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三木審議委員記者会見要旨(2月1日)

平成13年2月1日・沖縄県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2001年2月2日
日本銀行

―平成13年2月1日(木)
午後1時55分から約35分
於 沖縄ハーバービューホテル

【問】

先程の金融経済懇談会の中でどのような意見が出されたのか。また、沖縄の現在の経済情勢についての率直な感想を改めて聞かせて頂きたい。

【答】

沖縄には10年前に訪れて以来これで2回目ということで、まだまだ知識がない中での話となるが、昨日実体経済を担う幾つかの企業を訪問させてもらったり、県庁に伺ったりしたが、第1の印象は様変わりしたということである。それは社会インフラが行き届いてきたこと、──ビルや家もそうだが、個人の目指す豊かさというか生活というものも、──今までの県政が本土との格差是正を目指すことに重点を置いて、これだけの基地経済の重圧を担う沖縄の中で、やってこられたと思うので、その効果がきちんと出てきたのではないかということが一つ目の点。

それから経済の実態ということで考えると、これは日本経済と一緒で、やはり沖縄と言えども踊り場に入っているのは間違いないし、2極分化になっていることも間違いない。但し、そうした中で、本日の新聞に沖縄振興開発金融公庫のD.I.の数字が出ていたが、あれが如実に今の沖縄経済を表しているのではないかと感じた。こうした踊り場の中とはいえ、10~12月に対して、この1~3月は「曇り」から「薄曇り」と、ちょっと先行きについて若干明るい兆しが出るような結果になっていた。これが今の沖縄の姿をそのまま反映しているような気がした。

本日、各界の方から話を聞いたが、一つの問題は、どうしても公共投資依存型の経済になっている訳で、こうした中からどうやってこれから新しい経済構造へ脱却していくかという点、これが1番大きな問題なのだろうと思った。これは県知事もおそらくそういうことを考えておられると思うが、今までの本土との格差是正の政策から、今度は新しい産業構造、沖縄自立型の産業構造をどうやって展開していくかということだろうと思うし、今日、お話を伺った方々もこうしたことを念頭に置きつつ、それぞれの分野の中でそこのところを──展開していくことは非常に難しいことなので──悩んでおられるようだ。そういう悩みの中で、例えば税制の問題にしろ、あるいは本土との関係で言えば財務省と経済産業省という行政当局との関係にしろ、全てが実際のビジネスに密接に結びついてくるので、こうした面での沖縄の地政学上の位置づけと、基地の存在を受け止めているという地域の特性といった問題を抱えているという面でも、何も全部がおんぶに抱っこということでの自立ということではなく、格差是正から自立型へ次の段階を考える過程の中でまだそうした問題を抱えているのだから、考えてもらいたいとの話が一番多かった気がする。

もう1つのポイントは、沖縄は観光のウェイトが高いということで、大事なことは、21世紀は環境問題になる訳だから、──これは地球温暖化の問題に始まって今ある自然を守るというか──これからは環境問題を抜きにしてビジネスは出来ないと思う。そういう意味で環境問題を抜きには出来ないということを念頭において、新しい沖縄らしい経済構造改革に結び付けていかなければならないということと、その中での沖縄の生き方としてはやはり観光産業というのは非常に大きなウェイトになるということで、──観光産業の皆さんがそれを踏まえながら、一体どうやってこれを伸ばしていこうか考えているようで──例えば滞在日数を伸ばした滞在型の観光にした方が良いという意見が強く出ており、こうした意見は、ある意味で力強い印象を受けた。何でもかんでも工業を持ってくればいいという問題ではないので、そういう意味では経済構造が大きく変わっている中で、──沖縄の場合は、今のコールセンターに象徴されるように33社が既に進出または進出を決めている先があり、また雇用人数も2,700名強になっている──これも一つの21世紀に向けて──また基地の問題にしても普天間の代替の問題は15年ということを知事が強く求めている──そうしたタイムも考えた経済構造の展開が必要なことになってくると感じている。

それからもう一つの問題は雇用問題。雇用問題は量と質の両方ある訳で、量的なことで言えば、全国の倍近い失業率があるということで、しかも質の問題を考えた時に物凄い労働のミスマッチが起きているということであろうから、この問題も沖縄では抜きにできないと思われる。とくに質の問題では、今日出席されていた専門学校の校長先生が言われていたが、「これからのITを中心とした産業構造を考える中で、1番必要となってくるのは、底辺の量だけではなく、その上にいる層の質が非常に求められる。今までの、単純というのは失礼だが、NTTの番号案内だけだと底辺がきちっと出来ればいい訳だが、これからはソリューション型のビジネスということになれば、これはもう質の問題になってくる訳で、そういう質がキープできるという基盤を沖縄で作っていかなければならないと考えられることから、人材の育成、質の育成がこれから大きな問題になってくるのではないだろうか」と訴える方もいた。

