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総裁記者会見要旨(11月21日)

2000年11月22日
日本銀行

―平成12年11月21日(火)
午後 4時から約35分

【問】

景況感について伺いたい。先の政府の11月の月例経済報告では、2年2か月振りの下方修正と言える、家計の改善の遅れというものが指摘されている。一方、昨日発表された日銀の金融経済月報では、輸出の鈍化等の指摘はあるが、総括判断としては、「緩やかな改善が続く」とこれまでのスタンスが維持されている。若干、日銀の見方と政府の景況感で違いがあるという印象を受けたが、これらの点を踏まえ、総裁として、現在の景気の現状並びに見通し、当面の金融政策運営のスタンスをお話し頂きたい。

【答】

昨日、金融経済月報の概況説明をお聞き頂いたと思うが、景気の現状については、「企業収益が改善する中で、設備投資の増加が続くなど、緩やかに回復している」と判断している。

具体的には、輸出や設備投資の増加を背景にして、生産が増加している。これを受けて、企業の収益や業況感は改善を続けている。一方、家計の方は、所得環境は引続き厳しい状況にあるが、企業活動の回復に伴って、所定内・所定外の給与や新規求人が増加し、求人倍率もかなり高くなってきている。雇用者所得が、緩やかではあるが、改善に向かう下地を整えている。こうしたことから、雇用者所得の減少傾向には歯止めがかかっていると思う。

さらに、先行きについては、輸出の増勢がアジア向けを中心にいったん鈍化すると見込まれるが、企業部門の改善が徐々に家計部門にも波及し始めていることを踏まえると、景気は、今後とも緩やかな回復を続ける可能性が高いとみている。

物価を巡る環境をみると、国内の需給バランスは、基調としては徐々に改善していくものと見込まれるが、技術進歩や流通合理化の影響などで、供給コストの低下が進んでいるというのが最近の特色であると思う。物価は、そういう意味で、当面、概ね横這いないしやや弱含みで推移していくものと考えられる。ご承知のように、一部には、価格破壊といったような言葉すら流れているような次第である。非常に安くて、良い製品を販売している流通の革命といったようなことが起こっていると思う。こういうものは、日本でこれまで問題であった内外価格差を縮小していく方向に進むものであるから、私はむしろ好ましい流れだと思っている。

こういう経済の先行きについての標準的な動きに対して、日本銀行は、先般公表した「経済・物価の将来展望とリスク評価」の中で述べたように、色々なリスク要因、つまり世界的なIT需要や米国景気の動向、原油価格や内外資本市場の動きといったようなものにも、十分注意を払っている。当面、こういったリスクも意識しながら、民間需要の自律的回復の強さと持続性、その下での物価動向などを見守っていきたいと思っている。

こういう日本銀行の判断は、政府の見方と比べて、基本的な認識や方向感において、大きく違っているとは思わない。私どもの基本的な見解や総括表現は、大まかに言ってこの7月から変わっていないと思っている。政府の月例経済報告などから見る限り、実は、この夏場頃から大きな違いがあるとは思っていない。

最後に、金融政策の運営方針については、以上述べたような情勢を踏まえて、引続き、金融緩和スタンスを継続することによって、景気回復を支援していく方針に変わりはない。

【問】

株価動向に絡んで聞きたいと思う。今総裁がおっしゃった通り、企業収益の回復が明確になってきているにもかかわらず、株価動向は依然ぱっとしない。前回の総裁会見でも、総裁は米国の株価は非常に気になるファクターであると言っていたと思うが、最近の株価動向、アメリカの大統領選とか日本の政局とか色々な要因があるかと思うが、それらを踏まえた上で、株価低迷の現状が今後の景気の先行きに与える影響についてどう判断しているか。

【答】

株価については、今ご指摘のように、IT関連の諸産業の需給関係の動きとか、あるいはそれを含めた米国の株価の動き、特にナスダックの動きが非常に激しいようだが、こういうものに日本の政情の不透明というか、政局の不透明というようなものが加わって、ここへきて下がってきている。今日も少し下がっているようだが、わが国の企業業績が、今申し上げたように増益基調を示しているわけだから、株価を巡るファンダメンタルズが変調をきたしているというわけではないと思う。株価は上がったり下がったりするだろうし、アメリカが下がれば日本も下がるという、これも直接、間接にどういう関連があるのか、私どもには正確にはとらえられないが、アメリカの方はかなり上がり過ぎていたということは、連銀などもかねてから気にしていた。多少生産の伸び、あるいはGDPの伸びが止まったり、雇用関係が変わってくると、株価も下がってきて、──そんなにアメリカサイドでは当局が驚いているとは思わないが、──それが海外の市場に非常に大きな影響を与えていることは事実だと思う。どこの市場も、皆アメリカが下がり出して下がっているというのが、現状ではないかと思う。株価の急激な変化は困るが、経済の先行きに関する重要な情報が含まれている場合もあるし、また株価の変動自体が、経済活動に色々な影響を及ぼすものであるだけに、私どもとしては、引続き注意深く動きを見守ってまいりたいと思う。ただ、最初にも申し上げたように、企業の収益状況が良いということは、これを先行きを考える場合に、かなり心強い一つのファクターであるということは、私どもとしては有り難いことだと思っている。

