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篠塚審議委員記者会見要旨(12月4日)

平成12年12月4日・山形県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2000年12月5日
日本銀行

―平成12年12月4日(月)
午後2時30分から約30分間
於 山形グランドホテル(山形市)

【問】

先ほどの県内経済界トップとの懇談会で話し合われた山形県経済の印象について伺いたい。

【答】

山形県経済は全体としては厳しい経済状況にあると思う。景気は、マクロ的にみても厳しい状況にあり、一つの地域だけが飛び抜けて良いという訳にはいかない。しかしながら、山形では比較的元気な電気機械や通信関連など強い部分もあり、マクロでみた景気動向と同じように二極化しているという印象を受けた。また、山形県人の「地味」、「堅実」、「粘り強い」といった県民性は、これまでマイナス面として受け止められることもあったが、海外に進出したあるメーカーの方から、「山形県人が現地の人たちを粘り強く指導するなどして非常に活躍しており、県民性がプラスに評価され、新しいビジネスチャンスに繋がる可能性がある」という話をうかがって、力強く受け止めた次第である。懇談会では、経済が二極化する中で、雇用の問題が一番難しいということで出席者と考えが一致した。しかし、山形県は、こうした県民性を考えると、人的資源の層が厚いとみることもできる。私は、山形県経済の先行きに対して明るい希望を持っている。また、人的資源に関して申し上げれば、最近、東北公益文科大学や既に開校している東北芸術工科大学など、若い人向けの教育機関が新設されているというご説明があった。こうした新しい動きが、今後も「粘り強さ」とか、「熟練」といった優れた県民性をさらに培い、人的資源の層を一段と厚くしていくものと期待している。

【問】

山形県内では、昨年の暮れに二つの銀行が合併構想を発表したが、4か月後には白紙撤回した。県内の人口は124万人であるが、現在の4行体制は今後も継続できるのか。また、地域金融機関の再編についてどのように考えているか。

【答】

山形県内の様々な金融システムや金融機関経営の動向などについては、仙台支店や山形事務所を通じて説明を受けているが、私の立場から、個別金融機関についてコメントすることは差し控えたい。

そのうえで、一般論を申し上げれば、各金融機関は資本基盤の強化や経営効率化を目指し、顧客ニーズに則した高度なサービスを提供するなど、その地域に合った形で再編を行うことが、地域金融の中では一番うまくいく方法であるように思う。いずれにしても、金融機関の再編については、あくまでも個々の金融機関が、将来を見据えた経営戦略上の観点や、業務の再構築などの一環として、自主的な経営判断に基づいて進めるべきものであり、私どもから「このような姿が望ましい」と申し上げるべきものではないと思う。

【問】

山形県は高齢化が進んでいる県であり、高齢者を中心にこれまでの超低金利により打撃を受けている。ところで、公定歩合について見直す考えはあるのか。

【答】

まず、公定歩合の位置付けについて申し上げる。日本銀行では、平成8年から原則として日々行っている金融市場調節の手段としては日銀貸出を行わないこととしている。これは、日銀貸出の他にも様々なオペレーションが出てきたからである。このため、日々の金融市場調節について言えば、現在、公定歩合は大きな役割を果たしていない。もっとも、公定歩合が金融市場の調節に役割を果たしていないとしても、金融市場調節以外のところで使われており、貸出金利としては今でも業務上重要な役割を持っている。その位置付けについては中央銀行として常に考えるべきテーマの一つであると考えている。そのうえで、私は、現在の公定歩合の水準について、差し当り、これを見直す必要があるとは思わない。

【問】

ゼロ金利政策解除について所感を伺いたい。

【答】

日本銀行では、8月にゼロ金利を解除した訳であるが、これは、ご承知のとおり経済情勢がデフレ懸念の払拭を展望できるような状況になり、こうしたことを背景にして、金融システム不安が大幅に後退していると判断したことによるものである。ゼロ金利解除後の状況をみると、海外で米国を中心に株価調整といった不安定な動きが続いているが、私どもがゼロ金利解除を判断した時に持っていた見通しと同様に、企業業績が増収・増益基調にあることや生産が堅調であること、設備投資が出てきていること、それらの結果、雇用・所得が下げ止まっている。こうした前向きの循環が消費のところまでは十分には行き届いていないのが懸念材料ではあるが、先ほど申し上げたような判断自体を変えることは何もないと思っている。もっとも、そうは言っても、ゼロ金利解除を判断した後、海外で様々な変調がみられる面もあることから、私としても引き続き注意深くみているところである。

