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総裁記者会見要旨(1月23日)

2001年1月24日
日本銀行

―平成13年1月23日(火)
午後 4時00分から70分

【問】

最初に景気の現状認識について伺いたい。株価については、このところ漸く落ち着いてきたとはいえ、やや不安定な動きを示している。また、米国の経済成長の減速もあって、国内の景況感はやや不透明になっている。そういう中で、昨日の金融経済月報の中で、景気に対する判断をやや下方修正している状況だと思う。株式市場の動きが、かなり大きく影響しているのではないかと思われるが、そういったものを受けた日銀としての景気判断は現在どうなっているか。

【答】

先週の政策決定会合では、景気の現状について、「景気は、緩やかな回復を続けているが、そのテンポは輸出の減速により鈍化している」という判断が出た。

景気判断を2ヶ月連続して幾分慎重化させたということで、今日の新聞にも書いておられるところがあったが、これは次に申し上げるような三つの事情があると思う。

一つ目は、米国や東アジアなどの成長鈍化を背景にして、輸出が今後一時的に減少する——11月は増えているのだが、——と見られること。

二つ目は、素材とか電子部品の一部で、在庫に幾分過剰感が生じていると言われること。そしてこれらを受けて、生産の増勢は鈍化し、当面は横這い程度で推移するのではないかと見られることである。

他方、非製造部門も含めた企業の収益の改善とか、設備投資の増加傾向は維持されているほか、家計所得の環境もかなり底固く推移していると見て良いと思う。こうしたもとで、個人消費は、回復感に乏しい状態が続いてはいるけれども、一部の指標にはやや明るさも窺われる。例えば、家電販売とか、新車登録とか、コンビニの売上高とか、いわゆる広い意味でのサービス消費である。それらのものや、旅行とかそういったものを見るとかなり上がっている。こういうことを踏まえると、「緩やかな回復が続いている」という基本的な見方は変える必要がないと考えている。

次に物価を巡る環境を見ると、国内の需給バランスは、依然基調として徐々に改善しているものと見込まれる。しかし、その改善テンポは鈍化しているとみられるほか、原油価格の反落とか、技術進歩あるいは流通合理化の影響なども——いわゆる供給サイドのコストダウンであるが、——あるために、物価は当面やや弱含みに推移するものと考えられる。物価については、もし質問があれば、後でもう少し詳しく話したいと思う。

このような情勢は、基本的には、先般公表した「経済・物価の将来展望とリスク評価」で10月末時点でお示しした、標準的な明年度に向けてのシナリオの範囲内の動きと考えている。ただし、海外経済の減速の影響、それから内外の資本市場の動向など、当分の間、景気に対する下振れの方向のリスクをより注視していく必要があろうかと思う。

日本銀行としては、そうしたリスクも慎重に点検しながら、民間需要の自律回復力の強さと持続性、そのもとでの物価動向を注意深く見守っていく方針である。

当面の金融政策運営方針については、以上のような情勢を踏まえて、引き続き、金融緩和スタンスを継続することによって、景気回復を支援していく方針である。また、市場への流動性供給方法の面で改善を図り得る余地がないか検討を指示したのも、金融市場の円滑な機能の維持と安定性の確保に万全を期することを通じて、金融緩和効果が最大限に発揮できる環境を維持していきたいという考えから出たものである。以上が、先週金曜日の決定会合のいわば結論である。

【問】

金融政策決定会合の日に出した、議長から執行部への指示について伺いたい。今おっしゃったように、海外の経済動向、それから年度末要因ということで不安定な動きがあるため、市場への流動性供給で改善を図り得る余地がないかどうか検討するということだが、この点かなり漠然と書いてあるので、一体どういうことを検討するのかが良く分からない。一つには、自民党などから一部で出ている、景気の現状に配慮した一層の量的緩和を睨んだものか、そうでないにしても、将来的にそういったものに繋がってくるのではないかという点がある。それから、こういった指示——異例の指示だと思うが——を出した政策決定会合、ないしは総裁ご自身の判断が、どういう経緯で出てきたのかということについて伺いたい。

【答】

私が執行部に出した指示については、あの日に企画室の方から説明があったと思う。先週の決定会合では、緩やかな回復という判断基調は変わらないけれども、同時に今おっしゃったように、海外経済の減速の影響とか、内外資本市場の動きというようなことで、ここ暫くは景気に対する下振れリスクをより注視していく必要がある、という判断を持った訳である。