以上が大体の印象だが、更にもう1つ言えることは、あれだけの苦しい大戦をくぐり抜け、そして戦後50年以上が経た今でも基地を抱えざるを得ないこの沖縄の中で、経済を担っている皆様のビジネス面では経済自立、それを裏返して言えば自分の城は自分で守るというか、そういう意欲というものが本日出席頂いた経済界の方々から感じられ、非常に心強く感じている。

【問】

今日の景気の総括として、後戻りの気配はないと言っていたが、今日の講演の内容を聞いていると、例えば「株価とマインドのスパイラル的な下落」とか、「物価下落による収益への懸念」とか、「設備投資に広がりがない」とか、「需給バランスの崩れによる物価下落が起きている」とか、かなり厳しい見方をされていると思うが、それでも後戻りの気配はないと言えるのか、(印象としては)かなり後戻りに近いところに来ているのではないかとも聞こえるが、そこはどの様にみているのか

それと金融政策について、後戻りの懸念が出てきたときには弾力的な対応が必要と言っていたが、これは具体的に言えばゼロ金利に戻るということなのか。また、株価の下落のところでも金融政策について言及され、必要なときは市場にいつでも潤沢に流動性を供与する用意があるということを担保する必要があると言っていたが、これは具体的にはどういったことを考えているのか。以前、三木審議委員は別の出張の際に買い切りオペの増額も考える必要があると言ったことがあると思うが、具体的にはそういうことを想定しているのか。

【答】

まず第1点、これが1番大事なところであるが、今踊り場にあるということを今日色々話してきたが、1番問題なのは景気回復のパターンというのは、──経済情勢というのも──順番というか段階がある訳で、(現状は)最もデフレスパイラルに陥りそうなところからやっとゼロ金利の支えやあれだけの公共投資の支えがあって、そこから回復の軌道に足を掛け、そして乗り、その軌道を少し歩み始めた訳であるが、デフレ懸念の払拭が実体経済からも言える様な段階になった後、今は踊り場に入ったということ。──問題は踊り場に入ったということは、逆に言うとそれだけの潜在成長力しかないということであればそうであろうし、潜在成長力がもっと高いんだとすれば、(それは)依然として景気が回復していないということになる──問題はそこから先、どうやって上がっていくかが一番大きな問題になると思う。

今まさにそういう踊り場という状況にある中で、後戻りの気配がないというのは、──実体経済の動きをみていると──1番大きな個人消費をみると、結論としては平時に復した、普通のところに来ているということだから、これは後戻りの気配は、今はないということであるし、設備投資も広がりや持続性という面でまだ今のレベルは暫くは続けられるだろうと考えている。それから輸出の問題が1番大きなリスクになるが、輸出減は否めない事実ではあるが、個人消費を中心とする民需の回復がある程度打ち消して生産レベルとしてはほぼ横ばいでいけるだろう。こういったことを考えると、今は実体経済に後戻りの気配はないと言える。但し、リスクはある訳で、これは米国経済からのリスクでこれが1番大きなリスク、また金融のマーケットのことを考えると株安という問題も実体経済をバックアップする環境として非常に大きなリスクになる。そういうリスクが顕現化してきた場合に、──(現時点では)実体経済が後戻りの気配はないといっているが──これが後戻りの懸念まで来た場合には、やはりこれは問題になる。そういう意味で気配のままでなく懸念ということになると、──金融政策はフォワードルッキングにやらざるを得ないので──金融政策として手を打たなければならないと思っているので、弾力的な金融政策とはそういう意味で申し上げている。その中味をすぐゼロ金利云々と皆さんはすぐ思うのだろうが、今ここで申し上げているのはゼロ金利にまた逆戻りするとは毛頭言っているのではない。せっかく資本主義経済にとってあってはならないような異常なゼロ金利を──それは何のためかといえば景気回復のために必死にやってきたのであって──これが回復過程に入っていくことになれば、そんな異常な金利体系から決別しなければならないということは当然なことで、ゼロ金利の脱却は異常な金利から正常な金利に戻すということ。問題はその回復の状況は経済の事情によってそれぞれ段階があるが、そういう中で今やっと回復初期で、踊り場に入った段階であれば、金融政策としては超低金利の金融政策を続けなければならないし、そしてそれによって量も今の様にじゃぶじゃぶに出している状況を続けなければならない中での微調整と受け止めてくれればいいと思っている。そういう中で量を出せば金利が下がるという裏腹な関係にある訳だが、あれだけの量を出して0.25%という金利水準を維持して、少なくとも異常な体系から正常な体系に戻した中で、依然として下支えしながら次なる景気回復の道を考えていかなければならないというポジションだろうと考えている。