【問】

先日、日銀が発表した「経済・物価の将来展望とリスク評価」の中で、供給サイドで大きな変化が起きている現状では、将来にわたって妥当な「物価の安定」の定義を数値で示すことは適当でないと議論が行われていたと承知しているが、将来の「物価の安定」の数値化が可能となった場合において、インフレ・ターゲティングの導入というのも政策として取りうるものなのか。

【答】

「物価の安定の数値化」という問題は、金融政策運営の透明性を高めていくということとの関連で、よく引き合いに出されるが、このことは今後とも必要性が出てくるということがあるかもしれないので、よく検討を続けていきたいと思っている。

インフレ・ターゲティングというのは、ひとつの検討対象ではあるが、現時点では、特定の方向感をもっているわけではない。先程言ったように、現在は供給面を主にした物価の下落であって、かつてのように需給ギャップが需要の弱さで供給超過になっているという状態ではないと思う。そういう状況は、かなりもう消えていっているのではないか——生産の増加傾向とか、設備投資の増え方とか、製品輸入がどんどん入ってきているとか、先程言ったような流通革命が起こっているとかいったようなことを考えると、なかなか数値化し難い、一種の構造改革が流通サイドで起こっている、あるいは生産サイドでも起こっているのだろうと思う。そういう状況の中で、これを数値化していくというのは、むしろ危険を伴う可能性もあるだろうし、数値の変化をどういうふうに理解していくかということの方が今は大事だと思っている。

そういう意味で、この間も、あのような形で委員の方々の年度内の物価の見通しをそれぞれ出してもらって、その大勢を公表することによって、私どもの考え方、見方を一般に公にしていきたいということで、10月から始めた次第である

【問】

このところ生命保険の破綻が相次いで、逆鞘で身動きがとれなくなって、構造不況業種とも呼ばれているが、生命保険会社の現状について総裁はどう考えているのか。また、これが金融システムの不安を呼んで、金融危機の引き金になるのかどうか、考えを聞きたい。

【答】

生命保険会社については、確かにおっしゃるように、日産、大正、千代田、協栄と相次いで破綻が続いたわけで、一般的には、バブル崩壊に伴う資産価格の下落などから生命保険会社も非常に厳しい経営環境に置かれていることは否定できないところである。ただ、生命保険会社というのは、日本銀行に当座取引を持っているわけではないので、具体的な経営実態を把握しているわけではない。そういう状況の下で、具体的なコメントをすることは、差し控えたいと思う。ただ、金融システムへの影響がどうかというと、生命保険会社の場合は、現時点で実際に外部負債の取り入れというのは極めて限られているし、今年の6月に生命保険契約者保護機構という彼らの作ったセーフティネットに財源の拡充が行われている。こういうものを持っているということ、そしてもう一つは、資金決済機能を持っていないということを踏まえると、そういうものが、金融システム全体を揺り動かすような事態にはなりにくいのではないかと──相対的にそういう可能性は低いと──考えて良いのではないかと思う。こういう点からみて、現時点で個別の生命保険会社の破綻について、直ちに金融システム不安が再燃するといった事態は想定しにくいと考えている。私どもとしては、それでも、今後とも情勢の推移を引続き注意深くみていきたいと思っている。

【問】

自民党の中では、日銀はもう北九州支店を閉鎖しないということで了承したという話も出ているようであり、また地元での説明もきちんと再開されていないという話も聞いているが、事実関係如何。

【答】

私どもとしては、地元関係者に対して、ご意見、ご要望を頂いて、それを踏まえて原点に立ち返った気持ちで、私どもの考えていることを丁寧に先方に説明をしていくことが、まず大事だと思っている。そういう説明の機会をこれから求めて参りたいと思っている。私どものそういった対応というものは──先般の金問調・財政部会の合同会議の議論で出てきた話を基にしておっしゃっていると思うが──こういう方向でこれから進めていくことが、あの時の議論の趣旨にも沿った解決の仕方ではないかと思う。

私どもとしては、支店廃止の方針を変更したわけではないが、これまでお互いに十分な話し合いの場が持てていないという経緯に鑑みると、まずもって、私どもの考え方を地元関係者に十分説明することによって相互理解を深めていくことが何よりも重要ではないかと考えている。

私どもとしては、新法の下で組織の改革、給与の削減、人員の削減、それから不動産というか厚生施設とか支店長の役宅とか、そういったものを次々とリストラをやってきたわけで、あと残っているのがまさに支店の統廃合で、これは衆議院、参議院、両院で新法を通した時の附帯決議になっているわけである。ここ25年、支店の配置を動かしていないので、その間に交通関係や金融事情がかなり変わってきているので、それに合わせて、合理性のある、しかも必要な支店配置をして参りたいという考え方の下で出てきた案であるので、その辺を良く理解して頂いて、お話し合いを進めて参りたいと思う。