また、日本の金融市場では、これらのリスクが意識されているうえに、年度末を控えているといった要因もあり、以下のようなやや不安定な動きがみられているという指摘も、何人かの委員から出された。

一つは、年明け後に、「円安・株安・長期金利安」という、日本経済の先行きに対する不透明感が多少高まってきているのではないかというふうにみる見方もあると思う。

また、この間に、企業金融の方は緩和された状態が続いているけれども、仔細に見てみると、例えばエクイティ・ファイナンスといった取引の一部では、新規の公開が延期されているといったことに、株価低迷の影響が出ているというケースも散見され始めている。

このように、金融市場がやや落ち着きのない動きを示しているもとでは、年度末を控えているという時期的要因もあり、先行きの動向には十分注意していきたいと思った次第である。

金融市場の円滑な機能の維持と安定性の確保に努力するということは、中央銀行として当然の責務である。日本銀行はコールレート0.25%という非常に低い金利水準を維持することにより、金融面から景気回復を支援している訳である。金融市場の円滑な機能や安定性を維持することは、そうした現在の政策の持っている金融緩和効果を最大限発揮するうえで重要であるというふうに思う。

こうした検討や考え方に立って、私から執行部に対して、市場の円滑な機能の維持と安定性の確保に万全を期すために、流動性供給方法の面で改善を図り得る余地がないかどうか検討をして、次回の決定会合までに報告するよう、指示を行った次第である。

このことで、いずれ質問もあろうかと思うので、少し付け加えると、「それでは日銀は追加的な緩和措置を検討しているのか」とか、あるいは「量的緩和に踏み込むということなのか」とか、「株価対策を念頭に置いたものなのか」といったような質問があろうかと思うが、これはそういうものではない。金融市場の円滑な機能の維持と安定性の確保に万全を期すために、市場への流動性供給方法の面で改善を図る余地があるかないか、それを検討するということである。

その他にもう一つ、皆さんが恐らく持っている問題点として、「今回の私からの執行部への指示というのは、先行きにゼロ金利に戻るということを展望している措置ではないか」というふうな疑問・質問があるかと思うが、私はそのような展望はしていない。現在の日本銀行の金融政策は、オーバーナイト金利を0.25%という平常時としては極めて低い水準に誘導する金融緩和スタンスを継続して、景気回復を金融面から支援していくというものである。まずそれだけ説明させて頂き、更に質問があればお答えすることにしたいと思う。

【問】

円安について伺いたい。先週総裁が総理官邸に呼ばれた時に、記者に「今の円はちょっと弱すぎる」といった発言があったと聞いている。一時、10円以上円安が進行したが、最近、総裁発言を受けたせいかどうか判らないが、またちょっと円高になっている。その発言の真意を伺いたい。また、海外の中央銀行なりいろいろなところから、日本の為替水準について何か要請なりお話があったのかどうか、この2点について伺いたい。

【答】

最近、為替相場が円安方向に動いているが、これは昨年の12月15日くらいからかなりのスピードで円安になってきたように思う。市場では、わが国の景気の先行きに関する不透明感などがあると見ている向きもあるようだ。日本銀行としては、今後とも、為替相場の動向とその影響については、注意深く点検していく方針である。

先日の私の発言が何であったのかということを、敢えて申し上げれば、「このところ、為替市場に限らず市場全般の景況感が、緩やかな回復という実体経済の動きに比べて、逆方向、即ち、やや慎重になってきている」という趣旨である。

為替というのは、いつも言われるように、経済のファンダメンタルズを現わすべきものである。円安にもいろいろな背景があると思うが、最近の相場が、例えば外人等による日本株売りとそれによる株安を契機にして、それと同じ取引で円が売られていっているというようなことが、円安を加速する背景にあるとすれば、これは決して歓迎されるべきものではないと思う。

株を売り、通貨を売るということは、煎じていけば、日本を売るといったようなよく新聞などで書かれる言葉になってくる訳である。仮に相場に行き過ぎがあると市場が判断した場合には、市場が目覚めて安定化させていくことが望まれる次第である。

市場が皆同一方向に動き出すということはよくあることである。これは「酔った市場」とよく言われるが、今のところ私は多分そうでないのではないか、いろいろな政治、経済あるいは海外の動き、株の動きを見ながら、市場で迷ってこのような相場が立っているのではないか、という感じがしている。いずれ、市場が落着いて考えて、相場を安定化していくものだと思っているし、またそれを望んでいる。