今日申し上げたとおり、これからの日本経済で一番大切なのは構造改革だと思うので、今までと違って順序を逆にして構造改革をすることによって景気を良くするというふうに切り替えていかなければならないし、──それには当然相当のマイナスの部分を──ゼロ金利は今まで構造改革に竿差すのではないのかとか言われていたが──これからは構造改革から出てくる色々な血の滲みがある訳だから、こういうものを消していかなければならない。そういう意味でも、今の超低金利金融政策を続けていかなければならない。

もう1つの調節方針の問題については、前回の金融決定会合で総裁から政策委員会として金融調節方法の改善・見直しを執行部に指示して2月9日に議論をするということにしている。この金融調節方法となった時に、おそらく質問のあった国債の問題のことが頭にあったのだろうと思われるが──この金融調節方法の改善というのは、あくまでもより良い、流動性を潤沢に供給するとマーケットに対し担保するということを日本銀行は調節でやる訳だから、そのための調節方法として何があるのかということを検討するのであって──すぐ国債にどうのこうのということに結びつける段階ではないし、頭の中にも毛頭ない訳で、調節方法として執行部でより良い方法をもう少し考えてもらおうという主旨。今、具体的に私の頭の中にこういう方法があるという訳ではないし、当然国債の買い切りオペに繋がったらどうかということを議論している訳でもないし、今の段階ではそういうことは頭にない。

【問】

弾力的な金融対応の具体的に指すものは何か。

【答】

弾力的な金融政策対応を採らなければいけない、(あるいは)採る必要があるというのは、先程述べた2つの点が出てくればやっていかなければならない。これは金融政策で、──本行が採っている金融政策は金利ターゲットで行うということ──それと金融政策をどうやって実行していくかというのが金融調節で、その金融調節で我々はお金を出したり、引き上げたりする訳で、その方法を今考えている。

【問】

ゼロ金利は念頭にないと言うことだが、金融政策が金利ターゲットであれば、念頭にはないにしろ選択肢としては考えられるのではないか。

【答】

米国と違う状況を考えればある程度想像はつくのではないか。米国はあれだけ財政出動余地も大きくあるし、金融の出動余地もいくらでもある。──そういう中でのソフトランディング──FRBは手の打ちようが幾らでもあるのだから、──昨日も利下げがあったが──FRBのグリーンスパン氏が言ったように、今年はおそらくソフトランディングを間違いなくすると思う。ところが、本行の場合は、戻ったとは言え0.25%の中で金融政策の選択肢は少ない。それと財政も同じで、700兆円近い国と地方の債務を抱え、これがあるからこそ株が打たれる、外国の機関投資家の日本株は買えないという不安に繋がっていることは間違いない。しかし、需要を喚起するのは財政出動であるし、それでここまで大きな財政出動を行って需要をやっとここまでもってきた訳である。そしてここでいよいよ主役交代という──これまではシナリオどおりだが──そうしたかたちの中で今踊り場に入ってきた訳だから、簡単に主役交代として降りるとはいかないかもしれないし、踊り場をどうやって出るかと言えばやはり財政のウェイトは大きい。片やあれだけの赤字を抱えているということで(日本株が)マーケットでは打たれる。日本の場合は、2つの面で米国と違って、非常に難しい財政・金融運営を強いられる状況になっているのではないか。

しかし、これは財政当局もそうであるし、金融当局である日本銀行としてもこの場面は決して後戻りさせないように景気の回復に向けて、この踊り場から抜け出すということをどうしても考えていかなければならない。そういう中で、構造改革の基本は民間の自助努力だが、──これをいよいよこれ以上後戻りできないから、そういう中でこそこれは大事だと──今年はこれが最大の課題ではないかと、このあいだから言い続けている。

【問】

弾力的な金融政策にゼロ金利は毛頭ない、また流動性供給手段にしても買いオペは毛頭ないと言っているが、──非常に難しい状況にあるのは分かるが──後戻りさせないと言う強い決意に担保するような具体的な手段は何か。

【答】

先ほど述べた様に、今はゼロ金利に戻すと言うことは毛頭考えていないし、調節方法については、国債の買い切り云々と言うのは1つの方法としてはあり得るが、今はそのことを考えている訳ではない。あくまでも今はと言うことで、執行部に検討してもらっている。そして、その結果どんな案が出てくるか、またそれによって今度議論することになる。但し、今までは長期国債の発行は銀行券の伸びの範囲内で抑えていこうというやり方で、──毎月4千億円づつだったか──買っているが、この関係を続けることはある意味で1つの政策である。そういう意味で、今の問題は政策に絡む問題としてちょっと調節方法とは違う。そこのところは微妙なところではあるが、そう考えてもらえばいいのではないか。

