ホーム > 日本銀行について > 講演・記者会見・談話 > 講演・記者会見(2010年以前の過去資料) > 記者会見 2000年 > 総裁記者会見要旨 (12月19日)

総裁記者会見要旨(12月19日)

2000年12月20日
日本銀行

―平成12年12月19日 (火)
午後 4時00分から55分

【問】

まず最初に景況感について伺いたい。先日公表された日銀短観を見ると、景気回復に足踏み感が窺われる。また、昨日の金融経済月報では総合判断がわずかに下方修正された。この短観の結果を総裁はどのように評価しているのか。また当面の景気見通しについてもお聞きしたい。

【答】

先週の決定会合においては、短観の結果も踏まえて、金融経済情勢を検討した。その結果、「景気は、輸出の減速によりテンポは鈍化しているものの、緩やかな回復を続けている」という判断であった。

このように判断を幾分慎重化させたのは、輸出の減速を主因に生産の増加テンポがやや鈍化していること、企業の業況感の改善も一服していること、といったことによるものである。

しかし、短観の調査結果などをみても、企業収益や設備投資の回復傾向は引き続き維持されている。その他にもやや減速しているとはいえ、生産の増加基調も続いている。雇用者所得の減少傾向にも歯止めがかかっているし、求人倍率はご承知のように上向いている。こうした点を踏まえると、「緩やかな回復が続いている」という基本的な見方を変える必要はないと考えられる。

物価を巡る環境をみると、国内の需給バランスは、基調としては徐々に改善していくものと見込まれる。ただし、そのテンポは緩やかなものにとどまるとみられるうえ、技術進歩とか流通合理化とかの影響などもあり、物価は当面やや弱含みで推移するものと考えられる。

こうした情勢は、基本的には、先般公表した「経済・物価の将来展望とリスク評価」でお示しした標準的なシナリオの範囲内の動きと考えている。ただ、様々なリスク要因、特に、海外経済とか内外資本市場の動向といったことになると、その影響には、これまで以上に注意が必要な局面になってきているように思う。

株価は今日かなり下がったようで、おそらくナスダックの影響だと思う。私がこの頃非常に注目しているひとつのことは、これまでアジア諸国の再生というか、ここ一年の経済復興──アジア危機以降すごい勢いで伸びてきた訳だが──それを支えたというか、押し上げたものは、彼らの輸出の増加だったと思う。そのアジアの輸出が、ここ1、2ヶ月の数字を見ると、急速に低下してきている。グローバルな市場経済の中で、これが何を意味し、これからどういう展開を遂げていくのかということは、まだもう少し見ないと分からないが、現象面で見ると、アジアの諸国、特に韓国とか台湾、中国もそうだが、かなり輸出が下がってきていることは、数字がはっきり示している。彼らの輸出のウェイトは、例えば韓国の場合、GDPの35%(99年)、台湾では42%(同)、タイでは47%(同)であるが、これらの国の輸出が、ご承知のように、この第3四半期位まで非常な勢いで伸びており、中国では前年比25%程度、韓国では27%程度、台湾では30%台である。それが10月頃から、──あるいは9月頃からと言った方が良いのかもしれないが──かなり下がってきて、前年比でみると、韓国の場合、10月は前年比14.7%、11月が6.5%と非常に大きな下がり方だと思う。台湾の場合も前年比30%程度という第3四半期の数字が、10月では19.4%、11月では10.3%となっており、GDPの4割程度のシェアを占めている輸出がこういうふうに下がってくるということは、これはやはり何か変わったことが起こりつつあるという懸念を私は感じる訳である。もう少し状況を見てみないと、どこ向けのどういう物が減っているのかよく分からないが、IT関連で輸出が下がっていることだけは確かではないかと思う。

このように世界全体が一つのマーケットになっている中で、こういう状況が起こりつつあるということは、やはり何か変化が起こりつつあることを印象づける訳で、日本銀行としても、こうしたリスクを慎重に点検しながら、民間需要の自律的回復力の強さとその持続性、そのもとでの物価動向などを注意深く見守っていくつもりである。