【問】

このところの株安——今のところ一服した感もあるが——を睨んで、金融機関の含み益が減少したり、あるいは不良債権がどんどん膨らんでいくということで、一部では金融機関が2月、3月に危ないのではないかという声も出ている。こういった危機説が流れる中で、総裁自身は金融機関に対して公的資金の再注入が必要かどうか、という意見に関して、どのようにお考えか。あるいは、現在の金融システムは果して安定しているのかどうか、その辺のお話を伺いたい。

【答】

金融機関の不良債権処理は、完全に落ち着いたといえる状況ではないと思うが、ひと頃に比べれば相当程度縮小してきている。

また、株価の変動が金融機関経営に様々な影響を及ぼす面があることは否定できないが、公的資金も含めたTierI 資本増強によって、従前に比べれば金融機関の自己資本比率は改善していると思う。

2月、3月に金融システムに不安があるのではないかという声が、昨年11月の政局不安の時に、ある先生がおっしゃったのがわーっと広がった。これは、私どもの立場から言わせて頂くと、ちょっと言い過ぎであったし、それが広がり過ぎたという感じがする。

もとより金融機関が、市場からの信認を確保していくためには、それぞれの先が直面する経営課題の克服に向けて、真剣な取組みが必要なことは言うまでもない。

現時点で公的資金を再注入する必要があるという議論があるというのは、私は行き過ぎだと思う。金融機関は、時価評価で株価が下がると、3月決算が難しいという声がある。しかし、これは皆さんご承知のように、大部分の大銀行は、時価評価で株価の調整をするのは9月からである。この3月にするのは、2~3行と地方銀行である。地方銀行はそれほど沢山株は持っていないので、3月から時価評価に踏み切るところが多い。9月に株価が下がっていると、決算にはかなりの大きな影響が出ると思うが、全国銀行もかなりの償却をやってきている。ここ数年で80兆円償却している。そのうち60兆円はバランスシートから落ちている。本年度の償却をご覧になっても、昨年9月の上期決算でも2兆3千億円程度の償却が行われているし、この3月にもそのくらいの償却は行われるとみて間違いないと思う。

3月までに何が起こるか分らないが、私はそんなに金融システムが不安を呼ぶような、特に株価が中心となってそういうことが起こることは、まずあり得ないと思っている。4月以降に仮にいろいろなことが起こったとしても、公的管理とか公的な資本注入といったことはまだ十分やれる訳である。やった場合には非常に大きな責任を取らなければならないということもあるが、銀行として今やるべきことはいかにして儲けを増やすか、ということである。稼ぎながら償却していく。時間をかけて、稼ぎながら償却していくというのが、これからの銀行の課題ではないか。まず稼ぐことが先だということを忘れないで頂きたいと思う。そのことは銀行も十分承知しておられると思う。今再編が進みつつある訳だが、再編の方もそういうことを頭に置きながらやっておられるに違いないと思っている。

何れにしても、今後、不良債権処理や株価の動向、さらにはそれらが金融システムに及ぼす影響については、そんなに不安があるとは思わないが、日本銀行としても引き続き十分注意深く見ていきたいと思っている。

【問】

株価対策についてであるが、今、金庫株をはじめ、政府・自民党が打ち出しているような株価対策の内容についてどのような評価をしておられるか。

【答】

株価対策については、考え方としては、いろいろ議論百出しているが、株価の下落を直接止めようという対策は、オーソドックスな考え方ではないと思う。株価の低迷を打開するための本来的な対策というのは、景気を本格的な回復軌道に乗せて、企業収益を改善させることに尽きると思う。株価対策という発想ではなく、むしろ株式の発行、保有、売買、決済など、株式の取引を効率的に行えるようにする制度というか、インフラとか規制の整備、あるいは税制の整備といったようなこと、これらの改善を行うことが市場活性化をもたらしていくのではないかと思う。そういう改善を図っても、株価水準が直ちに上がるのではないと思うが、中長期的には株式市場を通じて、リスク・キャピタルが効率的に配分され、日本経済の成長力を高めることを通じて株価水準にも好影響がもたらされていくと思う。株価対策については、こういう言葉を使うこと自体あまり好ましいことではないかと思うが、先程申し上げたように、日本銀行は金融政策の運営上、資産価格の動向にも十分注意を払っている。しかし、株価を特定の水準に誘導することを直接の目的として(金融政策を運営することは)、そもそもそうしたことは難しい。こうしたことは、海外の中央銀行などでも、広く共有されている訳である。株価対策については、さまざまなアイディアや構想が議論されているが、もとより市場を取り巻くインフラ、税制を欧米並みとする必要がないのかどうか。株価低迷を打開する本質的な方策というのは、企業の価値を引き上げていくということが先行しなければいけないと思う。そのためには、景気を本格的な回復軌道に乗せるということ、また企業が自らの活力を十分に発揮できるような環境を整えていくことが重要だと思う。

