辺りについて総裁のお考えをお聞かせ願いたい。

【答】

国債の発行がどれぐらいになるのか、補正予算がどのようになるのかといったことも、まだこれから決まる訳であるし、今の段階で今の金利が高過ぎるか低過ぎるかといったようなことはコメントできないが、一般的にいえることは、景気が良くなっていけば金利全体はやはり上がっていくものだと思うし、これだけの借入を政府がやらなければならないという今の財政の状況というものもやはり厳しく考えていかなければいけないというふうに思っている。

金利水準はどこが良いかということを聞かれても、何ともお答えする訳にもいかないが、やはり国債への信用というか、信認というか、そういうものがしっかり保たれていくように、私どもも日本の国債市場を拡大し流動性を持たせていくということを努力して参りたいと思っている。

特に今、国債は総量としては非常に多いが、去年あたりとかなり変わってきたのは、一年以内の国債の比率が非常に高くなってきているということである。そのほかにも、2年、4年、5年、6年といった種類が非常に増えてきているということも、流動化していくのには良い方向に向かっているように思う。海外からも、投資信託とか、あるいは直接買い入れるとかにより、どんどん買って貰えるように努力していくことが必要だと思っている。

【問】

今日の午後、自民党の金融問題調査会から「物価安定に対する考え方のまとめをいつ公表するのか、来週中に回答するように」という申し入れをされたと聞いているが、どのように対応するつもりなのか。

【答】

私はまだそれを聞いていないので何とも言えないが、これまで記者会見や国会などの場所で、「出来れば夏までに何らかの成果を出せるように努力したいと考えているが、何分複雑かつ多岐にわたる問題であり、取り纏めの時期については検討状況をみながら弾力的に考えていきたい」とお答えしてきた訳である。現在検討作業を急いでいる段階であるが、私としては10月には取りまとめて結果を公表したいと考えている。

以上