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武富審議委員記者会見要旨 ( 4月26日)

平成13年 4月26日・山梨県金融経済懇談会終了後の記者会見要旨

2001年 4月27日
日本銀行

―平成13年 4月26日(木)
午後 2時30分から35分間
於 ホテル談露館

【問】

山梨県の経済団体の方々との意見交換をされたようであるが、その内容をお聞かせ頂きたい。

【答】

行政界、産業界からかなりの人数の方々にお集まり頂いたので、一言で要約するのは難しいが、意見交換を通じ、私の受けた印象を3点くらい申し上げたい。一つは、今の山梨県経済の実情ということである。残念ながら、全国に比べて、若干、景気調整の影響が強く出ているように思う。景気の循環とは全く関係のない大きい構造的な問題であり、山梨県に限らずどの地域でもそうであるが、所謂地場産業——こちらでは、宝飾、ニット、ワイン、印伝などの貴重な産業——が、大きな経済の変化、時代の流れの中で、相当いろんな工夫をされなければいけないような、厳しい環境を迎えていると思う。そういう基盤の上で、景気の循環ということからみると、今日の私の挨拶の中で申し上げたように、IT関連事業の減速を発端として、今度の景気調整が始まっているだけに、当県の受ける影響というのも大きかったように思う。当県は、中央高速道が出来て以降、県を挙げてのご努力で先端・ハイテク企業の工場の誘致に奏効されたわけであるが、偶々、この局面であると、IT関連事業が落ち込んだということがあり、当県もその影響を免れない状況に入っている。そういう意味では、今度の景気調整の性格からいって、当県が受ける影響は、おそらく、他の県に比べて振れの大きい状況にあると思う。つまり、構造的な問題の基盤の上で、循環的には先端産業の後退の影響を、偶々この局面では当県では強く受けているという印象を持った。それが主な経済の現況に関する私の感想であるが、その中でも企業によっては、あるいは業種によっては、これまでのいろんなご努力の成果があるわけで、少しIT関連のところの動きに心理面で振れすぎている面もあるという類のご指摘も一部にあったことはバランス上付け加えておく。

大きい2番目の印象であるが、これは金融仲介というものがどう機能を十分に発揮していくのか——そのことは先月の私共の政策をとった中でも強く意識したところであるが——、いろいろ話を承っていると、信用供与する側、あるいは、受ける側それぞれに大変難しい問題を抱えているということであるので、この金融仲介機能が本当の意味で十分に復活するには、もう少し時間がかかるかもしれないという印象を話の中で受けた。

以上2つは、どちらかというと、実体経済も金融の方も必ずしも捗々しくないというような指摘ばかりになると受け止められるかもしれないが、中小企業も含め、新規事業の創設、あるいは、経営革新というような方向に相当意識が強まっており、構造改革、あるいは、企業体質の改善ということに対する認識が幅広く共有されている印象を受けた。マクロ的にも、構造改革の必要性がこの段階で改めて強く意識される段階に入っているので、こういうことを踏まえると、循環的には今少し景気が悪い状況かもしれないが、相当の意識改革、それに基づいた構造改革に向けたエネルギーというものは少しずつ溜まりつつあるという印象。そういう意味で大変心強く感じたところ。敢えて纏めるとそんなところかと思う。

【問】

昨日、自民党の総裁選挙で小泉新政権が誕生したが、新政権に対する期待如何。

【答】

今、経済が大変不確実な局面にあるから、当然、政局の安定ということは必要なわけで、今回、これから新しい政権がスタートするが、何よりも緊急経済対策がなるべく早く具体的に実施に移されていくことが必要だと思うし、期待をしている。緊急経済対策の中身は、個別具体的には決まっていないが、全体の精神は私共も日頃申し上げている構造改革という軸に絞られているわけで、方向性は全く同じと思うので、これの実行によって、一日も早く短期的な景気の回復のみならず、日本経済の本当の意味での再生に繋がっていってくれればと願っている。

【問】

不良債権処理が今後の課題になると思われるが、不良債権処理の進展により生じる影響や懸念について、予想と展望を伺いたい。

【答】

これは難しい問題であるから、一言二言では申し上げられないし、申し上げることが誤解に繋がってはいけないと思うので、その辺、よく踏まえて頂ければと思う。まず、最初に指摘したいのは、98年当時と現在を比べると、不良債権、あるいはそれに絡む金融システムの問題というのは、少なくとも、その枠組みとしては、随分違う——違うというのは、現在の方が、金融システムの安定化に資するような枠組みが98年当時に比べれば、極めてしっかりしたものが出来ている。そこは、まず、十分踏まえる必要があると思う。従って、私は不良債権の問題が直ちに金融システムを揺るがすような事態に繋がるとは考えていない。ただ、2、3年のうちに処理をするというタイムフレームワークの中では、一部に厳しい問題が出てこようし、不良債権の問題というのは、その背中合わせにある産業サイドの債務の問題でもあるわけで、問題を不良債権側だけから見るのではなくて、産業サイド側からも見る必要があると思う。その意味合いでは、先行き、潜在的に、雇用の問題とかそういうものが展望されて、一部に心配だというご意見があると思う。構造改革一般の問題として、構造改革は中長期的に必要——それは実行に移さなければならない、しかし実行に移す段階では、短期的には景気に対してデフレ的な圧力がかかる——というのも一方で事実。そうすると、そのデフレ的な圧力の中で、先程も申し上げた雇用等の問題が出てくる時には、それに対してどういう転換促進型のセーフティネットを用意していくかということが必要だと思う。