この点で、日本銀行が成し得る貢献は、金融緩和スタンスを継続することであるし、引き続き景気回復を支援していくことだと思う。また、内外株価の動向などが原因となって、金融市場が動揺したり、このことが起点となって経済活動に悪影響が及ぶようなことは、是非とも避ける必要がある。こうした観点に立って、先週末の決定会合でも、金融市場の円滑な機能の維持と安全性の確保に万全を期すため、流動性供給方法の面で改善を図り得る余地がないか、執行部に検討を指示した次第である。

なお、株価低迷の底流にある日本経済の先行き不透明感、——ここ10年間、財政・金融両面から強力なサポートを続けてきたにもかかわらず、依然として、こうした不透明感が払拭できないということは、日本経済の構造的な問題(に対する対応)の効果がまだ出てきていない、(構造改革が)進んでいるのかどうか、という内外の懸念が根強いということを感じる。

この間来られたIMFのケーラー専務理事なども、「日本は財政金融で随分いろいろなことをやってきて、残っている効果的な途は構造改革の前進だ」ということを皆さんの前でおっしゃっていたが、私もまったくそれに同感である。日本経済が力強い成長を遂げていくためには、構造問題に正面から取り組み、供給面から生産性を引き上げていくという努力が不可欠であると思う。もちろん構造改革にはある程度痛みを伴うというか、潰すものもあるし、レイオフを増やしていく、リストラをやっていかなければならない面もある訳で、クリエイティブなディストラクション(創造的な破壊)ということをやって、はじめてイノベーションができていくものなので、そういうことを進めていく過程では、どうしても足を引っ張るものが出てくる訳で、直ぐに景気が良くなるものではないと思う。少なくとも何年かかかって構造改革が完成し、生産性がぐっと伸びていく、そのことが大切ではないかと思う。

アメリカがこれだけの好況をエンジョイできたのも、構造改革によって生産性が高くなってきたことが背景にあったと思う。アメリカはレーガノミクス以降、十数年かかって、それまでの双子の赤字——非常に苦しいベトナム戦争をやり、内外の福祉に随分お金を使って市民社会を作り、その結果として経常赤字と財政の赤字ができた——をどうやって立て直していくか。増税もやり、歳出のカットもやり、その上で金融も一時的に20%といった金利がついたこともある。そういうことをやって、新しい仕事をどんどん作り上げていった訳である。イギリスのサッチャーの場合もそうだったと思う。サッチャーが出てきて、セルフヘルプ(自助努力)が大事だと訴え、政府に頼ったり、あるいは補助や保護を貰って生きていくのでは駄目なのだと。それから公的な企業、国営企業をなるべく民間に移して、移す時に株を買った人は金を払わなければならないが、なるべく国民に株を保有させるために小口にして、しかも延べ払いを認めたとか、そういうサッチャーの本筋に沿った細かい政策が成功して、その他にも若くて有能な人を伸ばしていくようにするとか、そういうことがあっという間に花を咲かせてイギリスも立ち上がっている。構造改革が成功したと言ってよいと思う。そういうことを日本も今からやらなければならないと強く感じている次第である。

日本が駄目だという前に、日本はまだまだGDPでみれば500兆円、5兆ドルで、世界第2位である。経常収支もGDPの2%以上の黒字がある。対外資産についても、今まだ日本は1兆ドル近い対外純資産を持っている訳である。そういう国がなぜ他の国から不安を持たれるのか、私自身は非常に不思議である。この資産をうまく使っていけば、必ず立ち上がれると思う。その時、その時、「円が強過ぎる」とか「公共投資を増やせ」とか「金利を低くしろ」とかいうようなことで、なんとか乗り越えてきた結果として見て、10年経っても構造改革があまり進んでいないと言わざるを得ないのは、悲しいことだと思う。今からでも遅くないと思う。そのことに一生懸命になることが大切だと思う。