当面の金融政策運営方針については、以上のような情勢を踏まえて、引き続き金融緩和スタンスを継続することによって、景気の回復を支援していく方針である。

【問】

このようなリスクが多くなっている環境の中で、業況感の足踏みを示す短観の結果を受けて、ゼロ金利解除はやはり時機尚早だったのではないかとか、景気失速を防ぐために、一層の量的緩和とか、極端に言うとゼロ金利政策への復帰を検討すべきだという声が強まる可能性もあるが、日銀としてはこうした対応を講じることについてどのように考えているのか。

【答】

これまでもご説明してきたと思うが、ゼロ金利政策の解除というのは、ゼロ金利政策導入後1年半あまりの日本経済の改善を踏まえて、緩和政策の微調整をやろうと、金融市場の正常化の方向へ狙っていこうということであった訳であり、日本経済の改善を踏まえて実施された措置である。

一般的、常識的に申し上げるなら、現在の無担保コール0.25%というのは、諸外国や日本の前例に照らしても、超低金利であることは、もう一度申し上げておきたいと思う。私も、半世紀以上、中央銀行の動きを見てきたが、こういう超低金利が非常に長く続いているということは、やはり異常な状態であるということに違いないと思っている。

現在、日本経済は、輸出の減速によってテンポは鈍化しているものの、「緩やかな回復」という基本的な動きそのものに変調をきたしている訳ではない。

ただ、景気回復が緩やかなものに止まっているうえに、海外経済や内外資本市場の動向などのリスク要因については、これまで以上に注意を要する局面にあると思う。

日本銀行としては、ゼロ金利政策解除後も金融緩和スタンスを継続することによって、引き続き景気回復を支援していくということが適当であるという考えを、繰り返し申し上げている訳だが、現在もそうした考え方に立って金融政策を運営しているつもりである。

【問】

経済財政諮問会議に日銀総裁をメンバーに加えるという方針が政府の方からでているが、この会議に参加することで、金融政策運営上、手足が縛られたり、中央銀行の独立性が脅かされる懸念はないか。

【答】

「経済財政諮問会議のメンバー」というのは、まだ発表されていない訳である。仮に任命されれば、日本銀行の持つ知識や経験も十分活かしながら、出来る限り、議論に貢献していきたいという気持ちは持っている。ご質問の金融政策との関係について言えば、新日銀法にはっきり書いてあるように、「金融政策は、政策委員会で十分討議したうえで、その判断と責任において決定する」ということが、日銀法の考え方である。

今後とも、様々な外部のご意見やご議論も十分踏まえつつ、政策委員会で討議を尽くして、適切な金融政策運営に努めてまいりたいと思っている。現時点では、これ以上のコメントは差し控えさせて頂きたいと思う。

【問】

11月下旬に大手銀行の中間決算がほぼ出揃ったが、不良債権問題について、当初計画をかなり上回った償却がなされたと聞いているが、実際は、不良債権の残高がほとんど減ってないというのが現状である。先程リスク要因のところで指摘のあった株価下落により、株式の含み益も足許にかけてさらに減少していることを踏まえると、金融システムに対する不安は依然まだ払拭されていないのではないかという懸念があり、一部では資本の再注入も必要なのではないかという声も出ている。こうした現状をどのように総裁は見ているか。また、こういった状況の下で、2002年4月からのペイオフの解禁は本当に大丈夫なのか。

【答】

大手銀行の12年度中間決算で、不良債権処理額が期初の見通しを上回ったことは、ご指摘のとおりである。また日本の株価は、このところ不安定な動きを示しており、現時点でみれば、株式の含み益は9月末よりもさらに減少しているかもしれない。

ただ、不良債権の処理は、完全に落ち着いたと言える状況ではないものの、一頃に比べれば、12年度上期の処理額は、相当程度縮小してきている。

また、株価の変動が、銀行経営に様々な影響を及ぼす面があることは否定できない。しかし、公的資金も含めたTier I資本の増強によって、従前に比べれば、大手銀行の自己資本比率はかなり改善していると言っていいと思う。

このため、足許の不良債権処理の上振れや株価の軟調によって、金融システムの安定が損なわれるといった状況になるとは考えていない。また、こうした状況を踏まえると、ペイオフ解禁を再延期するべきではないと考えている。