【問】

公定歩合の見直しは考えていないということであるが、コール市場金利の誘導目標はどのように考えているか。

【答】

景気は緩やかな回復基調にあるものの、全体として力強い回復ではなく、また、二極化しているため、超低金利により経済を下支えしなければならない状況にある。これは、私どもがゼロ金利を解除した時の見通しの範囲内の動きである。このため、コール市場金利をゼロ金利から0.25%に引き上げたといえども、依然かなり低い水準で誘導している。足許の景気情勢を鑑みれば、今これを変えなければならない状況にはない、と認識している。

【問】

足許の株価下落の要因をどのようにみているか。また、政府・与党内から足許の景気情勢を眺めて一段の金融緩和措置などを期待する声があるが、これについてはどのように考えているか。

【答】

株価の低下は本年入り後の世界的な株式市場の中で、IT関連の株価調整が色濃く出た結果だと理解している。この行き過ぎたIT関連の株式の調整は、日本のみならず、アジアおよびヨーロッパにおいても同様の動きがみられており、日本の調整度合いが特に大きいという訳ではない。

ただ、ご指摘のように日本企業の業績は増益基調を維持しているものの、株価の低下が、ファンダメンタルズに影響し、景気変調に繋がる可能性が全くないとは言えない。しかしながら、現時点でどうかと問われれば、足許の株価低下が、私どもの政策判断を変えなくてはならないほどに、実体経済に悪影響を及ぼしているとは思わない。私としては、株価の変動が先行きの実体経済にどのような影響を及ぼすのか、最大の関心を持って引き続き注意深くみていく必要があると考えている。

一方、最近、株価が弱含みで推移していることに関連して、政府などから金融政策に対して様々な意見が出されている、といった新聞報道もみられる。もっとも、私自身、こうした意見をしかとうかがった訳でもないので、直接、具体的にコメントすることは差し控えたい。ただ、一般論として申し上げれば、IT関連の株価調整があって、株式市場が大きな変調の中にあることは事実であると思うが、突き詰めれば、株価の変動には、経済の先行きに関する重要な情報が含まれている場合がある。景気回復がしっかりしたものになっているという認識が内外で広がれば、株価は上がっていく筈であると思う。そういう意味では、私は、一時的に行政指導を行うとしても、その効果は一時的かつ限定的ではないか、と思っている。こうしたことを考えれば、現在、緩やかな景気回復の途上にあるが、これがよりしっかりとしたものとなっていくためには、規制緩和などを通じて構造的な課題をこなしていくことが必要であるし、今暫くは超低金利政策で景気回復を支えることも必要であると思う。

【問】

本日の講演の中で篠塚委員が言われた景気判断は、先般公表された11月の金融経済月報の景気判断と比較すると慎重であるように窺われたが、委員自身、政策委員会の大勢意見と比べて景気判断に対して慎重になったのか。

【答】

本日の講演のどの部分を捉えて私が慎重であると受け取られたのか、私にはよく分からないが、私自身大きく見解を変えてはいないし、「基本的見解」と比べて特に大きく異なっているとも思っていない。

今回の講演で私が述べたのは、短期的な視点での政策だけでは限界があり、中長期的な政策に皆が関心を持って取り組んでいかなければ駄目なのではないか、ということである。また、長期的な視野に立って日本経済の諸問題を解決するためには、日本銀行だけでは非常に難しく、国民全体が、税制、財政、社会保障などといった問題などをどのようにしたらよいのか、一つずつ取り組んでいくことが必要である、と考えている。こうした問題は、合意を得るのは非常に難しい。こうした意味で、日本経済が大変な局面にあることは確かであり、これを本当に正していくには、政治家、経営者、労働者それぞれがそれを認識することが必要である、と考えている。

長期的な観点に立つとどうしても慎重になってしまうが、私自身としては、足許の景気情勢に対する判断を大きく変えている訳ではない。

【問】

企業収益が増益基調にあり、雇用・所得が下げ止まっていることから、物価の低下を捉えてデフレ・スパイラルではないとのことであるが、今後、企業業績が大きく鈍化し、その時点で物価が下落しているという状況になれば、これは再びデフレ・スパイラルに陥るという判断になるのか。また、その際の金融政策はどのようになるのか。