株価対策で、金庫株という話が出ている。アメリカでやっていることでもあり、これもひとつの方法かもしれない。しかし、これも、——例を挙げて申し訳ないが——そういう議論が出ている時に、トヨタ自動車が2,500億円を使って自社株を買い戻して消却した。これは随分思い切ったことをやったと思う。株価もその時はストップ高になったりしていた。トヨタ自動車は、手許資金の余裕もあるのであろうが、その資金を使って自社株を買った。(バブル期の)円が強くドルが弱かった時に証券業者などが、転換社債を出しなさいと言って、皆それを受けて、大企業が発行した。その結果、トヨタ自動車の場合でも37億株と、——アメリカの3大自動車メーカー(GM、フォード、ダイムラー・クライスラー)を合計したより株数は多くなっている。それぐらい株を沢山出しているのを買い取り、消却し、そのことによって株価は上がる。それから配当のコスト、配当金も少なくて済む。これは、企業のこれからの経営に対して非常に大きなプラスになる。そういうことを思い切ってやっていくのは、大変立派なことだったと、さすがにグローバリゼーションの視野を持って決められたことではないかと思う。アメリカなどでは、企業が儲かって手許に利益がどんどん入っている時には、みな減資する。自己資金で買って消却するというのは、アメリカの大企業のやり方である。そこのところまで日本はまだ行っていなかったが、株が少なくなれば、これでROEも上がっていく。そういうやり方もあるだろうし、他にもいろいろあるだろうが、(金庫株についていえば、)金庫株という名前がついているが、どういうやり方をするのか分からない。アメリカの場合は自社株を買って保有していることができるが、その場合は、アメリカの証券取引委員会(SEC)が非常に厳しいルールを作っている。しかも、何千人もの人を使って、ひとつひとつのケースについて厳重に調べている。厳重に調べないと、よく言われるインサイダー取引を生み出す元になるということは、十分考えておかなければいけない。こういうことになると、後々の社長さんになられる方々は、なんでこういう法律ができたのかという懸念を持たれるかもしれない。そういう危険がある。誰でも安く買って高く売りたい訳であり、儲かる訳であるので、その辺をよく気をつけて、そういうインフラの整備をしっかりやった上でやるならいいと思うが、その辺のところは、これからまだ時間がかかると思う。税制等についても、二重課税というのは国際的にかなり厳しい税金だと思うが、そういうものも、どの段階でこれが国際化されていくのかというのを注目していきたいと思う。

ひとつひとつの株価対策というのは、いろんな案があり得ると思うが、基本的にはやはりその企業が収益を上げていくことだと思うので、直ぐに効くということを(期待せず)、あまり無理してやることではないと思う。

【問】

確認になるが、個別企業の名前は兎も角、金庫株は制度改正——しっかりした制度が必要であるということだが、現行でできる自社株消却等の手段で、エクイティ・ファイナンス・ブームの時に出てきた株を整理することが必要だというお考えでよいのか。

【答】

十分余裕を持って、蓄積を持っておられる企業で、株が多いところは、今度のトヨタ自動車のように、株を買ってそれを消却すれば、それによって株価は上がるし、配当コストは下がるし、ROEも上がっていく。銀行から借り入れてまでそんなことをやったら、やはりあまり健全なやり方ではないのではないか。粉飾の一種になってしまうから。株価を上げたりしたら。その辺はやり方だと思う。やるについてはやはりそういうことをよく調べてやるものだと思う。トヨタ自動車のような買って直ぐ消却するやり方は、98年頃から(より弾力的に)やれる仕組みになっているのだから、やれるところはやってもいい。減資の方向になるが、過剰資本を持っているよりは、そういうことをやった方がコストは安く済むし、ROE等も良くなる、企業の質は良くなっていくと思う。ここは、もしお書きになるのであれば、よく理解してお書き頂きたい。あれがいい、これがいいということ——結論だけを言う訳にはいかないということを申し上げたかったのである。要は、企業の収支内容が良くなっていくということが第一だと思う。