いずれにしても、今後の不良債権処理や株価の動向、さらにはそれらが金融システムに及ぼす影響については、日本銀行としても注視して参りたいと思っている。

【問】

支店廃止問題について伺いたい。対外説明を開始して3か月余り、地元の紆余曲折もあったが続けてきて、今日、小樽で懇談会を26日に開催するという方針が固まったことが発表されたが、これについて総裁はどう受け止めているか。それから北九州については、まだ調整中であるのか、あるいは中々難航しているのかといった色々なことがあると思うが、今どういうような交渉になっているのか。当初計画であると、2001年中に廃止したいという計画だったかと思うが、この辺の方針とも絡めてお答え頂きたい。

【答】

小池理事から小樽の点については、説明があったかと思うが、私どもとしては、支店廃止の方針に関して、予てから「地元関係者に対して、私どもの考え方を丁寧に説明して話し合っていきたい」と考えてきたが、各地元において廃止反対の署名運動といったようなことが起こり、「地元関係者のご意見、ご要望にも虚心に耳を傾けていきたい」との思いも、こういった経過も見ながら、強くしてきたところである。

今般、小樽の関係者との間で、懇談会を開催できる運びとなったことについては、私どもとして、ようやく第一歩を踏み出すことができたのではないかと受け止めている。今後、こうした懇談会などの場を通じて、相互の信頼関係を前提に地元関係者の方々との対話を積み重ねてまいりたいと思っている。

今後、懇談会などの場所で、よく話し合いをすれば、きっと分かって頂けると思う。13年中とかいうようなことを、特に私どもは考えている訳ではないが、なるべく早く私どものこのリストラを実現していくことが必要ではないかと思っている。それには、やはり地元との対話を重ねていくということが大切だと思っている。

小樽がこのようになり、北九州の方も関係者との間で、小樽と同様に相互の信頼関係を前提にして、対話形式での会合を設けていくことができればいいが、と今まだ考えているところである。

小樽との話し合いが今後どのように進んでいくのか、あるいは北九州との話し合いがどうなるのか、そういったことにも関係しており、現時点でこれ以上のコメントはちょっとできないと思っている。

【問】

支店問題について確認したい。理事からの話では、今総裁も申されたが「13年中の廃止にこだわるものでない」という表現を使われたが、これをもう少し噛み砕いてお聞きすると、「13年中の廃止は困難」と受け止めてよいのか。

【答】

困難とは思っていない。ただ、地元との対話を重ねて行くということがまず大切であると思っている。13年中にやるとか、やらないとか言うことよりも、なるべく早くこういう話し合いを続けて、理解して頂いて、実現に持っていきたいと考えている。

【問】

現在為替は、先日の短観で企業が想定している相場水準と比較してもかなり円安で、輸出企業にとっては、多少数量ベースで減少しても、今の円安水準であれば利益が予想よりも多く出るという面もあるのではないかと思う。そうした場合、多少輸出が減速して、生産のテンポがやや鈍くなっても、企業収益に与える影響は、円安で逆にプラスの面もあるという考え方もできると思うが、それに対する考え方如何。

【答】

これは市場が決めることなので、何とも言えないが、景気の先行きについての不透明感といったようなこととか、米国の大統領選挙の決着といったようなことが、これまで材料視されて、円ドル相場はやや円安ドル高に動いてきた。私の立場から、相場水準の評価についてコメントすることは差し控えたいと思うが、為替相場の動向とその影響については、引き続き注意深く点検して参りたいと思う。

ただ、今おっしゃったように、円安になれば、輸出業者はドル建ての輸出契約については利益が増える、あるいは伸びるということは確かだと思うが、輸入の方は、またこれの逆になる訳である。特にアジアが、今こうして輸出が非常に伸び悩んでいる時に、彼らが円はなるべく安くしないで欲しいと言うのを私も何回も聞いている。中国もそのことを強く言っている。彼らの立場でいけば、当然、アジアの大マーケットである日本の通貨が安くなるということは、彼らの輸出がやりにくくなるということは事実だと思う。そのようなことが今起こりつつある。最初に申し上げた数字を見て、私も驚いたのであるが、こういうことが続くと、やはり、アジアの経済が従来のようなかたちで活気を呈さないで、活気を失っていく可能性が出てくることを懸念している。