それから弾力的な金融政策と申し上げているのは、先程から言っているように、経済の状況に応じて超金融緩和の中でも微調整だと昨年のゼロ金利解除の時に申し上げたが、まさにそれを弾力的と申し上げている。あるいはもう少し景気回復局面がはっきりしてくると言うことになれば、その時の弾力的な対応とは何かと言えば、──やはりそれに応じて──それはFRB流に言えば、超金融緩和から中立型に戻すという中で金融政策はどうするかと言うことになるかもしれない。本行のやり方はあくまでも金利ターゲットであるが、ただ今そうしたことを考えている訳では毛頭ない。今一つ言うとしたならば、実体経済が後戻りされては困ると言うことで、これが最大の問題である。

【問】

景気の判断というところで踊り場という表現は、これは金融経済月報に比べやや慎重に見ているのか。また弾力的な金融政策運営というのは、景気の先行きに減速懸念が出た場合に予防的な金融緩和があり得るのか。

【答】

月報は、「緩やかな回復を続けているが、輸出の減速によりそのテンポは鈍化している」としているが、その表現と今の躍り場と言う表現にそんなに違和感はない。踊り場と言う話は、実体経済をみると昨年の11月から出ている問題なので、その時から踊り場だと言ってきたが、案の定、今そういう状況になってきたので、そういう意味では先取りしてきたかもしれない。そういうことを考えると、現在の金融経済月報は、その後11月以降少しずつリスクに対する見方がシビアになってきており、それを考えると1月の月報をみても私の考え方の方が少しシビア、慎重かもしれない。しかし、大事なのは踊り場であって、今は後戻りはしていないということである。

金融政策の予防的措置については、実体経済に後戻りする懸念が出てくるか、また不良債権処理の問題が大きいと申し上げてきたが、その不良債権処理問題にまつわる金融システム不安が、システミックリスクに繋がるか、これは信用秩序に関わることなので、これはまさに本行の1つの大きな目的となっているので、この2つの動きが出てきた場合には、金融政策対応は弾力的に行う必要があると思っている。これはあくまで私が思っているだけで、なおかつ今、そういう状況にある訳でもないし、そうした議論が行われている訳でもない。

【問】

金融調節方法の改善については、企業金融を支援するという目的と短期国債中心に金利全体を下げるという2つの道筋があると思うが、審議委員は個人的にはどういったところに改善の主眼を置くべきと考えているか。

【答】

第1の問題は期末の資金について、銀行も企業も十分に乗り切れるだけの潤沢な流動性資金が担保されるということで、今、本行がやらなければならないことはこれに尽きる。2番目の問題として不良債権処理が後送り、逃げ水になって、いくらやっても依然として減らない。こういう中で、具体的には、銀行株も含めて株がマーケットで打たれる訳で、そういうことで銀行自体が資金を取れなくなった場合には、当然これが貸し渋りに繋がっていくことになり、これを企業は一番恐れている訳で、こうしたことが起こらないよう銀行がきちんと資金を取れるようにしてもらわないと困るということも企業からくる不安であり、そこが大事だと言っている。それを実際にやるのは銀行であり、銀行が資金がきちんと取れるように金融市場の安定を確保しておかなければ問題になるが、万が一、そういうことが起きた時でも対応できるようにしておこうと言う意味で、今やっている調節方法のほかに、何かやり方がないかということを検討してくれと執行部にお願いしたところである。これは丁度、98年10月頃の金融決定会合においても企業金融と貸し渋り対策という提案をして、11月の金融決定会合において3つの措置をとったことがある。ある意味ではそれと同じような状況である。そして、2000年問題の時はあれだけのジャブジャブにお金を出して、年超え・ターム物の金利も含めて対応してきたし、昨年暮れのRTGS対策、これはRTGSを踏まえてのシステム不安に繋がらないように1月4日が越えられるようにお金をきちんと出そうと、タームに的を絞った調節を継続的に行ってきた。ある意味、それの一環と言おうか、より金融市場の安定が図れるような方法はないだろうかということを検討している

これは、速水総裁が言うように、今すぐ金融システム不安があると言う訳ではないが、もしという時の備えはきちんとしておかなければならないということである。だから、逆にその中身をボードメンバーである我々が今この場で言ってしまうと執行部でやることがなくなるし、まず現実に方針は我々が出すが、その執行にあたるのは執行部であるのだから、そこはまず考えてもらうのが筋であり、それ以上のことを言うと金融政策になってしまうので、この場ではお答えできない。

以上