【問】

「流動性の供給に改善余地があるか検討する」ということは、現状の流動性の供給の方法に何か問題があるという認識があるのか。

【答】

それはない。すぐそれを適用しようという気持ちがある訳ではない。しかし、今後、いずれかの時点で、またそういう事態が起こる可能性が全く否定できない訳であるから、海外で何かが起きる、あるいは株価が下がるといったようなことが起こった時に、そういう手が手元にあれば——特に日銀法改正になってから、今がそういうことを考える、非常にいいチャンスだ——と私は思うので、この機会に、「今の流動性供給方法でいいのか、あるいはもう少しいい方法があるのか、どういうことを更にやればいいのか、ということを調べてくれ」という、指示を出した訳である。

【問】

年度末の資金需給に関して、政府部門が短期の資金調達に傾斜しており、資金需給の逼迫に繋がるという見方もあるが、それについては如何。

【答】

短期の国債を出すようになったということは、私は大進歩だと思う。今、1年以内の割引短期国債(TB)、政府短期証券(FB)だけで、80兆円近くあり、約400兆円の国債総額の約2割になっていると思う。しかも、FBはかつては全部日本銀行引受けであったのが、今は全部市場で入札している訳であるから、これはこの1、2年の大きな進歩だと思う。国債発行残高の約2割が1年以内の短期証券であるということは、国債の流動化の上では非常に大きい。市場でも、我々はこれをオペに使わせてもらって、売ったり買ったりして、金融調節をやっている訳である。国債はこの1年以内の物の他にも、2、3、4、5、6、10、15、20、30年と非常に多様化している。これから最大の国債発行残高を有する国になる訳であるが、市場を大きくし、しかも市場の中での流動性をどんどん高めていくことによって、海外からも買いが入ってくるであろう。あるいは、個人も1,380兆円の金融資産がある中で、直接国債を保有しているのは僅かしかない。これからペイオフも解禁になるし、個人も銀行に預金するだけでなくて、銀行を選ばなければならない。銀行を選ぶ時に、銀行にするか、それとも直接市場に出て行って、国債や株や債券——利回りのいい物とか、信用の厚い物——を自分のリスクで買って保有していくというようなことが起こっていくのがこれからの流れではないかと思う。今まで日本では、直接金融の割合が極めて少なく、僅か14%であった訳である。それに反して、現・預金の割合は54%である。アメリカの場合は全く逆で、銀行を通ずる預金が10%、家計が直接市場に出て買っているのが56%である。これからの流れで、この1,380兆円という家計の資産残高を、そういうものに資産運用していくように、市場を作り上げていくということが、これからの課題であるし、それができていくということが、金融サイドでの非常に大きな構造改革になる。こういうことを私どもも考えて、一つ一つ積み上げて、実現していかなければならないと思う。その時に非常に大きな玉になるのが、まさに国債であると思う。私は良く数字は知らないが、期末に期限が来るのが確かにあると思うし、また、ご承知のように、定額郵貯の満期が到来して、それがどういうふうに変わっていくか、ということが今非常に注目されている訳である。そういうことも、これから起こる一つの新しい問題であろうかと思う。

【問】

先程、執行部への指示に関するやりとりの中で、必ずしも今すぐ適用しようという訳ではないけれども、将来海外で何かあったり、株安があったりする可能性は否定できないので・・・という話があったが、ということは、今検討されていることは、非常事態あるいは危機への対応策を検討しようということか。

【答】

そういうことだが、仮りに良い案が出てくれば、今直ぐ使っておかしくないと思う。しかし、金融市場の円滑な機能の維持と安定性の確保に万全を期すために、今やっていることのほかに、もっと良い流動性供給方法はないかということを尋ねている訳であって、いろいろ専門的な案になってくると思うけれども、いろいろな案が出てくるに違いないと思っている。だから、それで今すぐ使った方が良いと思うものは、使えれば使う。しかし、こういう話が出てきた動機は、やはりこれから海外要因、あるいは株価の要因といったことが、どのように変わっていくか分からない現状で、いつでも手許に用意して置いておきたいということがあって、問題を提起した次第である。

【問】

そういうことも中央銀行として広く想定する中で、先ほど先行きゼロ金利は展望していないと言われたが、そういう危機の時には、ゼロ金利も検討の対象になるのではないか。

【答】

ゼロ金利というのは、異常な金利であるから、異常な事態——98年のデフレスパイラルが起こりそうな、金融システム不安、大企業の倒産が相次いだような時——に、緊急手段として出したものである。ゼロ金利が、いつでも出てくると思うのは、おかしなことだと思う。現に、0.25%に上げてから、短期金融市場が非常に活性化されてきている。資本主義経済である以上、金を貸す——金利というのは、リスクに対するカバーなのだから、たとえオーバーナイトであろうと、無担保で大量の金を貸せばリスクは必ずあるので、それに対してただで貸す——というのは、これは資本主義経済ではない。そういう基本をよく考えて頂きたいと思う。