【問】

聞くところによると、北九州市は、日銀は廃止方針の白紙撤回をもう了承したという受け取り方で、日銀側の受け止め方と大きな開きがあるように思われる。説明されていくという総裁のお話は分かるが、北九州市はもう終わった問題という認識を持っているようであり、この誤解を解くために、方法論としてどのように理解を求めていくのか。

【答】

私どもは、まだこれからだと思っている。今まさにスタートの段階だと。これから話し合いを進めていきたいと。私どもの考え方や、やろうとしていることをご理解頂けるよう、じっくりお話したいと思っている。

【問】

政局に関してであるが、総裁は、構造改革をしなければいけないと常に言っていたが、森政権が信認されたことで、構造改革からみると反対の方向にいってしまうのではないかという危惧を持っている向きも多い。総裁は今回の一連の動きをどのように見ておられるのか。

【答】

今の与党の中にも色々なご意見があるのだなという感じがした。今、補正予算を早く通して、景気を良くしていこうという政府のやり方については、私どもも側面から金融をなるべく緩めて支援していきたい。そのことによって、民間の主導による自律回復(を期待したいが)、その基本にあるものはやはり構造改革だと思う。

設備投資はかなり進んでいる。製造業の稼働率指数(95年平均=100)をみても、100を越えている。そういうなかで、これからは新しい技術を使って構造改革を行っていきながら、企業は需要にミートしたものを作っていく。それと同時に、色々な諸規制がかなり残っているようだし、それから、業界間の横並び、——私も民間にいたのでその辺はよく分かるが——本当の意味での競争、すなわち市場原理、競争原理ではなくて、お互い共存していこうといったやり方、──官主導、民がそれについて官民の協力で生産性を上げ、経済を拡張してきた──というのが、日本の戦後——戦前もそうだったのかもしれないが——50年の経緯だと思う。東西の冷戦が終わって、市場がひとつとなり、まさに競争原理で進んでいくわけである。また、日本は世界第2位のGDPを持ち、一人当たりの所得は世界有数。しかも、GDPの2~3%に達する経常収支の黒字が80年代から続いており、通貨も決して弱くはない。対外純資産もおそらく世界一。そういった実力を持っている日本の経済が、引続き政府の主導、指導、あるいは規制で動いていくというのでは、やはり他の国が納得するわけはないと思う。そのところは政府も十分承知した上で、当面景気の回復を早くやろうということで補正を組み、色々な手を打っているが、同時に財政の赤字をどうしていくかという課題と、どこに出しても勝てるような産業構造を創り上げるための構造改革をしていかなくてはいけないということは、スピード、程度の差はあっても日本に課された課題であることは間違いない。これをどうやって実現していくか、どれくらいのスピードでどれくらいのタイミングで、どこから手を付けていくかという具体論になれば、自ずから意見は分かれてくるわけで、私は、おそらくそうした意見の食い違いがあのようなかたちで出てきたのかと思っている。今の与党政権もその必要性を十分心得ておられるので、今回あのようなかたちで落ち着いたのだろうと思う。政局が安定して、次々と政策を打ち出されていかれることを期待したいし、我々はそれに必要な金融面での支援をしていきたいと思っている。

【問】

来年1月4日に導入されるRTGSについて、最近の模擬テストをみると、かなりフェイルと呼ばれる失敗が起きている。そのあたり、かなり準備が遅れているということはないか。

【答】

RTGSはご承知のように日本はむしろ立ち後れている。私どもは来年の1月4日からやるということで、かなり早くから色々な面で手当てをし、計画を立てて進めてきたわけで、今まで4回本番リハーサルをやってみて、だんだん慣れてきていると思う。資金決済の方はほとんど問題ないと思うが、国債については──ご承知のように今たまたま(金融機関の)再編も起こってきており、新しい証券会社などもあるわけで、そういうところが年内に準備を進めるということが、必ずしも徹底していなかったのかも知れないが──、4回やってみて、殆ど90何パーセント大丈夫なので、あと3回──12月2日、3日、16日と──やるから、これでおそらく十分準備は整うと思っている。

総合運転試験を追加すると同時に、中長期国債などの発行日に日銀ネットの稼働時間をさらに延長する必要がある──普通、発行は3時に行うのだが、3時から5時までだと、なかなか大量の国債を処理できないということがあったのかもしれないが──ということで、今度は6時まで延長して試験をする。国債の残高がなくてフェイルを起こすというのはどうしようもないので、こういうのは起こるかも知れない。それぞれの企業が対応できないというのはその企業の面子にも関わるし、商売にも関わる話なので、一所懸命やっておられるように思う。したがって、12月2日、3日、16日の3回のリハーサルでおそらく完全に準備が整うと思っている。予定どおり、1月4日に実施するということは既定の方針である。

以上