【答】

日本経済のメカニズムがデフレ・スパイラル的な状況に陥っているかどうかが問題であり、単に物価が下落しているということと、消費者物価がマイナス基調になっている状況とは区別する必要がある、ということがポイントである。そういう意味では、企業の増益が続いているほか、設備投資もしっかりしたものであり、それは、本日公表された今年7~9月期のGDPをみても確認できている。また、雇用者所得も下げ止まっている。生産が増加し、収益がついてくれば、物価が下落しているとしても、デフレ・スパイラル的な状況に陥ることはない。ただ、なかなか消費が回復してこないという難しい局面にある。設備投資が上向き、所得も増加しているにもかかわらず、GDPの6割を占める消費にそれが回らないのは問題である。何故、消費に回らないのかを考えると、家計では先行きに対する不安があって、足許、多少所得が増えるようになるとしても、安心してそれを使えないのではないか。家計の先行きに対する不安感が長期間払拭されないとすれば、それを解決するためには構造改革に取り組む必要があると思う。

【問】

デフレ・スパイラルに陥らない中では、仮に企業収益が下振れしたとしても、ゼロ金利に戻すのが必ずしも正しい訳ではないということか。

【答】

ゼロ金利政策については、どのような効果があったのか、まだキチンと評価が下されていないと思っている。私自身は、何となく景気が悪くなったからといって、ゼロ金利政策に戻すという考えは持ち合わせていない。

【問】

年末に向けての資金供給に対する考え方について伺いたい。また、昨年のY2K時との相違点はあるか。

【答】

日本銀行としては、基本的に、引き続き、超低金利という形で支援するとともに、年末にかけてもかなり潤沢な資金供給を実施する考えである。また、RTGSについては、総合運転試験をこれまで延べ6日にわたり実施してきた。必要があれば、さらにテストを行う用意もある。

なお、昨年のY2Kの状況と今回のRTGSとでは全く様子を異にしているので、単純な比較はできない。日本銀行はもちろんのこと、相手方を含めてかなり肌目細かく対応している。日本銀行としては総力を挙げて対応しているところである。

【問】

夏に発行した新二千円札が市中になかなか出回らないとのことであるが、発行自体についてどのように考えているか。

【答】

日本銀行は銀行券発行に関する決定権はない。二千円札の発行は、ご承知のとおり、故小渕前首相が発行を決めたものであり、私はこれに対して評価できる立場にはない。

ただ、私自身、発行開始後、市中になかなか流通しないことについては愁いている。二千円札は使い勝手が良いであろうという判断で発行した訳であるが、経済状況が厳しい中での発行であったこともあり、金融機関サイドでもATMなどの対応が十分できていない。こうしたこともあり、せっかく発行しても、なかなか市中に流通しない。

こうした状況については、本日の新聞などでも報道されているように、様々な形でPRをしながら、各金融機関にも流通促進についてのご協力をお願いしているところである。都市銀行では年度内には7割程度のATMで二千円券に対応させるとのことであり、今後はかなり出回るものと期待している。皆様方にもご協力をお願いしたい。

【問】

超低金利の継続により景気を下支えするとのことであったが、それであれば「ゼロ金利」を解除する必要がなかったのではないかと思われるが、この点についての考えを伺いたい。

【答】

私自身の考えとしては、ゼロ金利は、そもそも資本主義経済では本来起こり得ぬことであると考えている。経済が本当に危機的状況に直面する中で、金融機関に対して流動性を円滑に供与するために一時的に採った措置である、と思っている。通常の資金の貸し借りでは、ゼロ金利ということはあり得ない。他方、日本経済は、少なくとも危機的状況からは脱し、昨年夏から緩やかながらも回復基調にある。したがって、私自身は、どんなに低かろうとも、ゼロ金利からは脱出すべきと考えていた。こうしたことから、現在、再びゼロ金利に戻るということは考え難いと思っている。万が一、金融システム不安の高まりから、金融機関相互の資金貸借が難しくなり、あるいは、海外において再び高いジャパン・プレミアムを要求されるなどといった状況に陥る場合には、日本銀行としても何らかの手立てを講じなければならないだろう。しかし、繰り返しになるが、今現在、日本経済が回復軌道に乗っている。こうしたことを考えれば、再びゼロ金利政策を打ち出すことは、現状ではあり得ないと思う。

以上