【問】

ユーロ円のLIBOR金利が少しづつ上がっているが、これについてはRTGS関連で適格担保がない外銀が取り上がって金利が強含んでいるとの見方もあるがどうか。

【答】

RTGSはお蔭様で1月4日にスタートし、今のところ非常に順調に動いている。これは非常に大きな歴史的な決済方法の変更であり、私どもも上手くいくかなと心配していた。しかし、何回にも亘って実験・練習をして備え、1月4日からの実施は、非常に上手くいった。

国債のフェイルという言葉があるが、フェイルというとどこかが失敗したと受け取る方もいるが、これは当たり前に起こることである。フェイルの動向は、月に一回前月分を取り纏めて市場参加者から報告を受けることにしているが、現時点ではどの程度のフェイルが起こったのかは承知していない。ただ、RTGSのもとで、フェイルは当然に起こり得るもの、ひとつの常識的な慣行なのであって、そのために決済ができなかったという場合、それをどう捌いていくのか、これは市場の慣行である。そういう市場の慣行が定まっている訳であるから、フェイルが生じた場合は、その慣行に従って整斉と処理されていくものと理解して頂きたい。

これを実行するに当たって、市場関係者、市中銀行、あるいは証券、国債関係の方々に、ずいぶんと休日に出勤して頂いて、実験・練習をして頂いた。この年末と正月にも最後の実験に出てきて頂いた訳だが、そういう方々、各銀行の関係者の方々に献身的なご協力を頂いたことに対して、心から感謝を申し上げたいと思う。こういうことも是非お伝え頂きたい。

【問】

経済財政諮問会議に総裁も出られているが、諮問会議で議決を行うこともあるし、金融政策との兼ね合いがどうなるのかという問題がある。総裁は、金融政策運営でアドバイスを頂きたいというような趣旨の発言をされているが、どのような意図で言われているのか。

【答】

私どもには、アドバイスというのは毎日、あらゆる方向から頂いている。それを実行するかということは私どもが判断すべきことだと思っている。皆様の新聞でも、ずいぶん社説その他でアドバイスをして頂いている訳で、そういうものをアドバイスと言って良いのだと思うが・・・。

経済財政諮問会議は、経済政策や財政運営の基本的な問題について、幅広い見地から審議する場であると理解している。私自身にとっても、関係大臣の方々や民間の有識者の方々との率直な意見交換をかなり頻繁に行う機会が与えられるというのは、貴重なことと考えている。私どもの気付かないことを、この討議を通じて気付くかもしれない。

ただ、ご質問の金融政策との関係について言えば、金融政策は、本行の政策委員会、すなわち金融政策決定会合で十分討議をしたうえで、その判断と責任において決めるものである。その考え方は新日銀法にはっきり書かれている訳で、私が今回の経済財政諮問会議に参加するに際しても、そのことはよく申し上げたし、最初の会合でも「金融政策についてご意見をいろいろ頂いたり、私の方から説明をしたりすることは、どんどんさせて頂くが、政策の決定は政策委員会に任せて頂きたい」と申し上げ、皆様からは「当然そうである」との反応を頂いているので、その点はご心配頂く必要はないと思っている。

【問】

ジャパン・プレミアムについて伺いたい。僅かな兆しがみられるということについて、これは期末要因だとか、数ベーシスだから殆どジャパン・プレミアムとは言えないという見方から、そうではない、これはやはり問題だという見方まであるが、どうお考えか。

【答】

ごく僅かながら出ていたようだが、これはそれこそ日本全体に対する一つの不信というか、海外の用心というか、それが、ああいうかたちになって出てくるんだろうと思う。今、政治もそうだが、経済面でもしっかりやることをやっていけば、そういうものが出る可能性は少ないと言って良いと思う。日本経済のことを本当によく知っている人であれば、また、我々がやろうとしていることを本当に信頼して頂けるのであれば、そういうものは出てこないと思うので、今は本当に大事な時だと思う。やるべきことをどんどん進めて行く、そういう意味でも、経済財政諮問会議などでは、構造改革などについてかなり意見を出し合っているように思うので、これが今後、どういうふうに実現されていくかといったことが、これからの課題であろうと思う。

以上