そういう意味で、私共が先月採った金融政策は、不良債権問題に則して意味合いを考えると、広い意味のセーフティネットを用意しているという側面がある。景気対策ということも当然あるが、もう少し幅広い安全網政策の一環であると思う。雇用等については、俗に言う、アクティブセーフティネットというものが必要になってくるし、そういう方向への政策というものも用意されつつあると思う。

【問】

懇談会の話題として、出席者からIT関連に振れすぎている面があるとのように言われたが、もう少し踏み込んでお聞かせ頂きたい。

【答】

少数のご意見かと思うが、その中でもこれまでのいろんな企業努力で、しっかりと経営を行っている企業や産業もあるわけで、そちらの方もバランス良くきちっと認識する必要があるというご指摘と、当県がIT等の先端産業立地型経済になっており、偶々ITのところが悪くて調整に入っている。そこの部分に心理面で産業界が悪い方向に気持ちが振れすぎている面があるのではないかというのがあった。そのことと、しっかりやっていますというのは同根のこと。そういう側面もあるということは、ある程度確かに見ておく必要はあるかと思うが、今日の全体感の中では、どちらかといえば当県の経済は非常に厳しいというのがむしろメインの意見であるし、私の受けた印象である。

【問】

物価の展望、CPI見通しについて日銀としての見解を伺いたい。

【答】

物価についてはCPIに則して言えば、昨年度はプラス成長であり、需給ギャップもある程度縮む方向に動いていて、その意味では下落幅縮小パターンであったかと思うが、この局面に則してみると、輸出なりIT関連製品の鈍化に端を発して景気が調整局面に入っている。今は生産・在庫調整の段階であるが、これが設備、雇用調整に及ぶ可能性もある。その中では、需給ギャップが残念ながら少し再び拡大する可能性がある。その限りで物価の下押し要因を構造的なものと短期循環的なものに分けてみると、短期循環的なものも少し物価(低下)の方向にモーメンタムが働いていると思う。もっとも、先行きについては、経済全体が何処で底入れをして、上向いてくるのかという評価とも関わるし、それを評価する時には今度の景気調整が米国経済を起点にして始まっているという側面もあるので、そうなると、米国経済の下期がどうかということにも関わってくる。この辺りについては、まだ断定的にこうなるという材料が十分にないが、大きい流れとしては、年内どこかで調整が終わって回復への方向へ転じるというのが今の大勢観だろうと思う。そういう中では、物価に対する見通しも当然変わるし、そもそも景気は予想外に早く動くことがあるわけで、先行きどういう状況がでてくるのか、その中で物価がどういう展開を示すかについては、現段階では予断を持って臨むのは如何なものかと思う。年前半は少なくとも弱含み、後半以降についてはまだ少し流動的な側面を残している──上にも下にも──ということだろう。

【問】

当座預金残高の増額についてかなり慎重な印象を受けた。これまでに前例がないということで、ここ暫くは腰を据えて見極めることが重要とのことだが、5兆円から6、7兆円への増額という話もマーケットでは出ている。慎重に見極めたいということなのか、また、「ここ暫く」というとどの程度の距離感と受け止めれば良いのか。

【答】

私自身もその点については、予め具体的に申し上げられないのが実情。これは、一言で言えば、景気次第。それに対する私共の状況判断次第ということ。現在は景気調整が始まったところであり、この先どうなるかということだと思う。今回は、新しい政策の部分があり、この効果が表面化するルート、出方、タイミングなどの物差しがないので、じっと目を凝らして虚心担懐に経済や物価、あるいは金融の展開を見ていく——走りながら考える——ということが一番正確なところであろうと思う。

【問】

増額に対して慎重に見ているということか。

【答】

増額に対して——慎重、謙虚、どういう表現が良いか、事態の推移に合わせて考えるということで——現実的に考える、景気展開に過不足なくついていきながら考えるということ以上は、この段階では私としては申し上げられない。