【問】

最近発売された雑誌のインタビューの中で、総裁が「最近円が弱くなっていることを心配している」と表現されている下りがあるが、先週短観等を受けて1年4ヶ月ぶりの安値を更新している訳であるから、最近の円の動向に関してはさらに心配を深めている、と受けとるのが自然と考えるが如何か。

【答】

動くといってもそう大して動いている訳ではない。あそこで私が申し上げたのは、1971年、フロートになった時に360円だった円が、30年の間に購買力が3倍になって110円になったが、こういう通貨は他にはないと。これは、やはり日本への信認がそれだけ高まってきたということだと考えるべきである、とは言った。円が弱くなっているということは、色んなファクターがあると思うが、そう著しく弱くなっているということではない。米国が今日あたり、どういうFOMCの結論が出るのか、私も非常に注目している訳であるが、そういったことにも関連し、相場は動いていく訳で、少し大きな流れで相場は見て頂きたいと思う。円が弱くなったから多分輸出がいい、あるいは円が強くなったからすぐ介入しろといった類の声があるが、今やグローバルなマーケットで24時間円/ドル相場が動いている訳である。円、ドルだけでなく、円とユーロとドルというのが三極通貨のようになって、今のところドルとユーロが強くて、円が少し弱いという格好になっているが、ついこの間までは、円が非常に強くて、ユーロが弱くて困っていたということがあった訳である。市場であるから、色々な情報や需給関係で動いていくもので、行き過ぎればすぐ戻しが出てくる訳である。日本経済の信認が薄れて売られていくということになると困るが、今の状態は必ずしもそういう状態ではないと思っている。

長期に見れば、円が断然、他の通貨に比べて(強く)、経済力の面でも、この30年で第2の経済大国になった訳である。経常収支で見ても、80年以降ずっとGDPの2~3%前後、多いときは3.5%前後の経常黒字をずっと続けてきている。こういう国は他にはない。それが溜まって、対外債権超過が8千億ドルから1兆ドル近くに積み上がってきている。そういうものが、米国などに投資となって出ていっている訳で、経常収支、資本収支の流れから見ても溜まった外貨は適度に外に投資されている。これもまた自然の流れだと思うし、ここにきて外資もかなり入ってきている。そういうたくさんの相場要因があるから、一概に今がいいとか悪いとか言うべきでもないと思っている。もう少し市場を中期、長期で見ていかなければならないと思う。

【問】

最近物価について、「需要の弱さに由来する物価低下圧力は大きく後退している」という言い方をしなくなっているほか、今回の月報でも物価について「横這いないしやや弱含み」の「横這い」という言葉を、原油の落ち着きの影響もあって削っているが、物価情勢が景気に与えるリスクは、一頃より強まっていると考えているのか。

【答】

私は、むしろ物価が少し下がり気味であるのは、需給ギャップということも引き続きあるのかもしれないが、特に消費者物価が下がってきているのは、技術革新と流通革命というか、皆さん、日々もう利用されているのだと思うが、衣料品など安くていい物をどんどん海外で作って、──日本の企業が作らせているものが多いのだと思うが──そういうものを安く入れてきて、若い人達のデザインの声を聞いて、加工貿易をして日本へ持ってきて大量に安く売っているというやり方が支配的になってきている。それがあるために、一方では確かに、昔からある小売店舗が成り立たなくなっているということも起こっていると思うが、消費者の立場から言えば、やはり日本は内外価格差と言って、──ちょうど私が財界にいた頃、これが最大の問題の一つであった──これだけ日本経済が伸びているのに、どうして日本の物価はこんなに高いのかと。それはやはり規制があったり、それから保護があったり、業界の中で申し合わせのようなことがあったりというようなことで、下がるべくして下がらなかった。それが内外価格差を大きくした。日本は、通貨は強いが国内の物価は高い。海外へ行ったら、円の使い勝手はあるが、国内では非常に物価、特にサービス関係が高いと言われてきたのは、そういうことだったと思う。それがここにきて、外から安いものを入れる、特に労働力を、安くて器用な労働力を海外でエンプロイして、それで作ったものをどんどん日本へ持ってきて、日本人の好きそうなデザインにして売っているというのが、非常に目立つ最近の動きではないかと思う。これを流通革命と言ってもいいのではないかと思う。そういうことで消費者の買うものが安くなってきているというのは、私はその点だけを捉えれば、健全な姿であって、これがデフレであるとは思わない。ただ、まだ需給ギャップがまだどれくらい残っているのかということは、この前の物価調査の時に随分調べた訳であるが、その辺は非常に難しいところだと思うが、良く注意していなければならないと思う。今の流通革命とか、あるいは技術革新で、コストが安くなってきているということは確かであるから、それがデフレで困るとは必ずしも言えないと思う。企業の収益がそれで減るかもしれないが、量は増えるし、それから競争力のない企業はやはり成り立っていかないという、これこそ正に、政府も盛んに言っておられる構造改革の最たるものだと思う。そういうことが行われていかないと、日本の民間主導の景気回復というのは出来ていかないと思う。

【問】

今の指摘の点と関連するが、繊維業界の一部などでセーフガードの発動を検討していると報道が出ているが、そのような動きは総裁のおっしゃる構造改革と反する動きで好ましくないと受け止めておられるのか。

【答】

それは、やはり程度の問題ではないかと思う。方向としては、構造改革ということを政府も盛んにおっしゃっている訳である。それと同時に、急速に失業者が増えたり、小売店あるいは中小企業の倒産がどんどん起こったりということになれば、そのこと自体デフレ的な気運を作り上げていくこととなるが、方向としては、中長期の方向としては構造改革を育てていかなければならないと思う。世界全体が、今は東西南北ひとつのマーケットとなっている訳で、89年のベルリンの壁崩壊以前のように、東西が戦い合っていて全く市場の交渉がないとか、「北」は栄え、「南」は貧しい生活をしているということをそのままにしておくというような88年以前の事態と異なり、世界中が東西南北ひとつのマーケットになり、その中で日本は世界第2位の経済大国になっている中で、いつまでも保護や規制が続いていくということは通るはずがない。そういったことは政府もよく考えてやっていると思うし──それは一挙に変えれば摩擦も起きると思うが──方向として構造改革をしていく、規制をなくし、保護、補助金をなくし民間主導で新しいことをどんどんやって、競争力のある企業、競争力のある製品を作っていかないと、世界中で孤立してしまうということは皆気付き始めているのではないか。今度の来るべき世紀にこそ、日本もひとつのグローバルなマーケットの中で競争力のある物を作り、物を売り、それで家計も豊かになっていくということが起こっていくようにならないといけない。この世紀は2回も大きな戦争があって、日本もゼロから出発してよくここまで大きく伸びてきたと思う。世界第2位の経済大国、あるいは一人当たりの国民所得でみても、日本は1番か2番か3番かというぐらいの高い所得を得るようなところまで伸びてきた訳だが、ここまで持ってきた背景には確かに政府の行政指導があり、保護があり、補助があり、政府、官民が一緒になってここまで築き上げてきた成果は確かに大きかったと思う。しかし、グローバルなマーケットの中ではそういうことは出来なくなってきた。日本は何をしているのかということになってしまう訳だから、新しい世紀ではそういうことを民間主導でやっていかなければならないと思う。私は、二度と戦争はやって欲しくないと思うし、本当にグローバルなマーケットで東西南北が豊かな貿易をしながら、あるいは資本のやり取りをやりながら栄えていくということがこれからの国際経済でなければならないと思う。

そういうことをこの間の雑誌で申したつもりである。かなり中期の話をしたつもりである。

【問】

政府は来年度の成長率を1.7%程度とみているようだが、これに対する感想と、日本の潜在成長率を総裁はどうみているのか伺いたい。

【答】

来年のことは、私は何とも言えない。日本の潜在成長率が今どれくらいであるかというのもはっきり掴めないし、数字を口にすることもできないが、従来のような経済成長が続くとは思わない。やはり賃金がこれだけ高くなっている訳であるから、従来のような成長が続くというのは無理ではないかと思う。