【問】

景気自体、状況判断次第で当預残の増額等もあり得るということか。

【答】

ということは必ずしも言っていない。そのことも含めて、より良く見極めるということだが、そもそも、金融政策の効果が表面化するのには、相当時間がかかる。少なくとも半年、通常でも9か月から1年、ものによっては2年位かかるということだろうと思う。現実に、Bank Of Englandの場合には、物価に関して2年先の目標数字を出しているくらいで、金融政策のトランスミッション効果が具体的に評価できるというのはそもそも時間がかかる。だから、新しい政策を採って直ちにその将来の変更について議論するというのは、少し腰の落ち着きがないと言わざるを得ないと思う。そもそも、今回の政策は、ここから先は私個人の意見に亘るところがあるが、今朝、公表した「経済・物価の将来展望とリスク評価」に出ているような、いろんなリスクが先行き——先行きといっても年度内一杯くらい——に表面化してくるような事態も含めて3月段階で政策変更したつもりである。当面、これから景気調整の度が多少深まるとしても、それは想定のうちという事だと思うから、今は1ノッチ景気指標が悪くなれば、それに即応して1ノッチ政策が対応するような局面ではない。十分引きつけて政策を考えたわけであるから、引きつけたという範囲内で良く見極めていく——モニターしていくというのが私の姿勢である。

【問】

審議委員が、先程、個人的にはマネーサプライの動きに注目していると言われたが、銀行はリスクに対してナーバスになっており、貸出から生じるリスクは取りたくない状況にある。銀行の金融仲介機能が回復し、正常なトランスミッションメカニズムが働かないと、当預を増やしても効果がないのではないか。

【答】

答えるのが難しい質問だが、まず、最初に、マネーサプライに注目と言ったが、私としてはマネーサプライだけに特に注目すると言ったつもりはない。一つは疑問形で言ったし、何々の結果、本当にマネーサプライが増えるのかどうかと言ったつもりである。量的緩和——あるいは金利低下政策もそうであるが——によって、普通の状況であれば、トランスミッションメカニズムの中で、金融仲介機能が作動して、手前の中央銀行の操作のサジ加減がずっと先の経済の動きに繋がっていくということだが、今の局面はご指摘のとおり、必ずしもそこが明確に作動するところまで行っていないという現実がある。もう一度申し上げると、量的緩和の側面では、どういうルートを通じてどういう形で、金融政策の効果が浸透していくのか、いかないのか、まだ何人にもはっきり分からない。まさに、事態を良く見ていかないといけないということである。勿論、金融仲介の姿勢が変わるという裏側で、もし幸い資金需要があれば、当然、そこが上手く繋がって、結果としてマネーサプライが増えるということは想定しうるところである。しかし、今は、前提としているそこのところがまだ明確な姿を浮かび上がらせていないわけであるから、何とも言えない。まさに、注目するということであって、注目しているのはマネーサプライだけでは当然ない。この政策はかなり多面性を持っている。その一つの側面に言及した部分であるので、そういう意味合いで捉えて欲しい。

明解に必ずそうなるからと言えるような、通常の経済状態であれば、そもそも効果の浸透について、目を凝らさなくてもある程度効果が波及する姿をイメージできるが、今の経済状況というのは、残念ながら、世界的にも、日本の歴史の上でも、あまり例のない事態だけに、非常に効果の見極めそのものが難しくなっているというのがまさに実情と思う。あまり先入観念でああだこうだと言うことには馴染まない金融環境だと思っている。

【問】

審議委員の立場で言いにくいかも知れないが、率直に小泉総理に期待するところ、もしくは折角山梨に来られているので、地方の経済人に今後こういう難局を乗り切るために、日銀の審議委員として一言アドバイスなりエールなりを送って頂ければと思う。

【答】

政治向きに亘るところはちょっと私の立場では特段のコメントは差し控えさせて頂くが、先程申し上げたことの繰り返しで、今のような厳しい経済情勢を早く乗りきるため、緊急経済対策の実効が上がるように可及的速やかなインプリメンテーションが必要だと思うし、やって頂けると思う。緊急経済対策の精神そのものは構造改革というところに思想の軸があるわけで、私共の考え方と方向性が合致しているから、是非、早めの実行が期待される。

地元の経済界へのメッセージというのも生意気になるが、今日の挨拶の全文がメッセージのつもりである。特に、構造改革のところは、地元は勿論、自分も含めた日本人全部に対する決意表明であり、メッセージである。今日、地元と懇談会を開かせて頂いて非常に心強く感じたのは、広い意味の構造改革、それは個人の自己革新、企業の経営刷新、地域経済の転換、マクロにおけるシステムの構造改革、全ての次元に亘って、従来とは違う発想で取り組まなければならない。その取り組みの段階で出てくるいろいろな摩擦や痛みについては、ある程度の覚悟をしなければいけない。しかし、単にその覚悟をするだけでは大きな問題も出てくるから、それを耐えた後に、一体どういう人間、企業、地域、国になっていくのかということの展望がしっかり持てるということが今一番大切という認識が、皆さんにかなりの程度共有されていること、そうであれば痛みに堪えても自ら革新、改革に取り組む力が湧いてくるという、そういうご認識があったということである。むしろ、生意気に私からメッセージというよりも、今日ご参加の皆さんから私が力を頂いたということである。中山選手ではないが、「皆さん力を下さい」という感じのことを相互に——政策当局も産業界も——やっていくことが重要と思う。

以上