ここ30年位の経済成長をみても、実質経済成長率で、1970年代は平均5.0%、80年代は3.9%、90年代は──これは眠っていた10年だと言われるが──1.7%の成長をしている。2000年度はどうなるか──この間の7−9月の数字では、前年比1.5%程度であった訳だが、これからどのように変わるのか、世界全体の流れが少し変わりつつあるということになると、我々のところにもその風が吹いてくるのは間違いないと思う。

本年度の成長率がどの位になるかということに関しては、先般10月31日に政策委員会で出した数字がそのままでよいのかどうかという点もある。そのためにリスク評価で、「こういうことも起こるかもしれない」ということを書いて数字を出した訳であるから、今、最初に申し上げたアジア経済の輸出の低下、急減といったことが起こっていくと、日本にも色々なかたちで風向きの変化が起こってくることは間違いない。そういうものをよくよく見ていく必要があると思うので、明年度の実質経済成長率が1.7%でよいのかどうかについては、ちょっと今の段階で私がコメントすることはできない。ただ、潜在成長率が昔のように4%とか5%にならないということは確かであるように思う。先程から申しているように、引き続き金融緩和スタンスを継続して日本の自律的回復軌道を作り上げていくように持っていければ、というのが今の私たちの狙いである。

【問】

信用組合関西興銀に対して日銀特融を出す方針を決めたそうだが、実際、本日の段階で出ているのか。また、この問題が金融不安などの引き金に繋がらないのかどうか。

【答】

特融はまだ出していないと思う。ご承知のように、私どもは信用組合と直接の取引がないため、直接特融を出す訳にはいかない。大蔵大臣および金融再生担当大臣からのご依頼を頂き、土曜日に緊急の政策委員会を開き、特融4原則にこれが則ったものであるか十分議論をしたうえで、やはり、全国信用協同組合連合会というのはそれ程十分な資金を持っている訳ではないし、何分、(信用組合関西興銀は)一兆円を超える預金を持っている大きな信用組合であるから、それを放置すれば預金の引き出しが起こるのは間違いないところであるので、それに対応できるだけの当面必要な資金を、全国信用協同組合連合会を通じて出すということを決定した。

4原則というのはシステミック・リスクに波及するかどうか──その可能性は大きな信用組合であるので、十分あった。それから、日本銀行以外に資金を出すところはないのかという不可欠性についても、ここで本行が出さなければどこも出すところがないということだし、3つ目にモラルハザードを防止できるかという点についても、金融整理管財人に旧経営陣に対する民事・刑事上の責任追及義務が課せられることになると思うし、経営責任の追及も厳正に行われるということなので、モラルハザードの防止ができていると思う。4つ目の日本銀行の財務の健全性についても、ある程度、一定の限度を設けて貸すことになるし、必ず預金保険機構から資金援助が行なわれるので──金融整理管財人がどのようにこれを纏めるか、受皿銀行をうまく作るか、あるいは見つけるか、どうするのかわからないが──、日銀の財務の健全性を害するものではない。この4原則をクリアできたので、資金を出すことを決定し、大蔵大臣と金融再生委員会の柳沢大臣宛てに返事をした次第である。

(日銀特融を)現実にいつ、どこで出すかというのは、これからのことであるが、まだ出していない。預金の引き出しは月曜日から少し始まっているようだが、それほど激しいものではないと聞いている。

なお、「韓国の銀行だからよいのではないか」という話があるのかもしれないが、信用組合関西興銀は日本の金融機関であり、日本の信用組合の連合に入っているメンバーである。その意味で、日本の金融機関として扱うのは当然のことだと思う。

【問】

重ねて聞くが、金融不安を引き起こす心配はないのか。

【答】

なる可能性もありうると思ったから、就任早々の柳沢大臣がご決断をし、破綻の措置を取り、当面の措置が決まるまで日本銀行が特融で支えるということを決めた。だから、これはこれでもう落ち着いたと私は思う。その他にも韓国系の信用組合があるが、危ないところ──債務超過のところ──は、皆、手が打たれているし、それほど大きくもない。

以上